世代、性別……様々な垣根を越えていく

ショップはみゆき通り沿いにあるミル・ロッシュビルの地下1階、通りから階段で直結した路面店だ。「TOGA」のロゴタイプをミラーで表現したサインが印象的。その下に見えるウインドーからは、トーガを象徴するレザーのバッグやグッズが浮かび上がる。ウインドー前の踊り場にさりげなく配置された植栽のプランターは、ロゴサインと同じミラーでデザインされている。

TOGA AOYAMA(トーガ アオヤマ)

店内に入ると奥へと壁面にミラーが展開し、ショップの大きな特徴となっている。エントランスから波打つミラーはメインフロアで緩やかなアールを描き、その色もシルバーからゴールドへと切り替わる。売り場中央にはシルバーのミラーで覆われた波打つ曲面を持つオブジェのような什器。曲面に沿って空気がゆったりと流線を描いて循環するような感覚だ。
メインフロアの奥には、先ほど見えたウインドーがあるフロアが広がる。自然の堆積でできた洞窟をイメージした壁と、未来的な直線で構成されたミラー貼りの壁面や什器という両極が共存する。壁は手でくり抜いたような柔らかな四角、什器やタイルの床は直線の四角が多用され、2つの時間軸が四角で結びついている。歴史と未来のパラレル空間に現在進行形のトーガのプロダクトが在る、というストーリーだろうか。

コレクションを提案するメインフロア
エントランスを入ると波打つミラーが展開
洞窟のような空間にはユニセックスのグッズ類を集積
メインフロアではアクセサリーなどをディスプレイ

店内の一画にはアートスペース「トーガ トライアングル」を設置した。ローカルコミュニティーとクリエイター、トーガの3者が連携したプロジェクトで、三角形の小さな空間からアートなどのカルチャーを発信していく。ここの床は何とアスファルト。売り場の床も、エントランスからは石畳が広がり、メインフロアでコンクリートに切り替わり、さらに洞窟空間ではタイルへと変化する。屋外に使う素材をあえて室内に用いることで、中と外の境界を作らない。青山店のコンセプト「垣根を越える」が体現された空間となっている。

三角形の展示スペースは象徴的。床はアスファルト
アートスペース「TOGA TRIANGLE(トーガ トライアングル)」

トーガはブランドを設立して今年で27年。親子でブランドの服を楽しむ顧客も増え、ファッションはジェンダーのハードルが低くなり、客層も国・地域を越えて多様化している。世代や性別、国籍、時代など様々な垣根を越える場を作りたいという思いから、新たな旗艦店の出店に至った。多様なマテリアルを融合した空間はトーガの特徴である異素材ミックスの服作りに通じ、アートスペースを設けることでアートとファッションが共存する空間を生んだ。売り場では、ウィメンズ、メンズ、ユニセックスの全ラインが混在する。加えて、ビンテージ服をリメイクした1点物や国内初展開となるキッズシューズも揃え、既存店舗とは一味違う体験価値を提供していく。

「連携」を生かす青山店だけの新たな取り組み

ブランドとして初めて取り組んだトーガ トライアングルは、やはり注目したい。オープンから6月にかけての2カ月余りで、東京・九段下にある成山画廊のオーナー成山光明氏の協力を得てすでに3つの展覧会を開催した。
こけら落としとなる第1弾の展示は、1970年代から80年代にかけて活躍した画家、長谷川サダオにフィーチャー。日本のゲイ・エロティックアートの先駆とされ、幻想的な色彩美を特徴とするその作品は近年、改めて評価を高めている。その作品を唯一管理しているのが成山画廊だ。初期の70年代のペインティング12点を展示し、作品と作品集を販売した。第2弾は造形作家のNAGNAGNAG(ナグナグナグ)。不気味ながら愛らしい造詣のソフトビニール人形(ソフビ)でソフビ界を牽引してきたアーティストだ。昨年の急逝後は初の展覧会で、代表作の「暴力原人」など4作のソフビを展示・販売し、多くのファンが訪れた。第3弾は彫刻家の池島康輔にスポットを当てた。ヤスリを使わず刃物のみで仕上げる木彫りによる神話や死生観などの視点を含んだ作品は、木から彫り出された生き物と評される。「展覧会を目的に来店するお客様がすごく多い」とスタッフ。今後も画廊だけでなく様々なコミュニティーとの連携を進め、企画化していく考えだ。6月14日~7月10には第4弾としてグラフィティライターのWANTOに焦点を当てる。

