寿浦まどか(じゅうら・まどか)HeRIN.CYEクリエイティブディレクター
いくつかのブランドのデザイナーを経て、2020年に誕生したブランド「HeRIN.CYE(へリンドットサイ)」のディレクター兼デザイナー。14歳の女の子の母。

価格以上のクオリティーを備えた服

ブランドを立ち上げたのは新型コロナウイルスによるパンデミックが起こった頃。実店舗の営業がままならない中で、多くのアパレル企業がECを強化した。コロナ禍前からDtoCブランドの台頭やオムニチャネルの進展もあり、市場との接点としてECの重要度が増していた。バロックジャパンリミテッドがECからスタートしたトータルブランド「STYLEMIXER(スタイルミキサー)」を展開し始めたのは2018年のこと。この好評を得て、ウィメンズのECブランドとして20年にスタートさせたのが「HeRIN.CYE(ヘリンドットサイ)」だ。クリエイティブディレクターを務めるのは、初期の「MOUSSY(マウジー)」に始まり、様々なブランドを手掛けてきた寿浦まどかさん。その服作りに対する思いはブランドコンセプトに込められている。
「現代を生きる女性の毎日を最高にしたい/女性であることの喜びを感じる服/HeRIN.CYEらしい色彩豊かなバリエーション/いつもの着こなしにエレガントな要素を取り入れ、絶妙なバランスやポイントを加える/オリジナリティーのあるアイテムを提案し続ける」
特に「色彩豊か」であることはヘリンドットサイを象徴する個性だろう。ブルーやイエロー、グリーンなど鮮やかなカラーが、まず目に飛び込んでくる。フォルムも多様で、服のパーツがアシンメトリーに構成されていたり、大胆なオーバーシルエットだったり。一見、主張し過ぎてしまいそうな色や形も、着る人のスタイルがきれいに見えるバランス感へと収斂(しゅうれん)し、大人の女性が楽しめるエレガンスを表現している。
「黒の服も作っているけれど、明るい色の服を着ると、やはり人の気持ちは幸せになりますよね。主要ターゲットは30~40代の女性で、中心購買層でもありますが、その位の年齢層でファッションが好きな女性たちは自分でちゃんと服を選べるんです。彼女らの目に適い、ワクワクする服を常に意識しています」と寿浦さん。シーズンテーマはあえて設定せず、「ブランドコンセプトがそのまま服作りのテーマで、お客様も自分も着たくなる服をトレンドやシーズン性を入れながら作っている」としている。
自在なフォルムやカラー表現をする中で、共通して重視しているのが、スタイルが良く見えるシルエットだ。「私自身、身長は158cmで高いほうではありません。そうしたコンプレックスをカバーしながら楽しめる服を作っています。スタイルが良く見える服、デザイン性はあるけど普通の人が着られる服、ですね。これまでテイストやターゲット、価格帯も異なるブランドを経験してきたからこそ、今は枠にとらわれず、自分の目線で服作りができている」と話す。

2024年春夏コレクションのキービジュアル

こだわりを凝縮していながら、トップスが7000~1万8000円、ワンピースが1万2000~2万5000円、ボトムが9000〜2万円、アウターが1万8000〜4万円と価格が手頃なのもヘリンドットサイの特徴だ。「ECで始まったからこそ、買いやすい価格は重視してきました。今は画像できれいに見せることもできますが、その商品を気に入って注文し、手元に届いたときにクオリティーを実感して『また買いたい』と思ってもらいたいんです。また、30~40代は子育て中の人も多く、美容などいろんなことにお金がかかります。その中でも、やっぱり好きな服が着たい、キラキラしたいという思いがあって。そういう人たちにファッションを諦めてほしくない。そんな思いから、ブランドに携わることになったときに、価格以上のクオリティーを備えた服作りを大前提としました」。結果、ファッション感度の高い20代の女性たちにとっても、今、買っている服とそれほど変わらない価格でよりクオリティーの高い服にチャレンジできることから若年層にもファンが増え、40代、50代と上の世代へも広がっている。

ブランドの世界観を体感でき、「また来たくなる」空間を作る

「価格以上のクオリティー」を大事にしてきただけに、特徴とする色彩の豊かさやフォルム、ディテールなどを直接伝えたいという思いはずっとあった。ECの業績も伸び、3年目を迎えた23年、さらなるブランドの成長を目指して実店舗をルミネ新宿2に出店した。
売り場面積は約100㎡。店頭中央の大きな柱が印象的だ。ブランドのイメージカラーであるブルーで彩色し、ショップの象徴とした。床と壁面はグレーをベースとし、落ち着いたムードの中でアイテムに表現された色をビビッドに見せる。木製のボックス什器や棚板、ミラーの一部は古材をアップサイクルしたもの。レジカウンターや売り場内に点在するキューブ型什器は、石でできているように見えるが、石炭火力発電所で発生する灰や製品の不良品や現場回収された端材、再生に不向きな古紙、飲食店で出たコーヒー豆かすを再生材料として作られた建築素材「SOLID(ソリド)」を採用している。トルソーも紙製卵パックと古紙を原材料として製作した。サステイナブルな要素も取り入れながら、コレクションの色彩と内装の異素材を調和させ、モダンな空間に仕上げている。

