「ジバンシィ」や「ランバン」「ケンゾー」などの大きなブランドがプレゼンテーション形式でコレクションを発表するなど、実際にショーを行うブランドは減少傾向にある。日本ブランドは「ソウシオオツキ」が増えて15となり、これまで通り参加ブランド総数の2割以上を保持。日本ブランドの勢いを依然として印象付けたシーズンとなった。
着任直後のアーティスティックディレクターによるコレクションの発表は無く、大きなトピックに乏しいシーズンだったが、ファッション業界内で口々に上る話題といえば、専ら猛暑についてだった。
前週から高温傾向が続き、会期初日の最高気温は36度、24、25日は40度まで上昇して酷暑日となり、38度に下がった27日まで熱波に見舞われ続けた。会期中、猛暑日ではなかったのは最終日の28日のみだったが、全て真夏日以上という異常な高温にファッション業界人は悩まされ続けた。協会は、ショーに関連するスタッフやモデル、来場者に対しての安全確保を各ブランドに呼びかけ、特に大きなブランドは時間を早めたり、定刻通りにショーがスタートする旨を招待者に告知し、早々に入場するよう促したりするなどしていた。そんな中、消防隊の救助活動は飽和状態となり、熱中症の危険性を回避するために、26~27日に掛けてパリにおける酒類の販売を禁止する措置を行った。そして、26~28日に掛けて行われる予定だったエイズ感染者の連帯を示す音楽フェスティバル「ソリデイ」は中止となり、27日に予定されていたLGBTQのパレード「ゲイプライド2026」は9月に延期。猛烈な熱波が様々な催し物の予定を変更させたが、パリコレクションは決行。ファッション業界の過酷さ・残酷さが浮き彫りになったのだった。
キディル
敢えてパンク的な表現から距離を置き、美しい物、自分にとってのパンクを形作ろうとしたという末安弘明による「キディル」。これまでセックス・ピストルズのアートワークで知られるジェイミー・リード等とコラボレーションをしてきたが、それらの直接的なパンクのイメージから脱却。曲線パターンで構成したテーラードや、複雑な交差を見せるチェックのブルゾンなど、服のシルエットそのものの優雅さや、物作りの技巧の高さを漂わせるアイテムで構成。着用するうちに形を変えるアイテムも目を引いた。ひび割れる塗装を施し、塗装が剥がれ落ちることでバッジやディテールが露になるデニムジャケット、シリコンで覆ったフライヤーのような紙を貼り付けたアイテムは、それらが剝がれると、下から別のフライヤーのシルクスクリーンが現れるという仕掛けが施されている。今季はアメリカの「ジューシークチュール」とコラボし、ラインストーンやスパンコールをあしらったスエットを発表。ジューシークチュールは、日本では2000年代の浜崎あゆみなどのギャル文化の系譜で語られるブランドであり、敢えてその雰囲気を取り入れたかったという。メンズも着用可能にするために、ユニセックスサイズで提案していた。
サン・ローラン
イヴ・サン・ローランによるクリエーションが持つ官能的なエッセンスを咀嚼(そしゃく)し、モダンウェアとして再構成したアンソニー・ヴァカレロによる「サン・ローラン」。新素材と独創的なカッティングから生まれたアイテムは、シンプルでありながら、匂い発つようなセクシャルな要素も漂わせている。タックを連ねたバギーなパンツには、1970年代のコスチュームジュエリーを思わせるラインストーンをあしらった大きなボタンを飾り、オーバーサイズのドロップショルダーのジャケットには、立体的なビンテージブローチ風ボタンをセット。足先の透けるPVCのシューズや、肌にフィットするシースルーニットプル、ヌードカラーレザーのショーツといった肌を強調するアイテムがコレクション全体をよりフィジカルな印象に。ギャザーにより18世紀の男性のシャツのような効果を出した、テクニカル素材によるワークウェアインスパイアのブルゾンやゴールドのトレンチなど、目を引くアイテムの多い、濃密なコレクションとなった。