長谷川サダオの作品展示
第1回展覧会「長谷川サダオ 70s」
NAGNAGNAGのソフビ作品
第2回展覧会「NAGNAGNAG」
池島康輔「死肉貪獣」
第3回展覧会「池島康輔」より「月喰」

また、古着はトーガの世界観を構成する重要な要素。コレクションブランドにはめずらしく、買い付けた古着のショップを07年から運営している。「TOGA XTC(トーガ エックスティーシー)」は原宿店に併設され、最新のモードとビンテージをコーディネートできる。青山店では、トーガ エックスティーシーで長らく親交のある日本最大級の古着卸「omnipeople S.A.(オムニピープルS.A.)」と「TAOS by omnipeople S.A.(タオス バイ オムニピープルS.A.)」の協力により、トーガと親和性の高いビンテージアイテムをリメイクした1点物による「コレクターズビンテージ」を展開する。オープニングに際してはウエスタンシャツやデニムジャケット、スカジャンなどをセレクトし、デザイナーがディレクションしてパッチワークや手刺繍などタオスのリメイク技術で仕上げた。
英国の陶芸作家ジュード・ジェルフスのセラミック作品も販売する。そのユニークなフォルムに表現されているのは人間の身体。生活の中で女性がとる仕草などを切り取り、身体の曲線を強調した造形に表現している。古田が作家のファンだったことから声をかけ、日本で初めて取り扱うことになった。

  • ビンテージアイテムをリメイクした「コレクターズビンテージ」
  • Jude Jelfs(ジュード・ジェルフス)のセラミック作品
  • ユニークなフォルムは日本でもファンが増えそう

店舗限定アイテムも揃う。1つは「Shoulder pouch PORTER print SP(ショルダーポーチ ポータープリント スペシャル)」。24年春夏で6度目のコラボとなったポーターと製作した型はそのままに、今季のシーズングラフィックをあしらった。ポーターの頑丈で光沢感があるナイロンボンディング生地は中綿を挟んで柔らかな感触に仕上げ、バッグの外周にはトーガを象徴するコンチョを整列させた。ハンドルにぐるぐると巻いたスカーフは表と裏が色違いになっていて、リバーシブルで楽しめる。もう1つは、24年春夏の新作「STONE LEATHER HAND BAG(ストーンレザーハンドバッグ)」の限定カラーバージョン。ハンドルにフェミニンな印象のリボン、ボディ全面に大きさや色味の異なる2種類のストーンを施した強いインパクトのバッグだ。ブラウンのレザーにブルーとブラックのストーンの組み合わせを青山店のみで販売する。

青山店限定カラーの「STONE LEATHER HAND BAG(ストーンレザーハンドバッグ)」
ポーターと協業したショルダーポーチにグラフィックをあしらった店舗限定アイテム

ウェアと並んで人気の高いシューズラインでは、「TOGA ARCHIVES(トーガ アーカイブス)」でキッズシューズを登場させた。これまでキッズ物は海外通販サイトの別注アイテムでは展開してきたが、青山店の出店に合わせ、国内向けとして初めて製作した。デビューから27年が経ち、子供や孫を持つ顧客も増えた中で、世代を超えてブランドを体験してもらいたいというデザイナーの思いを感じる。キッズシューズは定番の「METAL LOAFER(メタルローファー)」が1型、サンダルの「EYELET METAL SABOT(アイレットメタルサボ)」1型、「BUCKLE SANDAL(バックルサンダル)」1型、「SIDE GORE BOOTS(サイドゴアブーツ)」1型。トーガらしいブラックが大人っぽく、サンダル2型はパープルを加えた。アウトソールが大人物よりも滑らない素材選びと設計になっているのも特徴だ。サイズは18~21cmで、「入園・入学式のために揃えるお客様が多く、足のサイズが小さめの大人女性にも興味を持っていただけている」という。

