ビームスの多面性を発信し、体感できる新たな複合店
2024年11月、ビームスは新たなビジョン「Happy Life Solution Communities(ハッピーライフ ソリューション コミュニティーズ)」を発表した。26年の創業50年に向けたもので、「明るく楽しい社会現象を起こし、全ての人が幸せになれるコミュニティーを目指す」という企業姿勢の表明だ。そのために、ビームスとしては初めて全スタッフの行動指針となる「Values(バリューズ)」を設定。一人ひとりのスタッフがハッピーに生きること、自分自身の嗅覚でキャッチしたハッピーを提案できること、自分以外の人の価値観や感じ方をリスペクトして無二のハッピーを生んでいくこと、アイデアで常識をひっくり返すようなワクワクドキドキするハッピーを追求することで、ビームスは自らを超えていく。人だからこそ実感できるハッピーをとことん追求する姿勢が示されている。
ビームスはセレクトショップとしてスタートし、1990年代までは目利きで選んだモノの魅力を伝え、00年代にはモノを使って楽しむコト=ライフスタイルへと提案の幅を広げ、10年代からは「人」を基軸としてコトやモノを生み出すビジネスを推進してきた。最近では日本の物作りやローカルの魅力を発信する「ビームス ジャパン」や、B to Bのビジネスをプロデュースする「ビームス クリエイティブ」など事業は広がりを見せている。「人施策」による多様なコンテンツの開発力や発信力を培ってきた先に見据えるのが、「コミュニティー」を軸とした新ビジョン。まさに「Happy Life Solution Communities 」を体現する場として24年11月30日、横浜モアーズにオープンさせたのが「ビームス ライフ 横浜」だ。
「ビームスには多くのレーベルがあり、原宿に集積する各旗艦店が様々なプロダクトや情報を発信しています。また、近年は行政や法人との協業や、アートやカルチャーなどのコンテンツを開発してきました。一方、ビームスの屋号で展開しているメンズ・ウィメンズの複合店は、売り場の規模も大きく、売り上げの柱でもあります。ただ、あくまで服がメインで、レーベルの多様性やB to Bの取り組みは紹介していません。そこでビームスの多面性を発信し、体感できる新たな複合店を作りたいと考えた」と、カスタマーエンゲージメント本部の渡部啓司本部長。組織再編で販売部門の責任者になった21年に、この考えはあったという。横浜駅西口の横浜モアーズの16年振りの大改装に伴い、1階と2階への出店が決まった1年半前から具現化へ向けて動いた。横浜エリアにはすでに複総合店があるため、「ファッション」「アート」「カルチャー」「エンターテインメント」の四つの切り口を設け、「ファッションは全体の5~6割に抑え、服ではないコンテンツで新しい価値を付加」した。
「食」を入り口に生まれる「賑わい」のコミュニティー
総面積はビームス最大規模の990㎡。横浜モアーズへの来店客を迎える顔となる1階が、そのまま「ビームス ライフ 横浜」のエントランスとなっている。この象徴的な立地に配置したのは、ビームスが22年から展開する、スタッフ個人の目利きでキュレーションを行う「B印MARKET(B印マーケット)」による食物販とイートインのスペース。ビームス業態への食物販の導入は初めてとなる。「1階は入りやすさと賑わいをテーマに売り場を構成し、2階はゆったりと時間を過ごすことを重視した」と渡部さん。もともと1階には「ビームス ハウス メン 横浜」が出店していたが、高価格帯のメンズドレスを中心とした品揃えで顧客の構成比が高かったことから、新たなレーベル構成で2階に移し、「ビームスの新たな側面を感じていただくため、1階はあえて『食』でお客様を迎え入れることにした」。
