初めての店舗はショールーム、アトリエ、オフィスを併設
「ブラームス」の服はカジュアルだがストリートとも異なる程よいリラックス感と品を感じさせ、シンプルだがアイテムごとに創意と捻りを効かせたディテールは着てみて分かる絶妙さ。そのこだわりはブランド名に体現されている。blurhmsとは「blur(ぼんやりしているもの)」と「hmm…(ふーむ…)」を組み合わせたデザイナー村上圭吾による造語で、「物事は不鮮明な状態から始まり、考え抜くことでより良い物事が作られる」ことを表す。服作りのアイデアソースとなっているのは、村上自身がコレクターである古着やビンテージ、ワークウェアやミリタリーウェア。それらのフォルムやディテールから得たインスピレーションを起点に「自身が今、着たい服」を構築していく。生地から開発することもめずらしくなく、縫製や加工も国内の職人と共に試行錯誤を重ね、相反する要素でさえ絶妙なバランスに収斂させ、着心地を備えたロングライフな服へと仕上げていく。生地は着用、洗濯、乾燥を繰り返した後の状態も想定し、作り込むという。

このようなこだわりを形にできるのは、村上がブランドを立ち上げる以前、アパレル会社で服作りの各工程に携わってきたからだろう。縫製、生地作り、さらに販売など川上から川下までの業務経験を背景に、自身のブランドをスタートさせた。当初から基幹ブランドのブラームスと、日常的に着用するデニムやスエット、カットソーなどベーシックなアイテムで構成する「ブラームスルーツストック」を展開し、メンズ、ウィメンズ、ユニセックスをカバーしている。ブラームスはもとより、より生活に寄り添ったブラームスルーツストックも細部までデザイナーの美意識を浸透させる作り込みに徹し、「一見普通だが、どこにも無い」服は高感度なセレクトショップを中心に販路を広げ、着実にファンを増やしていった。

成長に伴いブランドの世界観を表現する直営店を出店するのが一般的だが、ブラームスもブラームスルーツストックも実店舗は無く、別注アイテムを製作した卸先でポップアップストアを展開する程度。ポップアップストアは場を作り込み、デザイナー自身も売り場に立って接客をするというやり方を採ってきた。ただ、「店を作りたいということは10代の頃から考えていたんです」と村上はいう。「アパレル業界の様々な仕事を経験し、服を作るアトリエと小売りをする店舗が同じ場所にあるという距離感っていいなと思っていて。そうなると建物の規模も必要になり、ずっと探していた」。
世田谷区玉川台のオフィスビルと出会ったのは1年前のこと。地上4階建てで、事務所兼倉庫に使われていたのだろうか、2・3階部分に唐突に在る荷物の搬入出用扉、アールを描いたガラスブロックや出窓がレトロな印象だ。外装や内装を塗り直すなど「8、9割はいじって、1年間かけてリノベーションした」。その1階に店舗を設け、2階は展示会やイベントなどを行うショールーム、3階はワンダリズムのオフィス、4階は村上が蒐集した古着や、ミシンや洗濯機、乾燥機など服作りのアイデアソースや設備を備えたアトリエとして使う。

相反する要素を混在させ、バランスの美しさへ収斂
ショップ名の「エンドオンエンド」は、刷毛目(エンドオンエンド)の生地のイメージか。縦に白糸、横に色糸を配列して織り上げる、スタンダードだが白糸と色糸が混ざり合って醸される味わい深いテクスチャーは、ブラームスの服作りを感じさせ、店舗空間のムードにも通じるように感じられる。
空間コンセプトは「相反するバランスの美しさ」。166㎡の倉庫のような空間は、モルタルの床、白く塗装された壁、剥き出しの天井でミニマルに設えられ、植物を主体にした空間デザインを手掛ける「Yard Works(ヤードワークス)」の天野慶による植栽が点在する。スティール製のハンガーラックや照明器具などは村上がデザインし、什器として使用する重厚なテーブルなどの家具は村上の私物やアンティーク家具専門店からセレクトした。体操競技の鞍馬を使った長椅子やインダストリアルなスティール製のチェスト、木と真鍮の天板を組み合わせたカウンターなど、店内をよく見ると多様な素材が混在する。
「一つひとつのプロダクトは他とは合わない素材だったりするんですけど、空間に余白を作りながらバランスを取っていくというか。使い古されたモノと新しいきれいなモノが共存し、エイジングされていく感じを表現したかった」と村上は話す。そこに古着もあれば、洗練されたドレスアイテムもあり、それらを構成する素材の質感や光沢、風合い、さらに形状や色も混ざり合う。異なる要素を違和感なく混在させることで、美術館のようなクリーンな混沌ともいえる落ち着きをもたらしている。バランスの妙だ。




