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「ジュルナルクボッチのファッショントークサロン」by SMART USEN



「ロックダウン解除後のパリは今」というテーマでお届する齊藤あや子さんのリポート。後編は日本でもおなじみのZARAやH&Mといった大手チェーンとブランドのリポート、そしてフランス国内メディアや業界団体、公的機関による発表からパリのアパレル業界の今を読み解く。

まず、アパレルチェーン大手の対策はどうか。H&M、ZARA、MANGOのような比較的面積が大きな店では、例えば、ベルトパーテーションを置くなどして、やはり出入口を分ける工夫がされており、人の流れを管理し、ガードマンが入店者数を数えている。ZARAでは、人数制限により入店を待つ人の列ができていた。どの店でも入口には消毒用ジェルが設置され、MANGOでは来店者が利用できる使い捨て手袋も置かれていた。店内にはデパート同様にあちこちに衛生上の注意書きがあり、レジ前には必ずプレキシグラスと1m間隔のマーキングがある。エレベーターは、定員が2人から4人に限定される。試着は不可。ZARAではレジに「買った服は24時間着用しないこと」の注意書きが掲示された。



H&Mのエントランス。デパート同様にセキュリティと消毒用ジェルがデフォルト

こちらはZARA。混雑状況によっては入場制限も

MANGOでは消毒用ジェルに加えて来店者用の使い捨て手袋も設置

レジまわりに掲出されている「購入した服は24時間以内に着用しないこと」の注意喚起

H&Mのレジ。やはりプレクシグラスのシールドとフロアのマーキングが徹底されている

ZARAも同様

大手チェーンはおしなべて試着不可。こちらはMANGO

エレベーターの人数制限も



次はアパレルブランドの対策。Zadig&Voltaire、Gerard Darel、アニエスベー、MAX MARA、CLAUDIE PIERLOT、majeなどの店頭には、必ずマスク着用での入店、消毒用ジェルの利用、店舗によっておおよそ3人から4人の入店者数制限など、店内での社会的距離の維持など、各店の衛生ポリシーを書いた紙が貼ってある。店舗面積が小さいので出入口は同じだが、やはり入口には必ず消毒用ジェルを設置。試着は可能な場合が多い。Zadig&Voltaireの注意書きには「試着前後にスチームクリーナーで洗浄する」とある。レジ前のプレキシガラス有無は店によって異なるが、設置していないところが多いように思われる。比較的大きめの店舗では、レジ前に1mごとのマーキング。アニエスベーでは、来店者の導線を示す矢印のマーキングもあった。



MAX MARAの路面店。ジェル、注意喚起の掲示、店員のマスク着用はデパートや大手チェーンと同じだが、店舗面積や入退出路が限られるため出入り口は共通

Zadig&Voltaire店内に設置されたジェル

アニエスベーの店内には導線を示すマーキングが

さすがアニエス!注意喚起の掲示ですらスタイリッシュ



フランスの新型コロナウイルス感染症被害は6月初め時点で死者が2万8000人超、感染確認も15万件超と甚大で、外出を望まない人も少なくない。世界トップの観光都市パリでも、国境封鎖で観光客がいない。観光客に大きく頼るデパートや高級ブランドの売上げには大きな影響がある。実際、在仏20年の筆者もこれほど閑散としたデパートを見るのは初めてだ。入店者やレジの制限といった安全措置により客の回転も遅くなる。

フランスの公的統計機関INSEEによると、ロックダウンが解除された5月11日以来、個人消費は顕著に回復しており、解除後の1週間では、コロナ危機前を6%下回る水準にまで回復したそうだ。ロックダウン中の5月初めの個人消費は、危機前を32%下回っていた。ただし、このような回復の一部は、外出制限の下で先送りされていた消費によるもので、今後の消費の傾向を反映しているわけではないとのこと。

フランスの主要日刊紙であるルフィガロも6月3日付の記事の中で、食品以外の小売の業績が、ロックダウン解除以降で予想以上に伸びていると報じた。それによると来客数は少なめでも購入額は高め、前年同期より売上高が伸びた店舗もあるという。まだコロナ感染の懸念がある現時点での来店目的が、ウインドウ・ショッピングではなく、純粋な購買であることが、理由のひとつかもしれない。「リベンジショッピング」需要もあるだろう。ただし、アパレルは他の非食品小売よりも出足が悪く、アパレル店舗の客足は5月18日の週には前年比40%減、25日の週には30%減だった。「試着ができない」というところが痛手になっているようだ。同記事では特にレディスとメンズは苦戦を強いられているとあるが、5月29日付けのレゼコー紙では、レディスは子供服とともに健闘と報じている。ルフィガロの記事にも子供服は好調とあり、子供服アパレルは比較的安心していいかもしれない。逆に高めの年齢層向けブランドは不調が顕著で、売上げが前年から70%落ちたところもあるという。商品レンジの違いで見ると、中堅どころのファストファッションは苦境にあり、よりブランド力のあるメーカーでは売上げが伸長している。ロックダウン解除の需要を当て込んでのプレセールも盛んで、ギャラリー・ラファイエットも30%から50%オフのプレセールを展開。またEC業界団体によると、ロックダウン解除とともにEC利用者が減少した食品とは違い、非食品小売では解除後もECは堅調なようだ。アパレルメーカーも、ECサイトやクリック&コレクトに力を入れているところは売上げを維持、または拡大に成功している。

フランスでは、バーゲンの時期が法律で規制されているが、当初6月24日に予定されていた今夏のバーゲン開始は7月15日に延期となった。2ヵ月間の営業停止中に積みあがった在庫の廉価販売に追い込まれるのを避けたい小規模の商店主らの要望を踏まえての延期である。今夏のバーゲンは、ロックダウン解除後の非食品小売にとって、本格的にコロナ禍から回復できるかどうかの試金石となるだろう。特に過去12年に渡って下降傾向が見られる仏アパレル業界にとっては……。

(おわり)

取材・文/齊藤あや子
写真/齊藤あや子



齊藤あや子(さいとう あやこ)
KSM NEWS&RESEARCH社代表。1999年渡仏。リヨン大学文学部修士課程およびグランゼコールESIT就学を経て2003年、パリKSM入社。2016年から現職。KSM NEWS&RESEARCH社は1981年創業のKSM社から情報発信、翻訳、通訳、調査業務を引き継ぎ発足した。フランスおよび欧州の政治、経済、産業、社会関連のニュースレターの編集、配信、調査、クリッピングおよび翻訳、通訳サービスを提供している。





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