今シーズンは初日デムナによる「グッチ」に始まり、シモーネ・ベロッティによる「ジル サンダー」、ダリオ・ヴィターレによる「ヴェルサーチェ」、ルイーズ・トロッターによる「ボッテガ・ヴェネタ」まで、クリエイティブ・ディレクターの初コレクションに注目が集まった。その一方でMFWの直前に、ミラノファッションの一時代を作った「帝王」ジョルジオ・アルマーニが逝去。本人が手掛けた最後のコレクションで最終日を締めくくり、様々な意味で、ミラノファッション界が変換期に入っていることを感じさせるようなシーズンとなった。
全体的には、情報に溢れ、猛スピードで物事が移り変わる現状や戦争、不況による深刻な社会情勢に対する不確定さや不安を払しょくするかのように、「自由」「開放」「調和」といったキーワードが見られた。実際、MFWの前日にもパレスチナ問題に抗議する大型デモが行われるなど、イタリアにおける世界情勢への緊張感は日本の比ではない。そんな中、ランウェイに登場したのは、カラフルな色使いや花など自然に癒しを求めるモチーフ使い、既成概念に捕らわれないデザインや素材使い、エアリーや透け感が醸し出す軽さ、レイヤードによるハーモニーとバランス・・・。それは混沌とした現代に、明るく軽く、自由に快適に装いたいという欲求の表れなのかもしれない。またそんなコントラストの延長線上で、リゾートと都市生活という両極をテーマにしたブランドも多かった。
ところで、今シーズンはショーという形にこだわらない新作発表も話題になっており、「グッチ」は映画上映イベント、「ディーゼル」は 「エッグ・ハント」でプレゼンテーションを行った。また「スンネイ」はオークション形式をとり、最後は2人の創業デザイナー自身まで売りに出した上、プレゼンテーション翌日には本当に退任するという衝撃的な展開もあった。

新デザイナーによるデビューコレクションが目白押し

グッチ(Gucci)

デムナによる新作を、ポートレート風に収めたルックブック形式で公開。MFW初日には、新コレクションからのインスパイアで作られた映画「ザ・タイガー」の上映イベントを開催した。GGボタンをあしらった60年代風の真っ赤なAラインコート、フローラ柄を全身にプリントしたドレス、またはバンブーバッグやジャッキーバッグ、ホースビットローファーなどの小物で「グッチ」のアイコンをふんだんに散りばめながら、デムナらしいクチュールテイストでコレクションを展開した。

ジル サンダー(Jil Sander)

シモーネ・ベロッティによるデビューコレクション。車のボンネット、甲冑、スキン、レイヤードといった要素をキーワードに、ミニマルで垂直的な中に実験的な遊びを加えることで、厳格さと軽さを共存させた。90年代の「ジル サンダー」を彷彿させる、裾を切りっぱなしにしてボタン位置を高くしたジャケットから、透け感のあるワンピースにブラとブルマを合わせたルックやシルクを重ねて断面を見せたドレスまで、緩急をつけたアイテムたちが登場する。

ヴェルサーチェ(Versace)

ダリオ・ヴィターレによる新生「ヴェルサーチェ」は、創業者ジャンニ・ヴェルサーチェが築いた「肉体と精神」、「俗と神聖」の二面性を強調。鮮烈な色彩のプリントと80年代を思わせるシルエットが展開された。鮮やかなデニム、官能的なエッチングとパッチのレザーなどを始めとし、テーラリング、ネグリジェ、デニム、レザー、そしてプリントシャツといったアーカイブからの要素が現代的にリアリティーを持って再構築された。

ミラノのトレンドセッターたちが探る未来

プラダ(PRADA)

情報過多で既成概念に縛られた現代に対抗する、自由や開放への欲求を表現。ワイヤーもカップもないブラや、ルーズなサスペンダー付きスカートなど、本来は体を補正したり、つなぎとめたりする物をあえてルーズに仕上げたアイテムや、ワーカーズウェアやエポレットシャツなどユニフォームの要素にビジュー付きのハイヒールやサテングローブを合わせてコントラストを付けたルックを展開。レースやプリーツ、フリルをパッチワークしたスカートやポケット付きのマイクロショーツなどキャッチーなアイテムも。

