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2020.10.02

Yaffle『Lost, Never Gone』インタビュー――長話がしたくなった

Tokyo Recordingsのプロデューサーとして藤井 風やiri、SIRUP、SHE’S、柴咲コウなどを手がける小島裕規。彼のアーティスト・プロジェクトであるYaffle(ヤッフル)名義の1stアルバム『Lost, Never Gone』がリリースされた。欧州コライト旅を経て完成した作品について語ってもらった。

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――まずなぜいまのタイミングでアーティスト名義のアルバムをリリースしようと思ったんですか?

「ああ。なんかいままでずっと短い話ばかりしてたので、長話したくなった(笑)」

――自分の音楽をもうちょっと体系的に語ろうと?

「自分の音楽というよりはコンセプトとか……いままではシングルだったので、そのコンセプトを3分に落とし込むっていうことをやってたんですけど、それでいいところもあるし、フォーマットが変わるので喋れることの幅が変わってくるんで。もう少し広くて、長いスパン、長いターンっていうんですかね。長いターンで喋ることがやりたいなっていうのをちょっと思ったのが、去年の夏ぐらいって感じです」

――喋りたいというのは翻訳すると自己表現という意味ですか?

「自己表現の一部だと僕は思ってるんだけど、“どう思う?”ってことですかね(笑)」

――シングルで短い自己紹介が済んだという感覚?

「シングルまではそれぐらいの気持ちで、こういうのもやるし、こういうのもいいなと思ってます。みたいなことをやってたんですけど、もうちょっとなんていうか……アルバムだとシンガーがみんな違うので、ともするとコンピレーションみたいになっちゃうのが、やだなと思ってて。それだと内的なコンセプト決めてやった方が絶対いいなと。そういう意味でシングルを作ってた時とはちょっとマインドが違う感じでしたね」

――今回はコライト旅をされたわけで。具体的にはヨーロッパのどこの国を回ったんですか?

「国は曲順で言ったら、「ア・ランヴェール」がフランスでパリ。「ラフター」はニック・ムーンがたまたま東京にいたんで東京。「GMYP」は……これもパリですね。「ユー・カム・アンダン」、結構前のやつで時期が違うけど、これもパリだ。で、「ブラインドネス」は、3曲目と同じニック・ムーンですけど、東京でドラフトを作って、それをロンドンに持って行った時にラッパーのシャオ・ドウに聴かせて。ロンドンのなんかいいとこ(笑)。カムデンから遠くなかった気がするな。「ナッシング・ラスツ」もロンドンですね。シンガーのステラ・タルボは生まれはシンガポールって言ってましたけどね。“この後、旅行に行くからケツがある”って。彼女はその日しかなくて、朝集合して昼過ぎぐらいには旅立って行きましたけど(笑)」

――いいの録るぞ!って心持ちで?

「いや、“いいのできたからまあいいか”ぐらいですね(笑)。基本的にドラフト作ってみて感じの良かったやつだけを、そこからさらにアルバムのなかでハマる場所……意識としては棚みたいなのがあって、その棚に大きいのとか小さいのとか仕分けっていうか。背表紙長いのは大きい本棚いるじゃないですか?」

――整理整頓していくわけですね。

「そうですね。だから全部、でっかい本作って、いいのできたら抽出して、どれぐらい接着するか、製本というか、そういうのをその後にやってったんで。だからその時は“いいのができたらいいな”ぐらいの感覚で。で、「ロスト、ネヴァー・ゴーン」はストックホルムですね。ストックホルム、めっちゃよかったです(笑)」

――なかなか移動の激しい旅ですね。

「ほんと、珍道中(笑)。本書けますよ、旅エッセイみたいな」

――そのエッセイはこのアルバムと同時に書いたほうがよいのでは?(笑)。

「ははは!まあでも、13ヵ国ぐらいで出入国20回ぐらい?結局スケジュールが合わなくて、ロンドンに2、3日いて、日帰りでオランダに行って一旦戻ってとかもあるし。で、ベニー(・シングス)はアムステルダムのなんかおしゃれな橋の下に住んでました。橋の構造物の中に家がある。で、そこにスタジオ借りてるんだけど、橋の下だからGoogle Mapで全然見つからない。橋の上にピンがこう置かれたままで。Google Mapって縦構造に弱い(笑)」

――今回、フランス語圏のシンガーやラッパーが多いですね。ある程度、目星をつけてパリならパリに出向くんですか?

