一方で、公式ショーは20本にとどまり、その少なさも話題となった。主催者側は「量より質」を優先し厳選したこと、ウィズコロナ期より続いていたオンライン形式を取りやめたことを挙げるが、ビフォアコロナと比べると減少は否めない。オンラインを含む発表形式の多様化、メンズデザイナーの前倒し発表、かつて柱であったミセスプレタブランドの高齢化など、環境の変化が背景にある。
では、東京コレクションに参加する意義とは何か。一つは「業界に名を知らしめ、世界進出の足掛かりをつかむ」ことだ。これは従来から果たしてきた役割である。また「卸先を増やしたい若手」にとっても意義がある。その結果、東京コレクションは若いブランドが集う場となった。「世界からバイヤーやジャーナリストを呼べるブランドがない」と指摘されることもあるが、若手や気鋭が競い合うことでクリエーションの水準は確実に向上している。東京コレクションは、デザイナーが世界へ羽ばたくためのゲートウェイとしての役割を担いつつあるといえよう。
JFW設立20周年を彩った特別ショー

津森千里が「自分の好きなものを集めた」というコレクション。スタッフ手作りの花の装飾の中で、フラワーや海の生物、ランドスケープなどのモチーフをあしらったルックが次々と登場した。ハッピーで自由なムードは津森ならでは。シアー素材にデニムを合わせたり、大胆なラッフルやクラフト感のある装飾を取り入れたりしながら、相反する要素を自在に組み合わせて魅せた。

故・平田暁夫の娘・平田欧子、孫の平田早姫と平田翔による家族3人のモディストが手がけた31点の帽子を中心に据えたコレクション。「ミスターイット」の砂川卓也、「タム」の玉田達也、「リュウノスケオカザキ」の岡﨑龍之祐といった東京の新世代を担うデザイナーたちが参加した。帽子を主役としつつ、美しい落ち感や帽子のデザインと融合した素材使いなどで革新性を打ち出したショーとなった。
身体礼賛のムードが高まる
コレクションの内容を見ると、「身体礼賛」のムードが高まった。ボディコンシャスなフィットのドレスやボディスーツ、足出しや肌見せ、ランジェリーデザインなどを多用した、日本らしいボディポジティブな提案が目立った。近年の東京において、この流れを真っ先に打ち出したのが、「フェティコ」だ。2023年春夏シーズンのRFWTに初参加し、日本女性の肌や肉体の美しさを讃えたコレクションを発表して以来、独自のジャンルを切り拓いてきた。今シーズンは楽天による「by R」プロジェクトを通じてコレクションを発表し、「スリー」との協業による香りが漂う空間で、ランジェリーやスイムウェアなども取り入れた。
元バレリーナの幾左田千佳がデザインする「チカ キサダ」は、バレエコアなピースでフェミニンな世界観を創り上げてきたが、先シーズンはパンキッシュなコレクションを発表したことが記憶に新しい。その「チカ キサダ」が今シーズンは大胆に肌を見せるスタイルを提示。ヌードカラーやほつれ、引き裂きの加工などを施し、シャビーでフェティッシュな女性像を描いた。
そして今シーズンの注目が、木村由佳が手がける「ムッシャン」だ。「JFW NEXT BRAND AWARD 2026」でグランプリを受賞した若き実力派で、シグネチャーでもある「セカンドスキン」で知られる。収縮性のあるリブコットンを使用したシリーズで、様々な体型にフィットする、まさに皮膚のようなウェアだ。記念すべきRFWTでのデビューショーでは、この「セカンドスキン」を軸にレイヤードし、緊張感のあるシルエットやドレープ、シアー素材を駆使して魅力的なコレクションを創り上げた。
他にも、スポーツを軸としたコレクションが売りの「ナゴンスタンス」や、ネオロマンティックをテーマにした「ヴィヴィアーノ」も、身体のラインを強調するピースなど女性の身体美を前面に押し出すコレクションを発表した。

ブランド設立5周年を記念するコレクションとなった今シーズン。レースのように見えるホールガーメントのニットトップスにランジェリードレスを合わせたルックや、背面が大胆に開いたジャケットやドレスなど、ブランドらしさに一段と洗練を加えたコレクションを見せた。構築的なシルエットで表現されたダマスク柄の牧歌的なドレスやジャケットが印象的。
タイツやレオタード、チュチュなどバレエ由来のアイテムをセンシュアルかつフェティッシュに昇華したコレクション。ボトムレスで脚を強調したり、シアーで肌を露わにしたりして、身体とテキスタイルの境界を曖昧に描き出した。さらに、ほつれや破れといったディテールが相まって、前衛的なムードを漂わせるショーとなった。
ムッシャン

巷で話題となった「7月5日の予言」をきっかけに、自身の本質を見つめ直したというデザイナー木村由佳。ボディコンシャスなシルエットや肌見せといったセンシュアルなスタイリングに目を奪われるが、アイテム一つひとつは服の本質的な価値を突き詰めている。シグネチャーの「セカンドスキンシリーズ」を筆頭に、着心地が良く体に負担のかからない素材を用い、リバーシブルなど利便性を備えたアイテムも揃えた。

