2024年12月13日、渋谷の街がいつも以上に人並みで揺れる金曜の夕暮れ。タワーレコード渋谷店B1F CUTUP STUDIOにて、wyolica、葛谷葉子、birdが一堂に会するミニライブ&トークイベント「Sony Music Labels presents 25th Anniversary Artists LIVE & TALK」が開催された。これら3組のアーティストは、いずれも1999年にソニーミュージックからデビューした、いわば同期生。2000年代初頭の音楽シーンに新鮮な空気を吹き込み、その後も各々の歩幅で音楽的キャリアを積み重ねてきた彼らは、どのような「25周年」を迎えたのだろうか。
開演にあたって、まずはイベントの司会を務める栗本斉から簡単なアナウンスがあった。1999年とはどんな年だったか——EUにユーロが導入された年、ドコモのiモードが開始された年、映画『マトリックス』や『シックス・センス』が公開された年。西暦と出来事は対応するが、そこから実に25年、四半世紀もの時が経ったような実感はあまりない。この歳月の間に、何が変わって何が変わらなかったのか。会場に集ったファンたちも、久々に顔を合わせたアーティストたちも、どこかでそれを確かめようとしていたように思える。観客のメインは、同世代と思しき40〜50代だが、ときおり30代前後の若い顔ぶれも見受けられた。
最初にステージへ姿を表したのはwyolica。ヴォーカルのAzumiは赤いドレスにヘアバンド、ギターのso-toはニット帽姿というナチュラルな出で立ちが印象的だ。EPICソニーのオーディションを通して出会った彼らは、2年間の準備期間を経て1999年にシングル「悲しいわがまま」でデビュー。翌年には大沢伸一プロデュースによる1stアルバム『who said "La La..." ?』(2000年) をリリースし、いきなりヒットチャートの一角に食い込んだ。so-toは当時、プロデビューしたことを家族にも秘密にしていたという。2013年に一旦解散したwyolicaだが、結成20周年となる2019年に再結成。そして今年、「メトロにゆられて」という待望の新曲を発表した。wyolica流の「シテーポップ (so-to談)」を目指したというこの曲は、シティポップ的なニュアンスを漂わせつつも、wyolicaらしいフォーキーなR&Bらしさも感じさせる。2曲目にして最後を飾るのは、デビューアルバムから「さあいこう」。温かなムードに満ちた、ファンから最も愛されてきた1曲だ。ギターとボーカルだけのシンプルな編成が、逆に歌詞のメッセージを引き立てる。「さあいこう/君とこのまま/未来は僕たちを待ってるのさ/すべての心のうち/見せずとも/時代が僕たちを待ってるのさ」。何度もリフレインされるコーラスは、はからずもこの日のイベントの主題を暗示しているかのようだった。朗らかなムードで行われたトークパートでは、デビュー当時の懐かしい思い出の数々が語られた。同じく大沢伸一のプロデュースでデビューしたbirdには盟友すぎて「さん」付けができないこと、葛谷葉子の楽曲センスにずっと尊敬の念を抱いていたこと。作曲家志望としてオーディションを受けていたwyolica結成前のso-toが、デモテープに「CHARAさんに歌ってほしいです」と書いていたこと。時間さえ限られていなければ、そのまま何時間でも語り続けてしまいそうだった。「メトロにゆられて」のアナログ7インチリリースの予定や、2024年12月27日に恵比寿BLUE NOTE PLACEでのライブ告知など、今後の予定もアナウンスされた。
続いてステージに現れたのは葛谷葉子。彼女が人前で生の歌声を響かせるのは、実に22年ぶりだという。デビューアルバムの『MUSIC GREETINGS VOLUME ONE』(1999) 以来、その天才的な音楽性がデビュー当時から高い評価を受けてきたが、シャイな人柄ゆえにその後はCHEMISTRY「最後の夜」 (2000年) やBoA「LOVE LETTER」(2007年) など、ソングライターとしての活躍の方が目立っていた。しかし2021年ごろより再びソロアーティストとしての活動を本格化させ、2022年には新作となる3rdアルバム『TOKYO TOWER』を発表し、先月末 (11月27日) には待望の4thアルバム『Dramatic』をリリースした。しかし活動再開後もリリースライブなどは行っていなかったため、半ば幻のアーティストのようになっていた。その場に集う誰もが、いまの彼女がどのように歌うのかを心待ちにしていた。シンプルな白いニットに身を包んだ葛谷は、ギタリスト・土肥真生と二人編成でゆっくりと息を整える。1曲目に披露されたのは「Dramatic」。新作アルバムのタイトル・トラックでもあるこの曲は、デビュー当時からのR&B的なセンスに、よりメロウな浮遊感と繊細なヴォーカルが加わったような印象を受ける。