ACIDMANの最新ツアー『ACIDMAN LIVE TOUR“ゴールデンセットリスト”』が、8月16日の福岡公演でファイナルを迎えた。このツアーは、3年半ぶりのシングルとして1月にリリースした「輝けるもの」を主題歌に起用し、観客動員数188万人、興行収入27.8億円の大ヒット(公開54日間時点)を記録した映画『ゴールデンカムイ』にちなんだもの。映画をきっかけにACIDMANを知るリスナーも意識した、ある意味企画めいたライブかと予想していたが、蓋を開けてみれば、ACIDMANの本質をえぐり出すようなセットリストに驚き、新鮮な感動を味わった。ツアーのセミファイナル、即日ソールドアウトとなったLINE CUBE SHIBUYAでのライブを振り返ろう。

Taka"nekoze photo"

 大木伸夫の強烈なギター・ストロークを合図に、凝縮されたエネルギーが一気に爆発してほとばしる。1曲目は「金色のカペラ」、さらに「風が吹く時」「歪んだ光」と、猛烈なハイパワー・チューンをノンストップでたたみかける。ACIDMANのライブのオープニングは、ゆったりと音の中に包み込まれる場合と、攻撃的に突っ走る場合があるが、今回は後者だ。珍しく、1曲目から大木が前に出て大歓声を浴びる。佐藤雅俊が拳を突き上げて煽る。大木の生み出すスピードを、浦山一悟のドラムがぴたりと追走する。3人とも気合が入っている。

「今回のツアー、まず感謝したいのは映画『ゴールデンカムイ』です。僕たちのような尖ったロックバンドは、メジャーな作品とは縁がないと思っていたんですが、声をかけていただいて光栄です。このツアーも、『ゴールデンカムイ』がなければできませんでした」

 ライブは奇跡の連続です。一緒に感動を分かち合いましょうーー。大木のMCがいつも以上に丁寧に聞こえるのは、ACIDMANのライブ経験の浅い観客を意識したものだろう。速く激しい曲を叩きつけても、突き放すような激しさではなく、「これがACIDMANだ」という余裕と自信が感じられる。客席のあちこちで、このツアーから初登場したグッズのペンライトが揺れている。アイドルになった気分、というようなMCを大木はしていたが、意外なほどにハマっている。いい雰囲気だ。

 装飾と言えるのは背後に掲げたバンド&ツアーロゴのみで、ステージには楽器のほかには何もない。シンプルの極みだが、その代わりに照明が素晴らしい。明滅、回転、閃光、流星、銀河と、曲調に合わせたアイディアの豊かさに見とれる。マゼンタ、シアン、イエロー、オレンジ、グリーン、ゴールドと、色鮮やかさに目を見張る。機材の性能というよりも、操る人間の心が伝わる。歌詞を深く理解していないと、これだけのイメージの世界は描き出せないだろう。素晴らしいチームワークだ。

中盤に入ると、ミドルテンポで体を揺らす曲が増えていく。佐藤と一悟のリズム隊が大活躍する「Bright & Right」から「ユートピア」へ、引き締まったリズムとストイックな演奏がかっこいい。「ラストコード」では大木がアコースティック・ギターを弾き、一悟が素敵なハーモニーをつける。「赤橙」の、イントロの短い原曲に近い構成は、ずいぶん久々に聴いた気がする。通常のツアーではあまり聴けない、意外性ある曲順とアレンジのおかげで、とても新鮮な聴き心地だ。

「今回のツアーは読んで字のごとく、ゴールド=金色というワードが入っている曲を集めています」

 ここで、セットリストの仕掛けが大木の口から明かされた。なるほど、そういうことかと合点がいく。過去に「アルバム再現ライブ」「ANTHOLOGY(投票制ライブ)」などの企画もあったACIDMANだが、歌詞をテーマにしたライブツアーは初めてのはずだ。そして、大木の歌詞がACIDMANの世界観の中核にあること、ゴールド=金というワードが、大木が追い求める永遠の理想郷のイメージに重なることを、昔ながらのファンは知っている。実際には「金」だけでは曲数が足りず、漢字の部首に「金」が入っている歌詞があればOKということにしたと、大木が笑う。そんな遊び心も加えながら、ライブは佳境へと進んでいく。

