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――T字路sというと怒涛のライブ感という印象が強いですが、今作はグッと重心が低くて、哲学が入ってくるようなアルバムだと思いました。

伊東妙子「お、嬉しい。ありがとうございます」

――こういう状況下ですが、今回の作風の大元になっているものはありますか。

伊東「10周年記念アルバムであり、この作品からレーベルが変わったりして。そして、今のこの世界の状況もあって、その中で光を見出してるし、新しい旅に出ようというのが大きな物語の題名という感じでしょうかね。どうでしょう?」

篠田智仁「その通りだと思います(笑)。今回籠もって作ってたんですけど、ちょうどそういうコロナとかにもなって、いつもだったらもうちょっとライブのことを意識したアレンジとかになるんですけど、今回はもう、この先もいつライブ、再開できるかわかんないし、ライブのことは一回置いといて、頭の中にある、やってみたかった音像をやっちゃおうみたいな」

伊東「作品としてやりたいこと全部、突き詰めてしまおうと思ってやりましたね」




――実際の制作に入られる頃はどんな状況でしたか?

伊東「ちょうど緊急事態宣言が出たような、3月の終わりから4月ぐらいから本格的に始めたって感じでした」

――最初の頃は緊張感があったと思うんですが。

伊東「もともとこの時期、アルバム作ろうっていう風には決めてはいたので、やること自体、そんなに変わらなかったとも思うんですけど、でもやっぱり何本か10周年記念のライブができなかったり、その他の予定も軒並みできなくなって。思ってた以上に、こう、自分が何者かわからなくなる感覚がありましたね。でもまあアルバムを作ることで、それにものすごく没頭したので。それに救われたという感じでしょうかね」

――以前、伊東さんが話してらっしゃいましたけど、レコーディングや曲作りに入るとお酒も辞めちゃうというのが印象に残っていたんですが。

伊東「今回も激しかったですよ(笑)」

――制作に向かう際のストイックな行動を聞いていたので。

伊東「ストイックっていうほどかっこいいもんじゃないんだけどね(笑)」

篠田「そうせざるを得ないというのか。ま、でも凄かったもんね」

伊東「眠くなるから、そのうち夕飯も食べなくなって(笑)」

篠田「もう、そういう性分なんですよね。余裕を持ってやるとか、そういうことじゃなくて、こう、絞り出して絞り出して、何が出るかみたいなとこまで行かないと、やった気にならないというか」

――これまでもちろん演奏のパワー感には圧倒され続けてきたわけですけど、今回は言い方悪いですけど、“大丈夫なのか、この人?”っていうぐらいの感覚があって、そこから蘇っていくプロセスを聴いているような。

伊東「嬉しいですねえ」

――でもみんな思い当たるところはあったと思って。冬から春あたりはミュージシャンの方もそうですし、どんな仕事をしている人間もちょっとこの先どうなっていくのか、状況は厳しかったので。

伊東「そうですね。緩んできたというよりは、みんなちょっと開き直ってきたというか。死ぬわけにいかないし。生きてくしかないっていう。生き延びてやるって感じで、少し気持ちは開けた人も多いのかなと思うんですけど。ほんと3月、4月、5月あたりは“どうなっちゃうんだ”っていう、渦巻いているような感じでしたね。そんな中で作ったんですけど」

――篠田さんはいかがでしたか?“自分が何者であるのか”とまでは考えませんでしたか。

篠田「でもライブハウスとかもああやって言われたりしてたし。震災の時とかって、存在意義じゃないけど、もちろん傷ついたりするんだけど音楽で励ましたりとか、なんかやれることがあるんじゃないかっていう部分もあったと思うんです」

