ブランドのDNAを詰め込んだカプセルがお出迎え

ジョンロブ丸の内店はジャパン社ができて初の直営店。2005年から国内唯一の路面の旗艦店としてファンを創ってきた。ビルの建て替えに伴い、今年3月に近隣の新東京ビル1階に移転。売り場面積は約134㎡へと広がり、ニューコンセプトストアとして生まれ変わった。
空間デザインを手掛けたのは、フランスの建築デザインチーム「ciguë(シグー)」。シーズンコレクションを展開するフロントスペースはアイボリーをベースに同系色のカーペットで落ち着いたムードを醸し出し、中央から奥にかけては床やカウンターのウォルナットを基調に、左官仕上げの棚やセラミックの台など異素材を要所に配すことで温かみと洗練が同居する空間を生んだ。カウンターは磨きなどのケアやリペアに対応し、顧客とコミュニケーションを育む場で、「Shoe Bar」のような趣きだ。奥にはサロンスペースも併設し、ビスポークやジョンロブのパーソナルオーダー「バイリクエストオーダー」はもとより、足の計測を伴う既製靴の接客などに活用する。

フロア中央から奥へと伸びるスペースではバイリクエストやケア・リペアなどジョンロブならではのサービスを提供
アイボリーを基調としたフロントスペース。奥には「カプセル」と呼ぶスペースが展開

ニューコンセプトストアを象徴するのは、フロア中央に設置されたウォルナット材とステンレスからなる「カプセル」と呼ぶ什器。ジョンロブのDNAを詰め込んだカプセルは、来店客を迎えるレセプションの役割も果たしている。バイリクエストサービスに必要なレザー見本やカラーチャート、さらにソールやバックルなどのパーツ一式が収納され、引出しで取り出すことができる。バイリクエストはジョンロブが展開している現行もしくはアーカイブのコレクション100型超から好きなモデルを選べ、1点1点のパーツを吟味しながら自分だけのスタイルの靴を作り上げていく。一部モデルを除き、希望があればインソールにイニシャルを入れることも可能だ。

店内の最奥にはサロンを設置
カプセル内にはバイリクエストに必要な見本やパーツが揃う

伝統を革新し、更新し続ける「遊び心」

リニューアルオープンに際しては、丸の内店限定で2モデルを製作した。
一つは23年に発表したローファー「BATH(バス)」。手袋の縫製から着想したサドルとエプロンのハンドステッチとアンライニングによる柔らかな履き心地が特徴の同モデルを、希少なクロコダイルスエードで製作した。ジョンロブの既製靴は英国のノーザンプトンで製作されるのが通常だが、ビスポークを専門とするパリのアトリエで手作りしたもの。専用のシューツリーが付属し、価格は341万円。
もう一つは、「BARROS(バロス)」。Uチップのダービーシューズで、1980年代に発表するや世界的にヒットした銘靴だ。その後はコレクションとしては生産されず、バイリクエストもできないモデルだけに熱心なコレクターも多い。何度か復刻されたが、そのたびに完売を繰り返してきた。このUチップダービーを7年ぶりに復刻し、ネイビーとブラックのバイカラー、ブラック、ダークオークの3色を揃えた。価格は35万5300円だが早々に完売したサイズもあり、根強い人気が窺える。

丸の内店限定の「BARROS(バロス)」
クロコダイルスエードの「BATH(バス)」(丸の内店限定)

店頭では旗艦店として幅広く奥行きの深い品揃えを展開している。ジョンロブというと、その長い歴史や英国王室御用達であることなどからクラシカルで重厚なイメージがあるが、トラディショナルもあり、コンテンポラリーもあり、さらにカジュアルもありと多様だ。
それら製品はビスポークのエッセンスを取り入れたプレステージラインを筆頭に、前述したように既製革靴は英国ノーザンプトンで、スニーカーなど一部のカジュアルシューズはイタリアで作られている。ノーザンプトンでは実に190にも及ぶ工程をハンドメイドするという。レザーは最高級の銀面の中でも虫刺され跡や傷がない希少な一枚革を厳選。革自体に加工をしていないため、革が呼吸する自然な状態を保ち、製品は専用クリームでケアすれば「一生物」になるほど長持ちさせることが可能になる。伝統的な製法と最高級の素材をベースにしながら、ここ数年はよりモダンなデザインを取り入れる方向にあり、遊び心を利かせたモデルが目を惹く。

