ファッションの潮流が再び「所有と消費」の意味を問い直している。大量生産・大量廃棄の時代を経て、服は単なる消耗品ではなく、素材の質感、作り手の思想、歴史の重みまで含んだ文化的存在であることが改めて見直されている。なかでも古着は、過去を纏う行為でありながら、現代に新たな解釈を加える創造でもある。本書『古着ひとつでおしゃれになります』は、そうした古着の魅力を、最新のライフスタイルの視点から丁寧に掘り下げた一冊だ。
著者はファッションジャーナリストの宮田理江さん。コレクション取材やブランド分析、装いの文化論に精通する宮田さんが、古着を単なる「いま流行の選択肢」として扱うのではなく、長く続く衣服文化の流れのなかに位置づけ、わかりやすく指針を示している点に本書の強みがある。古着の選び方、現代の服との組み合わせ方、体型や年代の見せ方、さらにはメンテナンスの基本まで網羅し、実践性と背景知識のバランスが取れている。
特筆すべきは、ターゲットを30〜40代前後の成人層に据える編集方針だ。忙しい日常を送りながらも「お金も時間もかけすぎずに、おしゃれでいたい」という現実的な願いに応えようとする姿勢が、実用書としての信頼感を高めている。若者のビンテージ文化とは一線を画し、大人の節度ある楽しみとして古着を位置づける点に、本書ならではの成熟した視点が光る。
古着を選ぶ行為は、服の背景にある時間を尊重する態度でもある。誰かが袖を通し、季節を共にした衣服に新たな息を吹き込む喜び。消費のテンポを緩め、長く愛用するという価値観は、単なるファッショントレンドではなくライフスタイルの哲学に近い。本書はその思想を、押し付けることなく静かに提示する。
もちろん、古着は万能ではない。サイズや状態の見極めには経験が必要で、時に手間もかかる。それでも、選んだ一着に宿る偶然性や物語性は、新品では得がたい魅力である。古着を「知性ある選択」として提案する本書は、読者に装いの自由を再発見させてくれる。
持続可能性や循環型社会が語られる今、古着は未来志向の服でもある。本書は、古着を特別視するのではなく、日常のワードローブに自然に溶け込ませる道を開く。装いを通じて、自分と社会の関係を考える――その入り口として、手に取りたい一冊となっている。

■著者紹介

宮田理江(みやたりえ)
ファッションジャーナリスト、服飾評論家。国内外のコレクションを取材し、トレンド分析やブランド論に精通。媒体連載や講演など幅広く活動。

■書誌情報

『古着ひとつでおしゃれになります』
宮田理江 著
A5判・176ページ/本体1,500円+税
ISBN:978-4-05-802536-9
Gakken/2025年10月刊

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