「一応、その国に行く時は当てをつけておいて、“この人に会うぞ”って行くんですけど、たとえば、シャオ・ドウとかは東京にいるときに録ってて、面白そうだって話でロンドンに行ったんですけど、再会して、あっちのうちうちで“おもしろい日本人が来てる”みたいな話が回って、“なんかやってみない?”って人が次から次へやって来て。それも出国3日前とかにわー!っと来て(笑)」

――噂が広まるとシンガーが集まるんですね(笑)。

「はじめの2週間ぐらいすごい凪で、暇でぼーっとしてるのに、ケツの3日だけいきなり分刻みみたいになる。ステラとかそんな感じでしたね。だから一応、目星はつけますけど、でも、そんなにガチガチに固めて行かないですね」

――“こういう人に出会えたおかげで新しい曲ができた”って人は?それともみんなですか?

「うーん……ほんとそうですね。いつもボーカルもらったら前のドラフトは基本忘れるんですね。セッションの朝ぐらいに、ドラフトなんか持って行って。だいたいが初めましてなんで。ドラフトを聴かせて、いい反応したやつに歌ってもらって、それ持ち帰る段階で、最初に聴かせたやつは一回忘れて、声とメロディだけぼーっと聴いてて、その声になんか引っ張られるというとあれですけど……引っ張られてトラック作るのが楽しくて。だからトラックものっぽい感じですけど、どっちかっていうと歌モノというイメージですね」

――歌ってないけど、確かにYaffle名義で出すからにはYaffleさんのオリジナルなわけですもんね。

「そうですね。差別化も難しいなと思ってて。自分がプロデュースした人の作品と、こういうフィーチャリングものと、その違いはどこにあるのか?っていうのはあるから。ちょっと意識的に“僕が喋るよ”っていう感じにはしたつもりはあるんですけど(笑)。ただ、原則的な話でいうと、いつも歌の声にキープ(リード)してもらいたいタイプです」

――アルバム前半のトラックは攻めた感じですね。

「意識したかもしれませんね。何ていうんだろうな……なんかその、自分の中の経験値みたいなものを壊したかったっていうのはありますね。ま、そのために移動しながら書いてるっていうのもあるんですけど。東京にいるとどうしても街の匂いに引っ張られちゃうんで。だからドラフトも、東京で用意して持っていくというよりは、向こうに行って、向こうのドラフトボーカリストと作ったりするんで、まあそれと同時に意識的に噛む――噛むって表現が好きなんですけど――噛み付くようなものがやりたかったんですね。曲によってはですけど」

――噛み付く対象は?

「聴いてる人」

――じゃあもしかして私たち試されてます?(笑)

「ははは!」

――タイトルチューンの「ロスト、ネヴァー・ゴーン」。この曲は1曲の中ですごく展開します。この曲自体に“なくなったけど、決して離れない”ってニュアンスがあるなと。

「そうですね、すごく。これだけ時期が違くて。他はだいたい、去年の10月、11月ぐらいにやったんですけど、これは2年前ぐらいにドラフトだけもらってて。で、“1回聴いて”みたいなやつで、いいなと思ってたんだけど、なかなか腑に落ちる落としどころが見つからないまま残ってて。だけどフックで言ってることがすごく自分が感じてることと近かった。こう、なんとなくアルバムの軸にしたいなって思ってることを詞でパーン!って言ってくれたんで。で、これもう軸だなっていう感じで。展開が多いのはもともとリニアが書いたドラフトがすごいフォーキーな感じがあったので、3分ソングにしちゃうともともとの持ってるものが消えちゃうなと思って悩みましたね」

――フォーキーなところからかなりカオスに突入して、時代も全然変わっていく印象がありました。

「難しいんですけど、全部記号化してまとめるのが好きで。前半のすごくオーセンティックなものだったりというのは、いま2020年に生きてるのに、本気で1960年に出会うんですよね。でもその良さもあって、で、どうしようと思った時、いちばんしっくりくる使い方も嘘の部分は骨董品として扱う。モダンな家に骨董品置いとくみたいな感じ。懐かしい写真みたいな感じでぽんと置いとくようなイメージが強かったですね」

――先ほどの棚の中に高さの違うものを仕分けていくお話にも近いというか、入れ物と中身みたいな考え方をするとYaffleさんの曲構成が少し分かるように思います。

「そうですね。ライブはちょっとわからないですけど、録音に関してはどうしても枠っていうのを感じちゃって。フルビットで入る量は決まってて、人間が聴ける範囲は決まってるんですけど、そこで逆に何をやるかっていう、結構フォーマットががっつり決まってるっていうところだなと思ってて。だから家とか棚とか、あとはよく例えるのは弁当箱なんですけど。“何入れる?”みたいな。めちゃくちゃでかいハンバーグ入れたらもう他のものちっちゃく入れなきゃいけないとか(笑)。だからいろんなものを、どういう演出で置くか?っていうの、すごい気にしますね」

