原宿に出現した「ライフスタイルの美術館」

「ONE THIRD RESEARCH」の「ONE THIRD」は3分の1を意味し、人の一日を構成する仕事と遊びと睡眠の境界線を取り払い、シームレスに楽しむ生き方を探求することを表している。「オンとオフ、メンズとウィメンズなど様々な固定概念が時代と共に無くなってきている中で、仕事も暮らしも遊びも自由に混ざり合っていいのではないかと思うんです。好きなことに夢中になって、遊ぶように働いて、生きることそのものが楽しいと実感される。ライフスタイルの中で心が自然に踊り出すきっかけとなるプロダクトを届け、幸せの波動が広がり、ポジティブな連鎖を生み出す物作りを目指しています」と本安佑基さん。その思いを「ココロ踊る、波動の伝播」というブランドコンセプトに込めた。

「幸せの波動が広がり、ポジティブな連鎖を生み出す物作りをしていきたい」と本安佑基さん

波動の発信源となるのが、キャットストリートエリアに出店した旗艦店だ。原宿は大手から新興ブランドまで混交するスニーカーの激戦区だが、その真ん中に飛び込み、静けさが心地良いクリーンなショップを出現させた。ファサードも内装も白を基調とし、ガラス張りで店内が見通せるので興味を引かれる人は多いのではないだろうか。

「ワンサード リサーチ」旗艦店のファサード。中央に据えた折れ線のマークは「波動」を表す

空間コンセプトは「ライフスタイルの美術館」。店内は「禅」の思想に通じる余白の美を意識し、木と紙と石の素材感が与える自然のムードと、そのまま生かしたという床のインダストリアルなムードが融合し、モダンな空間を生んでいる。天井にはホワイトパネルを格子状に張ることで光が空間全体に均一に注ぎ、一点一点の商品を作品のように見せる。
ガラスと木のショーケースや商品を陳列する木のベンチは、明治から戦前に使われた古家具や古道具を再生する工房「DOUGUYA(ドウグヤ)」による。「木の色が僕らのブランドイメージと合うのでリクエストして作っていただきました」と本安さん。もう一つ気になってしまうのが、盆栽。枯れた盆栽を生かし、新たに造形した枝葉を組み合わせたアート作品「RE BONSAI™️(リ ボンサイ)」だ。「伝統文化の未来をデザインする」ことをコンセプトとする「TOUFUTOKYO(トウフトウキョウ)」が展開している。ワンサード リサーチでは3カ月ごとに展示作品を替え、空間表現に変化をつけていく。

天井には白いパネルを張り、均一に光が注ぐようにした
余白の美を表現した美術館のような店内
TOUFUTOKYOによる「RE BONSAI™️」
古家具を再生した木とガラスの什器。「サンコア」のレザースニーカーを提案

機能と美を融合、「日常を少し特別にする」プロダクト

ブランドのコアターゲットは30~40代。プロダクトはユニセックスで使えるものを軸に、製作チームが全員でアイデアや意見を出し合ってデザインや、備えたい機能を決め、年間のMD計画に基づいて自社工場で商品化していく。コンセプトと照らして「まずは自分たちの心が踊るか。心が踊らなかったら作り直し、OKだったら商品化する」というスタンスを採っている。結果、ファーストコレクションはスニーカーが15型、バッグが30型となった。オープンから約半年が経過した時点で、すでに定番のように動いているアイテムもある。

壁面のシューズの集積。障子を開けてディスプレイ
壁面のバッグの集積。白を基調に障子で和のムードを取り入れた

スニーカーは「SWELL(スウェル)」シリーズが日本人客にも外国人客にも好評だ。アッパーには、緯糸に210デニールの中肉ナイロンツイルを入れたナイロンを用いて強靭な生地に柔らかな印象を持たせ、ベジタブルタンニンで鞣したレザーで流線形の躍動感あるデザインを表現した。アウトソールはヴィブラム社製。前後が反り上がったローリング仕様により歩行や走行をスムーズにする。タウンユースをベースにしたデザインだが、トレイルにも履けるハイスペックシューズだ。
よりトレッキング向きなのは「ZUMI(ズミ)」シリーズ。アッパーは厚みのあるレザーとコーデュラバリスティックナイロンを組み合わせ、サイドに波動のマークをステッチワークで表現した。インソールはつま先にハニカム状のグリップを効かせたブランドオリジナルカップインソールを搭載。アウトソールは軽量なポリウレタンで快適なクッション性を備えたヴィブラム社のボリュームソールを採用した。
レザーサンダルも面白い。イタリア・トスカーナ地方伝統のバケッタ製法による芯通し染色されたフルベジタブルタンニンスムースレザーを使い、切り口を丁寧に丸く仕上げることで足当たりがソフトで、柔らかな印象の一足を作り上げた。