フェンディ(FENDI)

シルヴィア・フェンディによる最後のショー(シルヴィアは今後、同社名誉会長に)。ピクセルワールドのイメージで、カラフルな色使いとフラワーモチーフ、軽快なシルエットと遊び心あふれるデザインを展開。スカートにはボタンの代わりにタブを施したテーラードジャケットや、ジッパーやドローストリングなどを使ったコートやドレスでスポーティーなディテールもプラス。カッティングが施されたファーのジャケットや、メッシュ状になったレザーのシャツ、カラフルにイントレチャートされたコートやバッグなど、ピクセルの要素をラグジュアリーに演出したアイテムも登場した。

ドルチェ&ガッバーナ(Dollce&Gabbana)

今シーズンはパジャマが主役。クラシックなメンズパジャマをベースに、コーディネーションとレイヤードの妙が生きる。ブラレット、ビスチェ、レースのショーツなどのランジェリーを見せたり、パジャマの上からコルセットを付けたりと、センシュアルにコーディネート。またはテーラードジャケットやローゲージニットを羽織ったり、中にクラシックなシャツを合わせてパジャマをスーツ代わりにしたり。デニムやランニングシャツなどと合わせたスポーティーなルックからブロケードのジャケットやファーなどのゴージャスなスタイルまで。パジャマ自体もクリスタル装飾や刺しゅうをあしらったものなど様々に展開した。

ディーゼル(Diesel)

イースターに行われる「エッグ・ハント(卵探し)」からの連想で、透明の卵型カプセルにモデルが入った展示。「民主的なファッション」を提唱する「ディーゼル」はこれを街中に置いて、一般参加に。上品な光沢を放つサテンデニムを主流に。レーザー加工されたジャカードで仕立てられたエプロンドレスや、リサイクルポリエステルから作られた鮮やかなカラーのノースリーブバイカージャケットなどが登場する。トロンプルイユのニットのジャンプスーツやドレス、フローラルシフォンのドレスなども揃い、新しいエレガンスやクチュール的テイストが前面に出されていた。

ヌメロヴェントゥーノ(N21)

レイヤードにフォーカスし、様々な要素をミックスして新しいスタイルを構築。スリップドレスにシャツやカーディガンを合わせたり、チェックやゴールドラメのプリーツスカートの下にボリューミーなスカートを重ねたり。マクラメレースや透け素材を使ったスカートやドレスからランジェリーをあえて見せたルックから、黒いシフォンスリップドレスにメンズライクなボンバージャケットを羽織ったマスキュリンとフェミニンのミックスまで登場。レイヤードやコントラストでシンプルな中に個性が光る女性像を表現した。

オニツカタイガー(Onitsuka Tiger)

世界的レベルで人気急上昇中の「オニツカタイガー」。今シーズンは大都市の生活と太陽の光の中のひと時という両極の世界を融合。都会生活を象徴するテーラードジャケットに、トラックパンツやボーダーシャツなどスポーティーなアイテムを合わせてカジュアルダウン。小花のプリントがなされたドレス、80年代風のバラやデイジーのモチーフのアイテム、60年代風のくるみボタンとパッチポケットのディテールが生きたジャケットやミニドレスには、レトロな雰囲気とモダンさが共存する。モンチッチとのコラボレーションのマスコット付きバッグや、「ミキモト」とのコラボレーションのネックレスも登場した。

イタリアらしい職人技が活きる大御所ブランド

エンポリオ アルマーニ(Emporio Armani)

9月4日に逝去した創業者ジョルジオ アルマーニが手掛けた最後のコレクション。旅を終え、再び都市へと戻る瞬間に芽生える日常と非日常の狭間の微妙な感覚を表現した。シルクやリネンを多用し、ワイドで流れるようなシルエットのトラウザーに、スタンドカラーのジャケットやロングコート、エアリーなシャツ、透かし編みのセーターをコーディネート。シルク、シフォン、クレープ素材のリゾート感のあるドレスや、ショーツやベスト使いなどのスポーティーな要素も加わる。イカット織やキモノの帯のようなベルト、ラフィアのクロシェキャップやバブーシュのようなフラットなサンダルなど、アルマーニらしい民族的なテイストも見られた。