――これまでのYaffleさんの一連のプロデュースワークに比べると、本作はリスニング体験としてはもうちょっとハードな気がします。

「ありがとうございます。いい意味で、ですよね?(笑)」

――もちろん(笑)。なんかもうちょっとハードタイムスを生きる感じがします。

「そこは剥き出しなのかもしれない。プロデュースものよりも意思決定に関わる人が少なくなるんで」

――Yaffleさんのプロデュースワークとして、藤井 風さんのアルバム『HELP EVER HURT NEVER』を挙げないわけにはいかないと思うし、これは今年のシーンを象徴する作品でもあるわけで。

「ああ、はい。そう言ってもらえるとうれしいです」

――ちなみに先日Gorilla Attackの取材をしたんですが。ヒガシローランドくんとかは、人の作品をいろいろ聴いてるタイプだと思うんです。

「だからまた面白いですよ、ヒガシくんとかは。ミュージシャンやってたからプロデュースやってると思うんですけど、藤井くんとは全然違って。彼は社会における自分ていうのをすごく俯瞰で捉えてて。で、それに対して自分はどう出るっていうところの動機で動いてるタイプ。だから全然結果は違うものになります。すごく内的なストーリーになってるし」

――ところでプロデュースワークやリミックスをしているときにご自身の特性に気づくことってありますか?

「習性というか、常にカウンターとして何か新しいことをやろうとは思ってます。この前もある作曲家の人と話になったんですけど、自覚的に自分の作風を出すかどうかっていう問題があって。いろんな考え方の人がいると思うんですけど、いまの僕の歳とキャリアとしてはあんまりそういうところで露悪的になりたくないっていうのがあって、だから常に自分としてはまっさらでやって、無自覚的に滲みだしてくるのが作風なんだろうなっていう風に思ってやってます」

――なるほど。

「常にコラボレーション相手から影響受けて、自分が変性していく感じはあって。どうなんだろうな……プロデュースワークはアーティストがいちばん納得してほしいんですよ。なんか本人は腑に落ちてないけど、A&Rもいいって言ってるし事務所もいいって言ってるし……みたいな状況は自分たちも心苦しいし、嫌だし(笑)。やっぱその人が自分の音だって言ってくれるようなものなら、僕としてはうれしくて」

――個人的には、Yaffleさんのプロデュースやアレンジによって、2015年以降の日本のポップシーンに――すごく大雑把な言い方になりますけど――インディーR&B的な音像が入ってきたと思っていて。

「シティポップってひと括りにされちゃうやつですか?(笑)なんか世代は感じます。いいとか悪いとかは置いといて、僕たちの世代、結構多いですよね。30前後ぐらいの、OKAMOTO’Sも、ヒゲダンもそうだし、King Gnuも。一定の何か匂いは感じてます」

――同時代性は感じますね。

「そうですね。ネオソウルとかの影響はすごく感じました。それが日本語とハマりがよかったんでしょうね。来年の3月で30になるんですけど、なんかそしたらもうちょっと路線変えてもいいのかな?と自分では思ってるんですけどね。とりあえずいまある、できること全力でやって、どういうことやったら面白いのかな?っていうのは考えてますね」

――『Lost, Never Gone』は、これまでプロデューサーとして聴かれていたYaffleさんの音楽性を聴くことができる機会だと思いますが、CD屋さんだとどこの棚に置かれるんでしょうね?

「ワールドミュージックですかね(笑)。エレクトロニックかな……どうなんですかね?でも自分のアイデンティティを感じられるジャンルがないし、そこは結構良し悪しで。いつも思うんですね。“僕は2ステップの人です”とか“R&B作ってます”とかでは全然ないので。いつも“さあ、どうしよう?”と」

――ソロを出すことで聴き手がYaffleさんをどうタイプファイするかが楽しみですね。

「そうですね。ライブとかやんないんで、洞窟とかにシュポーンて投げてるような気分ではあって(笑)。ま、感じる人はいるのかな?と思いつつなんですけどね」

(おわり)

取材・文/石角友香



Yaffle

■Yaffle(ヤッフル)
東京都出身。小袋成彬らとともにTokyo Recordingsを設立し、小袋、藤井 風、iri、SIRUP、SANABAGUN.の高岩 遼、Capeson、柴咲コウ、adieuらのアレンジ、楽曲を手掛けた小島裕規のアーティスト・プロジェクト。Yaflle名義の活動では海外アーティストとのライティング・セッションから生まれた楽曲を多数リリース。小袋成彬によるジャケット・アートワークもキャッチーな1stアルバム『Lost, Never Gone』でもニック・ムーンやベニー・シングス、エロディー、シャオ・ドウらワールドワイドな顔ぶれをフィーチャーしている。



Yaffle
Yaffle『Lost, Never Gone』
2020年9月18日(金)配信
Picus Records/Caroline International




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