自社ブランドのショップではなく、品揃えはエンドオンエンドというセレクトショップが買い付けたもので構成しているのも興味深い。ブラームスとブラームスルーツストックも扱うが、あくまでセレクトで、エンドオンエンドが両ブランドに別注したアイテムも並ぶ。「セレクトショップにしたのは、自分には作れないものを作っているブランドへのリスペクトが第一にある。例えば同じビンテージウェアを基にして服を作るとなっても、自分にはこうは作れないと思うアイテムをセレクトしています。その意味では、自分はディレクターではなく、『いいな』と感じたものを仕入れている『洋服屋』なんですよ」。音楽に例えれば、デザイナーによるコンピレーションアルバムのような、知っている曲でもそのアルバムの世界観の中で新たな発見をするような感じだろうか。
デザイナーがセレクトするこだわりの服たち
「COMME des GARCONS SHIRT(コム デ ギャルソン・シャツ)」は、1988年にフランス生産のシャツに特化したブランドとしてデビュー。コム デ ギャルソンのクリエイティブにより、ベーシックなシャツの可能性を追求している。エンドオンエンドでは、イタリア製のチェック生地とインドコットンでチェックパターンをパッチワークしたシャツや、グッとシンプルなパッチワークのポプリンシャツ、フロントの生地を捻じってバラの花の造形を生んだストライプシャツなど、同ブランドの定番である「FOREVER(フォーエバー)」ラインを中心に、2025年春夏の象徴的なアイテムを揃えた。
「BOWTE(バウト)」は、「DRAWER(ドゥロワー)」など様々なブランドでデザイナー経験を積んだ靭江千草によるウィメンズブランド。国内外の上質な生地を使い、得意とするテーラリング技術を生かした丁寧な服作りに定評がある。「SUPIMA COTTON JERSEY COMBINATION APPLE DRESS(スーピマコットン ジャージー コンビネーション アップルドレス)」は、アメリカの超長綿でも最高級品質とされるスーピマコットンのジャージーとツイル地を組み合わせたサマードレスで、切り替え部分からの柔らかな膨らみ、シームラインがゆらゆらと動くディテールが特徴。サイドポケット、アンダーショーツも付き。「EXTRAFINE TROPICAL TAILORED INSPIRED DRESS BLOUSE(エクストラファイン テーラード インスパイヤード ドレスブラウス)」は、尾州産地のエクストラファインsuper180s梳⽑トロピカルウール生地を使用。サマーウールの滑らかで快適な着心地を感じられ、テーラードのディテールを採用しながらも、ボトムにタックインできるバランスなのでトップスとして楽しめる。前を開ければジャケットのようにも着用できる。
「コム デ ギャルソン・シャツ」
「スーピマコットン ジャージー コンビネーション アップルドレス」(バウト)
「エクストラファイン テーラード インスパイヤード ドレスブラウス」(バウト)
「佐々木洋品店」のプロダクトを扱っているのは、同ブランド以外ではエンドオンエンドのみ。使い古された布や服などを生かし、日本の伝統的な技術「刺し子」やパッチワークなどハンドメイドでアートなファッションへと昇華させるスタイルは、国内はもとより海外にも多くのファンを持つが、卸はしてこなかった。エンドオンエンドではセレクトしたアイテムと、別注したアイテムを展開する。別注では佐々木洋品店が使用しているボディから村上がピックアップしたボディを採用し、ネイビーをメインカラーとしてワークジャケットに加え、パンツも製作した。ジャケットはリバーシブルで着用できるよう裏にもポケットを付け、パンツはベルト無しでもはけるようドローコードを備えた。
「HEUGN(ユーゲン)」は、日本人が持つ「幽玄」の価値観、「奥深くて、はかり知れない美」を追求し、シンプルで上質、世代を超えて価値を増していく服作りをモットーとする。1940年代の英国のミリタリーシャツをベースにしたポプリンやコットンシャンブレーのバンドカラーシャツ、20年代のフレンチイブニングシャツを再構築したシルクリネンコットンのジャカード生地によるバンドカラーシャツなどを揃えた。

