□プロフィール
Chen(チェン)
SORINディレクター兼デザイナー。

中国出身。服飾大学院でデザインとパターンを学び、卒業後は国内コンテンポラリーブランドで5年にわたりデザイナーとして経験を積む。構築的でありながら女性らしいシルエットと、遊び心のあるディテールを活かしたデザインに定評がある。
2023年、“MODERN CONTRAST STYLE”をコンセプトに、レディースアパレルブランド「SORIN」を立ち上げる。
いくつになってもファッションを楽しみたい女性に向けて、甘さとエッジが共存する独自のスタイルを追求し、新たな魅力を提案している。

コンセプト先行で決まったブランド名

──「SORIN」というブランド名はどのような意味からつけられたのでしょうか?


まずはブランド名を決める前に、最初にコンセプト決めからはじめました。“MODERN CONTRAST STYLE”というコンセプトなのですが、甘いテイストと辛いテイスト、モードとフェミニンのテイスト、あえて真逆の意味を掛け合わせたブランドなんです。コンセプトを決めて、洋服のサンプルの雰囲気を見てブランド名を決めました。
ブランド名は、マッシュグループ会長の近藤(広幸)さんと打ち合わせをして、覚えやすく、アルファベットが並んだときのバランスが良くて、意味もわかりやすい、というところから「SORIN」に決めました。磁石のS極とN極に、中心にオリジナルの意味の"ORI"を入れていて、まったく正反対のテイストを合わせて、自分らしいスタイルをつくるという意味なんです。


──「SORIN」は、フェティズム色が強いというか、ビジュアル的にもそんな雰囲気を感じました。


遊び心のあるクリエイティブ性を大事にしているブランドなので、ルックのビジュアル撮影もクリエイター寄りのカメラマンさんとスタイリストさん、ヘアメイクさんと一緒に組んで、シーズンごとのコンセプトに沿いながら、基本的にはカメラマンさんとスタイリストさんのセンスにお任せなんです。だから、かなり自由にやっていますね。春夏と秋冬のメインシーズンの一年間は、同じカメラマンさんにお願いしていて、現状は3年目なので3人目のカメラマンさんにお願いしています。

パタンナーコース出身だからこそのこだわりの着心地

──服づくりにおいて気をつけている部分、こだわりの部分を教えてください。


自分自身がパタンナーコース出身なので、洋服のパターンに関しては特にこだわっていますね。サンプルが到着すると、サイズはSとMなのですが、そのサイズのなかでのいろいろな体型の方、例えば肩幅が広い人と狭めの方、体の厚みがある人と薄い人、いろいろな体型の方に着ていただき、サイズ感や着用感などの意見をいただいて修正していきます。サンプルの修正って、他のブランドさんだとだいたい2回くらいなのですが、「SORIN」の場合は3〜4回は修正しているんです。
あとは価格帯が1万円前半の単価のものが多いのですが、そのなかでできる限り本物を作りたいという気持ちがあります、限界はありますが。品質の良い素材を使うのはもちろんですが、価格の範囲内でなるべく高級感のある素材を使うようにしています。最近だと国内の素材を使っていたりして、その部分は意識していますね。

──素材の選び方に関してですが、例えば実際に生産地を訪れたりされるのでしょうか?


現状は、生地屋さんに提案していただく素材を使用しています。日本の素材やイタリアの素材、新しい素材などを見せていただいて、そこからピックアップして決めています。もちろんゆくゆくは生産地を訪れたりもしたいのですが、いまは時間に限りがあるので、余裕と時間があれば、ぜひ行きたいと思っています。


──独特なデザインが多いですが、そこはどのようにディレクションされているのでしょうか。


「SORIN」はオリジナリティのあるデザインを大事にしていて、例えば他ブランドさん中で流行っているデザインを参考にするよりは自分で流行りを作りたいという気持ちが強いんです。「SORIN」のヒットアイテムでスワンレイクという白鳥柄のフロッキー素材のモデルがあるのですが、それは柄もすべてミリ単位のオリジナルで考えたものでして、一番いいバランスで作った柄なんです。結果的にそれがヒットにつながったと考えています。だから、自分がそこまでトレンドを意識するというよりは、「これがいまの時代やお客さんに合うのでは?」という感じで、自分で考えて、流行りそうなものを作るようにしています。今後もそういう流行はできる限り自分で作っていきたいと考えています。

自分が仕事中に感じた感情がインスピレーション

──服づくりにおけるインスピレーション源はどんなものが多いですか?


インスピレーション源は、映画やアート、ドラマなど、けっこういろいろあります。あとは、自分が生活するなかで思ったことだったり。例えば、いまの社会問題、、、まではいきませんが、「いまの世の中、みんなはこういう気持ちだろうな」という感情の部分を感じて、それをテーマにしていたりもしています。今季の2023春夏コレクションは、自分の仕事中に感じていた感情の部分をインスピレーション源にしました。


──それはどのようなテーマなのでしょうか?


