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――『EYES』のコンセプトはすでにいろいろなところで語っていますが、今日はこのタイミングでなぜこんな大作をリリースしようと思ったのか聞かせてください。

井上 幹「裏話というかアンオフィシャルな話かもしれないんですが(笑)。理由はいくつかありまして。一個はリリース形態。サブスクリプション・サービスの登場以降の音楽ってシングルやEPとか小さい形を重ねて常に話題を提供し続けることが主流になってきつつあって。でもそれって結局、アーティストがそうしたいというよりはマーケティング的にそうした方が良いっていうことで。そうするとそれに縛られて大きな流れが作れないなっていうか……で、元々ストーリーのあるものを作りたいって荒田が発案してきたんです。それであれば細かくリリースするよりは“ひとつの作品をドン!と出した方が伝えられることが多いよね”って話だったんで。リリース形態へのカウンターでありつつ、自分たちがやりたいことを実現するにはこれぐらいの曲数がいるなっていうことでもあったんです」

――ごく最近ですが、サブスク全盛になったがゆえにアルバム然としたアルバムも増えてきたような気もしますよね。

江﨑文武「確かにThe 1975の『仮定形に関する注釈』もしっかりしたコンセプトアルバムでしたね」

――フライング・ロータスの『フラマグラ』とか、スケール感のあるアルバムが増えたのかなと。

井上「そういうカウンター期に入ったって感じてるアーティストは結構いると思います」



WONK

井上 幹(いのうえ かん/B)

WONK

荒田 洸(あらた ひかる/D)



――散々語られているとは思うんですが、荒田さん、このアルバムの着想はどこから?

荒田 洸「最初はストーリーに選択肢があるミュージックビデオを作りたかったんです。『ブラックミラー バンダースナッチ』って映画があって、主人公の選択を視聴者側が選べるっていう映画なんですけど、それめっちゃ面白いなと思って。それを音楽に落とし込みたいと思ったのが最初のきっかけだったんです。で、PERIMETRONのshu.(shu.sasaki、佐々木集)さんといっしょに、まずストーリーが分岐していくMVをアルバム単位で収録しようと進めていたんですが、予算的にかなり難しいって話になって(笑)。じゃあまずはストーリーがあるアルバムを作った方がいいっていうところが全てのスタートラインでしたね。そこからメンバーでストーリーをどうしようとか、何を伝えようかとか、さまざまなことを詰めていって、今の形に落とし込んでます」

――スキットが明快じゃないですか?主人公がどういう気持ちになっていくのか把握しやすいんですよね。

長塚健斗「スキットは、今言っていただいたような、場面の歌詞だけでは解説できないところを補うために入れたので、そこを意識して書きました」

井上「WONKは英詞でやってるんで、それを国内の人にメッセージを伝えるアルバムとして出すってところにはちょっと考えるべきところはあるなと思ったんです。そこは音楽優先だったり、自分たちのスタンスを生かして英詞で作るっていうのは変えずにやってはいるんですが、やっぱりメッセージは伝えたいっていう、そこのバランスをとったところのスキットではあった感じですね」

――以前からSNS上だったり、自分の考えなのか人の考えなのかわからないところで、無意識に選択させられてるような状況はあったわけですが、コロナ禍を境にそれが加速したというか――たとえばBlack Lives Matterとか――ポジティブな側面を感じたりは?

荒田「素晴らしいムーブメントだとは思いますが、それでもまわりの風潮からなんとなく、そう行動するように選択させられてるって感じる場面は散見できます。ちょっとそこに対して疑問は覚えつつってところはあるんですけど……だから難しいですよね」

江崎「なんかSNSの黎明期ってアラブの春とか、文字どおりソーシャル・ネットワークによって人々が良い方向に向かっていくってものだったと思うんですけど、そういう動きがある反面、コロナで世界的に危ないぞってなった時には、特定の国に対して誹謗中傷を浴びせる動きが助長されるような雰囲気が間違いなくあったと思うんですね。かと思えば、すぐさまBLMのような動きが可視化されていく。いい作用が起こっていても、それに対して猜疑心が生まれてしまうという、もはやそういう時代になってきてると思ってて。だからなんていうんだろうな……ひとりの生活者としては、何事からもちょっと距離を取らないと危ないのかもしれないっていうふうに思わされてる。個人的にはそんな印象があります」