古着は村上が蒐集したものを店頭に出している。「いわゆるビンテージ物ではなく、80~90年代のアメリカの服を中心に今の服に合うテイストのものをピックアップしている」と、1枚、1枚に村上の目を効かせたものが並ぶ。アクセサリーは、インディアンジュエリーが充実。巨匠とされるCippy Crazy Horse(シッピー・クレイジーホース)とWaddie Crazy Horse(ワディ・クレイジーホース)の親子による作品や、コインシルバーを使ったPerry Shorty(ペリー・ショーティー)のアート作品のようなジュエリー、様々なカッティングを施した石や貝などで図柄を完成させるインレイ技法によるジュエリーなど、ギャラリーにいるような感覚で思わず見入ってしまう。
古着は1980年代のアメリカ物を軸に今のスタイルに合うものを集積
多様なアーティストの作品が揃うインディアンジュエリー
インレイ技法によるインディアンジュエリー
「ここだけ」の魅力を高める別注、店舗オリジナルのプロダクト
英国の老舗シューズブランド「EDWARD GREEN(エドワードグリーン)」、しかもその別注品を置いているのはちょっと驚きだ。「良い意味でラフに履きたいと提案したんです。ドレスシューズだけれど、傷になるのを気にしながら履くのではなく、エイジングを大事にしたいと伝えた」と村上はいう。
揃えたのはアイコンモデル「DOVER(ドーヴァー)」、チャッカーブーツモデルの「BANBURY(バンベリー)」、サイドエラスティックの「FITZWILLIAM(フィッツウィリアム)」、スリップオンタイプの「ROYAL_ALBERT(ロイヤルアルバート)」の4型。ドーヴァーの革は落ち着いた光沢感を持つアルノカーフを採用し、ウィズは日本人のサイズに合うようEからFへと変更することでコンフォータブルな表情と履き心地を生んだ。バンベリーは、トゥの丸みがカジュアルな303の木型を使い、ワックス加工を施したスエードレザーによりお洒落感だけでなく、耐久性や撥水性も増した。フィッツウィリアムはシボのあるコッツウォルドグレインレザーに変更し、カジュアルにもドレスにも履ける趣き。木型はブランドの最高傑作とされる202を採用し、ウィズはEで別注した。

ブラームスへの別注アイテムも、エンドオンエンドのみの取り扱い。ブラームス別注では、ローシルクとリネンをブレンドした生地によるシリーズを展開中だ。ブラームスのアイコンの一つであるカーディガンジャケット、大きなフラップポケットが特徴的なミリタリーシャツ、サイドシームレスの4ポケットパンツがあり、ブラームス版よりもきれいめなシルエットに変更するなど、エンドオンエンドならではのムードを漂わす。ブラームスルーツストックからは、デビュー時から継続するプリントTシリーズをセレクト。より滑らかな肌触りと上質な質感を出すために独自にブレンドした糸を度詰めに編み上げ、ヘビーウェイトで柔らかい天竺に仕上げた。「BRITPOP」や「DADAISME」など人気のプリントTが揃う。
「ブラームス」に別注したアイテムも集積
「ブラームスルーツストック」のプリントT
「ブラームスルーツストック」のプリントT
エンドオンエンドのオリジナルプロダクトは、小物を中心に製作した。「STRAP COAL BAG(ストラップ コールバッグ)」は、かつてアメリカの鉱山などで石炭や岩石の運搬に使われた袋がベース。6号帆布を使い、手仕事で補強布を施し、頑丈に仕上げた。持ち手にはヌメ革を使用し、使い込むことで経年変化も楽しめる。一見普通だがこだわりを凝縮したのは「DAYPACK CLASSIC(デイパッククラシック)」。耐引裂性や磨耗、引き裂き、擦り切れに対する耐久性を備え、撥水性に富んだ生地を採用した。600mlまでペットボトルを収納できるボトルケースが内蔵され、その内側に保温・保冷シートが施すことで飲み物の温度を一定に保つ。内部には着脱可能なメッシュポケットもあり、使い勝手に優れる。他にも、アクセサリー感覚で身に着けられるラムレザーのコインケースやショルダーバッグ、快適な履き心地にこだわったシルクコットンソックスなど粒揃い。エンドオンエンドのオープンに合わせ、初めて香水も開発した。夜明けの森林をイメージした洗練された香りで、9回目に調香したものを採用したことから「9 EAU DE PARFUM(ナイン オードパルファム)」と名付けた。小物は今後も、「ここでしか買えないものを増やしていく」考えだ。


店奥に併設されたコーヒースタンド「MORENCI COFFEE(モレンシコーヒー)」も、エンドオンエンドの特徴だ。日替わりのバリスタがコーヒーを提供し、「普通にコーヒーを飲みに来る近所のお客様もいます」と、存在は近隣エリアにも口コミで広まっているようだ。モレンシコーヒーのロゴとイラストはイラストレーターの竹内俊太郎氏が制作。このイラストをプリントしたTシャツも人気だ。アメリカ製のボディを使い、昔ながらのラバープリントでイラストに質感を生んだ。製品洗いして仕上げたこだわりの一品。

オープン以降、20~40代を中心に服が好きで、エンドオンエンドの取り扱うブランドに興味がある人たちや、ブラームスやブラームスルーツストックの顧客が来店し、目的客が多いだけに購買率も高い。インスタグラムを通じて店の存在を知り、訪れる人もいる。「現在、お客様の約9割が何らかの目的を持って来店されています。商品を見たり、コーヒー飲んだりしながら、スタッフと会話も楽しんで、ゆったりと過ごせる空間。製造の機能もあるので、今後は服の修理やリメイクにも取り組んでいきたい」と村上は話す。少しずつだが、すでにリメイクは始めているという。
写真/野﨑慧司、ワンダリズム提供
取材・文/久保雅裕
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久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター。ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。元杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。