長塚理紗(ながつか・りさ)Ray BEAMS/RBSディレクター
2009年、ビームス入社。レイ ビームスのショップスタッフ、バイヤーを経て、18年に5代目のディレクターに就任。20年にはシーズンのスタイリングを象徴する「コンセプトライン」をスタートさせ、レイ ビームスを扱う全店舗で展開。

スタイリングに見る「The Way of Chic」の進化

――2月10日の40周年記念イベントは大盛況でしたね。前日の関係者向けと合わせ、2日間で750人超が集まりました。
「キラキラ」をドレスコードとして、レーベル設立時からのお客様をご招待したのですが、予想を超えるたくさんの方々がお越しくださいました。とても感謝しています。私が入社する前のお客様も多く、レイ ビームスを長く愛してくださっている方々がこんなにいるんだと実感しました。1980年代、90年代にディレクションやMD、販売に携わっていた先輩方も大勢参加し、同窓会のように盛り上がっていましたね。みなさんが再会する機会を作れて本当によかったと思っています。
――企画も盛りだくさんでした。
1年前にプロジェクトを立ち上げ、DJライブやプリクラなど体験型を中心に10企画を準備しました。レイ ビームスが「イマ」提案したいモノ・コトを集めた結果ですが、40年も歩んで来られたのは今までの歴史があってこそ。そこで歴史を振り返り、コンテンツの一つとして年表を作りました。私は2009年の入社なので40年の半分も知りません。きちんと歴史を理解して、レイ ビームスの歩みを表現できなければ意味がないと思い、歴代のディレクターへのインタビューから始めました。その話をもとに年表を作ると共に、各ディレクターの時代に販売していたアイコン的なアイテムやシーズンコレクションのカタログ、ノベルティーを探したんです。売り切れるなどして会社に保管されていないものも結構あったので、ベテランスタッフに声をかけてやっと集まりました。自分が購入した商品を今も大切に保管している先輩方が多く、本当に助かりました。展示品の半分はスタッフの私物です。80年代の商品などはお客様から「復刻してほしい」という声をたくさんいただきました。

賑わいを見せた「Ray BEAMS 40th Anniv. Party」(ビームス ウィメン 原宿)
賑わいを見せた「Ray BEAMS 40th Anniv. Party」(ビームス ウィメン 原宿)
レーベル設立時に打ち出した「PICCADILLY(ピカデリー)」の細身のジーンズにローヒールパンプスのフレンチカジュアルスタイル
レイ ビームスの歴史を年表に
初代から5代目までのアイコンアイテムやカタログなどを展示

――年代ごとのスタイリングエキシビションも興味深かったです。
80年代の「PICCADILLY(ピカデリー)」、90年代の「COSMIC WONDER(コズミックワンダー)」や「VIKII(ヴィッキー)」、「MILK FED(ミルクフェド)」、「X-girl(エックスガール)」、00年代の「REMI RELIFE(レミ レリーフ)」や「Dr.Martens(ドクターマーチン)」……。レイ ビームスはスタイルの提案を通じてファンを作ってきたので、10年ごとにスタイリングの変遷を表現しました。時代ごとにディスプレイすると、80年代、90年代はフレンチシックとか、アメカジとか、ストリートとかトレンドが明確にあるんですけど、00年代以降はファッションの自由度が高まったというか、ミックススタイルなんですよ。多様性の時代になったんだなと改めて感じます。また、現在のレイ ビームスで定番人気のレオパード柄を最初のショップをオープンした80年代に提案していたんですね。当時はレオパード柄を着こなす女性が少なかったことから、初代ディレクターの南馬越一義がカッコいい女性像を体現するためにそのスタイルを提案したのだと、本人に話を聞いて初めて知りました。それが今のレイ ビームスにつながっているんですね。そういう発見がたくさんありました。「The Way of Chic」というコンセプトを変えることなく、時々のトレンドを入れつつ、こうあってほしいというスタイルを提案することで進化してきた。そうしたブランドの歴史を体感するエキシビションとなりました。

