新たなマーケット創出へ、新たなチャレンジ
アッシュ・ペー・フランスは2023年より新体制となり、24年に入ってからはキッズを対象とするセレクトショップ「encore!(アンコー!)」やカフェ業態の「CAFE CAVE(カフェケイブ)」を立ち上げるなど、「衣・食・住」の提案を強化している。これまでインポートのファッションや雑貨を中心にインテリアやジュエリー、アートなどを通じて様々なカルチャーを発信し、ファンを獲得してきた。ただ、百貨店をベースとする店舗展開により中心顧客層の年代が上がる中で、若い世代との接点開発が課題だった。新しいマーケットの創出へ向けて構想したのが、衣・食・住を網羅した同社初のライフスタイル提案型セレクトショップ「デクリック」だ。
「現在は越境ECも増加し、インポートとドメスティックというブランドの境界自体が取り払われてきています。またSNSの浸透を背景に、世界的にも若手のデザイナーやクリエイターがどんどん現れてきています。ただ、そうしたブランドと若い人たちが触れ合うリアルな場がまだ少ないと感じます。そこで当社が強みとしてきたヨーロッパのインポートは引き継ぎながら、ブランドの国籍や規模、分野を問わず面白いプロダクトを世界中から集めて、若い人たちが楽しめる場を作ろうと思った」とバイヤーの高橋悠平さん。30歳の女性を核とする20~30代をメインターゲットに設定し、出店先も若い世代を軸に幅広い客層を集客するファッションビルなどの商業施設に着目した。新たなチャレンジのスタートとして、8月24日に東京のルミネ有楽町ルミネ2、8月30日に大阪のハービスPLAZA ENTに出店。ルミネ有楽町ルミネ2ではインポートのジュエリーやバッグを軸とする「goldie H.P.FRANCE(ゴールディー アッシュ・ペー・フランス)」、ハービスPLAZA ENTでは「H.P.FRANCE BIJOUX(アッシュ・ペー・フランス ビジュー)」からデクリックに転換した。
デクリック有楽町店はルミネ2の1階、館のエントランスを入ったエスカレーター横の角地にあり、約36㎡の売り場を持つ。向かいにはディーン&デルーカ、周辺にはコスメやファッション雑貨などのショップがあり、通行量の多い立地だ。それだけに「興味を持っていただける品揃えはもちろん、入りやすい空間作りを目指した」。
例えばジュエリーはゴールディーの頃は商品の性質上、ガラスケースに陳列していたが、デクリックでは木製の台什器に変更し、手に取りやすいように配置した。プライスレンジも幅広く揃え、ギミックの効いた「ちょっと買って帰りたくなる」ものを通路側に集積し、店内ではよりバラエティー豊かな品揃えを展開する。その間にファッションを点在させ、壁面にはアッシュ・ペー・フランスの定番人気や厳選したブランドのバッグ、日本初上陸を含むフレグランスを集積することで回遊性を高めた。エスカレーター側にあった壁を外し、全体的に開放的で明るい売り場を演出している。
店前を通りかかって興味を持ったら気軽に入れる空間は、一人ひとりが“something good”を発見する「きっかけ」。「エスカレーターから降りてきて店の存在に気づいたり、通路を歩いている途中でジュエリーに目を留めて入店するお客様が増えた。特に20~30代女性の入店率が上がった」という。
日本初上陸のフレグランス、フードも展開
MDはヨーロッパを中心に世界各地からセレクトしたプロダクトを独自に編集し、日本初上陸のブランドも紹介する。
「VALLEBELLE(ヴァルベル)」は、14年にフランスのバスク地方、サン・ジャン・ド・リュズで設立されたフレグランスブランド。香水の都と呼ばれるグラース地方の伝統的な製法を用い、全て職人の手作業で製造されている。製品名がバスク語で付けられているのも特徴だ。数あるプロダクトの中から、デクリックでは手軽に使え、インテリアにもおしゃれなボトルのスプレー式ハウスミストをセレクトし、5種類のフレグランスを提案する。バスク語で欲望を意味する「NAHIA」は、夏の海辺の朝から夕暮れまでをイメージしたトロピカルでエキゾチックな香りをトップ、ミドル、ラストのノートで表現。他にも太陽をイメージした「HORIA」などがある。