什器類は古材や端材からのアップサイクルや、サステイナブル素材を使用。ビビッドな彩色を施し、空間のアクセントに
ブルーの柱が象徴的な店頭
ラックもオリジナル。「ラックに掛かっているところまでをイメージして服を作っている」という
「SOLID(ソリド)」で作られたレジカウンター。壁面にあるのはヘリンドットサイのためにアーティストが描いたアート作品

売り場ではシーズンコレクションのフルラインナップを揃え、VMDは「中に入りたくなる、店内を全て見たくなる、また来たくなる、ワクワクすることを一番に考えている」。通路を右側から来た場合、左側から来た場合の目線の行き方などを踏まえ、アイテムを配置し、「レイアウト替えをかなりこまめに行う」ことで売り場の鮮度を落とさない。コレクションの提案と並行して、新作を毎週投入しているのも魅力だ。新作はトルソーのスタイリングや柱前のテーブルで打ち出すことで来店客がまず目に留める環境を作り、店内でバリエーションを提案する。

店頭のテーブルでは毎週投入される新作やコーディネート小物を提案

「オリジナル×セレクト」でワクワクする発見のある店に

取材時に提案していたのは、24年春夏シーズンのコレクション。多彩なアイテム揃えが一見して伝わってくる。ヘリンドットサイらしいフォルムと色使いを楽しめるのは、「Asymmetry color cardigan(アシンメトリーカラーカーディガン)」。各パーツの大きさを違えたカラーブロックで構成し、シャリ感のあるシアー素材で涼しげな表情を見せる。寿浦さんはこの日、アシンメトリーカラーカーディガンにコクーンシルエットの「Cocoon crash hem denim pants(コクーン クラッシュヘム デニムパンツ)」を合わせ、ボックス型のオーバーサイズジャケット「Stripe half sleeve jacket(ストライプハーフスリーブジャケット)」を羽織るスタイルを薦めてくれた。

「Cocoon crash hem denim pants(コクーン クラッシュヘム デニムパンツ)」と「Stripe half sleeve jacket(ストライプハーフスリーブジャケット)」でスタイリング
「Asymmetry color cardigan(アシンメトリーカラーカーディガン)」

今季の人気は、「Slit sleeve jacket(スリットスリーブジャケット)」。ユニセックスなムードのオーバーサイズジャケットで、メンズのジャケットを羽織っている感覚になるようにサイズ調整を施した。落ち感のあるポリエステル素材を使い、オーバーサイズだがきれいめに着こなせ、シワになりにくい。フロントに配した5つのシェルボタンが独特だ。

「Slit sleeve jacket(スリットスリーブジャケット)」

ブランドデビュー時から継続しているのは、「Pocket boyfriend(ポケットボーイフレンド)」シリーズのニットウェア。ジャージーのように軽い、ゆったりとしていて着疲れしない、ニットだが家庭で洗えるイージーケアが持ち味だ。「彼の服を借りたようなイメージでデザインした」と寿浦さん。オーバーサイズだがサイドのドローストリングを絞れば、ボーイッシュになり過ぎず女性らしい着こなしを楽しめる。無地タイプと遊び心を利かせたカラーブロックタイプがあり、素材感とサイズ感が人気で「夫婦でも、恋人同士でも、母娘でも着られる。男性のお客様も多く、みんなが着てくれている定番アイテム」に育っている。

「Pocket boyfriend(ポケットボーイフレンド)」の無地タイプ
「Pocket boyfriend(ポケットボーイフレンド)」のカラーブロックタイプ

実店舗のもう1つの特徴は、セレクトアイテムも提案していることだ。全体の70~80%を占めるオリジナルアイテムを軸に、セレクトはECやポップアップストアを中心の展開をしているDtoCブランドの「MECRE(メクル)」、「Hella(ヘラ)」、「papier(パピエ)」など個性派を揃えた。ヘリンドットサイの服との組み合わせも楽しそうだ。
「cotopaxi(コトパクシ)」は、高品質な残材や残布を使い、新たなプロダクトへとアップサイクルするアメリカのアウトドアブランド。職人が残材や残布から配色を決め、物作りするため、世界に一つだけのカラーパターンを持ったアイテムが出来上がる。ヘリンドットサイではデイリーに使えるリュックやポーチを展開し、スタイリング提案にも組み込んでいる。「アウトドアが好きな人は知っていても、ヘリンドットサイのお客様はこの店で初めて知ったという人が多く、すごく人気です。ワンピースとセットで購入されるお客様もいます」。この他、ロサンゼルスを拠点とするビーガン・セラピュティック香水ブランド「FIELE FRAGRANCES(フィエール フレグランス)」、ジェンダーレスな人気を呼んでいる福岡発の新鋭ジュエリーブランド「TEN.(テン)」もチェックしたい。

「TEN.(テン)」のジュエリー
工場の残材や残布からプロダクトを作る「cotopaxi(コトパクシ)」

直営店はルミネ新宿2とルクア大阪の2店舗で、ECは自社サイト「SHEL’TTER WEBSTORE(シェルターウェブストア)」を中心に展開。他に国内外のセレクトショップへの卸展開も行っている。実店舗は共に訪日外国人客の多い館にあり、国内外を含めて幅広い購買層をキャッチしている。今後の出店も検討しているが、「まずは既存2店舗の基盤を固めていく」という。今期からはセレクトで展開しているブランドのポップアップイベントも企画し、「一緒にショップを盛り上げていきたい」と寿浦さんは話す。


写真/野﨑慧嗣、バロックジャパンリミテッド提供
取材・文/久保雅裕

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久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディターウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

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