B印マーケットは、「ビームスの太鼓判。Selected by BEAMS」をコンセプトに、ライフスタイルにこだわりを持つスタッフがビームスの取扱商品や新たな仕入れからセレクトしたモノや体験を紹介するコンテンツ。ファッションやアウトドア、インテリアなど領域を超えたコンテンツが並ぶ中から、ビームス ライフでは食に絞り込み、レトルト食品や瓶詰め、調味料、スイーツ、酒など日本各地からスタッフの「太鼓判」を幅広く集積した。通りに面したスペースにはナチュラルワインやクラフトビールなどのアルコール類やオリジナルのおつまみ、横浜中華街の上海料理店「状元樓に別注した肉まんなどを楽しめる「コミュニティースペース」も設けた。通りから直接入れるエントランスも備える。
- 「B印マーケット」。黒いボックスのようなスペースはポップアップやイベントに活用していく
- スタッフの「太鼓判」が並ぶ
- 飲食と会話が楽しめるコミュニティースペース
B印マーケットから奥へ進むと、ポップでアートなムードへと変わっていく。アート&カルチャー領域を手掛けるプロジェクト「BEAMS CULTUART(ビームス カルチャート)」、Tシャツ専門レーベル「BEAMS T(ビームス T)」、日本の物作りから新たなコンテンツをキュレーションする「BEAMS JAPAN(ビームス ジャパン)」、デザインとクラフトの橋渡しをテーマとするインテリア・生活雑貨レーベル「fennica(フェニカ)」、ビームスの原点となる「BASIC&EXITING」なプロダクトを世界中からセレクトする「bPr BEAMS(ビーピーアール ビームス)」、サーフィンとスケートを切り口に服やスタイルを発信する「SSZ(エスエスズィー)」が連なり、歩を進めていたらいつしか現れている印象だ。これまでは複合店などで限定的に販売されていたが、ボリュームアップしているレーベルもあり、ここだけの魅力となっている。
- 食物販エリアから「ビームス カルチャート」へ
- オープニングではフランス人アーティストJean-Philippe Delhomme(ジャン-フィリップ・デローム)の作品をモチーフにしたTシャツなどを揃えた
- 「ビームス ジャパン」のコーナー
- 「ビームス ジャパン」では地元「横浜」の文字入りのグッズも販売
- 「フェニカ」の売り場
- 「bPr ビームス」は韓国発のライフスタイルショップ「SAMUEL SMALLS(サミュエルスモールズ)」とのコラボアイテムなどが揃う
- サーフィン&スケートカルチャーを発信する「エスエスズィー」
1階では「BEAMS(ビームス)」のメンズカジュアルも展開する。とりわけ充実させているのがアウトドアウェアだ。「アウトドアはビームスの強み。専属バイヤーがMDも内装も担当し、しっかりと作り込んだ」という。オープンに合わせて「ARC'TERYX(アークテリクス)」や「orSlow(オアスロウ)」などとの過去の別注アイテムも店舗限定で再販し、好評だった。
古着、古本、ビンテージ時計、メンズドレスのオーダーや服のお直しも
2階へ上がってまず視野に入るのは、常設では初めて導入した古着と古本からなる「ビンテージクローズ&ブックス」のスペース。古着は渋谷区富ヶ谷のビンテージショップ「Mr. Clean(ミスタークリーン)」と協業し、ビームスバイヤーの視点でセレクトした。メンズ中心の品揃えだが、新品とのコーディネートを男女のマネキンで提案し、オーバーサイズのトレンドもある中でジェンダーを問わず購入客がある。古本は東京・神保町の古書店「magnif(マグニフ)」が、モード、トラッド、ストリートなどファッションにまつわる和洋書籍・雑誌などをセレクト。「書棚に目を留め、『懐かしい』と足を留められるお客様や、『古本でファッションの勉強ができるのね』とページをめくるお客様が多い」コーナーとなっている。ビームススタッフの私物の販売も行う。
隣接するのは「BEAMS PLUS(ビームス プラス)」。オーセンティックな大人のメンズカジュアルは、ビンテージとはまた違った味わいがあり、次に展開するドレスへのプロローグのようにも感じられる。
- 古着・古本をセレクトしたビンテージのスペース
- 「マグニフ」による古本のセレクト
- 古着は「ミスタークリーン」の品揃えからビームススタッフがセレクト
- スタッフの私物も初めて販売
- 「ビームス プラス」のメンズカジュアル