――SNSから距離を置きたいと思ったら、何かに没頭するのがいい気がしてるんですが、そういう時にアルバム然としたアルバムはすごく良くて。で、WONKの音楽にはいろんなジャンルが混ざっていることはわかっていたつもりではあるんですが、今回のアルバムでよりわかったというか……

井上「ははは!なるほど」



WONK

長塚 健斗(ながつか けんと/Vo)

WONK

江﨑 文武(えざき あやたけ/K)



――以前、チャーリー・リムとの対談で知ったんですが、井上さんはどちらかというとロックを通ってきていて、江崎さんのオアシスやレディオヘッドはブラッド・メルドー経由だと。最近のWONKは、個々のバックボーンがすごく混ざってきてる印象がありました。敢えて聞きますが、今回のアルバムのなかでその傾向が顕著な曲というと?

荒田「んー……それは全部なんですが、どうです?」

江崎「今回、メンバー個人個人のバックグランドが如実に反映されているということがなぜ起こったかというと、一曲一曲をプロデューサー形式で作ったというか、60%ぐらい個人で作って、あとはバンドで仕上げていくというスタイルをとったんです。たとえば「If」っていう曲は、やっぱりロックバンドを通ってきた井上の曲ですし、僕は割とアンビエント寄りの音楽を志向してたので「EYES」って曲だったり、「Signal」のようなサウンドになったんですけど、いちばんバランスよく4人の色が出たなと思うのは「Depth of Blue」。あれは何もないところから荒田がメロディを考えて、そこに僕がコードをつけて。で、POPなコード進行と攻めたコード進行を2パターン作って、井上に渡したところ、それを前半後半でマージしちゃおうって編曲したっていう。これまでのWONKっぽい分業スタイルで作られた曲ですね」

――「Depth of Blue」はプリンス的な印象があります。

荒田「ああ、シンセのサウンド感がですか?」

――そうですね。

江崎「今回、割とプリンスの作品をYouTubeで見てましたよね」

井上「うん。僕は『EYES』の制作中、プリンスとピンク・フロイドばっかり聴いてました(笑)」

――この曲はシンセと長塚さんのボーカルの重ね方が面白いですね。

長塚「ボーカルRECした時は、普通に歌いやすいというかPOPな感じでやって、そのあと思いっきり井上がアレンジしたので、そのアレンジが来た時“おおっ!?”てなりました」

――この曲あたりでストーリーが進行して、他の星の住民をも認めるという感覚がすごく深くなって。そういう時間の経過みたいなものって歌う時に意識されましたか?

長塚「主人公の心情みたいなものへの意識はありましたね。一人の人間の心模様を描いた作品とも言えるので、これは。だからその主人公がその場面で何を思ってるか?みたいなところは意識して歌詞は書きましたし。ま、歌詞書いた時は長塚と井上で、脚本書いたのが井上だったってこともあって、すごくコミュニケーション取ってたんですけど、レコーディングの時もすごく考えながら歌いましたね」

――長塚さんのボーカルって素直なので、その良さが発揮されてる気がします。

長塚「良かったです。今回、大胆にボーカルをいじるみたいな取り組みをメンバーががっつりやってくれたので、そういう意味ではいろんな表現ができたなと思ってます」

――「If」は井上さんのバックボーンがわかりやすいというか、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンの気配を感じてしまって。

井上「僕、ギターをはじめていちばん最初にコピーしたのがレイジ(笑)」

江崎「それが出たと(笑)」

井上「作品に現れすぎてるんだろうな。自分の趣味が」

――「If」は展開が面白くて、間奏以降ががらっと変わりますね。

井上「間奏を作ったときはピアノの綺麗なソロが入ってたらギャップがあっていいだろうなと思って文武に送ったんですけど、そしたら文武が“いや、これはコンテンポラリージャズにしましょう。ウッベ(ウッドベース)を入れたいです”って。“ああ、いいでしょう”みたいになって(笑)」

江崎「僕がブラッド・メルドーからニルヴァーナとかオアシスあたりに入ったから。ああいう曲を聴くと、どうしてもコンテンポラリージャズに聴こえてしまう(笑)」

――入りがそうだったからってこと?

