服選びの楽しさとコミュニケーションを育む拠点
店舗があるのは馬喰町・横山町の問屋街に近い、繊維関係のメーカーや卸、昔からの住宅も点在する一画。オーナーが倉庫として使っていた建物で、2015年にリノベーションし、国内外の物作りに携わる人々のプロダクトを紹介するギャラリー・ショップ「組む 東京」を展開していた。「ギャラリーの客としてよく来ていたんですよ」とはレリルのデザイナー児玉洋樹さん。ブランドの展示会で利用していたこともあり、ギャラリーの跡地に実店舗の出店を決めた。
「レリル東京店」は1階と地下1階の2フロアで構成。エントランスの格子状のウインドーがクラシカルな趣きだ。1階は倉庫時代を彷彿させる天井高のある縦長の開放的な空間を生かし、5m超にわたるハンガーラックを設置した。鉄製のラックは建物内の階段に使われていた手摺りを再加工したものだけに空間に馴染み、何ともいえない味わいがある。店奥に大きな窓がレイアウトされた構造も特徴的で、柔らかな日差しが空間に優しいムードを醸し出す。組む 東京のオフィスがある2階へと吹き抜けになっていた階段前に壁を建て、白を基調とした店舗空間へと収斂させた。
地下に通じる階段はちょっと謎めいていて、1段降りるごとに洞窟を巡るような感覚になる。辿り着くのはフィッティングルームだ。「お客様としっかりコミュニケーションできる実店舗ならではの場を作りたかった」と、フロア全体をフィッティングルームと捉え、サロンのように会話を楽しみながら服を試せる空間にした。
「イーストトーキョーはファッションのマーケットとしては印象が薄いけれど、服作りに直結したエリアで、最近ではクリエイティブな人たちやショップも増えてきています。僕自身、30年にわたりこの地で生地を仕入れてきました。物作りをする人たちの熱量を感じられる立地に『お店に来ていろいろ試してみてください』と言える場を持てたのはすごく幸せなこと。実店舗の魅力を高め、これまでなかなか注力できなかったオンラインストアとの連動も含め、オムニチャネル化を図っていきたい」と児玉さんは話す。
ベーシックに日常を豊かにする機能を実装させる
店内にはレリルのコンセプトである「道具服」を体現した服が並ぶ。シンプルなデザインだけに、「どのアイテムにも何らかの付加価値が内包された日常着を追究している」と児玉さんはいう。『毎日使う道具』のように、着る人の生活や身体、その日の気分に馴染む服という発想から、素材や機能、ディテールにこだわったベーシックウェアを作り続けてきた。日常で着たくなるファッション性と気軽さに惹かれ、着てみたら機能性を実感するというスタンスがレリルの真骨頂だ。
ブランドは3つのラインで構成し、ネームの地色で分けられている。白地のネームが付いた服は、自然由来の素材を使った「白レリル」。「黒レリル」は機能性に優れたハイテク素材を駆使したもの。これらを結ぶプロダクトとして、デニム素材による「カーキレリル」がある。「猛暑や突然の豪雨など気候の変化が激しくなっている中で、より快適に、豊かに日常生活を過ごせることを常に意識」し、吸水速乾、撥水、UVカット、透湿高通気、防臭、シワ防止、接触冷温感など、日本の気候や環境に寄り添う機能を備えた生地にこだわる。「家庭で洗える」ことも、もちろん重視する。「自然災害も増え、避難の長期化などもある中で、機能性を備えた服が無いよりはあったほうがいいという思いも、ベーシックウェアを追究する根底の根底にはある」と話す。
そうした思いも背景としながら、あくまで生活に寄り添う日常着としての快適性を高めていくことがレリルの一貫した姿勢だ。その取り組みはブランド名に表現されている。「lelill」は児玉さんによる造語。当初は小川の細い溝を意味する「rill」の頭に「re」を組み合わせ、小さな流れを時代変化に応じて再構築しながら大きな流れにしていきたいという思いから、「rerill」というブランド名を発想した。より印象に残るよう「r」を「l」に変え、「線がいっぱい並んでいるようなビジュアルにし、いくつもの小川の流れを表現」した。
日常着の可能性を拡げる「進化」の継続
服作りで特に力を入れているのはシャツ、パンツ、コート。定番モデルも「イヤーモデルのように進化」を続け、2024年秋冬シーズンも粒選りのアイテムが揃う。
シャツは洗濯機で洗え、ノーアイロンのイージーケアで、耐シワ性や速乾性なども備えているのが特徴。白レリルの「テーラードシャツジャケット」は環境に配慮したリサイクルポリエステルと綿を交織したタイプライターチェックの生地を使用。シャツの軽やかさと気軽さ、ジャケットのきちんと感の両方が楽しめる。型崩れにも強いヘビーローテーションできる道具服だ。黒レリルの「ハイテクリブニット」シリーズは、レリルのシグネチャーアイテム。ポリエステル100%で、リブ編みながら身体の線を拾いにくく、型崩れもほとんどない、さらに超速乾なのも嬉しい一品。今季はオレンジやブルーなど5色を投入した。同シリーズのフーディーもおすすめだ。
パンツは「はきやすく、はけばスタイルが決まり、洗濯機で洗えると、どの卸先でも人気」で、追加発注も多いアイテムだ。「パイプドベイカーパンツ」はストレッチが効き、エイジングも楽しめるバックサテンを使用。ウエスト部は、フロントにはゴムを入れずにすっきりと見せ、後身に太めの平ゴムを通してはき心地を高めた。今季は足を長く見せるストレートシルエットへとブラッシュアップした。
