自由に「旅」ができる、芯の通った女性のスタイルとは
カレンソロジーを運営するエレメントルールは2017年、大人の女性に向けた高感度・高品質で洗練されたファッションを提案することをミッションに、アダストリアグループを母体として設立された。
ファッションではカレンソロジーのほか、「カオス」「バビロン」「バンヤードストーム」を展開している。
その中で、30~40代の女性をコアターゲットに、知的でエレガントな女性のための「旅」をイメージしたワードローブとスタイルを提案しているのがカレンソロジーだ。
「旅先での体験を通じて成長できる女性を思い描いて服作りをしています」とディレクターの坂田乃吏子さん。
ただ、そうした旅をするには、様々なところに自由に行ける力が備わっていることが前提となる。
「自由は責任が伴うもの。芯がちゃんとしているからこそ、自由に旅をすることができます。そんな女性像を描きながら、その人が旅するシーン、そのシーンの中でどんな服を着たいだろうか、旅から帰ってきたら何をしたいだろうか、どんな影響を受けて帰ってくるのだろうか。旅という一語からいろんな想像を巡らせます」。
坂田乃吏子(さかた・のりこ)カレンソロジー ディレクター
ベイクルーズの「イエナ」「ドゥージィエムクラス」でバイヤー、ショップマネージャーを経験。その後、「マッキントッシュフィロソフィー」(三陽商会)のディレクションを担当。2018年、「カレンソロジー」のディレクターに就任。
テーマを決めてからイメージを広げるというよりは、まずは自分が着たいもの、作りたいものを思い描くという。
2022年は「THE HOTEL」が年間テーマ。
その中でも秋冬では「ユニフォーム」「パール」「ジェンダーニュートラル」「レイヤード」「ヘアリー&シャギー」「バギーシルエット」「イレギュラー」をキーワードとした。
物語を展開するように服のイメージを広げる
ホテルをテーマにしたのは、コロナ禍で旅そのものが難しくなったことがある。
制約、我慢が続く中で「みんな旅に出たいし、気持ちの根っこでは飛び回っている。だったら旅先のホテルを作ってしまおう」と考えた。
様々な国から、それぞれのキャラクターを持った女性たちがファッションを楽しむために集まった架空のホテル。
職業もエディター、ブロガー、モデルなど多様だ。
そんな個性が出会い、どんな出来事が起こり、そのシーンで彼女たちはどんな服を着ているのか。
物語を展開するように服をイメージし、キーワードを溶け込ませた。
- 2022年のテーマ「The HOTEL」のキービジュアル
- 「The HOTEL」ルック
メイドの制服をモチーフにした大きめのクラシカルな白い襟が付いたニットプルオーバー。
カーブショルダーとスリーブ、バックにあしらったメタルボタンなどディテールでハッとさせる。
「ホテルで働く人たちのスタイリングをおしゃれにしたらどうなるんだろう」――興味が細部へのこだわりにつながった。
他にもベルボーイの制服から着想した金ボタンのニットカーディガンなどもあり、イメージソースを探すのも楽しい。
ジェンダーニュートラルを意識したアイテムには、「いつもよりパワフルに強弱を入れている」と坂田さん。
象徴的なのはピンストライプジャケットだ。
オリジナルのウール生地を使い、ノーカラーで、ボタンをなくし、潔いほどシンプルに仕上げた。
ニットワンピースにも肩パッドを入れるなど、素材とディテールのメリハリで中性的なスタイルを醸し出す。
丈が極端に長いロングスリムシャツや前後の長さを極端にしたニットなど、いつもよりイレギュラーを強く演出することでマスキュリンに仕上げたアイテムも目を引く。
またトレンドのベストとの重ね着にベルト使いのレイヤードスタイル、さらに「トップスのバリエーションが広がってきた」ことから、新しい気分を取り入れるコーディネートアイテムとして大胆なワイドシルエットのバギーを充実させているのも今季の特徴だ。
- ジェンダーニュートラルを体現するピンストライプジャケット。ブルーのロングスリムシャツと合わせて。ジャンヌレの椅子はカレンソロジーのコンセプトを象徴している
- 定番人気のニットワンピース。たっぷりのギャザー、後ろ下がりのデザインが特徴
- すっきりとした腰回りと対照的な、大胆なワイドシルエット。デニムは旅に必須のアイテムとしてデビュー時から力を入れている
機能性とサステイナビリティーへのアプローチ
カレンソロジーとして展開するアイテムがある一方、ブランド内に別ラインを設けている。
「&RC(アンド アールシー)」は、ミリタリーやワークのビンテージテイストとユニセックスな感覚を備えたカジュアルなアイテムを中心とする。
例えばデニムやカーゴパンツは、色落ちなどの経年変化から愛着が生まれ、着る人に馴染み、やがてそのアイテム自体が自分のキャラクターになっていく。
そんな意味を込めた「& Retaining Character」の略だ。
このアンド アールシーで今季、推しているのはキルティングのアウターシリーズ。
「軽くて暖かい薄手のダウンはあるけれど、もっとおしゃれに楽しめるダウンが欲しいとずっと思っていたんです。それで、自分が持っているビンテージのコートにミリタリーのキルティングライナーが付いていたなあ、こんな感じのものを作りたいなあと」
ちょうどその頃、出会ったのがカポック繊維だった。
東南アジアに原生する樹木の実から採った綿を原料とするため、森林を伐採することなく、栽培のために農薬や化学肥料も使わない。
繊維は綿の約8分の1と軽く、保温性にも優れる。
このカポック繊維とリサイクルポリエステルを混ぜてシート状にした素材を使い、カジュアルながら大人っぽいロングベストを作った。
表地は異素材を微配色で組み合わせ、ビンテージライクなニュアンスに。ウエスト部分にドロスト仕様を加えることで、シャープでモダンなシルエットと着こなしを実現した。