フレグランスは、フランスの「Kerzon(ケルゾン)」やアメリカの「BROOKLYN CANDLE STUDIO(ブルックリンキャンドルスタジオ)」からもセレクトしている。ケルゾンは南仏ブルターニュで14年に設立され、自然派アロマケアのプロダクトに定評がある。エッフェル塔やチュイルリー宮殿、リュクサンブール公園などパリの名所にインスパイアされたフレグランスキャンドル「FLANERIES COLLECTION(フランネルコレクション)」を揃えた。ブルックリンキャンドルスタジオは、13年にデビューしたキャンドルブランド。アメリカで栽培された大豆から作る100%ソイワックス、鉛不使用のコットン芯による100%ヴィーガンのキャンドルで知られる。デクリックでは、ブルックリンやキャッツキル、マウイ、京都など世界の街からインスピレーションを得た「ESCAPIST COLLECTION(エスケイピストコレクション)」と、モダンでミニマルなデザインが特徴の「MINIMALIST COLLECTION(ミニマリストコレクション)」を扱う。
いずれのブランドも自然の原料や環境に配慮した製法、容器にリサイクル素材を使うなどサステイナビリティーがベースにあることも特徴となっている。
もう一つの日本初上陸は何とポテトチップス、フランス発の「Belsia(ベルジア)」だ。「パリに買い付けに行っていたときにたまたま見かけ、カフェのテーブルクロスのようなパッケージに惹かれたんです。食べてみたら日本のポテトチップスとは違う味わいで、こだわりの製法で作られていると知り、デクリックのオープニングに合わせて仕入れました」と高橋さん。元エンジニアの夫婦が15年に立ち上げたブランドで、幼少の頃に祖母が手作りしてくれたポテトチップスが忘れられず、職人的な製法で「本当にジャガイモの味が感じられるチップス」を生産している。デクリックではソルト、チリ、日本ではあまりないビネガーなど5つのフレーバーを取り扱う。
ベルジアを販売するのはレジスペース。キオスクをイメージした設えで、アッシュ・ペー・フランスのカフェ「カフェ ケイブ」のサーモボトルやマグカップ、キャップなども販売する。会計時に「プラスアルファの会話が生まれ、お土産でポテトチップスを購入するお客様も多い」という。
素材もデザインも多様なジュエリーをセレクト
デクリックの入店客がおそらく最も目を留めるのがジュエリーだろう。店内を進むにしたがって、通路からの見た目以上に多様なブランドがあることが実感される。「ウィメンズ対象の店ではあるけれど、フェミニンなデザインに偏らないよう意識している」と高橋さん。オープン後はバングルなどは男性客の購入もあるという。
ジュエリーでとりわけ動いているのが、フランスの「SERGE THORAVAL (セルジュ・トラヴァル)」だ。スターリングシルバーとゴールドにメッセージを刻印したジュエリーで、アッシュ・ペー・フランスでは1990年代から提案してきた。ルミネ有楽町ルミネ2の立地でも、「ゴールディーの頃から一番人気で、20~30代にもファンが多かったことから、デクリックでもジュエリーの軸に据えている」。詩人や哲学者、作家、聖書など様々な言葉が刻まれ、客にとっては自分の気持ちに寄り添い、エンパワーメントしてくれるお守りジュエリーのような存在だ。
- 人気の「セルジュ・トラヴァル」は種類も豊富に揃える
- セルジュ・トラヴァルの「Reve」バングル。「La vie est un sommeil,l'amour en est le reve.Et vous aurez vecu si vous avez aime.(人生は眠りで,愛は夢を見る。そして人を愛した分の人生を送るでしょう)」とある
- 「Rien n'est jamais fini pour toujours」は「いつも どんな事も永遠に続くのだから」の意
アッシュ・ペー・フランス ビジューで昨年から取り扱いを始めた「MAGGOOSH(マグ―シュ)」は、デザイナーのマルガリータ・クリサキが19歳で立ち上げたギリシャ発のブランド。ブレイクダンサーでもある彼女が生み出すプロダクトは、柔らかでフェミニンな印象ながら、ミニマルなデザインに躍動的なスタイルを融合した独自の佇まいで、全てハンドメイドで生産されている。デクリックでは、繊細なボックスチェーンにエナメルの塗料でドットをあしらったラリエットのコレクションを揃えた。二重にしてショートネックレスのように着けたり、腕に巻いてブレスレットとしても楽しめる。
「ALT(アルト)」は22年にパリでデビュー。ヴェルメイユ素材を使ったゴールドのリングは、さりげなく輝きを放つユニセックスなデザインで、どんなファッションにも馴染み、重ね着けすればより個性的なスタイルを生む。デザイナーは、祖父母が懐中時計のチェーンやカフリンクスをネックレスなどのアクセサリーに作り替えたり、結婚指輪を重ね着けするなど、創意工夫をしておしゃれを楽しむ姿に影響を受け、ミニマルなデザインとサステイナブルな素材を融合したジュエリーの製作をスタートさせた。