デニムは、「ジーンズメーカーでデザイナーのキャリアをスタートさせた」という児玉さんだけに、細部へのこだわりを覗かせる。「プリーデッドデニムジャケット」は、ヘビーオンスのストレッチデニムをベースとし、ボックスシルエットにミリタリーテイストをプラスアルファしたGジャン。フラップはポケット内に収納でき、ブルゾンのようにも着られる。ドット釦も特徴的だ。同素材のワイドシルエットなパンツ「タックワイドデニム」とのセットアップも楽しめる。
コートは「広い面積がある服なので道具感を入れるのが楽しいアイテム」と、シンプルでありながらディテールに機能を凝縮している。「バルマカーン ベンチレーションコート」はその名の通り、背面に大きめのベンチレーションが入り、長時間の着用でも蒸れず快適に過ごせる。スプリットラグランスリーブで肩の可動域もゆったり。身頃の裏に大きめの内ポケットを設けているので、旅先などでも手ぶらで出掛けられる。ポリエステル・コットンギャバジン製で洗濯も可能だ。レリルのコートで欠かせない定番が「バックタックモッズコート」。背面の大きなタックが動きに合わせて揺れ、モードな中にフェミニンさを漂わす。付属のリバーシブルライナーを含め4通りの着方を楽しめるのも人気の理由だ。今季はトレンドのハイポケットを取り入れ、身頃の両サイドにハンドウォーマーも付けた。
ダブルブレストの「ハイテクトロピカルブレザー」も今季の推し。通気性、ストレッチ性の高いトロピカル生地は、制電糸を打ち込むことでペットの毛などが付きにくく、毛羽も出にくく、UVカット機能も備える。吸湿速乾に優れた裏地も付けた。ハイポケット、ハンドウォーマーのWポケット仕様で実用性も高い。同素材の「トロピカルベルテッドパンツ」とのセットアップできちんと感がありながらカジュアルなスタイルを演出する。
毎年人気を呼んでいるのは「オールウェザーショートフードコート」。雨でもOKの全天候型コートで、今季は環境に配慮したリサイクルポリエステルを使い、形状記憶機能も搭載した。ひさし付きのフード、大きめのダブルポケットも嬉しい。
定番中の定番とされるのが「ハイテクボレロ」。軽量で超速乾、超伸縮性を備えたハイテクニットのボレロだ。そのまま羽織ればボレロに、2つあるボタンをシングル留めすれば深いVネックのカーディガンに、両方を留めればカシュクールになる3WAY仕様。しかも「モバイルウェア」として設計され、四角くコンパクトにたためて、通勤時などにバッグに入れて持ち歩くことができる。実店舗のオープン記念では店舗限定カラーを展開し、今秋冬ではトレンドのバイカラーを取り入れた。
ベーシックを磨き、「道具感」を極めたい
レリルは、TSIホールディングス傘下のアングローバルの子会社だったアナディスのブランドとして2020年春夏コレクションでデビュー。卸を軸にECでも販売する一方、アングローバルが展開するブランドの直営店でもコーナー展開した。翌年、アナディスの売却に伴い、レリルは「ポンデシャロン」「ソソット」などを展開するマイク・グレーに移籍。以降は卸に注力し、全国のセレクトショップに販路を広げてきた。「レリルのコンセプトに共感していただけ、一緒に面白がってお客様に提案していくような個人経営のセレクトショップが多いですね。本当に洋服が好きという顧客を持っていて、品揃えの感度も高いんです。できる限りオーナーと直接お会いして、お話しをして、商品を置いていただいています」と児玉さんは話す。
一方、コンセプトを共有するメディアとのコラボレーションも多い。「ほぼ日刊イトイ新聞」のECサイト「ほぼ日ストア」とはフードスタイリストの飯島奈美さんとの共同企画でキッチンウェアを製作し、ヒット商品となった。他にもライフスタイルやファッション関連の女性誌などとのコラボを続け、大人女性の共感を広げた。
結果的に40~50代を中心に幅広い客層に支持されているのは、中価格帯の商品が多いこともあるが、「女性が自分らしい表現をするために『私にはこの服があったほうがいい』と思えるものを毎日考え、形にしていく」ことにあるのだろう。「子育てが落ち着いて、改めて自分が好きな服を買いたいというお客様も多い」という。自己表現を支える、日常的に共に在って高揚感を持てる服として、「全く新しい表現を目指しながら、定番を進化させ続けている」と児玉さん。「道具感を極めたいというか。これ以上はもう無いっていうベーシックウェアを毎シーズン、出していきたいんですね。ベーシックを磨けるだけ磨いたら何が残るのか。レリルで重きを置いているのはテーマとかターゲットではなく、そっちですね」。
その服作りのシーズンごとの成果を体験できる場がレリル東京店だ。顧客と触れ合える場ができたことでどんなコミュニティーが醸成されていくのか、注目される。
写真/野﨑慧嗣、マイク・グレー提供
取材・文/久保雅裕
関連リンク
久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター。ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。元杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。