江崎「うん、だと思いますね、僕に関しては幹さんからデモ送られてきた時に“あ、これ間奏は絶対、ジャズにできるやつだ”と思って」

――雑食で音楽を聴いてるリスナーには楽しくて仕方ないです(笑)。

江崎「そう言ってもらえるとありがたいです(笑)」





――今回、非常にリアクションも大きくて。リスナーの反応というか、みなさん構えずに聴いてる印象があります

井上「リリースの仕方とメッセージはいつもどおり尖りに尖ったつもりなんですけど、楽曲の内容に関していうと――もちろんいろんなジャンルを混ぜて、いろんな工夫をしましたけど――誰でもしっかり聴けるみたいなところを目指したよね?」

江崎「うんうん」

井上「尖ってた部分がいつもとちょっと違うかもしれない。それがみんなちゃんと聴いてくれてる理由かも」

長塚「メロディのPOPさは意識したかもしれない」

江崎「あと1stの『Sphere』をリリースして以降、僕らがずっと目を向けていなかったことなんですが、アルバムにメッセージ性がある――やっぱ人は歌詞の内容をちゃんと把握してそれを咀嚼しながら聴きたいんだ――っていうことで。僕ら楽器をやってる人間って、そこを蔑ろにしがちだったんですけど、今回のリスナーの反応を見てると“『EYES』で言いたいことはこういうことなんだね”とか、なんかそういうことを聴きながら感じてくれているっていうことだから、ひとつ柱となるメッセージ性をあらかじめ立てたっていうのはすごいワークしたなと思いますし。あとYouTubeで字幕を出したとか、そういうこともありますし、こういうインタビューで“社会に対してこういう風なことを言いたいんだ”っていうのをちゃんと発信してるのはすごく効いてきてる気はしますね」

――今までかっこいいと思って聴いてただけだったのが、がぜん自分の中に物語が入ってきた感じがして。

井上「時代と同期してしまったというか――“してしまった”というとあれですけど――そのBlack Lives Matterの話とか、アフターコロナと結び付けて捉えてくれている人がとても多いんで、偶然ながらも今の世相を描く作品になったのかな?と思いますね」

――確かにそういうムードが世界に漂っている時期にリリースされるものとしては最新なわけで。

井上「最近は本当にニュースリリース見ても、“自宅で録音した”とか、そういう文言のものが増えてきてると思いますね」

荒田「飽きましたねえ(笑)。それが悪いってわけじゃないですけど」

――見てる方も「観客ありライブ」で検索する違和感はあります(笑)。配信ライブもそろそろしんどいなっていう。

荒田「なんかね、外がダメなら家っていう、それも思考停止だと思っちゃうよね。みんな別にそうである必要はないというか。ポジティブに捉えると、考えるきっかけにはなると思うんですよ。外のライブがダメなら、じゃあ音楽はどうするべきかってことをちゃんと考えずに、家なら大丈夫って感じだとね……なんかこんな時ならでは!ってこと、みんなで考えた方が面白いですよ」





――WONKはバンドとして4人で音を出せる状況を待つんですか?

荒田「待たずして、3D空間のアバターでライブをします」

――おお!それは『フォートナイト』的な?