メタル以外の素材使いでは、一味違うテイストの新しい顔ぶれが揃う。「LAH PARIS(ラー・パリ)」は、パリのメゾンブランドでジュエリーデザインを手掛けていたデザイナーが20年に立ち上げた。デクリックで提案するのは、無限の広がりと未知なるものへの憧れをイメージした「GALACTIC COLLECTION(ギャラクティックコレクション)」。リングやピアス、イヤーカフは、ボール状のムラーノガラスにアームのメタルが絡むようなデザインが特徴。メタルにはリサイクルシルバー925に5μの18金でコーティングしたヴェルメイユ素材が採用されている。
「Sandralexandra(サンドラアレクサンドラ)」は19年に活動をスタート。ガラスをメイン素材として使い、カラフルかつ遊び心に溢れたモチーフを表現している。デザイナーのサンドラ・バッリオがロンドンのスタジオでデザインし、母国スペインのバルセロナの職人とともにランプワークでモチーフを作り上げ、ロンドンでジュエリーに仕上げる。キャンディーのような素材感、色の表現が好評だ。
磁器をベースにユニークなジュエリーを展開するのは「NACH(ナッシュ)」。磁器製(またはポーセリン)のミニチュアアニマルの第一人者クリスチャン・コッシュの技術をナンシーとナディアの姉妹が受け継ぎ、動物を中心とするモチーフの多様なアクセサリーを創作している。
デザイン、素材、製法、機能……バッグが内包するカルチャー
バッグは、アッシュ・ペー・フランスが今春から展開しているパリのクリエイティブラボラトリー「domestique(ドメスティック)」が注目。エルメスのプロダクト製作で出た端切れや使わなくなった素材を再利用する「petit h(プティ アッシュ)」出身のBastien Beny(バスチャン・ベニー)と、「ACNE STUDIOS(アクネ ストゥディオズ)」や「John Galliano(ジョン ガリアーノ)」で重職を歴任したSimon Delacour(シモン・ドゥラクール)が16年に立ち上げた。「在庫ゼロ」「廃棄物ゼロ」を掲げ、環境に配慮した製造工程を採用し、最終的に残った端切れは試作品に使用する。「日常で目にする何気ないもの」から着想したレザーアイテムやジュエリーなどを展開している。デクリックのオープニングでは、最新コレクション「Marché Nouveau(マルシェ・ヌーヴォー)」からレザーバッグをセレクトした。「CAGETTE POUCH(カジェットポーチ)」は、マルシェで野菜や果物の運搬や陳列に使用する木箱が着想源。ポーチ本体は上質なベジタブルタンニンレザーの一枚革を最新のレーザーで展開図のようにカットし、組み立てた構造。実際の木箱が内容物を焼き印しているのに倣って、側面にはポーチの名称やサイズなどをレーザー刻印している。
アッシュ・ぺー・フランスのロングセラー「JACQUES LE CORRE (ジャック ル コー)」のアイコンバッグ「LISBON(リスボン)」は、デクリックでも早速人気を集めている。ミニマルなデザインの中にクラシカルでエレガント、フェミニンかつマスキュリンな世界が体現され、レザーの質感を引き出すカラー展開も魅力だ。ミニミニ、ミニ、スモール、ミディアムの4サイズ。
欧米だけでなく、アジアからのセレクトも面白い。「MARGESHERWOOD(マージシャーウッド)」は16年に設立された韓国のバッグブランド。ブランド名はデザイナーではなく、99年に公開された映画「リプリー」の登場人物の名前。90年代のムードと文化的感性にインスパイアされたコレクションを展開している。ジッパータイプのミニバッグは四角いシルエットが90年代を彷彿させる。ショルダーストラップは取り外しができ、ハンディスタイルで持てばミニサイズの可愛らしさが一層引き立つ。
「かっちりとしたレザーバッグがある一方、もう少し身近で、手に取りやすいアイテムとしてエスプリを効かせたバッグも揃えた」と高橋さん。「EICON PARIS(エイコン パリ)」は「スーベニアの世界に革命を起こし、世界中の観光客に笑顔を届ける」ことを目指し、19年のブランド設立以来、ユーモラスなアイテムを提案し続けている。コットントートバッグはモナ・リザやフリーダ・カーロ、アンディー・ウォーホルなどの似顔絵をプリントしたシリーズ。お出掛けする日を小さな美術館のようにちょっと特別なものへと変えてくれる。