24年春夏コレクションで発表した「LOPEZ OVAL(ロペス オーバル)」は、ジョンロブのアイコンローファー「LOPEZ(ロペス)」の進化形。ロペスはフロントエプロンに施された卵のような楕円(オーバル)のハンドステッチを特徴とする普遍的なデザインのローファーで、50年代の発売以来、世代を超えて支持がある。その象徴的なモチーフであるオーバルをアッパーのエプロン部に大胆にパンチングし、グッとモダンな印象に。カラーソックスと組み合わせることで遊び心あるスタイルを演出する。「CITYⅡ OVAL(シティツー オーバル)」は、「CITYⅡ(シティツー)」のアッパーのツインステッチをパンチングに切り替え、モダンな表情を生んだ。クラフトマンシップと遊び心が融合したモデルだ。ロペスのデザインとバスの履き心地を昇華させたのは「PACE(ペース)」。オリジナルの「オーバルフレクシーラバーソール」とパッド入りのインソールを組み合わせ、軽量、柔軟、快適なソールを新たに開発し搭載した。アーバンカジュアルなデザインに鉱物の色から着想した温かみのある色を展開し、グローバルでも人気のソフトローファーだ。

「LOPEZ(ロペス)」
「LOPEZ OVAL(ロペス オーバル)」
「CITYⅡ(シティツー)」
「CITYⅡ OVAL(シティツー オーバル)」
ペースはカラーバリエーションも充実
「PACE(ペース)」

日常的なリペア、年3回のビスポークで高める体験価値

丸の内店に特徴的なのはケアやリペアの持ち込みが多いことだ。国際ビルにあった頃から年間約1000件あり、コロナ禍で少し減ったものの回復基調にある。磨きからヒールやソールの交換など、「トレンドに左右されないデザインなので長く大切に履いているお客様が多く、20年前、30年前に購入した靴を普通に持参される」。新たな丸の内店ではケア・リペア専用のカウンターも設けたことで、利用する人はさらに増えるかもしれない。

来店客と程よい距離感でコミュニケーションし、ケアやリペアに対応するカウンター

また、店舗では年に3回、予約制のオーダー会「BESPOKE SESSION(ビスポークセッション)」を開催している。パリのビスポークアトリエから職人(マスターブーツフィッター)が来店して採寸やコンサルテーションを行う。パリのアトリエで木型製作や仮縫いをし、試着後に微調整を経て約8カ月間で納品される。150余年にわたり培ってきたジョンロブのフルオーダーの体験は自分の理想とする靴を誂えられ、満足度が高いため、リピートする人が多い企画となっている。
ジョンロブは革小物も味わい深い。財布やカード入れ、ベルトなど、いずれも靴と同様に一枚革を使用した本格派だ。カシミヤスエードのスリッパは新築やブライダルなどのギフトに人気の一品。靴はウィメンズもメンズの定番モデルをウィメンズサイズで展開し、バイリクエストにも対応している。
リニューアルオープン以降、前店舗時代からの顧客はもとより、ビジネス街で東京駅からのアクセスも良いため全国各地から来店客がある。40~50代後半を中心に、スタートアップした起業家や雑誌でジョンロブを知ったという20代など若い層も来店する。現在、客数ベースでは新規客と顧客が半々の割合で、新規客が増加傾向にある。次世代へのブランディングという意味でも注目したい旗艦店だ。

写真/ジョンロブジャパン提供
取材・文/久保雅裕

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久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディターウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。元杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

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