伊東「無力だって思いもあるけど、それでもやっぱり信じたいというか」

篠田「勇気づけられることはあるんじゃないかと思って、ライブでやったりもしたけど、今回は“やるな”っていう状況だから。で、僕らにとってはステージから見る密な状況っていうのがたまらなく好きなわけだから。それはもう無理なんだろうなとか、でももうそれも踏まえて新しい形のライブのやり方は見つけなきゃいけないし、そこで止まってるわけにはいかないし。今は作品を作るってことに没頭できることがあるから、まだましだったっていう気持ちだったというか。でもこれ完成させてもレコ発できんのかな?とか、そういうのをずっと思ってたけど、だからそういう1回シャッターが降りた感じがあったんです」

伊東「閉ざされたというかね。今までももうほんとにやるだけやったっていう思いで完成させてきたんですけど、今作はより……何ていうか、可愛いんですよね。もう、とことん向き合って、1曲1曲という思いがありまして。愛おしい作品になったなと思っています」

――この12曲のうちでもわりと早い段階でできた曲というとどのあたりになりますか?

伊東「2曲、本格的に制作に入る前からできていて、ライブでやっていた曲があるんですね。それが「JAGAIMO」と「とけない魔法」っていうのは去年のライブでもすでにやっていて。他は全部、今年に入ってから作った曲ですね」

篠田「それ以降は「夜明けの唄」ですかね。最初の頃にできたのは」

――「夜明けの唄」の着想をお聞きしたいんですが。

伊東「コロナ禍を念頭に置いたわけではないんですけど、でもコロナの状況が、今まで自分の中で静かにしていた不安とか悪いことだけじゃなくて、愛情とかも含めて、より鮮明に浮かび上がらせるような状況になったような気がしてて。ここ最近、コロナで著名な方が亡くなったりもしましたけど、それ以前から何ていうか、身の回りでも亡くなってしまう方もいて。こう、なんていうか、儚さをすごく感じていたことがあったり。それでその中で、やっぱり「生きなければ」っていう思いがより強くなるというか。それは「夜明けの唄」の大きなテーマでもあるんですけど、作品全体に通じることでもあるなと思って。この「夜明けの唄」が大きな今作の柱であって、全部の曲に、その思いは散りばめられてるのかなと思います」




――今回は完全におふたりだけで、様々な楽器なども録音したんですか?

伊東「そうなんですよ」

篠田「だから初めてですよね」

伊東「本当の意味では。前作はふたりで完成させてから、ちょっと味付けしていただく、振りかけていただく感じで。で、その前の1stアルバムはがバンドありきって作品で。今までのミニアルバムもゲストがいなかったことはなかったし。しかも今回は録り終わりまで完全にふたりで、エンジニアさんとかの反応を見ることも一切できないので(笑)。まさに閉ざされた世界」

――録音は篠田さんがされて。面白いことに前作の方がゴリゴリしてたかなと思うぐらいで。

篠田「そうですね。僕はそういう専門的なことは分からないから、もう感覚だけでやったんですけど、自分なりには勉強して。結局、あれこそ沼なんですよ(笑)。だから、もうそこは諦めようと思って。エンジニアの人は毎回同じ内田直之くんにやってもらってるので、なんとなく内田くんがこういう音を欲しがってるとかは分かってるから、それをイメージして、ふたりでやってんだけど、内田くんがこう、いつもあたまの上の、このあたりに浮かんでいて(笑)。“あ、やべえ、内田くん怒ってる”とか思いながらやってて(笑)」

――「クレイジーワルツ」にはバイオリンやグロッケンが入っていますが、それがサイケデリックな要素に繋がっていてすごく面白い。

篠田「「クレイジーワルツ」は僕の頭の中には綺麗なワルツとかじゃなくて、砂漠でいきなり流れてくるようなイメージとか、宇宙船の中でジャズが鳴ってるイメージとか、ちょっとやっぱおかしくなってたんでしょうね。そういう感じの音像があって、ほんとにオーケストラを入れてやりたいなっていうんじゃなくて、自分らなりに拙いワルツというか、それを逆にやりたかったというか」

――人間の不気味さが感じられて。まさに脳内音楽ですね。

篠田「今まではそれよりはライブでダイレクトに演奏できるようにっていうふうに自分らで持ってってたんですけど、もう今回はそういうの考えずに作品として割り切って、打ち込んじゃおう、みたいな感じでした」