オーラリー
オデオン座の回廊を会場にショーを開催した岩井良太による「オーラリー」。リゾートウェア、ホリデーウェアを思わせるリラックスした雰囲気のルックで構成し、旅にイメージを求めた。鮮烈なブルーや赤、パープルといった強い色を配して、より享楽的なイメージを増幅。素材はウール、カシミアなどの自然素材を中心に、シルク羽二重といった和を思わせる素材もあしらっている。ジャケットのスリーブの幅を広く取ったり、ゆるいドロップショルダーに仕立てたり。目立たないが、これまで通り様々な仕掛けを随所に散りばめて、本来ならばフォーマルなスタイルも柔らかいシルエットに仕上げている。今季は南国でのリゾートを意識してか、フルーツモチーフのネックレスを合わせたルックが多く登場。スーツに合わせたシャツの袖にもバナナボタンが飾られていた。
ルイ・ヴィトン
ファレル・ウィリアムスによる「ルイ・ヴィトン」は、「A Dandy Experience」と題しサーファーのスタイルをラグジュアリーに落とし込んだコレクションを発表。これまでブランドのコードとしてきた「ダンディ」のイメージを投影しながらも、ウェットスーツに用いるテクニカル素材をあしらったスーツなど、よりスポーティーで機能性を高めたテーラリングを提案している。シンプルなスーツにレザーブルゾンを合わせる、あるいはジャケットにデニムショーツをコーディネートするなど、カジュアルダウンすることでリラックスしたダンディズムが垣間見えた。ワッペンで埋め尽くされたブルゾンや刺繍を施したジップアップスウェット、一見するとアランニットに見えるが、実はファーを刈り込んで騙し(だまし)絵(トロンプルイユ)風に仕立てたトップスなど、ブランドの持つ技術力に裏打ちされた遊び心あるアイテムがコレクション全体を彩っている。
ケンゾー
NIGOによるケンゾーは、1976年に髙田賢三がオープンさせた旗艦店のあったヴィクトワール広場で最新コレクションを披露。髙田賢三本人やマイルス・デイビスなどの70年代のアイコンがインスピレーション源となっている。また、80年代に髙田賢三が発表したアイビーリーグのコレクションをモダナイズしたり、82年の秋冬コレクションで最終ルックを飾ったブレード素材を張り巡らせたドレスからインスパイアされたアイテムを披露したり、アーカイブを紐解いた作品が目を引いた。盆栽モチーフをプリントや刺繍で表現し、76年の伝説的なオープニングパーティーの様子を描いたオリジナルイラストをプリントするなど、目を楽しませてくれる要素もふんだんに散りばめている。服を披露するスペース以外にも、広場に面した3店舗を1週間に渡って借り上げ、ポップアップストアとカフェ、フラワーショップ、そして日本式コンビニエンスストアを設置。華やかなプレゼンテーションとなった。
ビューティフル・ピープル
マレ地区の小さなスペースで、3回のミニショーを行った熊切秀典による「ビューティフル・ピープル」。これまで「Side-C」「Système D」といったシリーズで、独自のひねりを加えた服作りを見せてきたが、ブランド設立20周年を迎えた今季は「Natural E」を披露。自ら「三部作の到達点」と表現するだけあり、各ルックのシルエットの美しさが印象的だった。リバーシブルは当たり前で、上下逆さまに着用することができ、それが無理なくごく自然に身体にフィットしている。ブルーのプリントドレスは2パターンの着こなしが可能で、そのどちらも流れるようなエレガントなシルエットを描く。シャネルジャケット風のニットカーディガンは、リブカラーのカーディガンとしても着用可能。それぞれが機能性と装飾性、多様性、そして遊び心を持ち合わせ、見る者をワクワクさせるコレクションとなった。