本曲のアレンジを担当したのは、アイドルグループであるフィロソフィーのダンスの作編曲で知られる宮野弦士。若い才能からもリスペクトされる彼女の歌声は少し緊張気味に聴こえたが、それでも観客を酔わせるには十分だった。続く2曲目は、これも新作アルバムからのバラード「Youthful Days」。そのタイトル通り、過去の恋心を振り返るようなバラードだが、その歌詞には「過去の恋への追憶」にとどまらない、今の心をもときめかせるような熱さが渦巻いていた。アルバムバージョンの編曲を担当したのは名手・冨田恵一 (冨田ラボ) で、そのアレンジメントはまさに職人技である。しかしギターとボーカル、そして少しのバックトラックという形で披露されたライブバージョンは、そのシンプルさが逆に胸を打った。トークパートでは、デモテープを送ったところ二次審査で落ちてしまったが、その中のスタッフが音楽性を気に入ったことでデビューが決まったこと。昔から生歌では緊張しがちで、公開収録で「最後の夜」のサビをまるまる飛ばしてしまったことなど、懐かしい日々の数々が語られた。来年には「Dramatic」のアナログ盤リリースも決まっている葛谷葉子。もし叶うならば、また彼女の生声を聴きたいと願うファンもきっと多くいることだろう。
この日のトリを務めたのはbirdだ。1999年当時、wyolicaと同じく大沢伸一との出会いを経てデビューした彼女は、ファーストアルバム『bird』(1999年) が70万枚を超える大ヒットを記録。関西発の新たなR&Bディーヴァとして、鮮烈な印象を残した。その後もスマッシュヒットを連発し、クラブシーンとライブシーンを行き来しながら音楽的指向を深化。レゲエやブラジル音楽、沖縄音楽などの幅広いジャンルを取り入れながら、現在まで懐の広い音楽活動を行ってきた。ギタリスト・樋口直彦との二人編成で届けられた1曲目は、デビューアルバムから「空の瞳」。ジャズやソウル、ポップスがスムーズに溶け合うそのサウンドは、かつての自由闊達な雰囲気を保ちながら、どこか余裕をまとっている。軽やかなギターと彼女の包み込むようなヴォーカルが、25年を経ても音楽が古びない理由を示しているかのようだ。続いての2曲目「SOULS」では、ステージを降りて客席の真ん中に腰かけ、超至近距離での生歌を披露。この日登壇した3組の中で最もコンスタントにステージに立ち続けてきた彼女の歌声は、デビュー時から変わらない力強さとリズムに溢れていた。観客たちもコール&レスポンスでそれに答え、CUTUP STUDIOを温かな熱気が包んだ。その余裕と貫禄は、アーティストとしての充実を伺い知るに十分だった。トークパートでは、大学に入って軽音学部に入ってから初めて歌い始めたというデビューまでの経緯や、デビュー前に大沢伸一 (MONDO GROSSO) のクラブイベントに、wyolicaのAzumiと共に出演していた際の懐かしいエピソードが語られた。当時のbirdはアフロヘアーで、Azumiは銀髪だったため、電車の中では大目立ちし、アフロヘアーが崩れるために電車でも常に「背筋が直角」だったとのことである。今年9月にはデビュー25周年記念プロジェクトとして、オールタイム・リエディット・ベスト『25th anniv. re-edit best + SOULS 2024』をリリースし、新作アルバムも完成しているbird。来年も、オーディエンスに素晴らしい時間をプレゼントしてくれることだろう。
wyolica、葛谷葉子、bird——それぞれ2曲ずつ、合計6曲が披露された短いステージだったが、その余韻は十分に濃密だった。「メトロにゆられて」と「さあいこう」に込められたwyolicaの歩み、「Dramatic」と「Youthful Days」で示された葛谷葉子の再始動、「空の瞳」と「SOULS」に詰まったbirdの普遍性。1999年という出発点から、四半世紀の歩みを経てなお創造を続けるアーティストたちの充実した現在地を目撃した一夜であった。
(レポート: 加藤賢 写真: 上飯坂一)
【wyolica】
アナログ7inchシングル『メトロにゆられて』
2024年12月25日(水)発売
品番:MHKL-97 価格:2,420円(税込) ※完全生産限定盤
Side-A メトロにゆられて
Side-B シェルター(Folky Soul 2024 ver)
※各種DSP配信中
DL/ST:https://lnk.to/Metro-ni-yurarete
<INFORMATION>
【商品概要】https://www.110107.com/wyolica_metro
【ライブインフォメーション】
wyolica「メトロにゆられて」Release Live “8 water”
@ BLUE NOTE PLACE
2024 12.27 fri.
