「フィジタル パフォーマンス クロージング」

ワールドフィットは2017年からパーソナルトレーニングジム「ビヨンド」を運営し、現在は全国に103店舗を展開している。国内外の数々のボディメイク大会で入賞歴のあるトレーナーも在籍し、確かな経験に基づくトレーニングや食事などの指導が評価され、競合がひしめくフィットネス業界で急成長を遂げてきた。アパレル事業を立ち上げたのは創業まもない頃。ボディビルダーたちとのコミュニケーションの中で、しばしば聞かれた「着られる服がない」という声がきっかけだった。肩や胸、腕などに筋肉がついたことで既製のサイズの服では選択肢が少なく、窮屈だったりする。「身体を鍛え上げた人たちがストレスなく着られるウェアを作ろうと、ジムに通う人たちの声を集め、ニーズを明確にしていったのが始まり」と話すのは、CRONOS GINZA SIX(クロノス ギンザ シックス)店の店長、桑原伶奈さん。様々なニーズから導き出されたのが「Physital Performance Clothing(フィジタル パフォーマンス クロージング)」というブランドコンセプトだった。
フィジタルとはワールドフィットによる造語で、Physical(フィジカル=肉体的)なアップデートを目指す過程で、Mental(メンタル=精神的)な面も同時に向上させていくことを意味する。心身両面のパフォーマンスを高めていくシーンとして、トレーニングはもとより、日常のライフスタイルにも着目し、パーソナルな豊かさを支えるウェアの開発に至った。大きな特徴は、高い伸縮性や吸湿速乾性を備えた機能素材と、モノトーンにブランドのロゴマークを基調としたミニマルなデザイン。「USサイズよりもハーフサイズほど大きいオーバーサイズ」ながら、トップスやアウターはドロップショルダーを採用するなどディテールの設計やデザインに工夫を凝らし、リラックスした着こなしとスタイリッシュなシルエットを生み出す。メンズとウィメンズを展開し、スエットやパーカ、Tシャツなど定番アイテムは1万円台中心と手頃な価格も魅力だ。

「CRONOS WOMENS(クロノス ウィメンズ)」
「CRONOS MENS(クロノス メンズ)」

18年からは常設店の出店もスタートした。同年には東京・表参道、大阪・北堀江に出店し、以降は名古屋・栄、福岡・大名、北海道・札幌と、主要都市の一等地に店舗を展開。国内外のボディビルやフィジークの著名選手による着用や、元プロ野球選手の糸井嘉男氏、元格闘家の魔裟斗氏、日本のヒップホップシーンを牽引するAK-69氏のアンバサダー起用などもプロモーション効果を発揮し、常設店とECによる直販でトレーニングやフィットネスの分野を中心にマーケットを広げてきた。
ジムなどでのアクティビティーに対応する高いスペックの上に、カジュアルにもスポーツにも寄り過ぎないデザイン性を生かし、ここ数年、注力しているのがファッションとしてのクロノスの提案だ。21年にはテーラードのジャケットなど、素材はもとより縫製にもこだわったラグジュアリーライン「クロノス ブラック」を発表。23年にはタウンユースもできるルームウェアを中心にライフスタイル全般の「フィジタル」なプロダクトを提案するクロノス ルームのコンセプトストアを阪急メンズ東京に出店した。商業施設でのポップアップ展開も積極化し、より幅広い客層へのブランドの浸透に力を入れている。