「金は中性子星の衝突によって生成されます。ほかのあらゆる物質も、元は一つで、すべて宇宙で生まれたものです」

また宇宙の話かと思うでしょうが…と笑いを誘いながら、宇宙で生まれた鉄を含む血液を分かち合う、元は一つだったはずの人間の和を語り、生きることの尊さをかみしめ、音楽の素晴らしさを語る。大木のMCはわかりやすく、情熱的だ。それも“ゴールデンセットリスト”というテーマのなせるわざだろう。ゴールド=金というテーマを意識して聴くと、「銀河の街」の歌詞の意味深さがあらためて身に染みる。「水写」を歌いながら、大木が感極まって言葉に詰まるのを見て、この曲の重要性を再認識する。
ルーパー・エフェクターを駆使した壮大な音の連なりに包み込まれる、「アルケミスト」が見せる天上の理想郷のイメージと、「彩-前編-」「彩-後編-」が描きだす儚げな地上の風景とが、鮮やかなコントラストを描く。ここから「ワンダーランド」への流れは特に絶品で、小さな川の始まりがやがて大河に至る、奔流のような光と音の流れに体ごと溶け込んでいく快感は、ACIDMANのライブ以外で感じたことがない。わずか3人で紡ぐ音が、交響曲のように聴こえる。ゴールド=金というワードが、すべての楽曲を美しい星座のように結んでいく。

「初めて見てくれる方も楽しんでくれたことを切に願います。もっともっと美しい世界がきっとあると信じて、歌い続けていきます。その思いのかけらでもいいから、持って帰ってくれたらなと思います」―大木

 映画『ゴールデンカムイ』主題歌「輝けるもの」では、ACIDMANらしい激しさと疾走感に、希望と包容力を重ね合わせた、強烈なエネルギーがほとばしる。大木が追い求めてきた宇宙と生命のロマンと、映画のテーマとがシンクロする。ラストは「アレグロ」から「ある証明」へ、通常のライブと同じようにぶち上がって熱狂のフィナーレを迎えるが、後味が違う。金色の鍵を手に、ACIDMANの世界への扉を再発見したような、深い感慨がひたひたと押し寄せる。

 アンコールでは、8月3日に誕生日を迎えた大木のために、一悟と観客が「ハッピー・バースデー」を歌う楽しいシーンがあった。そして、春に放送されたテレビ東京×WOWOW 共同制作連続ドラマ『ダブルチート 偽りの警官 Season1』主題歌に起用された最新曲「白と黒」も演奏してくれた。終わってみれば全18曲、2時間20分に及ぶフルボリューム。歌詞にテーマを絞ることで、ACIDMANの楽曲の本質を浮かび上がらせる、『ACIDMAN LIVE TOU“ゴールデンセットリスト”』でバンドが得たものは大きいはずだ。そして新たなリスナーを巻き込みながら、ACIDMANの宇宙は膨張し続ける。金色に輝けるものを追い求めて、生命の限り旅は続く。

Victor Nomoto - Metacraft

■セットリスト

M01.金色のカペラ
M02.風が吹く時
M03.歪んだ光
M04.ミレニアム
M05.Braight & Right
M06.ユートピア
M07.ラストコード
M08.赤橙
M09.銀河の街
M10.水写
M11.アルケミスト
M12.彩-前編-
M13.彩-後編-
M14.ワンダーランド
M15.輝けるもの
M16.アレグロ
M17.ある証明

Encore
白と黒

■LIVE information
This is ACIDMAN 2024
2024年10月30日(水)
神奈川・ KT Zepp Yokohama

特設サイト
http://acidman.jp/special/thisisacidmantour2024/

■ACIDMAN information
「連続ドラマW ゴールデンカムイ 北海道刺青囚人争奪編」エンディングテーマ担当決定!
※詳細は後日発表

「連続ドラマW ゴールデンカムイ ―北海道刺青囚人争奪編―」
2024年10月6日(日)午後10時よりWOWOWにて独占放送・配信(全9話)
公式サイト
https://kamuy-movie.com/

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