ジバンシィ
創始者ユベール・ドゥ・ジバンシィの邸宅で、サラ・バートンによる初のメンズコレクションをプレゼンテーション形式で発表したジバンシィ。三月に発表されたウィメンズコレクションからの流れで、様々なディテールを継続させている。ウエストをタックで絞ったジャケットや、フランドルの絵画風花モチーフ刺繍のブルゾン、シルク糸によるフランス刺繍の古い生地を用いたコートなどは、メンズ用にサイジングされ、多くにシンプルなスラックスをコーディネート。またアクセサリーのモチーフをカフスボタンにあしらったり、チューリップモチーフのビーズとラインストーンのブローチを飾ったり、ウィメンズコレクションからの様々な引用が見られた。そんな中で、ボーダー柄のシャツを合わせたマリンスタイルを提案。どこかにビンテージ感を漂わせ、カジュアルでありながらも、ゆったりとしたシルエットが優美。また、レイチェル・ホワイトリードの作品からインスパイアされた、レザー製スエットの上下のシリーズをホワイトリードの作品と共にインスタレーションとして披露。ポップなカラーリングによって鮮烈な印象を残し、コンテンポラリーアートそのものの様相を見せていた。
リック・オウエンス
タイトルを「Stone」と題し、プロテクション(防御)をテーマにしたコレクションを発表した「リック・オウエンス」。今季は、特に2017年以来となるアディダスとのコラボレーションによるシューズと、日本では空調服として知られる「クライマクール」を内蔵したジャケットとショーツが目を引いた。三本線のスエットには、テクニカルジャージのショーツを合わせ、レザーのライダースにはアディダスのロゴ入りのショーツをコーディネート。三本線のロングケープやレザーのコート、ドラキュラカラーのコートに合わせられた三本線のジャージスエットパンツなど、随所にアディダスとのコラボアイテムが散りばめられている。特徴的なディテールとして、軍服などにあしらわれる権威の象徴としての脱着可能な革製エポレットが印象的。マティス・ディ・マッジオとの協業は継続し、今季はチュール素材にシリコンを絞り出してグラデーションに仕上げたタンクトップを発表。1点につき、職人4人で35時間を費やしている。またロンドンのトーチャー・ガーデン・ラテックスのフローレンス・ドゥリュアールとのコラボによるラテックス製ケープやストレイテュケイとのコラボによる張力と圧縮力のバランスによって構造が安定するシステム「テンセグリティ」を応用したチューブ状のラテックス製チャップスが登場した。
アイム メン イッセイミヤケ
コレクションタイトルを「竹翳(ちくえい)礼賛 — In Praise of Bamboo Shadows —」とし、竹の陰影や気配を服に投影した「アイム メン イッセイミヤケ」。パリ装飾美術館で目にした竹をモチーフにした東洋の工芸美術にインスパイアされたという。グラフィックデザイナーの長嶋りかこによる水墨画を思わせる竹翳モチーフをオーガニックコットンに「色泣き」の技法で捺染したシリーズでは、モチーフ自体がシンプルなスーツやコートに不思議な立体感を与える。竹細工の「ござ目編み」の構造をジャカードで表現したシリーズは、布自体の凹凸感と布の張り感がルックをより表情豊かに見せていた。竹取物語のかぐや姫がまとう十二単からヒントを得たタックを重ねた襟のコートは、高密度ナイロンに染料を掛け流して笹や花びらの自然の色彩を表現。筍の皮を手描きしたプリントのシリーズや竹の節の重なりをイメージしたハンドプリーツのシリーズなど、どこかしらに竹の要素を散りばめている。そして、もち米を笹の葉で包んで蒸す「ちまき」をイメージするバッグがコレクションに彩りを与えていた。
