2025年春夏シーズンから日本でのブランディングを本格化
原宿・神宮前は言わずと知れたスニーカー・ランニングシューズの大激戦区。大手ブランドの旗艦店が軒を連ね、熱狂的なシューズファンを含め世界中から人が集まるエリアだ。「これだけシューズブランドを集積したエリアは日本で唯一。その中で生活者の選択肢になれることには大きな意味がある」と丸紅コンシューマーブランズの髙原秀人社長。自身は30年にわたりシューズ業界に携わり、「かつては特定のブランドが好きな人がそのブランドの商品だけを買っていた時代があったが、自分の好みやライフスタイルに合った商品を選んで買うようになってきた。ビッグネームのブランドだけではない選択肢が生活者の視野に入ってきた中で、パフォーマンスシューズを革新してきたサッカニーが勝ち残っていくチャンスはある」とみる。
丸紅コンシューマーブランズは、シューズの製造・輸入卸を展開してきた丸紅フットウェアの業容が広がったことから、2024年5月に社名変更して設立された。これまでシューズではアメリカのアウトドアブランド「MERRELL(メレル)」、レザーシューズブランド「ROCKPORT(ロックポート)」の販売を手掛け、オリジナルの子供靴ブランド「IFME(イフミー)」も展開。フランスのスポーツブランド「FILA(フィラ)」は24年に取り扱いを終了したが、その市場拡大もリードしてきた。髙原さんが社長に就任した24年にはブラジルのサステイナブルシューズブランド「CARIUMA(カリウマ)」の販売を始め、25年にはアメリカのハンズフリーシューズブランド「kizik(キジック)」、そしてサッカニーと新たなカテゴリーを加えた。
とりわけメレルは25年以上にわたって販売し、業績を拡大し続けている。日本市場にブランドを浸透させてきた実績にメレルのブランドホルダーでもあるウルヴァリン社が着目し、丸紅コンシューマーブランズも「ランニングに特化したカテゴリーが無く、ポートフォリオに加えていくことを視野に入れていた」ことから、今回の提携に至った。日本での販売はシューズの大手小売業エービーシー・マートが担ってきたが、25年春夏シーズンから丸紅コンシューマーブランズが輸入販売、店舗展開を進めていく。
パフォーマンスとライフスタイルからなるサッカニーの世界観
サッカニーは靴工場として1898年、ペンシルベニア州カッツタウンのサッカニークリークで創業。20世紀前半には質の高い靴を生産する工場として評価を高めた。その技術力を生かし、世界で初めてのランニングシューズ「THE 7446 SPIKE(ザ 7446 スパイク)」を開発した。当時のアメリカではランニングへの関心が高まっていたが、革製のスパイクシューズしか無く、ランナーがより速く走れるよう「人々の走りを変えるシューズ作り」に挑戦したのが始まりだった。素材や製造技術などを改良し続け、革新的な機能を備えたプロダクトを続々と発表。1960年代以降は工場の近くを流れる川の名にちなんで「サッカニー」ブランドとして、ランニングシューズの代名詞的存在へと成長を遂げた。


現在はエリートランナーからジョガーまでランナーの幅広いニーズに応える「Road(ロード)」、トレイルランニング向けの「Trail(トレイル)」、ブランドのデザインヘリテージを現代風に解釈したカジュアルライン「Originals(オリジナルス)」を軸に、多様なパフォーマンスシューズ、ライフスタイルシューズを展開している。多くのシューズのアッパーにデザインされた波形ラインに3つの円のロゴマークは、サッカニークリークにあった3つの岩の周りを流れる川を表現したもので、「優れたパフォーマンス」「良好な健康」「良好なコミュニティー」というブランドの価値観を表している。
このロゴマークを前面に配した日本初の直営店が「Saucony HARAJUKU FLAGSHIP(サッカニー原宿フラッグシップ)」だ。店舗は明治通り沿いに立地し、1階と地下1階の2フロアで構成する。総売り場面積は約170㎡。1階はパフォーマンスシューズを集積し、「ランナーが自然の中を走っているような気持ちを感じていただきたい」と、サッカニークリークの自然をイメージした天然木の床や什器、川原の石のような質感を備えた壁面を融合させ、洗練された明るい空間に仕上げた。地下1階はライフスタイルシューズのフロア。川の流れのようにゆったりとアールを描く壁面にアーカイブを含むサッカニーオリジナルスのコレクションが陳列され、「美術館で時代を超越したアート作品を観るようにプロダクトと出会える」空間を演出している。柔らかなサークルを象った照明はロゴマークにある3つの岩を表現したもの。1階と地下1階は空間の在り方を変えながら、共にクリーンなムードで統一し、2フロアで「ワン・サッカニー」の世界観を体現した。