80年代から年代別にレイ ビームスが提案してきたスタイリングを紹介

――現在のレイ ビームスのバイヤーによるマルシェも好評でしたね。
このイベントのために5人のバイヤーがパリの蚤の市で買い付けてきたビンテージアイテムを販売しました。洋服やアクセサリーなど、それぞれが自身の感性を信じて仕入れてきた1点物です。一人ひとりの思いをお客様に届けたい、どういう気持ちでファッションと向き合っているのかを知ってもらいたいと思って企画しました。商品は通常のコレクションの仕入れにプラスして蚤の市に行って買い付けてきたものです。マルシェでは各自の思いを手書きのPOPで紹介しました。初日から目掛けて来店するお客様が多く、とても喜んでいただけました。
――売り場中央に据えた大きなフラワーデコレーションは、このイベントを象徴するオブジェですね。
いつも店内の植栽をお願いしている表参道のフラワーショップ「logi PLANTS&FLOWERS(ロジ プランツ&フラワーズ)」の作品です。オブジェとフォトスポットを兼ねたもので、アーティストのとんだ林蘭さんのイラストと組み合わせ、イベントのランドマークとして配置しました。とんだ林さんとは17年に商品作りでコラボしたご縁があり、今回はレイ ビームスからイメージされる様々なキーワードをもとにイラストを描いていただきました。当日にはお客様の似顔絵を描くイベントも実施し、大好評でしたね。

各ビンテージアイテムにはバイヤーたちの思いを綴(つづ)ったPOPを付けた
5人のバイヤーによる「marché aux puces(マルシェ・オウ・ピュス)」
イベントのメインビジュアル(とんだ林蘭さん作)
「logi PLANTS&FLOWERS(ロジ プランツ&フラワーズ)」によるフラワーデコレーション。とんだ林蘭さんのイラストはレイ ビームスがインスピレーション
随所にイラストが顔をのぞかせる
随所にイラストが顔をのぞかせる

年間で毎月、初別注を含むコラボアイテムを展開

――MD面では40周年を記念した別注アイテムを展開しています。
第1弾として「PUMA(プーマ)」との別注アイテムをアニバーサリーイベントでローンチしました。23年春夏に好評だったプーマのジャージーシリーズ「T7(ティーセブン)」をベースにしたトラックジャケット、パンツ、スカートの3型と、厚底スニーカーの人気モデル「Mayze(メイズ)」のミドルカットタイプ1型です。ジャケットは80年代のプーマを象徴するコンパクトなサイジングで、右胸にレイ ビームスが生まれた1984年を表す「84」の数字をプリントしています。レッドとブルーをキーカラーにした「Team Royal」と、ビームスのコーポレートカラーであるオレンジを採用した「Warm White」の2タイプを揃えました。メイズはプーマを象徴するライン「フォームストリップ」を型押しレザーで表現し、シューレースは丸紐に変更、インソールには両ブランドのロゴを配したモノグラム柄を採用しています。
――第1弾ということは、別注は今後も続くのですね。
はい。3月は「FUMIE=TANAKA(フミエ タナカ)」のカプセルコレクションです。レイ ビームスの「The Way of Chic」をデザイナーの田中文江さんの視点で解釈したコレクションで、春夏と秋冬の2回、展開予定です。春夏は「sound」をコンセプトにアフリカンな要素を表現した14型を揃えました。今後は4月にスポーツブランドの「FILA(フィラ)」とニットウェアブランドの「Nadia Wire(ナディア ワイヤー)」など、アニバーサリーの1年間を通して毎月、別注アイテムをローンチしていきます。例年より多く仕込んでいて、バイヤーたちの頑張りとブランド側の協力があって、40周年だからこそ実現したコラボになっています。

