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2021.03.31

ミレニアル世代の指揮者/クラシカルDJ――水野蒼生『VOICE – An Awakening At The Opera -』インタビュー

ドイツ グラモフォンでデビューを飾り、指揮者兼クラシカルDJというユニークなポジションを獲得するに至った水野蒼生。オペラ、歌曲に現代的アップデートを施したというアルバム『VOICE - An Awakening At The Opera -』について、そして自身のこれまでの歩みを振り返ってもらった。

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――水野さんがクラシック音楽に触れることになったきっかけは?

「両親ともに音楽好きで、家でバッハのピアノ曲が流れていて、物心ついた頃からそれに合わせて踊っていたみたいです。楽器は、5才の時にピアノを習い始めたのですが、楽譜を読むのが嫌いで、一年間掛けて耳と先生の手の見よう見まねだけでモーツァルトやベートーヴェンの曲を弾くということをやっていました。その後、中学1年生の時にバイオリンをいただく機会がありまして、それから一気に音楽にはまったという感じです。バイオリンは、自分の指で弦そのものを抑えて音程を作って、弓でこすることによって音を生み出している。音と人の距離が近くて、それが自分で音を作っているという感覚に感動したんです」


――プレイヤーではなくコンダクターを選んだのはなぜでしょう?

「バイオリンを始めるにしては12歳という年齢は遅すぎたこともあり、それならば“オーケストラで自分の音楽を表現する指揮者になりたい!”と思ったことがきっかけです。オーケストラというフォーマットの根底にあるのが弦楽で、弦楽の上に木管楽器や金管楽器がさらにいろんな色を足す。古典的なシンフォニーはそういう作りで、あくまでもベースを引っ張るのが、コントラバス、チェロ、ヴィオラ、ヴァイオリンの弦楽器。弦楽器が重なった時に鳴るストリングスの響きに感動しまして、そこからオーケストラが好きになって、最終的に指揮者になりたくなったという流れですね」

――音楽にはまってからは、どんな生活を?

「中学の時は、クラシックへの目覚めとほぼ同時に、クイーンがきっかけで70年代から90年代のロックに触れて感動して、音楽そのものに目覚めたんです。そこからバンドをやったりして、中3の時にはエリック・クラプトンの「コカイン」をベースでカバーしたり(笑)。他のバンドでもエレキバイオリンやキーボードで参加していたこともあります。高校から指揮の勉強をはじめて、それと同時に「すみだトリフォニーホール」が運営しているジュニアオーケストラに、ヴァイオリンで参加しました。そこで同世代の音楽家を目指す仲間たちとの出会いがあったり。その後は、都内の音大に入学したのですが、半年くらいで“ここじゃないな”と思って辞めました」

――それはなぜですか?

「とても保守的な環境で、もはや学生のための大学ではなく、教授のための大学と感じたんですね。要するに、完璧なピラミッド構造で、新入生はいちばん下でこき使われて……っていう体育会系的な部分にはアレルギーがありましたし。とてもじゃないですが、そこでの生活が音楽を学ぶ上でベストとは言えなかった。結果的に教授と大げんかしてやめました(笑)。根はロックな精神だと思うんです。だから、保守的なクラシック界に中指を立てる、ではないですが、そういう気持ちが自分の中にあると思っていますね」

――その後は?

「ドイツ語学校に入学して、ドイツ語の勉強をしながら、ディスクユニオンのクラシック館でバイトする浪人生活を送ってました(笑)」

――なぜドイツ語を?

「僕にとって西洋音楽史の中で常に中心は、フランス語でもなくイタリア語でもなく、ドイツ語圏なんです。そして、クラシック音楽の中心はやはりウイーンで、オーストリアなんですよね。僕はザルツブルクの大学に入学しましたが、そこはモーツアルトが生まれた街で、彼は大嫌いだったんです。実際に通ってみて、なんとなく気持ちが分かりました。街は保守的で狭いし、天気も悪いし、寒い。刺激が何もないんですよ。僕の留学生活は音楽と自分以外何もない環境で、ひたすら音楽をやって、飯を作って、食べて寝ての繰り返し。1人の時間が圧倒的に多いので、思考する時間すごく増えるんですよね。でも、そこにいまの活動の源があると思っています」

