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――前作『GOING TO A GO-GO』では「アルバムを出すのを3年間我慢した」と言っていましたが、この『PACIFIC』は前作からちょうど1年ぶりですね。
「そうですね。前回はフラストレーションが溜まっていたんですけど、今回はまた正常に戻りました(笑)。おかげですごく抜けがよくなったというか、血流がよくなった感じで(笑)。制作もスムーズに進み、レコーディングもわりと早く終わっちゃいました」
――そうして完成した今作のテーマは、ズバリ“港街”。そこに辿り着いた理由は?
「今回も最初はコンセプトを決めず、できた曲を片っ端から録音していきました。いつも大体5、6曲目くらいにアルバムの傾向が見えてくるって感じなんですけど、今回のテーマが“港街”になったきっかけは、クルマに乗っていたときに見かけた風景なんです。僕はいつも、自宅のある本牧から東京の事務所までクルマで通っているんですね。その途中に産業道路とか本牧ふ頭の横を通るんですけど、ある日、目の前をコンテナを乗せたトレーラーが横切ったんです。そのとき、かつて検査員の仕事をしていたときに、仕事上コンテナの写真をよく撮っていたなあと思い出しまして。しかも、コンテナフェチでもあったので、仕事用の写真に混じって、個人的に好きなコンテナも撮ってたんです」
――剣さん的コンテナの萌えポイントは?
「色味とかデザインとか。あと、国から国を越境して、また渡り鳥のように戻ってくるというのも。船上で潮風に晒されてるのに、昔チョークで書いた文字がまだ残ってるなっていうのにもグッときたりして。で、ある日、Wan Hai(ワンハイ)っていうブルーに赤と白の文字が書いてあるコンテナが目の前を横切ったとき、そういうことを一気に思い出しまして……そこからですね、火がついたのは。そのあと「Tampopo」っていう、コンテナを題材にした曲が生まれたりもしたので、これが核になるんじゃないかという感覚はありました。また、うちの近くに横浜港シンボルタワーっていうのがあるんですけど、それが建つ高台から海を見下ろしたとき、目の前に広がる海が“パシフィック”なんだなあって。当たり前なんですけどね(笑)。でも、産業道路や本牧ふ頭、コンテナ、シンボルタワーっていう、自分とっては当たり前すぎて見過ごしていたものに、改めてありがたみを覚えたというのが今作のヒントになっています」
――だからアルバムのタイトルも『PACIFIC』になった、と。
「実はツアータイトルを先に決めなきゃってことだったんですけど(笑)。でも、いつもそうやって決めたツアータイトルが、そのままアルバムのタイトルになることが多いので、今回もそのような形になった次第です」
――その段階ではアルバムの制作もだいぶ進んでいたんですか?
「そうですね。そのときは「ハワイの夜」というツアーをやっていて、その中で、フライングで2、3曲やったりもしていたんですよ。そこで曲のポテンシャルを測るっていう(笑)。そこで反応が良ければレギュラーになるし、反応がイマイチだったら止めちゃうし。今回はたまたまどれも反応が良かったので、全部アルバムに入れることにしました」
――収録されているのは18曲ですが、新たに書き下ろしたのは?
「新曲は7割ぐらいですね。あとは、エイジングも甚だしい40年ぐらい前の曲も入っています」
――40年前 !?
「18歳、19歳くらいのときに書いたものなので、それぐらいですね」
――ちなみにどの曲でしょう?
「「場末の天使」という曲で、映画『影に抱かれて眠れ』の主題歌になってます。でも、作った当時は歌詞の7、8割くらいまでできていたものの、残りの埋まっていないところがどうにも浮かばなかったんですね。その部分をうちのメンバーのガーちゃんこと新宮虎児に埋めてもらいました」
――40年前の曲を引っ張り出してきたのは、やはり映画がきっかけですか?