サンダル2型はパープルも揃える
キッズ展開を始めたローファー、ブーツ、サンダル

ジェンダーを越えて混在するコレクション

メインフロアでは、ミラーに沿って展開されるラックにメインブランドでウィメンズの「TOGA(トーガ)」、セカンドラインの「TOGA PULLA(トーガ プルラ)」、メンズの「TOGA VIRILIS(トーガ ビリリース)」、ユニセックスの「TOGA TOO(トーガ トゥ)」が混在し、興味や好みのままに見ることができる。
2024年春夏コレクションは、対照的な要素をぶつけ合い共存させることがテーマ。レースやリボン、フリル、ピンクといったフェミニンなモチーフを用いながら、それらとは相反するフォルムやカラーなどを掛け合わせることで、女性が内面に抱える自己肯定と批判が不安定に共存する様を表現した。例えば、フェミニンでロマンティックなレースにハードなブルーとブラックの顔料を重ねるなど、強いコントラストが特徴となっている。青山店では界隈に住む婦人客の来店も多く、立体感のあるシャーリングのトップとサテン生地のロング丈スカートを組み合わせた「SHIRRING SATIN DRESS(シャーリングサテンドレス)」のブラックやホワイトのアイテムなど、ベーシックなタイプがオープン以降はよく動いているという。

オープン以降、好調な「SHIRRING SATIN DRESS(シャーリングサテンドレス)」
ベーシックなウェアを集積したコーナーも備える

トーガ トゥは、ウィメンズとメンズの両ラインで展開していたユニセックスアイテムにアクセサリーなどを統合し、今季から正式にスタートした。ウェアではシャツやデニム、スエットなどの定番が揃う。人気なのは「ZIP DENIM PANTS(ジップデニムパンツ)」。メイド・イン・ジャパンのデニムで、細身にデザインされ、サイドに付けたファスナーでシルエットを変えられる。青山店とオンラインストア限定で、同型のミニチュアアクセサリー「MINI DENIM PANTS KEYRING(ミニデニムパンツ キーリング)」も販売し好評だ。

「MINI DENIM PANTS KEYRING(ミニデニムパンツ キーリング)」
「ZIP DENIM PANTS(ジップデニムパンツ)」とキーリング

他ブランドとのコラボレーションが多いのもトーガの特徴だろう。コラボもまた垣根を取り払う行為の一環かもしれない。アーティストからストリートやスポーツ系ブランドまで規模を問わず、どれにもトーガの尖ったモードが通い、新たな表現を生んでいる。青山店のオープニングでラインナップしたのは、今年2月に発表した英国の同人誌「BOY’S OWN(ボーイズ・オウン)」とのカプセルコレクション「トーガ×ボーイズ・オウン」。同誌はサッカーのクラブチーム「チェルシー」のフーリガンだった4人が86年に創刊したFAN ZINE(ファンジン)。音楽やファッション、サッカーなどローカルなカルチャーシーンを取り上げ、英国のクラブカルチャーに大きな影響を与えてきた。レコードレーベルも設立し、その影響度はアンダーワールドやケミカルブラザースなどビッグネームが所属したことからも窺える。今回のコラボでは、ボーイズ・オウンの創刊号の表紙やファンに宛てた手紙などをプリントやタイダイで表現したTシャツやリバーシブルのスーベニアジャケットなど7型を揃えた。

BOY’S OWNとコラボしたタイダイプリントTシャツ

ブランドのプロモーションに関してもコラボを重視するようになった。21年春夏からはゲイカルチャー誌『BUTT』やメンズファッション誌『Fantastic Man』、ウィメンズファッション誌『The Gentlewoman』を手掛けているクリエイティブディレクターのJop van Bennekom(ヨップ・ヴァン・ベネコム)をアートディレクターに起用。ヨップが選任したフォトグラファーが撮影し、ヨップがルックを作り上げていくスタイルを採っている。垣根を取り払うことで「セッション」が生まれ、ブランドだけでは成し得ないクリエイションへと昇華される。
青山店もまた様々な垣根を越えて様々な人々が出会い、新しいトーガの世界観が紡がれていく場になっていくのではないだろうか。

写真/野﨑慧嗣、トーガ・アーカイブス提供
取材・文/久保雅裕

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久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディターウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。元杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

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