環境に優しく、ダウン並みの機能を備え、大人の女性のファッションマインドに寄り添った一品だ。
オーバーサイズでハーフ丈のコートや、「コートを脱いでも主役になれる」ほどよいコンパクト感のベストも魅力。
テックフーディーコートも、今季のアンド アールシーの推し。
「コロナ禍で自転車通勤をするようになったんですけど、突然、豪雨になったりするじゃないですか。撥水だけでは物足りない、防水もできて、晴れたらたたんでしまえるようなおしゃれなアウターが欲しくなったんですね。喜んでくれるお客様がたくさんいると思った」と坂田さん。
ビンテージのアーミーコートからインスピレーションを得たシルエットはシンプルながら、ポケットや袖口などディテールのサイズ、配置、デザインにこだわった。
防水・撥水・透湿機能を備えた素材を使い、裏から縫い目に止水テープを張ることで雨の侵入を抑える。
蒸れにくいため長期間の着用が可能で、自宅で洗えるのもうれしい。
「C. S.G.(シーエスジー)」は、ハイクオリティーで、長く大切に愛され、着る人にとって定番となっていくアイテムを提案するライン。
カレンソロジーらしさを象徴するギャザーやドレープをたっぷり入れたドレスやスカート、シャツなど、シンプルながらクラス感があり、デイリーに着こなせるアイテムが揃う。
「旅先でもタウンでも着用シーンを幅広くイメージできるよう、デザインはシンプル。ドレスであれば、素足にビーチサンダルでもいいし、ヒールのあるサンダルと合わせてアクセサリーを着ければディナーにも行けるような。1枚でいろいろ楽しめてワクワクする、そんな服を作っていきたいという思いがあります」。
定評のあるコットンフルギャザーブラウスは、コットンドビー生地使いで、身頃だけでなく袖にもギャザーをたっぷりと施した。
袖口のリボンで着方のアレンジを楽しめる。
「可愛い」だけで終わらせない
作り込んだアイテムを提案するショップは現在、5店舗。
「ナチュラルを基調にしているんですけど、ほっこりし過ぎないよう意識しています」と言う。
壁面は白、柱や什器は真鋳色とナチュラルだが、床は砂と砂利を混ぜたようなザラッとした質感を醸し、店舗によっては黒を挿してシャープな空気感を持たせている。
共通するのは、スイスの建築家ピエール・ジャンヌレの椅子が置かれていること。
「ナチュラルな優しさがありながら、フォルムにはしっかりとした強さがある。カレンソロジーのコンセプトを象徴していて、私たちの提案への共感を良い意味でリードしてくれる存在だと感じたんです」。
店舗が増えていく中で、ラグジュアリーブランドのセレクトアイテムも含めて本物の提案を続けていく表明としても、「レプリカではなく本物を置いている」。
また店舗スタッフは、ブランドが提供する価値を直接お客様に伝える存在だ。
カレンソロジーの服の背景にある女性像を感じ取ってもらえるよう、「甘いテイストの服も可愛く着る女の子ではなく、カッコ良く着られる女性になってほしい」というメッセージを展示会のたびに伝えているという。
「ルールに縛られたらつまらないし、自由でありたいんですけど、大人の女性ですから品があってほしい。はだけ方とか抜き方とか、そういうところに品が表れると思うんです。その意識が人としての芯の強さ、スタイルとしてはカッコ良さに通じていけばいいなと思っています」。
コロナ禍を越え、さらにアップデートへ
品揃えはオリジナルが7割、セレクトの服とバッグや靴、ジュエリーなどの小物が3割でスタートしたが、このコロナ禍でオリジナルは8割ほどまで高まったという。
「買い付けに行けなかったという現実的な事情もありましたが、オリジナル商品を見直す良い機会になった」と坂田さん。
顧客の要望やブランドの方向性を思案した結果、生まれたのがカレンソロジーの中ではワンランク上のラインとなるシーエスジーだった。
年間テーマにもコロナ禍は影響を与えた。
2021年は「ルーティーン」。
行動制限が続く中で女性たちの日常はどうなっているのか。
日常への関心からルーティーンというワードにたどり着いた。
春夏では同じマンションに暮らす女性たちを登場人物とし、舞台はエレベーターの中に固定。
フロアを移動する空間の中で彼女たちはどんなルーティーンをとるのか。
スマホで自撮りしている人、音楽を聴いている人、犬と散歩に出掛けようとしている人。
それぞれのシーンで着ている服を作り、プロモーションムービーで体現した。
ルーティーンという日常を通じて表現されたのは、女性たちが「どう毎日をアップデートしているのか」。
次の自分につながっていく視点が共感を呼んだ。
続く秋冬の舞台は飛行機の中。
「もうそろそろ旅立ちたい」という気持ちを持った女性たちが、ついに飛行機で飛び立っていくときのルーティーンを捉えた。
エレベーターから飛行機へ、そして2022年にはホテルに行き着いた。
テーマもまた旅をし、ブランドのプロダクトやプロモーションを時代観に沿ってアップデートさせているのかもしれない。
来年でブランドを設立して5年。
この間の半分以上がコロナ下となったが、「ブランドを続けていくことの責任、スタッフだけでなく私自身も発信していくことの大切さを改めて実感した」と話す。
「一緒に乗り越える形ができてきた」とも。
ショップは1店1店、丁寧に作ってきたが、来春には出店も予定している。
2023年はどんなテーマが発信されるのか注目したい。
写真/遠藤純、エレメントルール提供
取材・文/久保雅裕
久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター
ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。