白いテーブルにコミュニティーを描く

昨年9月にセレクトショップ「シープ」をラフォーレ原宿に出店しました

「私にとって全てのもとが原宿にあるんです。1984年にレディスファッションの"ランプ"という店をラフォーレ原宿の半地下、その一番奥の5坪ほどのスペースに作ったのが始まりでした。それがだんだん変容していってライフスタイルやカルチャーを発信するアッシュ・ペー・フランスになり、シープになっているんです。80年代の原宿はいわゆる若者文化がどんどん噴き出してくる場所でしたよね。その原宿で出発して文化を伝える側になり、今またこの地から始める。これからに向かうための原点という意味で、シープは極めて大事な存在です。とはいっても、私が経営をみるのでもなく、MDにもコミットしていません。それぞれに相応しい人がいますから」

ラフォーレ原宿1階正面入口近くにあるシープ

というと何でしょう、精神的な支柱?

「それもありますが、何故それをするのか?という存在理由を明確に示すことが私の仕事です。そしてコロナ後の時代に、特にその証明が、人が生きる上で必要になります」

ルームスの運営チームが独立し、設立したブルーマーブルにも参画されています。今年2月にはクリエイションの複合型イベント「ニューエナジー」を初開催しました

「ニューエナジーにおいても同様です。私の頭の中には、例えて言うと白いテーブルがずっとあって、そこに"共感のコミュニティー"という新しい消費市場を描くということをやってきました。その形象化された姿として、アッシュ・ペー・フランスがあり、ルームスがあり、今はシープやニューエナジー、他にもいくつかのコミュニティー作りが進んでいます。そういう形で、だんだんと絵が出来上がってくるというイメージです。共感が起点なので誰もが対等で、アイデアや意見を出し合って、それぞれのコミュニティーを運営しています。ただし、その取り組みが白いテーブルから外れそうになると、"違うよ、こっちだよ"という話をします。何故、どうやって、何を、というミッションを確認するんですね」

今年2月に新宿住友ビル三角広場で開催されたアート、ファッション、カルチャーを融合した新展示会「ニューエナジー」

「I feel seen」から始まる空間作り

企業や事業のブランディングをサポートする村松孝尚株式会社も立ち上げました。その白いテーブルにはどんなものが描かれているのですか

「一つは"FEELSEEN(フィールシーン)"というセレクトショップです。運営はパートナー企業が担ってくれて、私はソフト面を支えています。店名は英語の"I feel seen"から来ています。これは何と言うか、良い意味で見透かされているという状態です。例えば気になるお店があって入ってみたら、自分の好きな物がたくさんある。あれも好き、これも好き、"私のためにこのお店はできたのではないか"、そんな嬉しさが湧いてくる場を作ることがコンセプトです。物を揃えてはいるけれど、単なる売買の場ではなく、共感し合える場ですね。5月6日にショップを銀座3丁目にオープンします」

5月にオープンするフィールシーン銀座の外観デッサン

立地はマガジンハウスの裏手ですね

「4階建てで1フロア10坪ほどの古い小さなビルです。何でも日本で最初のデザイナーズビルだと聞いています。土壁があったり、雪見窓があったりと、なかなか贅沢な造りになっています。60年ほど前に建てられ、日本舞踊の先生が住んでおられたそうで、2階は踊りの稽古場でした。そういうストーリーがある建物で、私は相当気に入っています。界隈は思ったより再開発が及んでおらず、"こういう空気感を持った場から文化を発信したいな、面白いコミュニティーができそうだな"とシンプルに思ったんですね。思わず"わっ、面白い"と言ってしまうようなプロダクトを、空間表現とともに見せていきたいと考えています」

4層をまるまるショップにするということ?

「そうですね。1階は南フランスがモデルのライフスタイルショップです。実際に南フランスの蚤の市で集めた家具もあります。2階は"キャビネ・ド・キュリオジテ"のような、蒐集家の部屋に入り込んだみたいな空間です。私が30年にわたり海外で集めてきた物に、セレクトした商品を組み合わせて紹介します。3階は"繭の中に入っていく"をコンセプトにした"ウェルネス"のフロア。心のありようも含めて自分らしく、自分の中にあるものをもっともっと解放していくような場です。布を中心に、ファッションやインテリア、香りなどを揃えます。4階はギャラリーです。5月にはフランスの画家、エディ・ドゥビアンの作品を展示します」

ブランドはどんな構成になるのでしょう

「フィールシーンには前述した白いテーブルはあっても、企画書は無いんですね。メンバーもそういう人ばかりなので大変ではあるのですが、だからこそ共感で物事を進めていけます。クリエイターたちとの取り組みも同様です。共感の延長線上で、スペインのデザインチームとフィールシーンのための新たなブランドを立ち上げることになりました。ファッションとインテリアを融合したブランドです。デザイナーにI feel seenの話をしたら、それはすごくいいねということになって、"feel"をキーワードに物作りをしました」

  • ファッションからインテリア雑貨まで展開予定のフィール

ファッション、アートで新たな取り組み

フィールシーンの他には、どんな取り組みを考えていますか

「すでにいくつかの案件が動いています。その一つがニューヨークのショールームとの協業です。コロナ禍での新常態化やファッション消費の不振などを背景にショールームが減ってきている中で、そのショールームは40年近くビジネスを継続している老舗のショールームです」

先ほどギャラリーのお話がありましたが、アートの分野にもさらに力を入れていく?

「様々なアーティストを紹介しようと考えています。中でも、エディ・ドゥビアンに強い興味をもっています。彼は今や西欧では著名ですが、私が出会ったのは30年ほど前、まだ無名の時代でした。パリの蚤の市に作品を売りに来ていたのです。動物と人間が混ざり合ったような絵を描いている作品が多く、惹きつけられました。パリのファッション業界で作品が取り上げられるようになり、昨年はリヨンの美術館で展覧会を開くなど活躍の場を広げています」

村松氏自身もコレクターとして数多く所有するエディ・ドゥビアンの作品

これまで村松さんが出会ってきた人、やってきたことが、独立後はこれからへ向けた取り組みへと一つひとつ像を結んできている。そんな感じがします

「誰もの中にある想いとか、やりたいこととか、そういうものが交わってきて"一緒にやろうか"となっているんです。その意味ではみんなが選んだ今になっていると思います。そんな人たちとだからできる共感のコミュニティーを創っていきたいですね」

写真/久保雅裕(村松氏)、遠藤純(シープ)、ほか村松孝尚株式会社提供
取材・文/久保雅裕

村松孝尚(むらまつ たかなお)

1952年、長野県生まれ。専修大学法学部卒業。カルチャー誌の編集者を経て、84年、ラフォーレ原宿にレディスファッション専門店「Lamp(ランプ)」を開店。85年、原宿プロジェクト有限会社(現アッシュ・ぺー・フランス株式会社)設立。世界各地に独自のネットワークを広げ、小売り、卸、合同展運営、出版など生活と文化に関わる事業を多角的に展開してきた。2021年2月、同社を退社。同年4月、村松孝尚株式会社を設立、Paris Tokyo New York3都市を起点とする生活文化事業の開発、PaToNe戦略を発表。理念、そしてVISIONから新しいビジネスコンセプトを手がける。

久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター

ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。杉野服飾大学特任教授。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

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