一同「そう、まさに」

井上「でも自分たちはちゃんと3Dモデルのモーションキャプチャーで動かして」

――面白い。決して楽はしないってことですね(笑)。

江崎「そうですね。全然楽じゃなかったです(笑)。モーションキャプチャー用の、めちゃめちゃ、ぴちぴちの服を着て」

井上「キャプチャーするマーカーを付けちゃうとトイレに行けない。それで荒田がお腹痛くなって大変だった(笑)」

江崎「やっぱ初めての取り組みなので、スタッフも機材もR&D的なスタンスでやってかなきゃいけない感じで。『フォートナイト』はラッパーだから動きも大まかだったけど、僕らは奏者の指の動きまで追ってというのをやろうとしてるんです」

荒田「キャラクターによって違うんですけどね、僕、たぶんこんな風に腕を上下するだけかな(笑)」

井上「でもカメラに2000万ぐらいかけたらしいから、荒田も多少なりとも動いてるかもよ」

――ははは!確実により進化したアバターになるのでは。でも自宅からインスタライブやってる知り合いや友達のミュージシャンもいるでしょ?

井上「僕らもやりましたよ。でも1回やったらもういいやって(笑)」

荒田「WONKの性分なんでしょうね、1回やったからいい。見てる人も“もういいでしょ”って思うのもわかるんです。1回やったからもうわかったかなっていう。それをやり続けて見てる人が喜んでくれる環境があるならそれはそれでありですけどね」





――『EYES』はまずデジタルリリースされて、まだ続きがあると。ますますパッケージの意味は大きくなっていきますね。このアートブックはどう楽しむものなんですか?

井上「1曲に1枚、歌詞の内容ではわからなかったようなシチュエーションが描かれたCGビジュアルがあるので、それと対訳を見ていただくと、もうちょっと世界に入り込めるかなという。あとはARの機能。iPhoneをかざすと絵がちょっと動く、エフェクトがかかったり、そういう仕掛けも入れてます。おまけ程度ではあるんですけど」

――アナログのアートワークなんかもモノとしてうれしいですから。

江崎「モノになることがリスナーとのより強固な結びつきを作ってくれることはひしひしと感じてて。不思議なんですけど、データを買うとかストリーミングで聴くっていうのって、アーティストのためになってないって思っている人がめちゃめちゃ多いというか……みんな定額払ってるでしょうに“ストリーミングだけで聴いててすみません”みたいなDMとか来るんですよ(笑)。だからそういう意味ではこうして手に取れるものがあるというのは大事なことなんだろうなと」

荒田「みんな両親の棚にあったCDって聴いたでしょ?あれ、今後どうなるんだろうね」

井上「今はそれがパソコンの中にある。でもパソコンは覗き見したりできないし……ってことになるよね(笑)。CD自体に意味はないんですけど、それがモノとして残ることには意味があって。なので今回もただのCDではなくて、買うには躊躇するけど、買ったからには残すみたいなものを作りたかったんですよね」

――ところで『EYES』というクリエイティブに連なる表現はどこまで続いていくんですか?

井上「まあ、CGライブやって、ツアーもあるし、あと本当は映像も作りたいなと。一応、来年は来年で新しい動きを予定しています」

――2020年はほとんどのフェスも延期、中止されましたが、今後どうなっていくでしょうね。

荒田「我々はこれを機にもうアバターとしてしか活動しないってのはどう?(笑)」

――ええっ(笑)。

井上「どこまでやってもWONKっぽいって言われて終わりそうだけどね(笑)」

(おわり)

取材・文/石角友香
写真/柴田ひろあき



■WONK LIVE TOUR 2020
2020年12月9日(水)@BEAT STATION(福岡)
2020年12月2日(水)@darwin(宮城)
2020年12月22日(火)@cube garden(北海道)
2020年12月16日(水)@CLUB UPSET(愛知)
2020年12月15日(火)@UMEDA CLUB QUATTRO(大阪)
2021年1月8日(金)@SHIBUYA O-EAST(東京)

WONK

※ライブ、イベントの内容は開催当日までに変更される場合があります。必ずアーティスト、レーベル、主催者、会場等のウェブサイトで最新情報をご確認ください。



WONK
WONK『EYES』
2020年7月22日(水)発売
完全予約限定生産盤(CD+BOOK)/POCS-23906/8,000円(税別)
Caroline International




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