日本の伝統装飾を取り入れたラグジュアリーでカジュアルな空間

ザ トウキョウ銀座は、銀座ガス灯通り沿いの松屋通りと銀座マロニエ通りの間、1931~2018年の87年間にわたり営業した伝説のキャバレー「銀座 白いばら」の跡地に立地する。大人の社交場としてクラシカルな空間で正統派のホスピタリティーを貫いた老舗が歴史を刻んだ場を、現代の「TOKYOスタイル」をコミュニティ型セレクトショップとして伝えるザ トウキョウが引き継いだ。
「銀座エリアはずっと物件を探してきた立地。ザ トウキョウが銀座の路面店で勝負できるタイミングになったと感じ、出店を決めた。いくつか候補地があった中に白いばらの跡地があり、3代目のオーナー様が僕らのコンセプトに共感してくださった」と、ザ トウキョウの立ち上げ時からディレクターを務める中根大樹さん。ただ、ガス灯通りとつながる両サイドの通りほど人の流れがない立地でもある。「ガス灯通りは愛着の湧く通りなのですが、人通りが少ないので視認性の高いファサードを造り、ガラス張りで店内が見通せるようにした」。

トウキョウベースのザ トウキョウ部門のディレクターを務める中根大樹さん

店舗は2階建てで、売り場面積は両フロアを合わせて約330㎡。1階ではウィメンズ、2階ではメンズを提案する。店舗デザインは、ザ トウキョウの全店舗を手掛けてきたGLAMOROUS(グラマラス)のデザイナー森田恭通氏が担当した。ファサードは日本の伝統建築である「蔵」をイメージ。白い壁面に蔵の扉や窓さながらのデザインでシンメトリーに配置したガラス張りのエントランスやウインドーが印象的だ。ウインドーの縁には「T」を重ねたザ トウキョウのロゴや植物などの紋様を施し、銀座3丁目に和と洋を融合したモダンな蔵を出現させた。白い壁は時間の経過によって表情を変え、日中は光の陰影を映し、日が落ちると額縁のような窓から間接照明が柔らかく広がる。
内装もシンメトリーの構造を採用した。1階も2階も共にザ トウキョウを象徴するラウンジスペースを中央に設置し、周囲にブランドごとに服を展開。ラウンジの絨毯やソファは銀座店のコンセプトカラーである高貴な紫で設えた。ラウンジの天井中央には縄のれんを主素材として用い、六葉釘隠しなどの伝統的な装飾を施したシンボリックなシャンデリアを配置し、ラグジュアリーなムードを演出。縄のれんは壁面上部にも連ね、空間に一体感をもたらしている。「和と洋、伝統とモダンなどの要素を融合することで、ゴージャスに寄らないラグジュアリー、エレガントでありながらカジュアルな空間を生み出すことができた」と中根さんは話す。

紫の調度や絨毯がラグジュアリーな1階のラウンジスペース
「蔵」をイメージしたファサード
壁面にも縄のれん
メンズフロアもラウンジスペースを中心に売り場が広がる

セレクトと唯一無二を追求する別注、デニムの粋を集積

MDはセレクトとオリジナルで構成し、「セレクトアイテムは3~4割を別注」することでザ トウキョウならではの世界観を醸成している。
1階のウィメンズでは、「AKIRANAKA(アキラナカ)」「ATON(エイトン)」「ENFORD(エンフォルド)「HARUNOBUMURATA(ハルノブムラタ)」「JUNYA WATANABE(ジュンヤワタナベ)」「kolor(カラー)」「noire kei ninomiya(ノワール ケイ ニノミヤ)」「PLAY COMME des GARCONS(プレイ コムデギャルソン)」「THE RERACS(ザ リラクス)」「TOGA(トーガ)」「UJOH(ウジョー)」「UNDERCOVER(アンダーカバー)」などを取り扱う。店奥はポップアップスペースとして活用し、ウェアやジュエリーなどジャンルレスに展開する。