  • 写真中は国・地域を問わず人気の「SWELL (スウェル)」
  • トレッキングシューズの「ZUMI (ズミ)」
  • バケッタ製法によるレザーで作られたサンダル

バッグでは「MORPH(モフ)」シリーズ。滑らかに変化させることを意味する「MORPHING(モーフィング)」から着想したプロダクトで、肩掛けすると身体に滑らかにフィットし、使い方によってシルエットの変化を楽しめる。「MORPH W-FRONT SHOLDER(モフ ダブルフロントショルダー)」は、片面はファスナー付きのポケットが2つあり、もう片面はプレーンなデザイン。スタイリングに合わせて、どちらの面も表側として使える。本体に使用した生地は、ナイロン60、ポリエステル40%の超高密度ミルクロス。スエードのような風合いと肌触りでありながら、イタリア陸軍の正式装備に採用されたほどの堅牢度を備え、撥水機能も加えた。サイズはS・M・Lがあり、同素材のボストンバッグも展開する。ボストンバッグは手持ちすると本体に自然なシワ溜まりができるよう設計され、味わいを生む。

「肩掛けしたままでジャケットのポケットのように収納物を出し入れできる」とストアマネージャーの山本勇介さん
「MORPH (モフ)」シリーズ。写真下と中は「MORPH W-FRONT SHOULDER (モフ ダブルフロントショルダー)」、上は「MORPH BOSTON BAG(モフ ボストンバッグ)」

産地の生地メーカーが作り込んだ生地によるプロダクトも開発した。「GO TO TOTE(ゴートゥー トート)」はシンプルなデザインにこだわりを凝縮。OEMで生地を扱ってきた岡山・児島のメーカーが作る綿麻帆布に着目し、今や希少になったシャトル織機で経糸にコットン、緯糸に太番手のジュートを高密度に打ち込み、通常より厚物の帆布を生み出した。「厚いけれど軽いんです。さらにワンサード リサーチらしい抜け感を出したかったので、バイオ加工を施し、アンティークでリラックスした質感を生みました」。その生地にサンタスが得意とする革のパーツを組み合わせ、柔らかなタッチの洗練されたトートバッグに仕上げた。裏地付きで、トートにはあまり無い内ポケットも魅力だ。革のコバは、工場の職人が手作りした道具で一つひとつ塗られている。この綿麻帆布を作る生地メーカーとは、すでに来春に向けて協業がスタートしている。「生地に限らず、各地で様々な素材が作られています。そうした素材やその作り手との出会いを大切に、これからもワンサード リサーチだからできるプロダクトとして表現していきたい」としている。

内ポケット付きなのもうれしい
コットンとジュートを高密度に織り込んだ帆布で作られた「GO-TO TOTE (ゴートゥー トート)」

修理などアフターケアにも対応、「物が育っていく過程」を共有

ショップはオープンして半年が経過し、30~40代を中心に幅広い客層が訪れている。「現在は日本人のお客様と外国人のお客様が半々。靴を求めるのは男性客が少し多く、バッグがあることで男女比も半々となっています」とストアマネージャーの山本勇介さん。訪日外国時客は欧米やアジア圏など様々で、「気づけば英語しか話していない日もあったりする」。日本人客からは、スニーカーの生地や縫製など専門的なことを尋ねられることが思った以上に多いという。様

ストアマネージャーの山本勇介さん

だからこそ、ワンサード リサーチではプロダクトのクオリティーを追求する一方、ユーザー自身が使い続けることで自分にとっての価値を高めていくことを重視している。「靴も鞄もオーセンティックなデザインで、日常使いに必要な機能を備え、素材は革製も布製も使うほどに味わいを増すものを選んでいます。使い捨てではなく、長く使っていく中で、物が育っていく過程を実感していただきたい」と本安さんと山本さんは話す。
そのサポートとして、靴であればソールの張り替えなど、プロダクトの修理にも対応していく。工場とショップが直結していることの強みだ。「アフターケアの窓口が店舗にあることで、お客様は安心して購入できると思うんです。作り手として、物を作るだけでなく、物を直して育てていくことの伝達も大切だと考えています」と本安さん。

今後は靴や鞄に加えて、財布などの小物も投入していく。サンタスの物作り機能を生かしたワークショップなどの体験イベントも構想する。世界にファンが広がる可能性を秘めた立地で、工場発のブランドが未来へ一歩、踏み出した。

写真/遠藤純、SANTASU提供
取材・文/久保雅裕

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久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター。ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。元杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

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