「未来の服」を生み続ける先端のデザインとアップサイクル
「マリーン セル」は2017年の本格デビュー以来、ファッションの新時代を切り拓くブランドとしてシーズンを重ねるごとに注目度を高め、グローバルに販路を広げてきた。「エコフューチャリスト」のコンセプトを追求し、女性の身体を建築の構造として捉え、精神をも支える「味方」へと昇華させることを強く意識した服は独自のフェミニティーに収斂され、未来性と力を感じさせる。その象徴的なアイテムとして、ブランドのアイコンである三日月モチーフをプリントしたトップスやボディスーツがある。身体と服の境界を取り払う試みとして製作され、リサイクル素材で作られたジャージーはボディコンシャスで伸縮性に優れ、一枚でもスタイルが決まり、レイヤードでは自在にスタイルアップを楽しめる。ちなみに月は国・地域や文化、宗教などによって様々な意味を持つことから、多様な解釈を受容するシグネチャーとして様々なアイテムに用いている。
「フューチャーウェア」としての服作りの基軸としているのがアップサイクルだ。古着や残布、デッドストック生地、リサイクル素材などから新たなコレクションを生み出す。より良い未来のための行動としてデビュー時からアップサイクルに取り組み、環境に配慮されたオーガニック認証素材や新技術によるハイテク素材なども積極採用してきた。今やサステイナビリティーへの取り組みはアパレル業界では必須となり、トレンドでもある。だが、それ以前からマリーン セルは「当たり前」のこととして服作りの核に据え、単なる循環型の素材活用とは差別化された「リジェネレーション(再生)」と定義し、フューチャリスティックなデザインと融合させることで「未来の服」としてのファッション表現に体現してきた。
その背景を謳うことなく参加したのが17年の「LVMHプライズ」だった。史上最年少の25歳で何と審査員の満場一致でグランプリを受賞し、一躍注目を集めた。海外セレブの着用も増えると人気はさらに広まり、グローバルでの存在感を急速に高めていった。卸先はセレクトショップを中心に、ヨーロッパはもとより、北米、アジアなど36ヵ国に拡大。25年にはリテールを本格化し、パリ、日本、韓国に出店し、それぞれ異なるコンセプトでマリーン セルの世界観を空間に体現した。
日本におけるブランドの発信拠点であり、グローバルコミュニティーハブ
マリーン セルはインディペンデントブランドとして各国に自ら販売してきた。ブランドのプレゼンスが高いアジア市場、その中でも初期からファンが多く、重視している日本市場でのリテール展開に当たっては三喜商事とパートナーシップを組んだ。25年秋冬シーズンから三喜商事が輸入代理店として販売を始め、25年9月19日に日本初となる直営店を渋谷パルコにオープンさせた。
ショップは同館3階のエスカレーター横にあり、売り場面積は約60㎡。横に長いスペースを生かし、デザイナーが自ら構想したのは、古代の神殿のイメージにブランドらしい未来感を重ねたハイブリッドな空間だ。アルミニウムのように塗装された壁面、自然を感じさせる木材の再生家具、アップサイクルされたシルクスカーフを縫い合わせたフィッティングルームのカーテン、神殿を連想させる円柱……。ブランドが掲げる持続可能性と循環型の物作りが情景として感じられる。異質な素材や概念を融合することで、未来的なマリーン セルのプロダクトを際立たせ、映画「ブレードランナー」を想起させるディストピア的なSFの風景と時を超えた建築的引用が交錯する世界を出現させた。
象徴的なのは、エントランスに立ち並ぶ柱。古代ギリシャ神殿のカリアティード(女性像で形作られた柱)をイメージしたもので、売り場の両サイドに配置したマネキンと共に5本の柱で構成している。特別な存在感を放つのは中央の柱。上下に分かれた柱の間隙を一本の光が結び、祭壇のようにそこに在る。断面にはジュエリーが供物のように静謐にディスプレイされ、肌に最も近く寄り添うことを重視して創作されたそれらを神聖な儀式のように体験できる。この左右に配した柱にはバッグやシューズなどのアクセサリー、さらに外縁にはウィメンズ、メンズのウェアが展開されている。最新コレクションの発信拠点であると同時に、世界各地から渋谷パルコを訪れる人々が集うグローバルコミュニティーハブを目指す。
直営店ならではのMDの幅と奥行き、27年春夏には2店舗目も計画
取材時に提案していたのは、「THE SOURCE(起源)」をテーマとした26年春夏コレクション。ブランドの原点、クラフトマンシップに立ち返り、服自体が強い存在感を持ちながら、デイユースからナイトアウトまで対応する動きやすさを重視したウェアが揃う。
「セカンドスキンのシリーズは引き続き人気」と三喜商事ブランドマネジメント部の佐藤まるなさん。三日月モチーフはもとより、パイソンやフラワーのプリント、ムーンとモノグラムを組み合わせた「ムーノグラム」のトップスやボディスーツなどが「レイヤードの幅が広がるアイテムとして好調」だ。「MOONOGRAM MESH FLOCK SECOND SKIN HIGHNECK TOP(ムーノグラム メッシュフロック セカンドスキン ハイネックトップ)」は、ランジェリーに使われることが一般的なメッシュ生地を日常的なウェアへと再構築したもの。リサイクルメッシュジャージーに柔らかなベルベットでムーノグラムをフロッキー加工した。三日月モチーフをサイズダウンした今季の新柄「ミニムーン」をフロックで表現した「PLUMETIS MOON MESH FLOCK LONG SLEEVES TOP(プリュムティ ムーン メッシュ フロック ロングスリーブトップ)」も新鮮だ。