2階フロアのもう半分には、グッと落ち着いた大人なムードの空間が広がる。「BEAMS F(ビームス エフ)」、「Brilla per il gusto(ブリッラ ペル イル グスト)」、「International Gallery BEAMS(インターナショナルギャラリー ビームス)」によるメンズドレスの複合エリアだ。オーダーサロンも併設し、一人ひとりの顧客の好みや体型に合わせた誂えにも対応。服の修理にパーソナル対応する「ビームス工房」も備え、専門スタッフが常駐し、ビームスのパンツ、ジャケットおお直しにも応じる。
メンズドレスエリアには、銀座のビンテージドレスウォッチ&アクセサリー専門店「ANTIQURIOUS(アンティキュリオス)」も出店。インショップとは思えないほどのラインナップで、オープン以降は女性客にも人気だ。アンティキュリオスも、前述のマグニフやミスタークリーンも、「ビームスと親和性のある専門領域を手掛けるショップに声かけをして、一緒に賑わいを生んでいこうと取り組んだ。商業施設に入居するセレクトショップがセレクトショップを誘致する、これも新しい試みです。結果、お互いに単独ではリーチしきれなかったお客様とのタッチポイントが作れている」とする
人が集い、買い物体験を通じて話題を生み出す
2フロアともファッションはメンズで構成しているが、ジェンダーを問わず、「来たら2時間ぐらい楽しめる店にしたい」と売り場の設計は特に考慮したという。そのコンテンツとして食があり、アートがあり、カルチャーがあり、全体としてエンターテインメントな体験を楽しめる空間を生み出した。それによって「想定した以上に女性客の来店があり、買い上げにつながっている」。2階に出店しているスターバックスとの協業も、様々な客層の来店・回遊に効果を上げている。「ビームス ライフ 横浜」の売り場との間に壁を設けず、共有部の床やソファ、棚などの素材や色を工夫し、両店舗から違和感なく入れるイートインスペースを設置。オープニングではこれまで両社が開発してきたコラボアイテムを再販した。
「ビームス ライフ 横浜」の売り場も、レーベルごとに壁で完全に区切るのではなく、隣接するゾーンとの境界が緩やかだ。何か空気感が変わったぞと感じてから、ネオンサインでレーベル名を知り、「ビームスってこんなにいろいろあるんだ」と気づく。「大きなスペースに、いわば『カギカッコ』付きでレーベルが挿入されていくイメージ」と渡部さん。売り場では区画を囲い込まず、開放感のあるイメージとしてカギカッコが表現されている。ビームス ライフのロゴやキービジュアルにも使用され、さりげないが印象に残る。様々なコンテンツが四角で切り取られるのではなく、カギカッコとの組み合わせで表現され、人から人へのメッセージのように届けられる。受けた人も感じたことをカギカッコに入れて応える。ビームス ライフ 横浜自体が話題を生み出すコミュニティーと言える。
メインターゲットは横浜を地元とする人たち。ビームスは横浜で数店舗を展開してきたが、実際、ベースとなる客層は地元の人たちで、訪日外国人客も他の大都市と比べ少ないという。その経験から「ローカルに認知され、ファンを創る」こともビームス ライフ 横浜を出店した理由の一つだ。その基軸となるスタッフは個性豊かで、各ゾーンで扱う商品に通じた人材を各レーベルから集め、一部の商品開発やバイイングに参加できる仕組みも整えた。「接客のエンターテインメント化を進め、お客様がスタッフに会いに来るような、同じモノを買うならこの人から買いたいと思っていただけるような関係を築いていきたい」とする。「まずは横浜で基盤を築く」とするが、ローカルの商業施設が集客に課題を抱える中で、今後の展開が注目される。
写真/ビームス提供
取材・文/久保雅裕
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久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター。ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。元杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。