ヨーク
パリコレクションを主催する協会の公式カレンダー外で、2回目のショーを開催した寺田典夫による「ヨーク」。客席には、エコファーのケースに入ったファーモチーフの扇子が置かれていたが、これはカップ&ソーサーとスプーンの全てが毛皮で包まれたメレット・オッペンハイムの1936年の作品『毛皮の昼食』から着想を得たもの。シュールレアリストのオッペンハイムが探究した「質感の転換」を意味する「Dépaysement(デペイズマン)」にインスパイアされたという今季。デニムのようなセットアップは、実はレザー製だが、エンボス加工と中白染めによって実際のデニムには無い風合いを持たせ、ヘリンボーンのモチーフをポリエステル素材に刺繍した素材のブルゾンやコートは、独特の重量感を見せる。キュプラにフロッキー加工を施したセットアップは、不思議な光沢と動きが魅力的。オッペンハイムの思想に影響を与えたカール・ユングが唱えた「人間は男性性と女性性の両方を有している」という考察に賛同していたが、それが今季のジェンダーレスな内容に反映。マルセル・ブロイヤーのパイプイスから着想を得た「Pøsitum(ポジタム)」が制作のバッグも印象的だった。
アミリ
マイク・アミリによる「アミリ」は、会場となったトンプル市場跡のカロー・デュ・トンプルに、砂漠を描いた大きなパーテーションを設置してショーを行った。ロサンゼルスの乾いた空気感を漂わせながら、ハリウッドのセレブリティーの生活や華やかな側面をコレクションに投影。私邸、ホテル、プライベートクラブ。カジュアルとフォーマル、公の場と私的な場、様々な場面を想定しながら、バリエーション豊かなアイテムを揃えている。デニムにテーラードジャケットを合わせたり、ピンストライプのスラックスにレザーのパッチワークブルゾンを合わせたりするなどして、カジュアルとフォーマルの境界線を曖昧にして見せる。クラシカルなスーツ類には光を反射させる要素を配し、よりグラマラスなイメージに仕上げていた。リチャード・ギア主演の1980年の『アメリカン・ジゴロ』もインスピレーション源のひとつになっているといい、フォルモサ・カフェやグローマンズ・チャイニーズ・シアターといったハリウッドの名所におけるインテリアも、モチーフとして各アイテムを飾る要素となっている。東洋柄の屏風のモチーフやゼブラ柄、タペストリーの柄などを引用。ハリウッドを多面的に捉えてコレクションに落とし込んでいた。
ドリス・ヴァン・ノッテン
BGMにクロード・ドビュッシー作曲の『牧神の午後への前奏曲』が流れてショーがスタートしたジュリアン・クロスナーによる「ドリス・ヴァン・ノッテン」。偶々手にしたステファヌ・マラルメの詩集『半獣神の午後』からインスパイアされたという今季。詩は、半獣神が夢か現かわからぬ状態でニンフたちとの官能的な体験を語る内容で、コレクション全体を淡いトーンに統一し、半獣神の住処である森の木々、草花を思わせる自然をモチーフにしたプリントが各アイテムを彩っている。そして、タンクトップやランジェリーを思わせるディテールが、詩が与えるセンシュアルな側面を具現化。ウォッシュドシルクや薄いウール、艶やかなナイロンなど、肌と溶け合うような薄い素材を多用し、コートやブルゾンの裾は風になびく。ルックによってはレースアップのバレエシューズが合わせられていたが、ドビュッシーの前奏曲にヴァーツラフ・ニジンスキーが振り付けをしたバレエ『牧神の午後』を想起。後半には湖面に映る月をプリントしたシルクをあしらったアイテムや、夜更けを思わせる漆黒のテーラリングが登場。『半獣神の午後』というフィルターを通しながら、このブランドの世界観が存分に伝わる内容となっていた。
ランバン