ウィメンズ、メンズともに人気なのがデニム。アップサイクルデニムを使ったアイテムも製作しているが、デニムではオーガニックコットンにこだわり、GOTS(オーガニックテキスタイル基準)認証を取得した生地をメインに使用している。「MIDNIGHT BLUE DENIM SHORT SLEEVE SHIRT(ミッドナイトブルー デニム ルーズ ショートスリーブシャツ)」は、ミッドナイトブルーに染めたオーガニックコットンキャンバスに三日月モチーフをレーザープリントし、ボウリングシャツのカラーや両胸と両袖のポケットなどディテールにアクセントを効かせた。定番のライトブルーデニムを使った「LIGHT BLUE DENIM OVERSHIRT(ライトブルー デニム オーバーシャツ)」は、胸ポケットのフラップと袖口にあしらったムーンプリントがアクセント。「MOON LASER DENIM LOOSE JEANS(ムーンレーザー ルーズ ジーンズ)」は、両サイドにムーンロゴをテープ状に施し、程よくラフでスポーティーなスタイルが魅力だ。
「MIDNIGHT BLUE DENIM SHORT SLEEVE SHIRT」10万1200円
「LIGHT BLUE DENIM OVERSHIRT」12万2100円
「MOON LASER DENIM LOOSE JEANS」10万1200円
リジェネレーションシリーズでは、「UPCYCLE JERSEY SS POLO T-SHIRT(アップサイクル ジャージー ショートスリーブ ポロTシャツ)」が今季も好調。アップサイクルコットンとアップサイクルジャージーを組み合わせ、ストリート感覚のグラフィックを取り入れたハイブリッドなポロTシャツに仕上げた。ブランドらしい異素材の組み合わせを見せるのは「JERSEY & SILK SCARVES DRAPED MIDI DRESS(ジャージー&シルクスカーフドレープミディドレス)」。ボディはビスコースとエラスタンを混紡した伸縮性の高いジャージー生地、スカートにはアップサイクルしたシルクスカーフを使い、ドレープを効かせたドレスへと収斂させた。スカートの裏地にはポリアミド・エラスタンを用い、一日中、快適なドレープを維持する。
今季はリテール店舗限定のカプセルコレクションとして、ムーンとハートのモチーフをデザインしたアイテムを製作。白ペースのオーガニックコットンに赤いハートと三日月が共存するデザインのブラ、ミニショーツ、スクエアネックTシャツ、両手で形作ったハートの中にハートマークと三日月をデザインしたTシャツの4型を提案している。
ウィメンズがフィーチャーされがちなマリーン セルだが、20年秋冬シーズンからはメンズコレクションも展開し、ジャケットなど男性だけでなく女性も魅力的に着用できるアイテムが揃う。「テーラードはメンズでは毎シーズン、発表している」と佐藤さん。パターン、仕立てにこだわったシルエットやディテールに様々なメゾンで修業を積んだデザイナーの矜持を感じさせる。
ジュエリーやシューズ、バッグ、帽子といったアクセサリー類が充実しているのは、直営店ならではだろう。ジュエリーはゴールド、シルバー、ラインストーンを軸に、リサイクル素材を含め吟味された素材を使い、職人の手仕事により時代変化に左右されないデザインへと昇華させている。スニーカーは、環境に配慮されたプロダクトを目指して試作を重ね、23年春夏シーズンから展開を始めた。現在はスニーカー、ハイヒール、ブーツなどモデルは広がっている。「MS RISE(エムエス ライズ)」はスクエアトゥを特徴とするサステイナブルスニーカー。三日月モチーフがアッパーだけでなく、ヒールやアウトソールにもあしらわれ、スポーティーでモードな一足に仕上げられている。
オープンして半年余りが経過し、デザイナーと同世代の20~30代の女性客を中心に、ブランドのファン客はもとより、渋谷パルコ店で初めてブランドを知った新規客を集客している。「入店するお客様の年齢層は幅広く、実際に購入するお客様は20代の女性がとても多い」と佐藤さん。女性客が7割ほどを占めるが、「男性客もメンズやユニセックスなデザインの服をはじめ、パートナーへのプレゼントでジュエリーなどを買い求める」という。ファッションやカルチャーを軸とし、それらに興味関心を持つ客層や訪日外国人客を多く集客する館だけに、ブランド認知のさらなる広がりが期待される。
マリーン セルの直営店は現在、パリのギャラリーラファイエット、日本の渋谷パルコへのインショップ、昨年10月にオープンした韓国・ソウルの路面店の3店舗。それぞれコンセプトの異なる空間を構築し、ブランドの世界観を体現している。日本では今後、27年春夏シーズンに2店舗目の出店を計画。どんな空間を出現させるのか注目される。
写真/遠藤純、三喜商事提供
取材・文/久保雅裕
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久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター。ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。元杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。