今季は「WORKAHOLIC(ワークホリック)』がテーマなのですが、自分が仕事中に感じたストレスですね。現代人がオフィスワークしている時に日常的に感じている部分。仕事をしていて、ちょっと苛立つときとか、矛盾している部分、そういう感情がインスピレーション源です。自分が仕事をしていて思ったことって、「世の中にもそういう人はたくさんいるよね」という感じからです。
「WORKAHOLIC」は、仕事中毒という意味ですが、「自分が仕事が好きなのか?」、もしくは「やらないといけいないのか?」という矛盾や葛藤があったり、もちろんどちらもありますし、仕事大好きと自分に言い聞かせているだけなのか、プレッシャーで働いているのかとか。そういう複雑な感情がインスピレーションになっています。

「2025春夏のルックより」

──インスピレーション源においては、ちょっとした社会問題というか、自身のまわりで起きている問題が多いのでしょうか?


そこまでの固定はしていないです。ただ今季においては、自分の生活のなかで起きていることで、周りの人と話して、その人の考え方とか、ニュースや新聞を読んだりして、どう感じたのかとかの部分にフォーカスしました。例えば、映画を観ても同じですが、ある映画を観たときに、自分の心境の変化だったり、世の中の人の心に響いたことだったり、そういう人の心境の部分が多い気がします。


──映画だと、例えばどんなジャンルが多いとかありますか?


映画ではないのですが、イギリスのコメディが大好きなんです。笑いのなかに隠れたメッセージとか、ちょっと皮肉さがあるようなもの。そこにけっこう影響を受けているから、自分の作品でもブラックユーモアとかそういう部分を大事にしています。そこからのインスピレーションは大きいかもしれないですね。

──シーズンごとにまったく違うものをつくっていく感じでしょうか?


定番アイテムも展開しつつですね。今回はオフィスワークの人からインスピレーションを受けているので、ネクタイ地やスーツ地、シャツ地を多く使用しています。テーマによって素材感と色味を変えていますが、ただ根本的なモノづくりの部分はそれほど変化ないですね。

日本のファッションの多様性に影響を受けた学生時代

──服づくりをはじめたキッカケを教えてください。


もともとはBunka Fashion Graduate University(BFGU)という文化ファッション大学院大学があるのですが、そこのテクノロジーコースというパタンナーのコースに通っていました。卒業後は、別のアパレルさんに入社してデザイナーをしていたのですが、そこからマッシュホールディングスに転職したんです。


──ご出身はどちらなんですか?


中国の四川省です。辛い料理の多いところですね(笑)。もともと中国にいた時は美大に通っていたのですが、日本のファッションが好きだったのと、服づくりの基礎と技術を1から学びなおしたいと思い、美大を休学して日本に留学し、文化服装学院に入学しました。

──パリやイタリアなどのヨーロッパ方面ではなく、なぜ日本だったのでしょうか?


私が美大に通っていたとき、10数年前の話ですが、まだヨーロッパなどの欧米のファッションはハイファッションやラグジュアリーの雰囲気が強い印象があって、でも日本のファッションはけっこう特殊というか、個性的なものが多いイメージだったんです。もちろん「COMME des GARCONS(コム・デ・ギャルソン)」もうそうですが、見たことのないデザインをしているブランドがあって、日本のブランドのクリエイティビティにはかなり影響を受けていました。それと、ちょうど中国で日本の雑誌、VIVIや装苑とかがとても流行っていた時代ということも影響していると思いますね。
いろいろなテイストの方が自分それぞれのマインドを持って生きている姿を見て「いいな」と思ったんです。当時の中国、私が住んでいた地域にはその感じはありませんでしたから。

──美大時代は、どんな勉強をされていたのですか?


実は美大でもファッションデザインを勉強していました。幼少期から絵を描くのが好きだったので、最初はイラストレーターになりたかったのですが、結果的にファッションデザイン科になったという感じです。

WEBでの見せ方のこだわり

「2025春夏のルックより」

──服づくりのお話に戻りますが、いまもご自身でパターンを引かれることはありますか?


いまは引いておらず、細かい指示はしています。でも、最初は思ったような形の物が上がって来なかったので、やりとりには苦労しました。どうしてもこじんまりした感じのものが出来上がって来ていたので、依頼するときも「大胆にやってください!」と伝えています。何回も打ち合わせを重ねたことで、やっとメーカーさんからも「慣れてきました!」って(笑)。
展開がWEBのみということもあるので、実物がかわいくても、なるべく大きくつくらないと写真では伝わらないんですよ。実際よりも一回りくらい小さく見えてしまうから、どうしても落ち着いた雰囲気に見えてしまう。そこをあえて大袈裟につくっています。


──WEBで見せるにあたり、撮影などのクリエイティブの部分での指示はどのように伝えていますか?


