浅山風子(あさやま・ふうこ) ビームス ボーイ ディレクター
1991年、兵庫県生まれ。2013年、ビームス入社。ビームス 北千住、ビームス ボーイ 原宿の販売スタッフを経験。19年、ビームス ボーイのバイヤーとなる。22年9月、ビームス ボーイのディレクターに就任。
全国からファンが集う「聖地」へ、世界観を体現
メンズ服に憧れを持つ女性に向けて、ワークやミリタリー、アウトドアなどのメンズウェアをベースに、女性が着るからこそ魅力が増すエッセンスを取り入れたアイテム展開、スタイル表現を持ち味とする「ビームス ボーイ」。デビューから25年、トレンドを反映しながらもコンセプトからブレることなく、「らしさ」を貫くことで世代を超えて支持を集めてきた。その旗艦店として長らく親しまれてきた原宿店を今年6月、移転リニューアル。明治通りの拡幅工事に伴うものだが、前店舗から徒歩約30秒とアクセスはほぼ変わらず、売り場面積は約2倍の99㎡へと拡大した。
「移転が決まって、どんな店にするかをチームで話し合い、真っ先に挙がったのが『聖地』というキーワード」とビームス ボーイ ディレクターの浅山風子さん。ビームス ボーイはビームスの他レーベルとの複合店で全国展開し、原宿店は唯一の単独路面店舗で、遠方から目掛けて来店する「スタッフよりもビームス ボーイの歴史を知っている」熱いファンも多い。リニューアルに際しては「ビームス ボーイの世界観を余すところなく伝え、全国からファンが来る聖地にしたい」と、自らのルーツであるアメリカンカジュアルスタイルと、ブランドとしての新たな可能性を融合した店舗空間を目指した。
売り場はクラシカルな古材を使ったフローリングに赤レンガの壁が印象的で、アメリカントラッドな小屋をイメージさせる。エントランスを入って正面では、シーズンの打ち出し商品をスタイリングとテーブル什器による平置きで陳列。左の壁面では淡いグレーにペイントされた柱で複数のゾーンを作り、奥にはミッドセンチュリー調の真っ白なクローゼットを配置し、吊りをメインにコレクションを展開する。アクセサリーやシューズは、それぞれの什器に集積することで選ぶ楽しさを演出している。
エントランスを入って右側のレジ前にはイベントスペースを設けた。床にはコンクリート、壁には木を使い、白を基調とすることでイベントの商品が際立つ空間作りを行った。ポップアップをはじめとする様々なイベントを開催し、顧客とブランドが出会い、コミュニケーションを育むハブとして機能させていく。
店内の随所に昔のアメリカ製の玩具やラジオなどレトロなプロップを散りばめ、レジの壁面をレンガにすることで売り場との統一感を生んでいる。レジの壁面に設えた「BEAMS BOY」のネオンサインは、25年前の出店時に店頭を飾っていたもの。ビームス ボーイのアイデンティティーをつないでいく意思が感じられる。
また、ブランドのロゴマークの字体を生かし、旗艦店としてのロゴマーク「BEAMS BOY HARAJUKU TOKYO」を制作した。新たなロゴをデザインに落とし込んだTシャツやキーホルダー、ポーチ、ステーショナリー、ソックスを原宿店限定のスーベニアアイテムとして販売し、「目当てにして来店し、購入されるお客様がとても多い」という。
ベースとする服のルーツを遡り、「今」を生み出す
オープニングのMDは23年春夏物を打ち出した。浅山さんにとってディレクターデビューとなるコレクションだ。「アウトドア」をメインテーマに、トラッド、ワーク、ミリタリー、スポーツの5カテゴリーで構成し、25周年記念の別注アイテムも多く揃えた。
アウトドアでは、ポートランドの老舗ファクトリーブランド「COLUMBIA KNIT(コロンビアニット)」に別注したラガーシャツ、「SIERRA DESIGNS(シエラデザインズ)」が60年代後半から継続するマウンテンパーカのキッズサイズをイメージしたモデルなど、ベースとするアイテムのルーツを遡り商品化した。トラッドではメンズのビンテージボタンダウン(B.D.)シャツをベースにしたショートスリーブのB.D.シャツや4色の生地を組み合わせたクレイジーパターンのエンジニアードシャツ、ワークでは60年代にハワイで使われていた砂糖袋のパッケージデザインをプリントしたシャツや10種類のオリジナルワッペンをプリントしたジャケットとスカートのセットアップ、ミリタリーでは25周年にちなんで「25年着込んだら」という設定でエイジングによる味わいを表現した「テーラー東洋」別注のスカジャンとベトジャンなど、ストーリー性のあるアイテムが揃う。