「そうですね。今回、俳優の中野英雄さんプロデュースで、北方謙三さんの小説『抱影』を映画化するということで。最初は書き下ろしにしようと思っていたんですけど、なんだかピンとこなかったんです。で、台本を読んでいくうちに、絶対この曲だなというふうに思いまして……というのも、映画の舞台が横浜の野毛なんですけど、この曲も野毛近くの都橋あたりをイメージして書いたものだったんですね。野毛って今はだいぶ人気になりましたが、当時はちょっと場末感があったんです。その頃の都橋付近、川面にネオンがゆらゆらしている感じをイメージして作った曲だったので、台本を読んで、この曲を納品するしかないなって思っちゃった。それで、当時のデモテープをそのまま監督の和泉聖治さんに聴いてもらったら、一発で気に入ってもらえたんです」
――世界観がぴったりだったんですね。
「そうだったみたいです。実は、納品の段階で映画に沿った歌詞に変えたものをお渡ししたんですよ。でも、前のほうがいいって言われて。歌詞が寄り添っているよりも、本質的な部分が寄り沿っているほうがいいということで、元に戻しました。ただ、それがさっき言ったとおり、7、8割の段階で止まっていたものですから、ガーちゃんに埋めてもらって、このたび完成に至った次第です」
――それにしても、約40年前に作った未発表曲が世に出るってすごいですね。
「この曲は毎年のように、今年出そう、今年出そうとずっと思っていたんです。機会があれば出したいとは思っていたんですけど、これまでなかなかアルバムの主旨に合わなくて、保留していたんですよね。それが今回、テーマが“港街”でしたし、野毛も港に近いからいいんじゃないかということで収録することになりました」
――「場末の天使」での都橋のように、今作には剣さんにとって身近な場所が数多く登場します。なかでも、「Night Table」や「Stay at Bund Hotel ~シェルルームの夜は更けて~」に登場するシェルルームや、シェルルームがあったバンドホテルは、剣さんにとってどういう存在なのでしょうか。
「バンドホテルは創業が1929年という、歴史あるホテルだったんです。1999年に閉館したんですけど。閉館後、しばらくは立ち入り禁止の札が出ていたんですよ。それを外から見ながら、建物の中では食べかけのオイルサーディンが置いてあって異臭を放っているんじゃないかとか、飲みかけのビールが変色して、グラスには紅がついてたりするのかなとか、シャワーの蛇口をひねれば錆びた水が出てくるのかなとか、当時いろんなことを想像していたのを、そのあたりを通りかかったときに思い出して。それがきっかけで出てきたのが「Night Table」です」
――なるほど!当時の剣さんの妄想がそのまま描かれているんですね。
「そうなんです。それともうひとつ、最近五木ひろしさんと共演することが多いというのも大きかったですね。“ヨコハマ~、タソガレ~”って、「よこはま・たそがれ」をデュエットしたりして(笑)。この曲の舞台となっているのが、そういえばバンドホテルだったなということも思い出して、この曲に繋がりました」
――剣さんご自身はバンドホテルやシェルルームに思い出はありますか?
「はい。もう、かなり利用していましたね。シェルルームは。バンドホテルの最上階にあったナイトクラブなんですけど、そこは子供の頃に親と行ったりしましたね。最初の父親が、母親と出会ったときに連れて行ったのもシェルルームだったと聞いたこともありますし(笑)。シェルルームに出ていたバンドも、ラテンだったりハワイアンだったり、あるいはジャズやボサノヴァといったさまざまなジャンルで一流のミュージシャンたちが出演する歴史あるナイトクラブでした。しかも、昔は首都高狩場線がなかったから、港が一望できる素敵な場所でもありました。さらに、80年代初頭になると、シェルガーデンというライブハウスができて、僕らはそこによく出ていたんです。そのときにバンドホテルの一室を楽屋として使ったり、あるいはみんなとちょっとしたパーティーを開いたりするなど、ことあるごとにお世話になっていましたね」
――剣さんやクレイジーケンバンドの活動を支えてくれた、大切な場所なんですね。
「そう、大切な場所。で、その客室が、80年代の時点ですでにカビ臭くて(笑)。でも、そのカビ臭さっていうのが、どこかラテンムードと通じると言いますか……「Night Table」という曲は、ベッドとベッドの間にテーブルがあって、そこに時計だとか、クーラーや照明のスイッチ、それからラジオも備え付けであるわけですけど、そのラジオが、急にパッと明かりがついて、スピーカーから中国の胡弓の音楽が流れ出すみたいな。そういう妄想の中から抽出した感じ。なので、イントロ部分に波音とラジオの音をミックスして入れているんです」
――この曲を聴いたとき、いつの時代なのかわからないような感覚に陥ったのですが、今のお話を聞いて納得です。
「この曲はデビッド・リンチの映画……『マルホランド・ドライブ』のような、ちょっと滲みがあって、不気味な感じというのをイメージしましたね」
――この曲の歌詞には“VIDEOTAPEMUSIC”というフレーズも登場しますが、これはCKBの20周年ライヴでもVJをしていたアーティストのVIDEOTAPEMUSICさんのことでしょうか?
「そうですそうです!映像にしろ、サウンドにしろ、VIDEOくんが表現するものにはすごく“滲み”を感じるんです。「Night Table」はヴィンテージなことを描いているんですけど、それを歌っている今は現代ですよっていう。「葉山ツイスト」に“昭和にワープだ”って歌詞がありますけど、“昭和にワープだ”って言ってる時点で現代ということ。それと同じようなことを、VIDEOくんが表現する“滲み”で出したかったというか。今回のアルバムでは「南国列車」という曲のリミックスもやってもらっていますし、感謝の意味も込めて歌詞にも登場してもらいました」
――次の「Tampopo」は目の前をコンテナが横切ったのがきっかけで誕生したということですが、楽曲から受ける印象としてはもっと昔、剣さんの少年時代を彷彿とさせます。
「そういう感じもありますね。殺伐とした雰囲気で、コンクリートの割れ目からタンポポが力強く出ているイメージを描いています。子供の頃、この曲に書いたような風景を見たことはなんとなく覚えているんですけど、じゃあ正確に覚えているかと言ったらそうじゃない。タンポポみたいな見た目の外来種だったかもしれないし(笑)。でも、そこに出てくるのはタンポポじゃなきゃダメだったんです。実は、タンポポというタイトルはずっと温めていたものなんですよ。生命力があって、でもかわいらしくて、なんかいいなあって。でも、なかなか使う機会がなく……これも今回ようやく実現したモチーフです」
(つづく)
取材・文/片貝久美子
写真/柴田ひろあき
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