服自体に特徴があるので、ポージングはなるべくシンプルにして欲しいというお話は伝えていますが、それ以外は基本カメラマンさんのセンスに任せています。ただ撮影現場には必ずいるようにしていて、必ずひとつひとつの写真のチェックはしていますね。

ユーモアの効いた新作アイテムたち

──今季の「WORKAHOLIC」のなかでおすすめアイテムを教えてください。


こちらはメンズのスーツ地を使用したワンショルダージャケットです。仕事で着てそうだけど、仕事してなさそうな変わったジャケットなんですね。それと同素材でアシンメトリーのバルーンスカート。甘さを感じない硬めの仕上げになっているので、大人でも着やすいんです。セットアップでも着てもかわいいですし、ちょっと変わった仕事着みたいなニュアンスですね。

あとは、いま私が着ているTシャツですが、これは私が撮った写真をプリントしていて、表は壊れたコピー機の写真で、裏は壊れたトイレなんです。「I'm broken!(私は壊れています)」というメッセージを入れているのですが、そのアンサーとして「So am I!(私も!)」って。コピー機とトイレが壊れていて、私も壊れたみたいな。会社員が仕事中にイラっとくる瞬間を写真で表現しました。ちょっとブラックユーモアが入っている感じですね。

そして、今回の展示会で人気があったアイテムなのですが、メンズのYシャツに使用されているストライプ生地をフリル的な感じに使用して、あえてフェミニンな雰囲気にしているTシャツです。

それとメンズのネクタイなのですが、シルク100%の生地を使用したアクセサリー。ラインストーンで「SORIN」のSの文字をモノグラム柄にしています。こちらもおすすめです。今シーズンは変わったアイテムをたくさんつくりました。

──ヒットアイテムのスワンレイクもありますね。


こちらは定番アイテムとして展開しています。いまは問い合わせも多く、徐々にファンも増えて来ている状態なんです。春夏は同柄のソックスと合わせてもかわいいと思いますね。

もっとファッションに挑戦をしてほしい

──現状は、オンラインのみでの展開ですか?


ウサギオンラインと、zozoのみでの展開です。それほど多くはないのですが、地方のセレクトショップさんなどでは、少しだけ卸しでの展開をお願いしている状態です。あとは毎シーズン、2回のポップアップと定期的なイベントでも展開しています。


──リアルなお客さんと触れる機会はイベントのみですか?


もうちょっと増えたらいいのですが。「SORIN」のアイテムはデザイン性が高いものが多いので、EC展開だけだと伝わりづらい部分があるんです。でも、実際に展示会に来ていただいたお客さまからの評判は良いので、そういう機会を増やせたらと考えています。

──今後のブランドとしての展望で、そういう機会も増やしていきたいということですか?


コンセプトやブランドのイメージを表現できるような場所は必要だと考えていますので、ゆくゆくは旗艦店的なお店をつくって、お客さまが実際にアイテムを手にとってこだわりを感じてもらいたいですね。あとは、グローバル展開もしていきたいです。インスタでは海外の方からの反応もありますので、機会があればポップアップや展示会もやりたいと思っています。
とにかく、もう少しブランドを知って欲しいですし、もっと広げていきたいです。現状はECのみでの展開ですが、売上的には上がってきていますので。「SORIN」をきちんと育てたいというのが目の前の目標であり、個人として、会社としての希望です。いまはデザイナーもやって、ディレクターもやっている状況ですので、できれば今後はデザインの部分は任せて、もっとビジネス部分に力を入れて、ブランドとして成長させていけたらと考えていますね。
あとは、商品的に高額のアイテムと手頃なアイテムの両方の展開もしたいです。いまは平均的な感じなので。そこでバランスがとれたらいいかな。いろんな人たちにもっとファッションを楽しんで欲しいですし、もっと挑戦をして欲しい、そういう気持ちでこの価格帯にしているという理由もあります。

「シャツの襟をつけたカーディガンですが、鎖骨が綺麗に見えるデザインにしています。仕事用のシャツをニットで表現しているんです」。
「メンズスラックスのディテールで、ベルトループの部分をデザインしたミニ丈のワンピースです。あえてフェミニンなアイテムにしています」
「ボタンダウンのシャツの左胸に昔のWindowsの雰囲気の文字を使って、「I LOVE MY JOB」とプリントしています。「WORKAHOLIC」ですからね」
「ジャケットなどに使用されているような水牛風マーブルボタンをブラジャーにつけています。ルックでは紹介しているのですが、メンズライクなボタンダウンのシャツにブラをあえて上に着用することで、いまっぽいスタイルになって面白いと思います」
「2025春夏のルックより」

写真/遠藤純、ウサギオンライン提供
取材・文/カネコヒデシ(BonVoyage)

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カネコヒデシ(BonVoyage)

メディアディレクター、エディター&ライター、ジャーナリスト、DJ。
編集プロダクション「BonVoyage」主宰。WEBマガジン「TYO magazine / トーキョーマガジン」編集長&発行人。ニッポンのいい音楽を紹介するプロジェクト「Japanese Soul」主宰。 バーチャルとリアル、楽しいモノゴトを提案する仕掛人。http://tyo-m.jp/

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