センチミリメンタルが初のファンクラブ限定ライブ『センチミリメンタル Acoustic Live "Atelier C"』を開催した。
オフィシャルファンクラブ「Atelier C」の会員向けに開催された今回のツアーでは、キャリア初となるビルボードライブが実現。センチミリメンタルは様々な楽曲をアコースティックアレンジで届けたほか、8月6日にリリースされる2ndアルバム『カフネ』の新曲も先駆けて披露。ファンとともに特別な時間を過ごした。Billboard Live OSAKA、Billboard Live TOKYOを舞台に行われた全4ステージのうち、この記事では、東京公演2ndセットの模様をレポートする。
会場では思い思いにドレスアップした来場者が、自席で食事や本ツアー限定のオリジナルカクテルを楽しんでおり、普段のライブとは異なる空気が生まれていた。開演時刻になると、ジャケットスタイルのセンチミリメンタルが登場。拍手の中、ステージへと歩みを進めると、グランドピアノの前に座り、オープニングナンバーとして新曲「君想う夜」を歌い始めた。『カフネ』の1曲目に収録されるこの曲は、孤独な夜の内省やままならない感情を歌ったバラード。センチミリメンタルの伸びやかな歌声、グランドピアノの芳醇な響きが会場を満たしていった。観客は早速の新曲披露に声を上げるよりも先に、演奏の美しさに息を吞んでいるようで、ステージへ身を傾けて音楽に没入している様子が印象的だった。
「君想う夜」をしっとりと歌い終えると、「今日は最後までゆったりと音楽に浸ってもらえたらと思いますので、よろしくお願いします」と観客に伝えたセンチミリメンタル。ここでサポートギタリストの村田隆嘉をステージに呼び込み、次の曲からは2人でコラボレーションすることを予告。長年の仲である村田とリラックスした調子でトークを繰り広げたあと、観客とともに乾杯をした。


次に披露された「僕らだけの主題歌」「星のあいだ」は、ともにエネルギッシュなアッパーチューンだが、アコースティックアレンジによって新たな魅力が引き出された。まず、「僕らだけの主題歌」は、ピアノとアコースティックギターのやわらかな音色によるバラードに変貌。歌い出しがいつもよりさらに切なく感じられたほか、コード進行の繊細さ、楽曲本来の構造美が際立っていた。楽曲の大部分は原曲より短3度下で演奏されるも、Dメロから元に戻るというキー設定も効果的だ。だんだん力強くなっていく演奏も相まって、〈もう戻れないね〉というフレーズが持つ意味合い、その深みが増していた。喪失の悲しみを経て未来への決意へと至る主人公の感情の変化、物語を感じさせるアレンジだった。
一方、「星のあいだ」は、原曲の持つアッパーな印象、音と音の衝突によって火花が散るようなイメージを活かしながらアコースティック化。アコースティックとはいえ、「しっとり静かに」の一辺倒ではなく、かなりリズミカルでノれるアレンジである。村田はBメロのオブリガード、間奏のソロなど、原曲ではエレキで弾いていたフレーズを今回はアコギで再現。さらにセンチミリメンタルも技巧的なフレージングで応じるなど、両者の職人的なプレイと化学反応が観客に興奮をもたらした。

