個店が主導する「シビレイベント」

「フリークス ストアは地域のお客様とのコミュニケーションがもともと活発で、よりお客様の思いに添った商品やイベントを提供したいという熱量が各店に文化のようにあるんです」と清宮雄樹PR/BRANDINGディレクター。

セントラルバイイングとオリジナルによるMDが基本ではあるが、ファッションだけでなく、アートや音楽、フードなど様々なイベントがショップの裁量で企画され、各店の個性を醸成してきた。

企画に通底する「シビレるほど魅力的で熱狂的」な場をお客様と共に生み出していこうという思いから、いつしか"シビレイベント"と呼ばれるようになった。

「企画によっては部門をまたぐものや、異業種との協業が必要になるものもありますが、一つひとつクリアし、今では実現までのスピードがすごく速くなっています」。

同時並行で様々なイベントが各地で動き、昨年は年間100本以上が実施されている。

清宮雄樹(きよみや・ゆうき)デイトナ・インターナショナル 執行役員 ブランディング本部 部長 PR/BRANDINGディレクター

1978年、東京生まれ。国内有力セレクトショップのPR/MARKETINGディレクター、海外事業部ゼネラルマネージャーを経て、2018年デイトナ・インターナショナル入社。PR/MARKETINGディレクターを経て現職。

長野県庁と協業し、地域課題の解決へ

長野県での取り組みは象徴的だ。

フリークス ストア長野は長野市に出店して20年余り、3世代にわたる顧客もいる。

地域に根づいた店になっているからこそ、来店客とのコミュニケーションの中で思いがけないことも起こる。

最近では信州で採れた野菜の地産地消を目指す「シーソーマーケット」を運営する若者たちと出会い、店前で野菜の販売イベントを不定期に開催している。

長野店前で開催される「シーソーマーケット」

また、長野県ではハンターの減少や耕作放棄地の増加に伴い、獣害が深刻な問題になっている。

特に多いのが鹿による被害で、年間被害額は約4億4000万円に上る。

適正な個体数にするため捕獲が行われているが、ジビエとして有効活用できていなかった。

そうした現状を顧客が教えてくれる。

「その顧客様が当時、県庁ジビエ振興室の担当者だったのです」と清宮さん。

これをきっかけに、ジビエをどう生かしていくか、県庁と長野店にブランディング本部も加わって検討が始まった。

互いの価値観を擦り合わせながら試行錯誤を重ね、解として見出したのが缶詰だった。

鹿肉は新鮮なうちしか食べられないという常識的な見方を、缶詰という保存食にすることで転換したのだ。

県内のレストランとの協業でジビエカレーの缶詰「ジビエフリーク」を開発。

デザインもデイトナ・インターナショナルが培ってきたクリエイティブによってお洒落に仕上げた。

この発売に合わせ、「ジビエフリーク」というイベントを企画し、長野店で開催。

スタッフがお気に入りの近隣の飲食店18店と連携して、期間中は各店それぞれのジビエ料理を提供してもらい、食べ歩きできる環境も整えた。

店がハブとなって地域を巻き込み、地域課題への認知を広げ、楽しみながら解決につなげていく。

ファッションの提案で培った知見とフリーク(情熱的・熱狂的)な思いが掛け合わされ、世代を超えて実感できる場のエネルギーを生んだ。

  • 鹿肉を保存食に変えた「ジビエフリーク」
  • 地域を巻き込んで開催された「ジビエフリーク」のイベント

次なる課題は耕作放棄地の増加だった。

2021年現在で長野県は国内で5番目に耕作放棄地が多く、そこに野生動物が下りてきて隣の畑の作物を荒らしてしまう。

さらにごみの不法投棄が起こりかねないなど様々な問題がある。

これについては今春、シーソーマーケットを運営する若者や学生ボランティアがNPO法人シナノソイルを設立し、耕作放棄地を開墾してポップコーンの実を育てる取り組みを始めた。