23年秋冬物では「トラッド」を打ち出す。「いつも根底にあるキーワードなのですが、改めてトラッドに着目することで、ビームス ボーイにとって本当に大事なことを振り返るようなシーズンにしたい」と浅山さん。とはいえ、一般的にイメージするトラッドではなく、「プレッピーの要素を強調し、アウトドアやワーク、ミリタリー、スポーツのディテールも掛け合わせながら着崩していく楽しみ方を伝える」。
例えば、ボタンダウンシャツのオールインワン。「普遍的なアイテムを面白くこなせないか」と、定番のボタンダウンシャツのディテールを踏襲しながら、オールインワンのシルエットバランスに結実させた。浅山さんがこの日、着用していたのもコレ。他にも、「Champion(チャンピオン)」とは、アイビーリーガーのフラタニティーやソロリティーの名称に使われているギリシャ文字をデザインしたスエットシャツなどを製作。「文化と旅」をコンセプトとするプロダクトブランド「BINDU(ビンドゥー)」とはマップ柄のプリントスカーフなどを毎シーズン展開しているが、今秋冬はアメリカのキャンパスライフをモチーフにしたオリジナル柄をゴブラン織でポップに表現したバッグなどに挑戦する。
25周年記念の秋冬物別注では、前述したテーラー東洋やシエラデザインズのほか、「orSlow(オアスロウ)」や「ENGINEERED GARMENTS(エンジニアード ガーメンツ)」などとのアイテムが注目だ。オアスロウと作り上げたのはデニムのダブルジャケットとパンツのセットアップ。ビームス ボーイ定番のブレザーとスラックスをベースに、オアスロウが細部まで再現した50年代のデニム生地で製作した。「ビームス ボーイの25周年パーティーで、どんな正装をしていくかをテーマにしたんです。ビームスボーイで愛され続けている定番の歴史、オアスロウの物作りへのこだわりというストーリーを融合したもの」。同じテーマで、エンジニアードガーメンツとはナイロンとサテンのリバーシブルのジャケットとパンツのセットアップを作った。
1着1着に備わる物語の伝え手として
「メンズ由来の服を、いかに女性らしく着こなすか。この軸を変えず、毎シーズン、違った切り口で見せていく。1着1着にストーリーがあって、長く大切に着たくなるような服を、ディテールもサイズも女性が着るからこそ魅力が増すように作り込んでいます。単に服を販売しているのではなく、服に対する思い、服にまつわる物語がある。それは私たちの強みであり、ずっとやってきたことなので、これからもブレずに伝え続けたい」と浅山さん。セレクトや別注も、ウェアについてはウィメンズのみのブランドではなく、メンズブランドやメンズも扱うブランドに絞ってきた。徹底してメンズ起点でウィメンズに結実させてきた気骨と試行錯誤が、単なるメンズライクではないビームス ボーイの個性を持続させている。
この姿勢をコレクションとも違った切り口で体現していくのが、ポップアップなどのイベントだ。前店舗でも毎月実施していたが、専用のスペースを設けた新店舗ではより充実して継続する。8月にはファッション雑誌を中心に関連する書籍や写真集などのセレクションが人気の神保町の古書店「magnif(マグニフ)」とのコラボイベントを企画。アイビーやプレッピーを強調した今秋冬のトラッドコレクションの根底にあるビームス ボーイの思想を、マグニフのフィルターを通してセレクトしたブックやマガジンと共にひも解いていく。「以前もマグニフとのイベントは開催し、好評でした。ビームス ボーイが提案する価値を服以外の体験を通じて深く知っていただきたい」と浅山さん話す。
「店は大きくなったんですけど、お客様とスタッフの距離感の近さ、アットホームな雰囲気はそのまま。1着1着に込めた思いをしっかり伝えてくれるスタッフと共に、ビームス ボーイをこの先もずっとつないでいくことが責務だと思っています。メンズっぽい服が好きな人にも、今はそうでもない人にも、安心して服を探せる場にしていきたいですし、あそこに行けばきっと欲しいものが見つかると思っていただける店にしていきたい」と浅山さんは話す。ここだけのモノとコトがあるだけでなく、それらを来店客とスタッフが共有するトキの豊かさがビームス ボーイ原宿の世界観を醸成し、そのファンが育っているのではないだろうか。
写真/遠藤純、ビームス提供
取材・文/久保雅裕
ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。