――留学中も日本で活動されていましたね。

「毎年夏休みが2、3ヵ月あって、冬も2月が丸々1ヵ月休みなんです。僕は学生寮に住んでいて、夏休み期間中は観光客用ホテルになるんですよ。だから自然と家がなくなる(笑)。だいたい1ヵ月くらいは日本に帰ってきて、仲間といっしょにオーケストラ公演の企画をしたり、ライブハウスでピアノリサイタルをやったりと、いろいろと活動はやっていました。その活動の中で「東京ピアノ爆団」という、グランドピアノの中にマイクを突っ込んでライブハウスで爆音のピアノリサイタルをやるイベントをやってまして、そこでライブとライブの合間の転換時にクラシック音楽だけでDJをやっていたのですが、ユニバーサルミュージックの方がたまたま遊びに来ていて、声を掛けていただいだんですよ。逆にいうと、そのオファーで帰国を決意したという感じです。もともと日本でやっていきたいと思っていたこともありましたし、正式にメジャーデビューさせてもらえるのであれば、その活動を100パーセントの力でやりたいと」


――ジャンルはクラシックでありながらすごく新しいというか、ロックなシーンが東京にあったんですね。まあ、本来はクラシック音楽って当時の最先端ですもんね。

「僕はクラシックという言葉が嫌いで、それこそ2020年だけでもありとあらゆるジャンルがあるのに、1600年代から1900年代までのすべての音楽をクラシックというカタカナ5文字にまとめられてしまうのはね……ちゃんと多様性がありますし、ポップスのように親しまれた曲だってたくさんある。バレエはダンスミュージックだし、オペラは映画みたいなものですし。そう考えると、クラシックはすごく損をしている音楽ジャンルだと思います。でも、いちばん影響を受けた音楽がクラシック音楽で、肌に合っているというか、一生をかけても分かり切ることができない圧倒的な音楽の力、エネルギーをいちばん強く感じたのがクラシック音楽だったから、結びついた場所がここだったという感じですね」

――最新作の『VOICE – An Awakening At The Opera -』は、オペラをアップデートした作品になっていますが、アルバム全体を通して自然な流れを感じました。

「中学生の時にiPodを手にして、プレイリストを作ることが楽しくて、次の日1日の“俺のサウンドトラック”を毎晩作っていたんです(笑)。たぶん、その経験が生きているのかも。アルバムって、自分にとっては特別なものなので、ただの曲集にはしたくないという思いは強くて、だからこそ全体を通して一貫したコンセプトを持たせた上で、世界観をどう演出していくのか。その部分はこだわっているポイントなので、流れが良いと言ってもらえたのはすごく嬉しいです」


――本作では、オペラ、歌曲を題材に選んでいますね。

「前作『BEETHOVEN -Must It Be? It Still Must Be-』では、バンド編成でベートーベンの曲をカバーしたのですが、そこではオーケストラというフォーマットそのものに対する疑問を提示したんです。21世紀においてオーケストラをやるとしたら、多分こういう形になるだろうと思って作ったのがあのアルバムでした。そして、同時にクラシカルなオペラ的発声にも疑問を抱いたんです。マイクが無かった時代に、コンサートホールのいちばん遠い席まで歌声を響かせないといけないからあの発声法が生まれた訳で、マイクがある現代ではあの歌い方はあまり利点はないのかなと。いまの技術があれば“自分地声で歌ってもいいのでは?”という考えが頭の中にあって、いつかやろうと思っていたんです。それと、もともと“クラシック音楽=癒し”みたいなキャッチコピーが嫌いだったのですが、昨年の4月から5月にかけてのロックダウン期間中に、改めて音楽に――中でも歌物に――癒された経験をしまして。そういう“人の声には癒す力がある”という経験から、今作の最後に収録された「VOICE Op.1」という曲が生まれました。歌物にフォーカスしていた中で制作のオファーをいただいた事もあり、オペラ、歌曲がコンセプトになったという感じです」

――カバーの選曲や収録曲の曲順はどのように決めたんですか?