ピーター・コッピングによる「ランバン」は、18世紀建立の建築物である新社屋にてプレゼンテーション形式でコレクションを発表した。1925年からスタートしたメンズコレクションは、今年100周年となる。今季も、ブランド創始者のジャンヌ・ランバンのクリエーション、そして彼女が活躍したアール・デコ期とシュールレアリストたちからインスパイア。コレクションタイトルは「Cadavre exquis/優美な屍骸(しがい)」。これは、シュールレアリストたちが、自身の制作した作品を互いに内容を知らせずに持ち寄り、新しい文章、詩、絵画作品を生み出す手法。コレクションでは、トップとボトムをランダムに合わせても、それぞれが一つのルックとして成立する仕掛けを施している。イメージボードには、工芸品やアーカイブの写真の他に、デレク・ジャーマン、ジュリアン・シュナーベル、ベルナール・ビュッフェ、ジャン・コクトー、藤田嗣治などのアーティストのポートレート。今季は特にブルーワーカーのイメージからインスパイアされ、パーカ、サファリジャケット、ワークパンツ、ジャンプスーツ、トレンチコートといった実用性の高いアイテムを揃えている。そして「ジョン・スメドレー」とのコラボのシーアイランドコットンによるニットプルを発表。ランバンブルーのボーダーモチーフや、アーカイブから引用されたジグザグの山形モチーフをあしらっている。
メゾンミハラヤスヒロ
三原康裕による「メゾンミハラヤスヒロ」は、「ENDLESS SUMMER」と題したコレクションを発表。「夏が嫌い」と公言してはばからない三原は、夏特有の良さを認めつつ、実は夏の到来を秘かに待ち続けているという。今季も、様々な仕掛けを随所に散りばめて、違和感を呼び起こす服作りを続け、その服作りの姿勢に変化は無い。それを変わらない夏への感情と重ねていた。シャツと一体型になっているジャケットには、クリーニングのタグが付き、袖はクリップでロールアップ。ダメージ加工を施したカーディガンは、重ね着のように見えて、実は一体型。パンツは前身頃が二重の構造。サテンのボンバースは、オープンになった袖から腕を出し、ケープのように着用。バックサイドにボリュームを持たせたケープのようなシルエットは、いくつかのルックで見られて目を引いた。スーツカバーを切り開いたかのようなブルゾンや、スーツ用のウールとデニムを用いて前後で全く表情の異なるスカートなど、これまで通りだがアイデアの豊富さに驚かされる。カジュアルな雰囲気で、ルックによってはストリートスタイルを踏襲しながらも、どこかにエレガンスを漂わせている点もシュールレアリスティックに感じさせた。
カラー
堀内太郎による「カラー」は、「Aliens」と題したコレクションを発表した。この場合、宇宙人を示さず、異なる文化や背景を持つ人々を意味しているが、ファーストルックの真っ黒なスクレラコンタクトレンズを装着したモデルが登場し、それが映画『メン・イン・ブラック』を彷彿とさせる。エイリアンをテーマにした映画に出演し、エイリアンを歌ったデヴィッド・ボウイの『ダイヤモンドの犬』を思わせるプリントを施したスカートや、宇宙人のステレオタイプの描写であるリトル・グリーン・マンを思わせるグリーンのアイテム群が宇宙人を強く想起させる。ファーをプリントしたトレンチ、リボンを花のように刺繍したブルゾン、梯子のようにトグルを配置した薄地のダッフルコート、ブルゾンをプリントしたハーフコートなど、どこかに違和感を覚えるルックで構成。今季は、音楽に台湾のサイケデリックデュオ、モン・トンを迎え、ギリシャを拠点に活動するドイツ人アーティスト、クラウス・シュミットがモチーフを考案し、中国生まれで日本を拠点に活動するヤン・ボーがグラフィックデザインを担当。互いに異文化を背景にする者たちによる協働が、一つのコレクションを完成に導いていた。
ターク