――音像もなんですけど、伊東さんの歌詞は迷っちゃってひとりになってしまった……だけど行くんだ!というような内容で。

篠田「それはね、今までの作品でも結構、妙ちゃんの持ってる部分で」

伊東「結局、開き直る(笑)」

篠田「結局、前に進むっていうのはずっとあるんだけど、今回は特に追い込んだし。そういう部分がこう、美しく出たような気はしてます」

――伊東さんの突き抜ける歌唱も好きなんですけど、1回どーんと落ちるという前提があるところから這い上がってくるので、いろんな人の気持ちにリンクするところがあるんじゃないかと。

伊東「嬉しいです。狙い通り(笑)」

――でもそんなご飯も食べなくなっちゃう感じの中でよくぞ完成しましたね。

伊東「食べると眠くなっちゃうんですよ、すぐ(笑)。作業するには夜がいちばんいいんですよ。集中しやすい。篠田さんは結構、朝って言ってましたね」

篠田「僕は朝がいいですね」

――夜は自分の真実に限りなく寄って行っちゃいますよね。

伊東「うん。そういう時ってあったじゃないですか。ま、もちろん敢えて言いはしないんですけど、自分には確実にそういう時があったわけですよ。それを歌にしたっていうか。でもきっと誰にでもその瞬間に自分の中では方向性が大きく変わったっていう出来事があったと思うんですよね。そんな歌です」

――奇しくもほんとにやるのか?って自問自答する状況が訪れたわけですね。

篠田「それで一歩進むのと、そっちに行かないでだらだら進むのとでは一歩の重みが違うと思うから。まあ良かったとは言わないけど、そこから一歩踏み出すってことが結構大きいんですよね、たぶん」

――お二人でレコーディングまでして完成させるっていうのは自分自身に向き合う作業ではありますね。

伊東「やっぱり今までの一発録りだと“ここちょっと、気になる。このちょっとしたギターのビン!て変な音してんじゃない?”って気になる。そういうのをテイク全体で判断するから、他の人はたぶん、全然気になんないちょっとした声が“ここもうちょっと伸びる予定だったんだけど、ちょっと詰まってんなあ”ってとことか……“全然気になんないよ”って、自分以外は言うじゃないですか。でも今回はそういうことを気にせず、もっといいテイクが出るんじゃないかっていうのを永遠に挑戦し続けられる時間だったので。すごく充実してるし楽しいんだけど、終わりがないので辛いっていうか(笑)」

篠田「一発録りの方が諦めがつくんですよね。でも、やってることは実はそんなに変わってなくて。これは最後まで仕上げたからあれですけど、一発録りの場合は、一歩手前までは家で作り込んで、それをレコーディングスタジオに持っていって一発で録るっていう。だけど、ある程度まで作ってから仕上げるまでの段階がこんなに大変だったのかってことに気づきました」

伊東「どうしても気に入らなければ録り直すってこともあるかもしれないけど、基本的には選んでいくじゃないですか。それにしても何週間かけたんだっていう、ギターの音色とか……このギターのテイク、このリフ弾きながら何回の夜明けを迎えたか、って曲もあったりして思い出深いですね(笑)」




――T字路sの魅力である勢いは全然ありつつも、今回は比較的スローからミディアムめですね。

篠田「確かに。そうかも……」

――そこは勢いだけではない部分なのかもしれませんが。

伊東「全部で20曲ぐらい作ったんですね。それで最終的に12曲になったんですけど。なんていうかこう、歌っていくうちに、はじめ鼻歌のラララで作ったメロはいいと思ったんだけど、大きな声で張って歌うと全然面白くなく感じるっていうのがあって、「ロンサム・メロディ」の“かげろうが ゆらゆら揺れて”ってところはすっごい抑えて歌ってるんですけど、自分のベストのキーから2、3個か、もっと下げて歌ってるんですけど、レコーディングにおいてそういう試みをしたことも初めてっていうか。1st出した時から自分の歌にもうちょっと変化をつけたいっていう試みを毎回してはきてて。1作目は今思えば、その試みはあまりうまくいってなかったと思うんですね。で、前作でちょっとそれができてきたことが嬉しかったんですけど、今回はプライベートスタジオで録ったこともあって、そういう試みもいっぱいできたってのが面白かったですね」