「カバーは、ある程度メジャーで、かつ現代的にアップデートしたり、サウンドを拡張しても違和感がないものを基準に選びました。例えば、「Habanera」は誰もが知っているメロディで、オリジナルもベースがグルーヴを作っているので、ヒップホップとかR&Bのような感覚で聴けますし、「Nessun Dorma」のメロディは、現代で聴いてもクラシカルな癖を感じさせないとか。曲順に関しては、制作後半のなんとなくアルバム全体の流れが見えてきた段階で、ここにはこういう雰囲気の曲が欲しいとか、そんな感じで曲順を決めています」

――客演陣も小田朋美さん、君島大空さん、かてぃんさん、ROH BART BARONの三船雅也さんなど多彩な顔ぶれが並んでいます。

「みなさん、僕がファンで好きな人たちなんです(笑)。それと、クラシック音楽のリスナー層って、すごくライトな層と、すごくディープな層の二極化が進んでいる状態で、ミドルなリスナー層が全然いないんですね。今回、お願いした客演の方々のファンって、日頃から音楽を好きな人たちがリスナーになっている方たちだと思い、そういった方々をクラシック界に呼ぶことで、リスナー層が変わって欲しいという希望もあります」


――アルバムの中で、いちばんのピークはどの曲でしょう?

「「Ave Maria」です。これはいちばん最後に出来た曲で、制作最後だけれど、とりあえず素材は揃った、客演アーティストも大体決まった、でもまだ全体の大団円になる部分がないという状況の時。つまり、ひとつの映画として見立てた時にフィナーレがなく、「VOICE Op.1」はあくまでもエンドロール的な位置付けで、本編の最後を飾る曲がなかった。作品をより壮大にする曲を入れたいと思い、この「Ave Maria」作ったんです」

――映画、あるいは映画音楽に興味がありますか?

「映画は好きですが、作品よりも監督よりも映画音楽家の名前の方をよく知っていて、映画音楽にとてつもなく興味を持っています。クラシック音楽は、19世紀末に後期ロマン派という、モーツァルト時代からしたら超拡張された音楽が生まれたのですが、そのアンチテーゼとして、オーストリアの前衛的でアカデミズムな人たちは無調という流れを生み出したんですね。そこからアルノルト・シェーンベルクやアルバン・ベルクという風に現代音楽――よりコンテンポラリーな音楽――に走っていったんです。その一方で、本作に収録されている「My Mistress Eyes」という曲は、エーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルトの作曲なのですが、彼はモーツアルトの再来と呼ばれた19世紀末のユダヤ系オーストリア人で、ナチスがオーストリアに侵攻した時にアメリカに亡命して、この後期ロマン派という超拡張された音楽をハリウッドと手を組んでよりカジュアルにして、いまでいう映画音楽の礎を築き上げた人なんです。だから、後期ロマン派的音楽は、彼がアメリカに持ち込んだことで映画音楽の中で生き続けている。コルンゴルトの他のオーケストラ作品も聴いてもらいたいのですが、ジョン・ウイリアムスとほぼいっしょなんですよね」

――ジョン・ウイリアムスといえば、『スター・ウォーズ』や『スーパーマン』ですね。

「『ジュラシックパーク』も『E.T.』もほぼいっしょ。そして、ジョン・ウイリアムスからの流れでハンス・ジマーが出てきて、オーケストラを使う作品がほぼ減少した感じですね。さらに、そことは違う流れで、ポストクラシカルと呼ばれるマックス・リヒターやヨハン・ヨハンソン、オーラヴル・アルナルズみたいな人たちが出てきた。だから、映画音楽というフォーマットの中で、クラシック音楽がどんどん進化しているんです。別のエンターテインメントに入ったことで、違う進化を遂げたという感じですよね。特に今回はコンセプトがオペラで、そのオペラの現代版が映画だとしたら、このサウンドも映画音楽チックになったのも自然な流れだと感じています」


――では、水野さん自身はどう進化して、どんな流れを作りたいですか?

「クラシック界のアイコン的存在になりたいです。クラシックを聴かない若い世代が、“クラシックは知らないけれど、水野蒼生なら知っているよ!”みたいな存在。僕を入り口としてクラシック界にリスナーとして入ってもらえればうれしいですしね。そして、あくまでもクラシカルなメインストリームにいながら、新しくコラボレート、クロスオーバーして、新しいオルタナティブを作っていきたいという思いもあります。それと、クラシック音楽界をより開いていく架け橋になれればいいのかな。架け橋でありながら音楽シーンをリードできる……それが叶ったら最高ですよね」

(おわり)

取材・文/カネコヒデシ
写真/桜井有里



水野蒼生
水野蒼生『VOICE – An Awakening At The Opera -』
2021年3月31日(水)発売
UCCG-1882 /2,750円(税込)
ユニバーサルミュージック




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