森川拓野による「ターク」は、「発見の眼差し」と題したコレクションを発表。今季は、特に大きな影響を受けたとするアーヴィング・ペンの写真集『Flowers』を想起させるプリントが目を引いた。グラデーション素材に枯れかかった花をプリントしたり、襟を含めたシャツの前面にプリントしたり。その大胆さが強烈な印象を与えるも、どれもがエレガントな仕上がり。大きな面積をカットワークし、リボンで刺繍を施したジャケットや、ジャカード素材のナポレオンジャケットなど、このブランドのアイコンともいえる技法や素材のアイテムの他に、白と黒のメッシュを重ねたニットポロや、装飾性の高い刺繍を施したストライプのセットアップなどが登場。カラーリングも、花モチーフから引用されたバーガンディやブラウン、イエローなどが印象的。イエローのコートやブルゾン、メッシュのトップスなど、レザー使いのアイテムがコレクション全体をより重厚なものにしていた。
シュタイン
浅川喜一郎による「シュタイン」は、日常で目にする人々からインスパイアされたコレクションを発表。早朝に散歩に出掛けると、脳がフラットな状態で前向きになれると語り、そんな時に周りにいる人々が優しさを内包する存在として目に映るという。今季は、そういった感覚が素材とシルエットに反映。レザーやデニムなど、多くに柔らかい素材を用い、トップスについては、バックサイドのヘムにギャザーを寄せることで丸みを帯びたシルエットに。ギャザーはブルゾンのみならず、ジャケットにも適用。カラーパレットはロニ・ホーンの画集『Remembered Words』から着想を得た。水彩のドットで表現された絵は様々な色で彩られているが、イエロー、グリーン、ピンク、ブルーといった淡い色調からトープ、ベージュ、赤みのあるブラウンなど、美しい色合いが引用されている。素材にもこれまで以上に強いこだわりを見せ、オルメテックスとの特注色のナイロン地、ポントリオのコーデュロイなどをあしらい、イタリアのカノニコやデルフィノのスーパーライトウールによる手まつりの七つ折りネクタイがコレクションを彩った。
セリーヌ
昨年、ニコラ・ジェスキエールのアシスタント経験のあるマイケル・ライダーが着任した「セリーヌ」。以来、メンズコレクションはプレコレクションに付随して発表されてきたが、今回が初のメンズ単体のショー発表となった。コレクション全体に流れる空気感は、旅で得られる解放感やフリースピリット。リゾート地に集まる富裕層ではなく、どちらかと言えば、気楽に思いのまま旅をするヒッピー的なマインドを持つ若者を描いている。ギュウギュウ詰めにパッキングすることで生まれるシワは、シャツやジャケットに刻まれ、今回パートナーシップとして「リーボック」が制作をしたラムレザー製のシューズ「フリースタイル」は使用感を出すために汚しを施し、紐の先端は毛羽立っている。そんな気ままさを前面に打ち出しながらも、どこかにセリーヌらしいエレガンスと品位が保たれ、コーディネートの妙により新鮮なモードに仕上がっていた。
ダブレット
井野将之による「ダブレット」は、空気、木、炭素、バナナ、海洋資源、農業廃棄物などを素に作られた素材によるアイテムで、一人の人間の朝昼晩の様子を表現。そうして、新素材がごく当たり前に使われる世界を描いて見せた。パンをかじるギャルからスタート。昼はカジュアルな街着、そして夜は艶めかしいランジェリードレス姿となり、その変遷がこのブランドらしいユーモアと共に描かれる。守銭奴のサラリーマンは、高級腕時計を思わせるモチーフのロングTシャツと、素肌にストリングショーツを重ねたプリントがはめ込まれたショーツで目覚め、お札を配したスーツを着用し、札束バッグを携えて出勤。夜はレインコートを重ねて帰宅する。若い男性はパジャマからオタク風チェックのシャツに着替え、最終的にウーバーイーツ風のコスチュームに。プーマとのコラボも登場。ピューマ(プーマ)を愛する女性は、ピューマを見失うが、最後に見つけ出して一件落着。モデルは、ドイツのプーマ社の食堂で働く女性が務めた。