1階のウィメンズフロア
1階奥のポップアップスぺース

銀座店のオープンに合わせて投入したのは、「HARUNOBUMURATA by Kyoto Marble×THE TOKYO GINZA(ハルノブムラタ バイ キョウトマーブル×ザ トウキョウ ギンザ)」。デザイナー村田晴信氏が描き下ろした柄を京都マーブルが世界で唯一継承する技法「マーブルプリント」で表現した2種類の生地を製作し、ハルノブムラタで人気の5型のアイテムに落とし込んだ。マーブルプリントは20世紀初頭のスイスとドイツで開発された染色技法で、粘土状の色糊粉を組み合わせた染料により、一度に多くの色を鮮やかに染められることから「百色プリント」とも呼ばれ、多様な柄を表現できる。ラグジュアリーブランドの生地染色も手掛ける京都マーブルの技術と感性と、ハルノブムラタのクリエーションが出会い、希少性の高いコレクションを生み出した。

「ハルノブムラタ」と京都マーブル、ザ トウキョウのコラボアイテム

アキラナカとは初めて完全別注を実現した。「Gerda glass beads&ores knit(ガーダ グラスビーズ アンド オーレス ニット)」は、形状や材質、色の異なる天然石やビーズを手作業でアシンメトリーに散りばめたニットベスト。今春夏に人気を呼んだアイテムをザ トウキョウ限定で揃え、ホワイトを加えた。「V Neck Gilet(Vネック ジレ)」は、カーブを描く身頃のカッティングラインが新鮮。フレンチスリーブ、ウエストのシェイプラインがフェミニンなスタイルを演出する。同素材の「Luana flare PT(ルアナ フレアパンツ)」とのセットアップもお薦め。デザイナーの中章氏がザ トウキョウのために描き下ろしたアート作品による「Graphic Art Tee(グラフィックアート ティー)」は、カジュアルながら知性と優美を感じさせる。

  • 「アキラナカ」のニットベスト
  • 「アキラナカ」の「Vネック ジレ」
  • 「Vネック ジレ」と同素材のフレアパンツ

2階のメンズフロアでは、「ATON(エイトン)」「FDMTL(ファンダメンタル)」「irenisa(イレニサ)」「kolor(カラー)」「NEEDLES(ニードルス)」「TAAKK(ターク)」「TEATORA(テアトラ)」「THE RERACS(ザ リラクス)」「UNDERCOVER(アンダーカバー)」「N.HOOLYWOOD(エヌハリウッド)」「White Mountaineering(ホワイト マウンテニアリング)」「YOKE(ヨーク)」などを展開する。

2階のメンズフロア

銀座店独自のMDを編集しているのは、日本のデニムにフォーカスした「JAPAN DENIM BAR(ジャパンデニムバー)」だ。オープン時には「MOMOTARO JEANS(モモタロウジーンズ)」「STUDIO D’ARTISAN(ステュディオ・ダ・ルチザン)」「WAREHOUSE(ウエアハウス)」「NEW MANUAL(ニューマニュアル)」「FULLCOUNT(フルカウント)」と、日本のデニムカルチャーの粋を集積した。「他店でも買えるブランド揃えなんですけど、いわゆるアメカジスタイルを提案するのではなく、大人がライトな感覚で買える場を作りたかった」と中根さん。ジャパンデニムバーの存在は特に強くアピールしなかったが、口コミで広まり、「月を追うごとに国内外からのお客様が増えている」という。「デニムは靴や眼鏡のように目的性の高いアイテム。日常的にしっかりと面で品揃えすることで新規もリピートのお客様も増えていく。在庫切れするような品揃えや売り方ではなく、再現性のあるMD、この店に来れば買えるという安心感を重視したい」。
ウィメンズのデニムは「ヤヌーク」「RED CARD TOKYO(レッドカード トーキョー)」「STUDIO R330(ステュディオ アール スリーサーティー)」を扱い、集積を作るのではなく、散りばめることで自由にコーディネートする楽しみを提案している。

デニムバーでは「レッドウイング」などのカスタマイズしたシューズも提案
日本のデニムカルチャーを伝える「ジャパンデニムバー」

銀座店のオープンに際しては、店舗限定アイテムも揃えた。昨年、エヌハリウッドとのコラボレーションで即完売したモデルを復刻、新たなカラーも加えた。「HIGH SUMMER S/S TEE(ハイサマー ショートスリーブT)」は、ドロップショルダーのビッグシルエットが特徴。1990年代の米軍Tシャツを再構築した。撥水加工を施したナイロントリコット製で、快適に着こなせる。1960年代の米軍の仮想敵部隊(アグレッサーフォース)が着用していたパンツをベースに、多機能ポケットやスピンドルなどを備えた「HIGH SUMMER AGGRESSOR PANTS(ハイサマー アグレッサーパンツ)」も注目。ミリタリーの背景を持つアイテムをザ トウキョウらしい「洗練」へと昇華させた。