「CRONOS ROOM(クロノス ルーム)」
「CRONOS BLACK(クロノス ブラック)」

毎月の新作投入、限定アイテムも揃え、ファッション市場へ

ファッションとしてのクロノスを提案する拠点と位置づけているのが、23年12月9日にオープンした「クロノス ギンザ シックス」だ。同年2月から10月にかけてポップアップストアを展開し、好評を得て常設店舗の出店となった。「実店舗の出店を続ける過程で、商品面ではファッション性を強めてきました。ただ、フィットネス市場での認知は高まったものの、ファッション市場へのアプローチがなかなかできていなかった」と桑原さん。ハイブランドが軒を連ね、訪日外国人客も多いギンザ シックスへの出店は、まだクロノスを知らないファッション好きや海外マーケットへの発信には絶好のチャンスを得たと言えるだろう。「多様なお客様に発信するとともに、その声も直接聞きながら、ハイブランドの服を愛好する人たちのスタイリングに取り入れられるブランドにしていきたい」としている。
売り場は5階にあり、面積は約40㎡。ブランドカラーであるモノトーンで統一された空間に、力強さや美しさの象徴か、重厚な石膏像やアートパネルが配され、同店のためにデザインされた筆記体のブランドロゴのネオンサインが白く浮かび上がる。「クラシック×近未来」な設えに、球体をかたどった薄いガラスの照明が柔らかな明かりを注ぐ。コンパクトな空間ながらバリアフリーでゆとりを生み出し、ラグジュアリーなクローゼットのような場に仕上げている。

  • モノトーンを基調としたギンザ シックス店
  • ダビデの石膏像とクロノスのロゴのネオンサイン
  • 石膏像の対面の壁にはアートパネルも

MDはメンズが中心だが、「ジェンダーを問わないミニマルなデザインが多く、オーバーサイズのトレンドもある中で、メンズアイテムを購入する女性客が増えている」ことから、ウィメンズの構成比は20%ほどとした。オープニングでは23-24年秋冬物を揃えたが、「新作はシーズンごとではなく、毎月投入するのがクロノスの特徴」という。月ごとの店頭の変化にも注目したい。

  • 打ち出し商品のビジュアルプレゼンテーション
  • 「CRONOS(クロノス)」のメンズ。中央の「SWITCHING HOODIE(スイッチング フーディー)」は今季の一押し、左下のロゴがブルーの「LOGO SWEAT TOP(ロゴ スエット トップ)」も人気
  • クロノスのウィメンズは既存店よりも豊富に品揃え

既存店よりも幅広い品揃えをしているのは、ラグジュアリーラインのクロノス ブラックだ。高機能素材によるジャケットやテディジャケット、パーカ、スエット、パンツなどが揃う。「TAILORED STRETCH JACKET(テーラード ストレッチ ジャケット)」はブラックの象徴的なアイテム。身体の動きに柔軟に対応するナイロンとポリウレタンによる高ストレッチ素材を使い、一見ゆったりとしたサイズ感だが、着用するとフィット感のあるシルエットを描き、生地の上品な光沢が際立つ。生地と同色でさりげなく、左襟にはロゴ、左袖上にはロゴマークのプリントを配した。同素材を使用した「STRETCH TAPERED PANTS(ストレッチ テーパード パンツ)」とのセットアップは、オンビジネスにも対応するワンランク上のスタイルを作る。ジャケット、パンツともにS〜XXLと幅広いサイズ展開も嬉しい。

クロノス ブラックの「TAILORED STRETCH JACKET(テーラード ストレッチ ジャケット)」と「STRETCH TAPERED PANTS(ストレッチ テーパード パンツ)」
「CRONOS BLACK(クロノス ブラック)」の集積

メインラインのクロノスでは、人気のスエット、パーカ、シャツを打ち出す。背面の肩下に大きくロゴをプリントした「LOGO SWEAT TOP(ロゴ スエット トップ)」は、インナーとしてもアウターとしても着られる絶妙なサイズ感で、シンプルなデザインながらポケットや切り替えなどディテールにこだわった。グレーやグリーンなど4色を展開し、特に黒地にブルーのロゴを施したタイプが今季の一番人気となっている。「SWITCHING HOODIE(スイッチング フーディー)」は一押しアイテム。左肩から前後へ斜めに入った大胆な切り替えが特徴だが、他アイテムとのコーディネートがしやすいよう設計されている。伸縮性と吸湿速乾性に優れた新素材「DRYMIX(ドライミックス)」を使用した同デザインの「DRYMIX LONGPANTS(ドライミックス ロングパンツ)」と共に揃えたい。秋冬の新作アイテム「BOA JACKET(ボア ジャケット)」は、防寒性はもとより、両肩のクロノス特有の切り替え、タタミ刺繍で表現したロゴ、オリジナルのジップなどディテールの工夫が凝縮された一着となっている。