ベッドフォード
山岸慎平による「ベッドフォード」は、「Lemon」と題し、コレクションを通して豊かさとは何かを考察した。イタリアの街で見かけた婦人たちは、夕暮れ時、道端にイスを出してワインを一杯飲み、そして家々に戻ったのだが、彼女たちと山岸の間にあったものがレモンだった。それが豊かさについて考えるきっかけとなり、象徴的なモチーフとなった。これまでの厳格な物作りからの反動で、緊張感を手放して「愛嬌」を漂わせることが豊かさとリンクすると考えたのか、全体的に享楽的なディテール使いと柔らかい素材使いが目を引く。小紋の小花柄の裏地や花を刺繡したショール、和紙を織り込んだマルチカラーのチェーンをあしらったニットカーディガン、そして陽気ささえ称えるレモンモチーフのシャツ。前回のショーでもBGMを担当したLikkleによる演奏をバックに、中庭でのガーデンパーティーのような雰囲気の中でのショー発表だったが、依然として完璧さを追求する強い姿勢はどのルックからも感じ取れたのだった。
<まとめ>
特定のアイテムや色使いではなく、フォーマルとカジュアルの境目を曖昧にし、リラックス感あるエレガンスを演出するコーディネートが目を引いた今季。デニムパンツにテーラードジャケット、Gジャンにスーツ用のスラックス、フロックコートにデニムパンツといった、良家の出身者風に見せるアイテムの取り合わせがパリっぽいと言えばパリっぽい。
ピーター・コッピングによるランバンは、シュールレアリストたちが各自の作品を持ち寄り、新しい作品を共同で生み出す、半ば遊びのような手法『Cadavre exquis(優美な屍骸)』をコレクションの主題にしていた。ブルーワーカーのワークウェアからインスパイアされたブルゾンやコート類を披露していたが、トップとボトムをランダムに組み合わせても、一つのルックとして完成するようにトータルでデザインしている点が興味深い。結果的に、カジュアルとフォーマルの融合が生まれていたのだが、コレクション全体に柔らかい表情を与えながら、クチュールメゾンであるランバンらしいエレガンスもしっかりと打ち出されていた。
世界情勢の不安が続く中、ヨーロッパに熱波が襲い掛かり、その最中に始まったメンズコレクション。リック・オウエンスはロシアのウクライナ侵攻以降、争いの続く状況をそれとなしに憂いる姿勢を示し続けている。しかし、全体を見回してみると、そういったネガティブな世相に対して声を上げるデザイナーは彼以外にほとんど見られない。むしろ、享楽的な側面を打ち出すブランドが多かった。
サーフ・カルチャーに着目したルイ・ヴィトン、『半獣神の午後』の夢の世界を服に落とし込んだドリス・ヴァン・ノッテン、リゾートウェアやホリデーウェアを提案したオーラリー、ラテン的な豊かさに目を向けたベッドフォード、ヒッピー的な気ままな旅を表現したセリーヌ。鬱屈とした世界から距離を置き、自らの楽しみを追求する姿勢こそが最高の贅沢、とでも言いたいかのようである。しかし、それは人々が考える思考の代弁であり、デザイナーたちからのメッセージだったのかもしれない。そんなことを考えたパリ・メンズコレクションだった。

清水友顕(しみず ともあき)
1994年、大学卒業後に渡仏し、96年にモード学校ステューディオ・ベルソーを卒業。ランバン、ケンゾーでの実習経験を経て、ファッションジャーナリストとして活動。古いビーズやぬいぐるみ収集を発端に蚤の市巡りがライフワークとなり、2010年以降は蚤の市イベントを日本各地で開催。著書に『パリ蚤の市散歩〜とっておきガイド&リメイク・リペア術』、『パリのヴィンテージファッション散歩』。