「ハイサマー アグレッサーパンツ」
「エヌハリウッド」とコラボした「ハイサマー ショートスリーブT」

オリジナルラインの定番、新展開も見逃せない

ザ トウキョウのオリジナルライン「THE PERMANENT EYE(ザ パーマネント アイ)」は今後の展開が楽しみだ。メイド・イン・ジャパンをベースに日本を代表するデザイナーと共に服作りに取り組むプロジェクトラインで、21年秋冬物からメンズとウィメンズでスタートさせた。23年秋冬シーズンにはメンズを元「ATTACHMENT(アタッチメント)」、現「calmlence(カームレンス)」のデザイナー熊谷和幸氏による「CHIC(シック)」と、「IRENISA(イレニサ)」デザイナーの安部悠治氏と小林祐氏による「MOOD(ムード)」の2ラインに集約。シックラインでは、「もう汗らない」をテーマに作った「SOLOTEX jersey(ソロテックスジャージー)」シリーズが人気だ。表面に出ている糸には超撥水加工を施し、裏面に出ている糸には撥水加工をかけないことによって汗染みが出ない「ソロテックスモクロディ」を採用。ベーシックカラーでも汗染みを気にせずに着られるTシャツやシャツ、ポロシャツを製作し、細すぎず緩すぎないシルエットに仕上げた。

「ソロテックスジャージー」シリーズのシャツ
「ザ パーマネント アイ」メンズの集積

24年秋冬からはザ パーマネント アイのオリジナルコンテンツとして、ハイグレードなカジュアルウェアの提案に力を入れている。高所得層がフォーマルウェアを購入する場はすでにあり、着用機会も少ない領域のため、隙間となっているスペシャルな素材と熟練の技術によるカジュアルウェアに着目した。
昨冬、第1弾として発表したのが、カシミヤのリバーシブルウェアコレクション「CASHMERE⇄CASHMERE(カシミヤ⇄カシミヤ)」。カシミヤ100%のメルトン生地を使い、ハンドメイドのリバー縫製でしっかりとした厚みを実現、両面をビーバー加工で上品に仕上げ、ユニセックスのコート、ブルゾンを製作したほか、ブリーチをせずに染色したホワイトカシミヤ100%のニットによるカーディガンやプルオーバーも提案した。コートは鼓ボタンを採用することでメンズとウィメンズの前合わせの課題をクリア。発売するや「問い合わせが絶えない」ほどのヒットとなった。「カシミヤの特性を最大限に生かし、リバーシブルの機能を極限まで高めた本物の表裏一体を実現できた。目指しているのは、カジュアルが成立していない領域で超高級なウェアを成立させること」と中根さんはいう。
今年10月には「カシミヤ⇄カシミヤ」の第2弾と、スペインの老舗タンナー「Inpelsa(インペルサ)」のリッチレザーを使ったユニセックスのライダースジャケットとブルゾンの2型を展開予定だ。

24年に販売した「カシミヤ⇄カシミヤ」のロングコート。好評を受け、今年10月に第2弾を発表する

銀座店だからこその体験をきっかけに、新規客を増やす

銀座店はオープンして2カ月弱が経過した時点で、購買は30~40代の日本人客を中心に推移し、当初は想定以上に集客できていなかった訪日外国人客も徐々に増え、日販の売上構成比で50%を超える日も見られるようになった。ザ トウキョウの既存顧客をしっかりとフォローしながら、「銀座店を目掛けて来ていただけるイベントをこまめに企画して認知を広げ、着実にお客様を増やしていく」考えだ。
例えば、10月にはモモタロウジーンズのポップアップイベントを行い、販売だけでなく、ブランドのスタッフがその場でチェーンステッチによる丈詰めに対応する。他にもシューズのカスタマイズなどワークショップ的なイベントも含め、銀座店だからこその体験を通じて新規客の増加とファン化を図る。現在の顧客構成比はメンズが約70%を占めるが、ウィメンズを50%へと高め、インバウンド比率は60%を目指す。
ザ トウキョウは銀座エリアへの出店後、8月に名古屋の栄に東海地方で初の店舗を出店。11月上旬にはニュウマン横浜への出店を予定している。世界への発信拠点となる銀座店の今後に注目したい。

写真/遠藤純、トウキョウベース提供
取材・文/久保雅裕

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久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター。ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。元杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

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