「もう楽しい感じの曲は終わっちゃったので……」とセンチミリメンタルが告げ、観客の笑いを誘ったMCを経て、4曲目には「とって」が演奏される。大切な人を想う気持ちを歌ったミドルナンバーを温かなサウンドとともに届けると、続けてセンチミリメンタルがピアノソロを披露。流麗なフレーズに合わせてセンチミリメンタルの背後に見えるカーテンが開き、六本木の夜景が観客の眼前に広がった。なんてロマンティック、かつ音楽的なシーンだろう。そんなBillboard Live TOKYOならではのシチュエーションの中で披露されたのは、『カフネ』からの新曲「ツキアカリ」。アルバムリリースに先駆けて先月末に配信されたこの曲は、ブラスの鮮やかなサウンドがリスナーに新鮮な印象を与えたが、今回のツアーでは一転、全編ピアノ弾き語りでの披露。演奏後には当人も「『ツキアカリ』にぴったりな景色だと思いません?」と満足感を語っていたが、本ツアーだからこその音と景色は観客の心にも深く刻まれたことだろう。
続いて披露された「月を食べる」は、センチミリメンタルの歌と村田のアコギの二重奏によって届けられた。〈月の明かりさえ 要らない〉と歌うこの曲は前曲「ツキアカリ」とある意味正反対だが、センチミリメンタルの音楽が持つ両価性がよく表現された曲の並びである。クリアな発声が生命力を感じさせた「ツキアカリ」に対し、腹の底から湧き上がるどす黒い感情を押さえつけるように、じりじりと歌う「月を食べる」とボーカルアプローチも異なっており、情念を感じさせるアウトロのフェイクも印象的だった。
ファンクラブ限定ライブということで、この日のMCは全体的にアットホームな雰囲気。センチミリメンタルと村田によるたわいもない会話と、観る人をグッと引き込む演奏シーンにはギャップがあるからか、センチミリメンタルはバックヤードでスタッフから「喋り以外はすごい大人っぽいね」と言われたらしく、村田は「それが『Atelier C』の醍醐味」と笑った。そんな打ち解けた温度感の中で、今度は、アルバム『カフネ』から7月30日に先行配信される新曲「ゆう」が披露された。「今普通に生きてる当たり前の日々がすごく大事で愛おしいものだと改めて感じた瞬間を、ギュッと詰め込んだ新曲です」と当人も語っていた通り、聴く人の日常に寄り添うハートフルな楽曲だ。
センチミリメンタルにとって「ゆう」は、歳を重ねる中で芽生えた「“生活”という言葉に心動かされる感覚」から生まれた楽曲だという。とはいえ、人は温かい感情だけを抱きしめてはいられない。MCでは同時に、「人それぞれ違う人生を歩んでいるからこそ、自分では想像していなかったすれ違いが起きる」「僕は音楽を届ける立場だけど、音楽という一番大事なもので人を傷つけてしまうこともある」という実感も語られた。では、センチミリメンタルは何を想い、清濁併せ持った人間の感情を肯定し、絶望からも希望を見出すような歌を歌うのか。その理由については、続くMCで「寄り添っていられるばかりではない。それでも大事に思ったり、守りたいと思う気持ちが自分の中にありますように……そんな願いを込めて、最後の曲を届けたいと思います」と語られた。そしてラストナンバー「リリィ」へ。センチミリメンタルは、緩急豊かな歌唱、願いを込めたロングトーンで、音楽家としての想いを表現。楽曲のラストでは、照明の光がステージから客席へと広がり、〈君は大丈夫だ〉というフレーズが一人ひとりに手渡された。

止まない拍手に応えて、アンコールへ。他公演では観客からリクエストされた曲を演奏していたが、東京2ndセットではセンチミリメンタルが自ら選曲。「この景色を見て歌いたくなった」と語りながら、「東京特許許可局」を“溢れかえるビル群”をバックに披露した。全曲を届け終えたセンチミリメンタルが「みなさん、楽しんでいただけましたでしょうか?」と尋ねると、客席から温かい拍手が。こうして『Atelier C』は終幕。センチミリメンタルは「また近い距離で交流できる場が設けられたら」と観客と約束を結んでからステージを去った。
9月14日からは全国6都市をまわるツアー『センチミリメンタル LIVE TOUR 2025 “カフネ”』がスタートする。アルバム『カフネ』を引っさげた同ツアーもまた、センチミリメンタルとリスナーの心の交流の場になることだろう。

センチミリメンタル Acoustic Live "Atelier C"
■日程・会場
2025/7/6(日) ビルボードライブ大阪
2025/7/13(日) ビルボードライブ東京
■セットリスト(2025.7.13 ビルボードライブ東京・2ndステージ)
01.君想う夜
02.僕らだけの主題歌
03.星のあいだ
04.とって
05.ツキアカリ
06.月を食べる
07.ゆう
08.リリィ
[ENCORE]
01.東京特許許可局
センチミリメンタル LIVE TOUR 2025 “カフネ”
日程:2025年9月14日(日)
会場:愛知・ダイアモンドホール
開場:17:00 / 開演:18:00
日程:2025年9月27日(土)
会場:宮城・Rensa
開場:16:00 / 開演:17:00
日程:2025年10月18日(土)
会場:大阪・BIG CAT
開場:17:00 / 開演:18:00
※SOLD OUT
日程:2025年10月25日(土)
会場:広島・セカンドクラッチ
開場:16:00 / 開演:17:00
※SOLD OUT
日程:2025年10月26日(日)
会場:福岡・BEAT STATION
開場:16:00 / 開演:17:00
※SOLD OUT
日程:2025年11月9日(日)
会場:神奈川・KT Zepp Yokohama
開場:16:00 / 開演:17:00
- 料金
スタンディング:¥6,500(税込)
2階指定席 :¥7,500(税込)※神奈川公演のみ
※未就学児童入場不可
※ドリンク代別途

センチミリメンタル Profile
作詞、作曲、編曲、歌唱、ピアノ、ギター、プログラミングのすべてを担う温詞(あつし)によるソロプロジェクト。
2019年9月にセンチミリメンタルとして1stシングル「キヅアト」でメジャーデビュー。
以降、数々のアニメ主題歌/テーマソングを担当。そのほかにも様々なアーティストへの楽曲提供も行っている。
自身のアーティスト活動と共にプロデュースを手掛け、その才能に注目が集まる。