オープン以来、動いているのは「topologie(トポロジー)」のスマホストラップ。ロッククライミングの熱狂的ファンである創設者が、「冒険心を持って街を旅する」をコンセプトに、クライミングギアの機能を都市生活に便利でファッション性も備えたプロダクトへと転用した。クライミングロープのようなポリエステルコードとバンジージャンプロープから着想を得た伸縮性のあるコードの2タイプがあり、スマホとしっかり接続し、首から下げたり、斜め掛けしたりして使える。カラフルなので、ベーシックウェアとコーディネートすればおしゃれのアクセントに。トートバッグに装着すれば斜め掛けできるなど、様々な用途を作り出せる。
ビンテージやストリートに想を得た「今」のアイテム
ファッションはオープニングではシャツにフォーカスし、2ブランドを揃えた。「EN VRAC PARIS(オン ブラック パリ)」は、エルメスで20年間にわたりテキスタイルやアクセサリーを手掛けてきたデザイナーによるブランド。シャツフリークのデザイナーが蒐集したビンテージやデッドストックのシャツに自ら描いたイラストをシルクスクリーンでプリントしたアイテムが揃う。イラストは本やペン、トランプなど身近にあるものが独自のタッチで描かれている。
もう一つは日本のブランド「The Dudettes & Co.(ザ デューデッツ アンド コー)」。パリっ子やロンドンガールのストリートファッションから着想したマルチストライプのボーイフレンドシャツやシアー素材のボックスシャツを展開する。ボーイフレンドシャツは柔らかな素材感と上品な光沢感が魅力。オーバーサイズだが、袖丈は日本女性の体型に合わせて設計され、バランス良く着こなせる。Tシャツやノースリーブの上から羽織ったり、これからの季節はタートルネックやスウェットに合わせるなど着回し自在。ボックスシャツは身幅をゆったり取ることで様々なインナーとコーディネートでき、季節を問わず楽しめる。
時計やアイウェアはビンテージに想を得たアイテムに焦点を当て、日本ブランドからセレクトした。「VAGUE WATCH CO.(ヴァーグウォッチ)」は、国内外の職人と協業により「アンティークウォッチの雰囲気を気軽に楽しめる腕時計」を作り上げる。今改めて人気の角型などモデルが充実している。「H OPTICAL(エイチオプティカル)」は22年にデビュー。ビンテージアイウェアのデザインをもとに、「日本人の骨格に合ったフィッティング」「手に取りやすい価格帯」「気軽に使える」ことを身上とするオリジナル製品を提案している。
一人ひとりに開かれた「来るたびに発見がある」店作り
フレグランスやアクセサリーなどはギフト需要も想定されることから、デクリックではラッピングサービスにも対応し、巾着型のショッパーやメッセージカードも用意している。
自分用はもとより、ギフト用にも需要が多いのがフランスのインテリア雑貨ブランド「BONCOEURS(ボンクール)」。キャンドルを装飾するビジューを主力とするブランドだが、その意匠をあしらったプレートをセレクトした。エナメル加工を施したアルミニウム製で、味わい深い光沢と柔らかな手触りが特徴。縁には手仕事でゴールドを施し、上品なアクセントを添える。花や葉、星、ハート、十字架などのモチーフがあしらわれたトレーは、小物やアクセサリーなどを置いたり、棚や玄関などの装飾にしたりと用途を考えるのも楽しい。
「定番を提案しながら、毎月、何らかの新しいプロダクトが入っている店にしていきたい。来店するたびに発見があり、新しいきっかけを得られる場を作っていく」と高橋さん。一品一品にストーリーが通う粒選りのセレクトだけれど、品揃えも価格帯も幅広く、売り場の敷居は低く、開かれた雰囲気の中で気軽にお気に入りを探せる。フレンドリーなムードはデクリックのインスタグラムのアカウント名(@declic_coucou)にも表れている――「coucou(ククー)」はフランス語で、日本語では「やあ!」に相当するという。
写真/遠藤純、アッシュ・ぺー・フランス提供
取材・文/久保雅裕
関連リンク
久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター。ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。元杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。