「SWITCHING HOODIE(スイッチング フーディー)」
「LOGO SWEAT TOP(ロゴ スエット トップ)」と「2 LINE STRETCH LONGPANTS(2ライン ストレッチ ロングパンツ)」
「BOA JACKET(ボア ジャケット)」
「DRYMIX LONGPANTS(ドライミックス ロングパンツ)」

「RIB SHORT ZIP HOODIE(リブ ショート ジップ フーディー)」は、ウィメンズのアイコンモデル。ショート丈のウエスト部分に太めのリブを採用し、鍛え上げた身体をスタイルアップして見せる。ストレッチ素材やドロップショルダーによりフィット感と動きやすさを生み、裏はフレンチテリーのしなやかな肌触りが心地良い着用感。今季は新色のブルーを投入し、同素材の「HIP LOGO FLARE PANTS(ヒップ ロゴ フレアパンツ)」と共に好評だ。トレーニングをはじめ様々なシーンに対応する「MOCK NECK TANK TOP(モックネック タンクトップ)」や、オリジナルのテクノロジー素材を使った「CROSS LOGO BRA LEGGINGS(クロスロゴ ブラ レギンス)」など、鍛える女性をサポートするアイテムも並ぶ。

「HIP LOGO FLARE PANTS(ヒップ ロゴ フレアパンツ)」のカラーバリエーション
「RIB SHORT ZIP HOODIE(リブ ショート ジップ フーディー)」と「HIP LOGO FLARE PANTS(ヒップ ロゴ フレアパンツ)」
「CROSS LOGO BRA(クロスロゴ ブラ)」と「CROSS LOGO LEGGINGS(クロスロゴレギンス)」のコーディネート
「MOCK NECK TANK TOP(モックネック タンクトップ)」

オープンに際しては、店舗限定アイテムとしてドロップショルダーなどクロノスを象徴するディテールを施したクルーネックのオーバーサイズスエットシャツとTシャツを揃えた。スエットシャツは白と黒の2色展開で、それぞれの右袖にボディーの色の反転色で切り替えを入れ、右胸にギンザ シックス店のみの筆記体ロゴ、背にロゴマークを配した。Tシャツは「和」のモチーフをグラフィックでストレートに表現。「限定アイテムは特に外国人のお客様にウケが良く、一番人気。クロノスを知らなかったお客様もサイズが合えば購入されています」と、ターゲットを捉えている。

Tシャツ(ギンザ シックス店限定)
オーバーサイズスエットシャツ(ギンザ シックス店限定)

海外進出、ラグジュアリーブランドを目指す

クロノスのウェアはボディビルダーの体型をベースに一般的なブランドよりも大きく設計されているため、最初はサイズ選びで迷う人もいる。それだけに直営の実店舗は重要なチャネルであり、販売スタッフはブランドにとって大切な存在だ。「ECは便利だけれどサイズ感が伝わりづらいので、実店舗で接客を通して試着していただく、または公式LINEなどで身長や体重、体型の特徴などをスタッフが聞き取りながら最適なサイズを選ぶといったやりとりを密に行っている」という。ヒューマンタッチなコミュニケーションは、クロノスのCRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)に大きな役割を果たしている。
ギンザ シックス店はクロノス未体験者の集客が目的の一つであるだけに、サイズ提案はファン作りの鍵となるかもしれない。そうした新しい客層の開拓に向け、今後はブランドのアンバサダーの充実も図っていく。「アンバサダーに憧れている人がクロノスを購入することがとても多い」ことから、スポーツ関係では領域を広げ、ファッション分野からもモデルなどを起用し、来店イベントも活発化していく考え。
実店舗は現在7店舗だが、主要都市以外への出店も含め、24年末までに20店舗へと拡大する計画だ。海外展開も視野に入れ、まずはアジア圏への進出を目指す。その起点としてギンザ シックス店を位置づけ、クロノス ブラックのさらなるクオリティーアップなどMDのアップデートを進めながら、「ラグジュアリーブランドを目指す」としている。

写真/遠藤純、ワールドフィット提供
取材・文/久保雅裕

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久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディターウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

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