「マウンテン・トレイル」をテーマに、岩肌をイメージしたドレスやトレイルランニングのウェアをイメージしたような未来的にも見えるルックを提案。カラフルなカラーパレットは、山道で見る豊かな自然や稜線に出て頂上から見る景色を表現した。画家の羽生みつ子の絵画をプリントとして落とし込んだシリーズが今回のコレクションを象徴するルックだった。

“YOUR SILENT WATERFALL”をテーマに発表されたコレクション。淡いブルーや縦に落ちるフリンジ、ドレープによって、滝や水の流れが生み出す偶発的な美を表現した。また、同ブランドとしては珍しいデニムルックはハンドクラフトで仕上げられ、構築的なシルエットを描き出す。さらにデニム以外にも、オーガンジーや和装の帯といった日本の技術を取り入れ、日本ブランドならではのリュクスさを表現した。

今シーズンは“昔の図鑑のような絵柄”をイメージしたというボタニカルなフラワー柄が特徴的。また、ブランドらしいエレガントで清廉なアイテムにアクセントとなる強いカラーパレットも追加した。印象的な蛍光グリーンは、白い素材に顔料のコーディングをして、洗うたびに顔料が落ちて表情の変化を楽しめるという。また、流れるようなドレープ感を意識したというブラウスやパンツなど、今季は柔らかいシルエットが多く見られた。

カーディガン、ミドル丈のスカート、シンプルなワンピースなど、日常着の定番アイテムを「ピリングス」ならではの解釈でクチュールとして提案した。無造作に留めたボタンやベルトが生むシワや捻り、素朴なニットにシアー素材を重ね合わせることで、新たな表情を引き出す。これまでニット中心だったが、今季は布帛も取り入れ、よりトータルなコレクションへと進化させた。
多様な表情を見せる東京メンズ
東京のファッションウィークでコレクションを発表してきたメンズデザイナーたち。彼らはこれまでパリ・ファッションウィークにおいてもクリエーションを下支えしてきた存在である。アバンギャルド、ストリート、ユーティリティデザイン、ポップカルチャーといった要素は、長らく東京メンズの強みとされてきたが、近年はシンプルさを前面に押し出したイージーテーラリングも加わり、その表現は一層多様化している。今シーズンも東京のメンズデザイナーたちは、それぞれの持ち味を生かしたコレクションを披露した。
人気セレクトショップ「ザ エレファント」の折見健太が手がける「オリミ」は、フォーマルデザインにひねりを加え、異形テーラリングを発表して注目を集めた。欠品が頻発する人気ブランド「アンセルム」は、持ち味である「経年変化を楽しめるアイテム」を提示。「ファンダメンタル」は日本の職人技とリメイク文化を生かし、インディゴブルーに特化した揺るぎないコレクションを打ち出した。
また、先シーズンにRFWTへ初参加した「MSML」は、音楽やストリートカルチャーを背景に持つブランド。前回の力強いスタイリングに加え、軽快さと洗練を取り込み、より幅広い層へアプローチする姿勢を見せた。

「日常と地続きの非日常」を体現するように、メンズの普遍的アイテムを解体・再構築し、ひねりを加えて仕上げたコレクション。ビッグショルダーのジャケットやジャンプスーツを軸に、ボタン使いによる歪みやクロップト、ワイヤー使いで異形へと変貌させる。抑制の効いたモノトーンやバイカラーに、カラーグローブや幾重にも巻いたベルト、円盤状のバッグを加え、前衛性を際立たせていた。

ブランドコンセプトである「視点を変えた経年変化の提案」が示すように、ダメージやほつれ、擦れ、汚れなどをあえて加工として表現したアイテムで独特な表情を生み出した。また、ブランドのシグネチャーであるデニムをはじめ、古着のようなアイテムを、艶のある素材のアウターやパンツ、落ち感がきれいなブルゾンなどとレイヤードすることによって、対照的な組み合わせが織りなす美しさを表現した。

先シーズンはブラックデニムをルックに多く取り入れて新鮮さを出した「ファンダメンタル」。今シーズンは自己を見つめ直し、ブランドの原点であるインディゴブルーにフォーカスしたコレクションを発表した。リメイクや加工によるクラフト感がたっぷりなアイテムをベースに、レイヤードやハギ、ステッチ使いの大胆さが光る。重厚感を和らげるようなインディゴブルーのサテンアイテムやシューズも印象的だ。

強めなイメージの「MSML」が、今季はモード要素を融合。シアーアイテムはイノセントな雰囲気を添え、ロールアップした裏地からのぞくバンダナ柄やカレッジロゴのTシャツ、スカーフはプレッピーな要素を引き寄せる。ライダースジャケットやシレー加工のジャンプスーツは大人っぽく、メッシュトップスは若々しさを演出。ブランドの持ち味を更新し、今後の展開が楽しみなコレクションとなった。
森川マサノリがデザイナーに就任して2シーズン目のコレクション。今シーズンはインスタレーションでコレクションを発表した。テーマは「Human Anatomy(人体解剖学)」。関節をイメージしたパイピングや骨格筋を表現したシャツなど、機能性だけではなく人体の構造をディテールに落とし込んだ遊び心のあるモダンスポーツウェアを提案した。
取材・文:山中健、山根由実
写真:、ヒュンメルオー(筆者撮影)、その他は各ブランド提供