ジョルジオ アルマーニ(Giorgio Armani)

MFWのフィナーレを飾った、巨匠・ジョルジオ アルマーニの遺作的コレクション。彼が愛したパンテッレリア島の雄大で流れるようなエレガンスとモダンでエネルギッシュなミラノからのイメージ。ソフトなテーラードジャケットやコート、ゆったりしたトラウザーが流れるようなシルエットを描き、サテン、シフォン、ベロアが光と影の遊びを演出する。ニュートラル、グレージュからミッドナイトブルーへと、アルマーニらしいカラーパレットが繰り広げられた。

マックスマーラ(Max Mara)

ポンパドゥール夫人からのイメージで、「ロココ モダン」をテーマとしたコレクション。肩やウエスト部分にはガーゼで巻貝のようならせん状の装飾を施したトレンチコートやペンシルスカート、花弁のようなカット&フォールドピースで構成したオーガンジーのスカートなど自然界の要素が各所に。テーラードジャケットやフラワーモチーフのドレスにチュールを重ねて、優しく立体的な雰囲気を演出。遊び心や軽さの中に優雅さと力強さを差し込み、上品かつパワフルな女性像を描いた。

ポンパドゥール夫人からのイメージで、「ロココ モダン」をテーマとしたコレクション。肩やウエスト部分にはガーゼで巻貝のようならせん状の装飾を施したトレンチコートやペンシルスカート、花弁のようなカット&フォールドピースで構成したオーガンジーのスカートなど自然界の要素が各所に。テーラードジャケットやフラワーモチーフのドレスにチュールを重ねて、優しく立体的な雰囲気を演出。遊び心や軽さの中に優雅さと力強さを差し込み、上品かつパワフルな女性像を描いた。

全体的に強烈な原色を多用し、ブロケードやメタリックジャカード、スパンコール、そして「エトロ」らしいペイズリーを始め、フラワー、ボタニカルなどの様々なプリントがさく裂する、フォークロアテイスト満開のエネルギッシュなコレクション。そんな中にレースやエアリー素材などの透け感のある素材や、フリンジやフリルが各所に使われ、動きのあるフォルムを生み出す。トラックジャケットやニットベスト、デニムなどスポーティーな要素を差し込んだルックがモダンさを添えた。

トッズ(TODS)

インレイによるストライプが施されたレザーのセットアップ、薄いレザーで細いストライプやパイピングを施したシャツやコート、独特のシワ感を出したスエードコートなど卓越したレザー使いが生きるコレクション。新作シューズのステッチ装飾がなされたレザージャケットや、内側の布帛の部分を見せたレザードレスやスカートなど遊び心のきいたアイテム。ナイロンパーカのようなミニドレス、テーラードジャケットにナイロントップスを合わせたスポーティーなルックも登場。ぺブルの形の穴を施したオープントゥの「ゴンミーニ」、太めのステッチが施された「ウェーブ バッグ」などアップデートされたアイコン小物の新作も登場。

フェラガモ(FERRAGAMO)

ブランド創業の1920年代「アフリカーナ」ムーブメントからのインスピレーションで、レオパード柄を始めとしたプリントや、当時を象徴するフリンジ使い、レースをあしらったスリップドレス、ドロップウエストや低めのバックラインのドレス、禁酒時代風のレトロ感あふれるビッグシェイプのメンズスーツなどが登場。シューズには彫刻的な「S」ヒールのパンプスや「キモ」の進化形となるケージ状のレザーパンプスなどアーカイブから引用して進化させたモデルが揃った。

写真/ブランド提供
取材・文/田中 美貴

大学卒業後、雑誌編集者として女性誌、男性ファッション誌等に携わった後、イタリアへ。現在ミラノ在住。ファッションを中心に、カルチャー、旅、食、デザイン&インテリアなどの記事を有名紙誌、WEB媒体に寄稿。コレクション取材歴約15年の経験を生かし、メンズ、ウイメンズのミラノコレクションのハイライト記事やインタビュー等を寄稿。 TV、広告などの撮影コーディネーションや、イタリアにおける日本企業のイベントのオーガナイズやPR、企業カタログ作成やプレスリリースの翻訳なども行う。 副業はベリーダンサー、ベリーダンス講師。

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