ポップコーンは土壌に負荷をかけず、生育も速いからだ。

「今年10月には収穫体験を行う予定」と言う。

デイトナ・インターナショナルは、ポップコーンのパッケージを作り、プロモーション・販売面で支援する。

耕作休耕地を開墾し、ポップコーンの実を育てている

課題解決の糸口が見えてきた今年6月、フリークス ストアは意外な発表を行った。

再生エネルギーの「みんな電力」との協業で「フリークス電気」を立ち上げたのだ。

「セレクトショップが電気を販売?」と驚く人も多かったが、これは同社のSDGsの一環で、二酸化炭素を排出しない再生可能エネルギーの選択肢を増やすことが目的。

以前から渋谷店でみんな電力を使用していて、毎月の電気料金の一部が東日本大震災の被災地にある発電所の支援金になるプランを利用していた。

これを地域課題の解決へ向けた活動にも生かそうと、みんな電力の新たな家庭向け電気料金プランとしてフリークス電気を作った。

毎月の電気料金の一部が応援金としてシナノソイルに届き、シナノソイルはそれを耕作放棄地の活用に生かす。

日本では国産のポップコーンが希少なため、栽培・生産が軌道に乗ればポップコーンだけでなく、粉末にすることで用途も広がり、県の新たな産業に育つ可能性を秘めている。

将来を見据えたサステイナブルな取り組みを支える仕組みと言える。

コミュニケーションメディア「FREAK」を起点に

長野での経験から生まれたのがコミュニケーションメディア「FREAK(フリーク)」だ。

長野特集のフリーペーパーとしてスタートしたが、これをきっかけにフリークス ストアが手掛けるローカルの活動を体系化し、発信するメディアへとしての役割が備わっていった。

若い世代にはなかなか伝わりづらい社会課題も、クリエイティブのフィルターを通して分かりやすいメッセージに変換することで、興味・共感からの参画を促す。

現在は紙媒体とウェブで展開しているが、伝えたい内容やコンテンツに応じてトークショーや音楽ライブなどのイベント、商品開発など変幻自在。

「地域にまつわる物事に対するスタッフの熱狂性や情熱を様々な形態で伝えるメディア」と位置づけている。

  • コミュニケーションメディア「フリーク」でローカルの情報をクリエイティブに発信

宮城県では「フリーク」を起点として、昨年はホヤの缶詰をプロデュースした。

三陸特産の珍味だが、東日本大震災の原発事故に伴う風評被害で輸出量・消費量が激減し、毎年約1000トン単位で捨てられていた。

そうした状況から仙台店のスタッフが声を上げ、缶詰の開発が始まった。

石巻の水産加工品メーカーと協業したコチュジャン仕立てのホヤを「Hey,Ho YaH!」と名づけ、クリエイティブスタジオ「YAR」による缶詰らしくないお洒落なビジュアルの缶にパッケージ。

昨年10月に仙台店でポップアップ展開し、限定グッズとともに販売。

料理家や仙台のレストランとホヤ缶を使った限定メニューやお弁当を開発した。

仙台店でのポップアップの売り上げの一部を三陸の水産業の販路開拓とブランディング支援のために寄付している。

今年3月には、博多店のオープンに際して福岡のローカルラジオ「CROSS FM」とコラボ。

「博多店のスタッフに話を聞いたり、地域をリサーチすると、いろんな分野で面白いことをやっている人たちがたくさんいたんです」と清宮さん。

「本気の熱量は人の心を動かす」をテーマに、ローカルヒーローやローカルカルチャーの魅力をライブ配信し、地元から地元を盛り上げた。

CROSS FMとのイベントの「FREAK」
仙台店スタッフの声から開発に至ったホヤの缶詰「Hey,Ho YaH!」

「オールローカル=オールコミュニティー」の視点

「都市というセントラルに対してローカルと言われますが、コミュニティーとして捉えると、どこもローカルなんです。コミュニティーごとに独自のカルチャーがあり、それを生み出している人がヒーローのようにいたりする。その魅力や価値を伝わりやすいように表現するとか、新しい価値にして届けるとか、きちんと咀嚼して自分たちの表現で発信することで"イケてるじゃん""行こうぜ"と気持ちが高揚する。そういうことがやりたいんですね」と清宮さん。

もともとデイトナ・インターナショナルが茨城県古河市という関東ローカルで興っていることも、ローカルを大事にする姿勢に引き継がれているのかもしれない。

本社機能を東京に移した現在も古河のショップを本店と位置づけていることは同社らしい。

その本店を「ヒトやモノが行き交い集うソーシャルストア」をコンセプトに「“The Camp”FREAK'S STORE(ザ キャンプ フリークス ストア/以下、ザ キャンプ)」へと転換したのは2020年のこと。