第2弾は「FUMIE=TANAKA(フミエ タナカ)」が登場
40周年記念の「PUMA(プーマ)」との別注アイテム

もっとファンを増やし、もっと深くつながりたい

――レイ ビームスは今、実店舗は原宿と新宿の2店舗ですか。
ビームスのレーベルでレイ ビームスの商品を扱っているのは国内外に50店舗ほどあり、レイ ビームスの屋号を冠しているのはルミネエスト新宿の1店舗のみです。ビームス ウィメン 原宿では、レイ ビームスのオリジナル商品をメインに、セレクトしたブランドもたくさん揃えています。原宿店は路面店で売り場面積や内装の造りも含めてレイ ビームスの多様性を表現しやすい立地なので、ブランドの世界観が感じられる商品構成にしています。全店舗に共通しているのはミックススタイルの提案です。レイ ビームスはシーズンコレクションも様々なテイストで構成し、そのMDが店舗ごとに異なるので、ミックススタイルも変わってきます。お客様は「今の気分だとこっちのお店」といったように使い分けている人が多いですね。
――レイ ビームスの年表にもありましたが、20年に「コンセプトライン」をスタートさせました。
コレクションの中でも、シーズンテーマを象徴するスタイリングを表現したラインです。店舗ごとに品揃えは異なるけれど、コンセプトラインは全店舗共通で、統一したマネキンに着せ付けてビジュアル訴求しています。しっかりとスタイリングを組める新作アイテムを毎月投入することによって、「今シーズンのレイ ビームスはこういうムードなんだ」ということが感じ取れるようにしています。同じスタイルをオンラインショップやSNSでも発信し、「実際に見たい」と店舗に足を運ぶお客様がほとんどになっています。コンセプトラインを毎月投入するのは、女性の気持ちの変化は速く、気温や気候の変化もある中で、その時々に求められるファッションのムードも変わっていくからです。ムードはすごく重視しています。シーズンテーマもここ数年は、レイ ビームスを一言で表すと「シック」なので、改めてそのコンセプトをお客様にもスタッフにも伝えたいという思いから、「〇〇シック」という表現をしています。24年春夏は「sport chic(スポーツシック)」。今のムードとシックを掛けわせてテーマを設定し、スタイリングに落とし込んでいます。

2024春夏シーズン「sport chic(スポーツシック)」のコンセプトライン

――変わらないものと、変わっていくものが融合しながら、ブランドとして進化していく中で、客層は変化しているのでしょうか。
メインターゲットは20代前半~30代で、コンセプトラインなどはその世代を中心に動いていますが、全体的なお客様の年齢層は20~60代とかなり幅広いです。歳を重ねても「ファッションを楽しみたい」という気持ちを持っているお客様がたくさんいます。様々な世代にファンがいるのは、やはりスタッフの力が大きいですね。レイ ビームスはレイヤードスタイルを得意としていて、スタッフ自身が普段から創意工夫をしています。それぞれのスタッフにファンがいて、店舗が異動になっても変わらず支持してくださる。そうしたお客様が、40周年のイベントには全国から駆け付けてくださいました。歴史を振り返れたことは、私たちがレイ ビームスの現在地を確認し、未来につないでいくためにすごく大きなことでしたし、とりわけお客様とコミュニケーションが取れたことは大きなモチベーションになりました。「これからも頑張ろう」という気持ちにみんながなれた。その機会をお客様からいただいたと思っています。

思い思いの「キラキラ」でイベントを楽しんだ
思い思いの「キラキラ」でイベントを楽しんだ
思い思いの「キラキラ」でイベントを楽しんだ
思い思いの「キラキラ」でイベントを楽しんだ

――イベントには「vol.1」と記されていましたね。
Vol.3まで計画しています。2回目は関西で、3回目は関東で開催予定です。お客様とスタッフがコミュニケーションをして、これからへ向けてしっかりとつながれる場を作っていきたい。商品やスタイリングは変わらず力を入れていきますが、もっとレイ ビームスのファンを増やし、もっと深くつながっていきたいという思いがあります。コロナ禍でデジタル化が進んで、便利にはなったけれど、対面でしか感じられないこともあります。3回のイベントを通じてお客様の声をしっかりと受け止め、一緒に「楽しい」「素敵」と共感し合えるコミュニティーを築いていきたい。

写真/野﨑慧嗣、ビームス提供
取材・文/久保雅裕

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久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディターウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

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