篠田「デモをもらった段階でいいメロディの曲が多かったんです。で、これに合うアレンジとかはどうかなって考えていくとこうなったんですね。それにやっぱり音数は減らしていきたいんですね。その、T字路sってスタイルからしたら。だけど、一発録りだと、ミスらないように無難なラインにしちゃうときがあるんですよ。ほんとはこうやりたいんだけど、これライブでトチるからこっちにしとこう……みたいな部分が結構あるんです。それが今回、そういう部分では攻めてやろうと思ったんだけど、やってみたら実はそんなに変わらなかったという(笑)」

伊東「私はかなりイレギュラーなほどギターソロが多かったり(笑)。“これ、ライブでできんのか?”ってところもあって。こんなにギターソロ入れた作品は今までなかった」

――弾きまくるというより、フレーズを選ぶ感じのギターソロですね。

伊東「うんうん、そうですね。物語を添えるっていうか」

――個人的には「宇宙遊泳」での伊東さんのボーカルのいちばん高いところが、これまでのはっちゃけた伊東さんではなくなっていて、ちょっと新鮮でした。

伊東「おお!そこ注目してくれました?(笑)めっちゃこだわったんですよ、あの曲の歌い方」

篠田「なんかね、ギャーってやっちゃうと、あの良さがなくなるから」

伊東「でも静かに歌ってもつまらない曲だったんで、ギリギリのちょっとだけ抑えたところで振り切るっていうのがすごい難しかったんです。“ダメ!やり直し”みたいな(笑)」

篠田「デモはちょっと力抜いてる感じに抑え気味で。そのサビの感じが良かったから、本番で気合いが入るとパワーが出てきちゃうから、そうするとあの感じがなくなる」

伊東「あのちょっと儚さがあるみたいな感じが難しくて、“ダメ!やり直し”、“できないよー!(泣)”の繰り返しでした」

――重みのある作品ですが、終盤に向かって割と楽しい終わり方をするので助かります。

篠田「最終的には欲に塗れて生きて行こうって(笑)」

伊東「ね、“駆け抜けちゃおう”っていう(笑)」

篠田「重さを抱えながら、最後ちょっと開き直ってく、みたいな感じですね」

――そういう終わりじゃないと、出口がないですからね。そして現場では観客を入れるライブが始まります。

伊東「はい。レコ発を12月に予定していて、東名阪だけやろうと思って」

――様々なミュージシャンがいろんなやり方でライブを再開してますね。

篠田「もうほんとに適応していくしかないというか。やっぱりね、クラスタを起こしちゃうのもやだし、お客さんも怖いだろうし。自分だって怖いから、そりゃお客さんだって怖いだろうし。そこはもう適応して、やれるようにというか、今の状況でできるようにはするけど、ライブはもう始めたいというか。配信もいいけど、やっぱり目の前の人に伝えたいというか。だからそれはキャパが半分だろうがなんだろうが、やったるぞ!って感じは変わらずありますね」

(おわり)

取材・文/石角友香
写真/柴田ひろあき





■T字路s “BRAND NEW CARAVAN” Release TourT字路sオフィシャルサイト
12月5日(土) 名古屋クラブクアトロ
12月6日(日) 梅田クラブクアトロ
12月10日(木) 渋谷TSUTAYA O-EAST

T字路s

※ライブ、イベントの内容は開催当日までに変更される場合があります。必ずアーティスト、レーベル、主催者、会場等のウェブサイトで最新情報をご確認ください。





T字路s
T字路s『BRAND NEW CARAVAN』
2020年11月4日(水)発売
POCS-23008/3,000円(税別)
Mix Nuts Records/Caroline International




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