全国にファンを持つ和歌山発のアウトドアショップ「オレンジ」の関東初出店でも話題を呼んだ。

「キャンプとは"拠点"の意味で、そこに多様なコミュニティーを創出していくという思いを込めた」と言う。

ザ キャンプになる以前から、大きな駐車場を備えた2層の路面店という立地を生かし、地元で話題のブランドや飲食店などのポップアップを展開したり、ローカルフェスのライブを開催するなどしてきた。

積み上げてきた地域とのつながりをベースに、フリークス ストアのMDをアウトドアや家具などライフスタイル全般で充実させ、単にモノの売り買いだけではない、そこで過ごす時間を豊かにするコミュニティーへと進化させた。

フリークス ストアで最大の売り場を持つ「ザ キャンプ フリークス ストア」

地域で30年以上にわたりセレクトショップを展開し、ザ キャンプに転換したことで、地域内外から世代を超えて客が訪れるようになった。

その取り組みに着目したのが行政だった。

「古河に様々な人が出会える場を作りたい」――話し合いを重ね、古河市と包括連携協定を結ぶに至った。

都市から地方への人流の創出や地域住民が働く新たな場の提供などによる地方分散型社会の実現という課題に対して、ザ キャンプという場のコンテンツとしてどう体現していくか。

クリエイティブが走り始めた。

「古河は東京に近いこともあり、通り越してしまいがちな立地。だからこそ、この地域で才能と才能が出会い、新しいビジネスやソリューションが生まれてほしいと思ったんですね。ビジネスや趣味の拠点となり、人と人との接点を生むコミュニティーを目指しました」

コンセプトは「夢中になれる人生をシェアしよう」。

ザ キャンプの第2弾の進化として2階を全面改装し、今年4月に誕生したのがコミュニティー型コワーキングスペース「&FREAK.(アンドフリーク)」だ。

デスクやソファ、オンライン会議用ボックスもある「コワーキング」、1~10人まで就労可能で仕事や創作の場として月額利用できる「オフィス&アトリエ」、セミナーや展示会、レッスンなどが開ける「スタジオ&イベントスペース」、作品を展示・販売できる「エキシビションパーク」、栃木県発の「カフェフジヌマ」によるスペシャリティーコーヒーと新古本の「カフェ&ブック」の5エリアからなる。

  • 今年4月に開業した「アンドフリーク」。クリエイティブな思考を生み出すコミュニティーとして期待される。写真はコワーキングスペース
  • ワーキングアトリエ
  • スタジオ&イベントスペース
  • エキシビションパーク
  • カフェ&ブック

オープン以来、地元企業の社員がテレワークや商談に利用したり、ブランドやクリエイターが作品の制作や発表の場、展示会場として使ったり、ヨガや英会話などのレッスンなど様々な用途で利用者を増やしている。

一般的なコワーキングスペースはブース然とした隔絶感のある空間が多いが、アンドフリークは5エリアに分かれていても「緩やかに混じり合える」ことを意識した設計になっているのが特徴だ。

実際、「エキシビションスペースに出展しているクリエイターとワーキングスペースを使っているビジネスマンが出会い、新たなビジネスの話が進んだりもしている」と言う。

カップルで来店し、一人が仕事をしている間にもう一人は展示品を見たり、1階で買い物をしたりということも普通に起こっているとか。

「自由な時間の使い方ができる場を提供することが、これからのセレクトショップの役割かもしれません」と清宮さんは話す。

アンドフリークの誕生に合わせ、ザ キャンプの1階売り場も改装。両フロアで自由に時間を使うことが来店客の楽しみになっている

ソリューションを今の言葉とビジュアルに変換

国や地方自治体・行政が地域創生の旗を振って久しく、大きなプロジェクトも推進されてきた。

その取り組みも大事だが、もっと草の根、地べたで地域の文化や課題を掘り下げ、今、これからの暮らしやビジネスの豊かさに通じる価値を生んでいくことの意味は大きい。

「課題に対するソリューションが見えていても、地域の人たちにうまくリーチできていないケースがまだまだ多いと感じます。そこをつなぐ言葉やビジュアルへの変換がフリークス ストアの強み。様々な取り組みをする中で、これまで以上に普段は異分野にいる方々から興味を持っていただけるようになってきています。一つの会社とか一つの業界とかで必ずしもビジネスが完結する時代でもないので、次のステップへの可能性をすごく感じています」と清宮さんは話す。

今後のフリークな展開が注目される。

写真/デイトナ・インターナショナル提供
取材・文/久保雅裕

久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター

ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

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