Open:18:00
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LIVE:
19:00〜 (前半)
-休憩-
20:15〜 (後半)
*前半後半それぞれ30分程、合わせて60分程の公演となります。入替なし、showによって内容は異なります
Music Selector:18:00〜22:00
*休憩含むライブ以外の時間帯は、ミュージックセレクターによる音楽をお楽しみいただけます
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■wyolica 25th OFFCIAL GOODS 発売中! https://wyolica-webshop.stores.jp/
■wyolicaプロフィール
北海道札幌市出身のAzumi(Vo.)と大阪府出身のso-to(Gt.)による2人組ユニット。大沢伸一プロデュースとして1999年5月にシングル「悲しいわがまま」でデビュー。
ブラック・ミュージックを軸に、切ない歌詞や洒落たセンスとポップ感覚を合わせた爽やかで甘酸っぱいサウンドで人気を博す。2013年5月の正式解散発表後、デビュー20周年を期に再結成を発表した。
【葛谷葉子】
アルバム『DRAMATIC』
CD 2024年11月27日(水)発売
品番:MHCL 3116 価格:3,300円(税込)
LP 2025年1月22日(水)発売 ※完全生産限定盤【クリアヴァイナル(透明盤)】
品番:MHJL 408 価格:4,400円(税込)
<INFORMATION>
■葛谷葉子「DRAMATIC」特設サイト http://www.110107.com/KUZUYAYOKO2024
■葛谷葉子オフィシャルサイト https://www.kuzuyayoko.com
■葛谷葉子(Yoko Kuzuya)プロフィール
高校1年より本格的な作曲活動をはじめ、19歳の時にオーディションで認められ上京、99年8月エピックレコードよりシンガーソングライターとしてシングル「True Lies」でデビューを果たす。
1stシングルから全国各地のFMステーションで、ヘビーローテーション、パワープレイ曲に選出され、大量にオンエアされる等、R&Bシンガーとして多くのリスナーからの支持を獲得。その後、自身の活動を続けると共に他アーティストへの楽曲提供をスタート。CHEMISTRYの仮デビュー曲として話題になった「最後の夜」をはじめ、倖田來未「you」、BoA「DO THE MOTION」など数多くのヒット曲を産み出す等、シンガーとしてだけではなく、ソングライティングセンスにも注目が集まる。
手がける楽曲は彼女が得意とするR&B楽曲に限らず、切なさと温かさを併せ持つ純粋なPOPSナンバー、バラード楽曲などその作風は多岐に渡る。また歌詞に関してもスタンダードなラヴソングから独自の世界観を描く深遠な作品まで幅広く、各方面から共感と支持を獲得している。
【bird】
デビュー25周年ベスト盤(アナログ)『bird /25th anniv. re-edit best selection + SOULS 2024』
2024年11月27日(水)発売
品番:MHJL-359 価格:4,400円(税込) ※完全生産限定盤
購入はこちら https://bird-25th.lnk.to/_LP
※現在好評発売中
CD『25th anniv. re-edit best + SOULS 2024』
品番:MHCL-3096 定価:3,500円(税込)
購入はこちら https://bird-25th.lnk.to/best
※各種DSP好評配信中
bird『25th anniv. re-edit best + SOULS 2024 (Selected+1 Edition)』
https://bird-25th.lnk.to/reeditbest
【birdプロフィール】
シンガー & ソング・ライター(1975年 京都出身)ソウルフルな歌声と独創性に満ちた楽曲で、ジャンルを選ばず音楽ファンを魅了している。大沢伸一/MONDO GROSSO主宰レーベルよりデビュー、1stアルバム『bird』は70万枚突破、ゴールドディスク大賞新人賞獲得。通算11枚目となるアルバム『波形』は、プロデュースおよびサウンドメイキングが現代の音の名匠こと冨田ラボ(冨田恵一)によるもの。様々なインストゥルメンツが生み出す音の波形の中にbirdの歌声が重なり、研ぎ澄まされた音楽が展開されていく。現在、ジャンル関係なく各種野外FES、イベントに出演中。
<INFORMATION>
■birdデビュー25周年特設サイト https://www.110107.com/bird25th
■birdオフィシャルサイト https://www.bird-watch.net/
■birdオフィシャルYouTubeチャンネル https://www.youtube.com/@birdfromkyoto
■birdオフィシャルX https://x.com/birdwatchnet
■birdオフィシャルInstagram https://www.instagram.com/birdwatchnet
■birdオフィシャルFacebook https://www.facebook.com/birdwatchnet
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