「プレミアムランニングライフスタイルブランド」の構築へ
原宿店のオープンは2月27日。同日に公式オンラインストアを立ち上げ、東京マラソンの開催に合わせて実施され、世界のトップランナーも集まる合同展「東京マラソンEXPO 2025」にも出展し、インパクトのあるスタートを切った。
原宿店とEXPOで先行発売し、大好評を得たのが「ENDORPHIN ELITE 2(エンドルフィンエリート2)」だ。エンドルフィンシリーズは20年の発売以来、進化を続けている。エリート2はサッカニーのレーシングシューズで最高峰とされるモデルで、過去に比類の無いクッション性と、足元の移行を推進する中足部のカーボンファイバープレートとの絶妙なバランスが特徴。記録を狙うシリアスランナーやタイムを意識して走るエリートランナーたちから高い評価を得た。4万円を超えるモデルながら、原宿店にも「目掛けて来店するお客様が多い」という。「KINVARA15(キンバラ15)」の東京インスパイアモデルも注目。軽量で、接地感と屈曲性に優れたソールは、スピードやナチュラルな履き心地を求めるランナーに最適。日本の伝統的な染色技法「絞り」によって東京のイメージを表現したアッパーが斬新でキャッチー。
「エンドルフィンエリート2」(ホワイト/ピール)
「エンドルフィンエリート2」(フォグ/シンダー)
「キンバラ15」の東京マラソン2025限定モデル
オリジナルスでは、アーカイブの復刻モデルをぜひチェックしたい。「PROGRID OMNI 9(プログリッド オムニ 9)」は、オムニフランチャイズの9代目モデルとして10年に発売された。優れたクッショニングと安定性を生み出すサッカニー独自のグリッドテクノロジーを搭載し、オープンポアメッシュアッパーは通気性を確保するだけでなく、光沢のあるオーバーレイと融合することで先進的なスタイルを形作っている。99年に発売された「MATRIX(マトリックス)」も復刻モデルが登場。「サッカニーはライフスタイルブランドなのか、それともパフォーマンスブランドなのか」という問いに答えるためにデザインされたモデルで、当時の最新素材と先進のグリッドテクノロジーを備えつつ、クラシックなブランドロゴとすっきりとしたライン、イエローとブラックの組み合わせを特徴とする一足に仕上げた。日本では原宿店と公式オンラインストアのほか、アトモス、GR8、ミタスニーカーズで限定販売する。
2010年発売のモデル「プログリッドオムニ9」を復刻
1999年発売のモデル「マトリックス」を復刻
「マトリックス」のかかと部には漢字
原宿店はオープン初日から予算を達成し、その後も「ECを含め想像以上の手応え。提案のクオリティーを高めていけば確実にファンを増やすことができる。実際に売ることで期待が自信に変わってきた」と髙原社長。3月末の時点で男性客が65%、訪日・在日外国人客が6~7割を占める。さらに日本におけるブランド認知を高めていくために、コラボレーションによる話題の創出やシューズを体験するイベントの開催などにも取り組んでいく考えだ。
丸紅コンシューマーブランズは、グローバルと同様に日本でもサッカニーをランニングシューズブランドとして根づかせていくことが大きな目標となる。販路の拡大はもとより、「アスリートのサポートやランニングイベントへの協賛、ランニングコミュティーの支援などスポーツ分野におけるマーケティング施策をこれまで以上に強化していく」という。とりわけランニングコミュニティーとの接点を増やし、つながりを強くしていくことを課題に挙げる。その起点として原宿店を位置づけ、SNSやECと連携した情報発信にも力を入れる。様々な施策により「サッカニーを次のステージへ上げることが私たちの役割」とし、将来的には「プレミアムランニングライフスタイルブランド」の構築を目指す。
写真/遠藤純、丸紅コンシューマーブランズ提供
取材・文/久保雅裕
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久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター。ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。元杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。