
Profile/下地毅(しもじ・つよし)TSIホールディングス代表取締役社長 CEO
1964年生まれ。85年、文化服装学院マーチャンダイジング科卒業。90年、上野商会に入社し、「DOG FIGHT(ドッグファイト)」のデザインを手掛ける。92年、「AVIREX(アヴィレックス)」のチーフデザイナー就任。2018年、取締役社長兼商品本部長。同年、TSIホールディングスが上野商会を子会社化、これに伴い第4事業カンパニー長に就任。21年、TSIホールディングス代表取締役社長兼TSI代表取締役社長。25年、役職名をTSIホールディングス代表取締役社長CEO兼TSI代表取締役社長CEOに変更。24年から日本ファッション・ウィーク推進機構の理事長。
構造改革で体質改善を進め、得意分野を深掘りするフェーズへ
東京スタイルとサンエー・インターナショナルが経営統合し、2011年に誕生したTSIホールディングス(TSI HD)。傘下の企業群が各ブランドを運営する体制を採ってきたが、下地毅氏がトップに就任してまず実行したのは数ある子会社の1社統合だった。各ブランドの個性を生かしつつ、低迷していた収益性を高めていくため組織構造をスリム化した。24年には中期経営計画を発表し、商品調達先の集約化、収益改善の見込めないブランドの撤退、ブランドごとにあったオンランストアの統合、本社人員の2割程度の削減など、続々と大胆な構造改革に取り組んだ。痛みを伴う改革ではあるが、「組織を大きく変えたことで、社員がブランドを横断して意見を言えるようになり、会社の体質が変わってきた」という。
さらに25年には「フリークス ストア」などセレクト業態を運営するデイトナ・インターナショナルを買収し、業界を驚かせた。「50を超えるブランドをもっと生かしていくためには、しっかりとした販売力や編集力を備えたところと組む必要がある」と下地社長。加えて、「体質改善は組織内に2割以上の新しいマインドが入ってこないとなかなか進まない。実際、デイトナが加わったことで、体質改善がスピードアップしました。リテールもアパレルも、お客様があってこそ成り立ちます。お客様に喜んでいただくため、それぞれのブランドがアイデンティティーを問い直し、得意分野を磨いていくフェーズに入った」と話す。改革によって目指すのは、ファッションを通じて人々の心を豊かにし、世の中を元気する「ファッションエンターテインメント創造企業」の実現だ。
ファッションへの「渇望」が拓いたデザイナーへの道
現在はTSI HDの経営の舵をとる一方、日本ファッション・ウィーク推進機構(JWFO)の理事長としてファッション産業の新たな発展に向けた事業に取り組み、個人としても次世代クリエイターの支援活動をスタートさせる。その原動力とは何か。今回の番組収録では、下地社長の生い立ちから現在まで多岐にわたって問いを投げた。
出身は沖縄県の宮古島。子供の頃から洋服が大好きで、高校時代には『メンズクラブ』『ポパイ』『流行通信』などあらゆるファッション誌を読み漁っていた。「雑誌が書店に入荷されるのは発売日の1カ月後。次の号が届くまでボロボロになるまで読み、アルバイトでお金を溜めては沖縄本島まで行っていた」と振り返る。島内には欲しいものを売る店が少なく、それだけに「ファッションに対する渇望は非常に強かった」。
ファッション業界に進もうと決めたのは高校3年生のとき、部活帰りに書店の店先で見かけた『アンアン』がきっかけだった。「高田賢三さんの特集号で、モデルの山口小夜子さんとのツーショットの表紙が目に入ったんです。中身を読んで、デザイナーってこんなに素敵な生活ができるんだって、もう思い込んでしまって」、両親の反対を押し切って高田賢三が学んだ文化服装学院へ。同時期に同誌に衝撃を受けたのが、後に高田賢三の一番弟子となるデザイナー佐々木勉氏だった。その表紙に感激して出身地の北海道・夕張から東京へ出て、文化服装学院に進んだ。「佐々木さんは日本の北、僕は南にいて、同じアクションを起こした。渇望は原動力になるんだと強く思います」。
4社でデザインと海外とのビジネスを経験し、TSI HDへ
卒業後はデニムブランドの「Wrangler(ラングラー)」に入社。その後、バーニーズ ニューヨークが運営していた「BASCO-Bernys American Sportswear Company(バスコ-バーニーズ アメリカンスポーツウェアカンパニー)」、メンズトラッドの「GLENOVER(グレンオーヴァー)」、アメリカンカジュアルの「AVIREX(アヴィレックス)」などを展開する上野商会で、デザインや海外とのビジネスを手掛けた。
グレンオーヴァーに移ったのは、紳士服業界の重鎮である代表の赤峰幸生氏からブランドの立ち上げを要望されて。伝えられたのは大学生を対象にした「イタリア人から見たアメリカ」を体現した服というイメージのみ。コンセプトの立案からデザイン、販売まで自身で手掛けたその服を、最も多く買い付けていたのが上野商会だった。当時の上野商会はアヴィレックスなどの輸入販売や「B’2nd(ビーセカンド)」などのセレクトショップも展開し、オリジナルの展開を模索していた。1990年に入社すると、オリジナルブランドのデザインと、海外ブランドとのライセンス契約の充実化に奔走。この取り組みにより、アヴィレックスは上野商会が企画・生産・販売を担うSPA事業へと進化することとなった。
TSI HDが上野商会を買収したのは18年のこと。TSI HDのブランドポートフォリオに無かったメンズアメカジ市場を主力とし、取り扱いブランドの評価も高いことから子会社化に至った。「実は僕が一番反対していたのですが、永続的に会社を成長させるための選択と理解しました。上野商会が培ってきた思想や文化を残しつつ、自分たちが時代変化に対応してどう変わっていくか。そこが重要だと思った」と下地社長。22年には子会社のTSIに上野商会を吸収合併。その後は前述の収益構造改革を続け、27年までに結果を出す計画だ。
デザインは社会を良くするもの、次世代のクリエイターを発信
24年から理事長を務めるJFWOでは、「ジャパン・クリエーション」と「プレミアム・テキスタイル・ジャパン」を統合した総合素材展「東京テキスタイルスコープ」を開催、「楽天ファッション・ウィーク東京」も新たなブランド・デザイナーの発掘・発信に向けて進化を目指している。「日本でクリエイターになりたいという人が減り始めているという危機感があるんです。次世代のクリエイターたちがエネルギーとパワーを持って発信できる環境を作っていきたい。デザインは社会を良くするもの。デザインによって社会を良くするクリエイターを発掘し、育てていきたい」と下地社長は話す。
その思いのもう一つの体現となるのが、自身が発起人となって立ち上げた次世代クリエイター支援イベント「FORTY DEGREES JAPAN(フォーティーディグリーズジャパン)」だ。フォーティーディグリーズはロンドンで96年まで開催されたファッションイベントで、下地社長もデザイナー時代に出展経験がある。その名を冠し、今年5月9、10日に国立代々木競技場の第一・第二体育館で開催する。ファッションやアート、ダンスなど多様な領域のクリエイターが集結し、久保雅裕が代表を務めるCFDからもアートとコラボレーションする5ブランドが出展する。
詳細はYouTube番組「ジュルナルクボッチのファッショントークサロン」VOL.50で
写真/プラグイン|エディトリアル提供
取材・文/久保雅裕
