4年半ぶりの新作『島心~しまぐくる~』をリリースした石垣島出身のシンガーソングライター成底ゆう子が、2024年9月21日(土)東京・南青山マンダラにて成底ゆう子 LIVE 2024 「音(おん)がえし」 supported by 琉球海運を開催した。
≪ライヴ・レポート≫成底ゆう子 LIVE 2024 「音おんがえし」 supported by 琉球海運
2024年9月21日(土)@東京・南青山マンダラ
東京のど真ん中で、島の風を感じた一夜。それも、静かながら力強い風を。
石垣島出身の成底ゆう子が、およそ1年半ぶりに東京都内でワンマンライヴを行った。しかも4年半ぶりの新作『島心~しまぐくる~』を引っ提げた内容であり、様々な面でアップデートされていた。冒頭に披露された新曲「生きている歓び」から、その想いはオーディエンスにもひしひしと伝わってきたはずだ。この曲はニューアルバムのオープニングを飾る一曲であるが、自身の作詞ではなく作詞家の鮎川めぐみに依頼した歌詞であり、続く「光と風の島」も保岡直樹が手掛けている。歌詞に定評のある彼女が、敢えて他者に委ねたことで新たな化学反応を起こした楽曲でスタートすることに、大きな気合を感じられる。
実際、この日のライヴは非常に充実したものだった。基本的には成底のピアノと歌、そしてサポート・メンバーである高島ユータのキーボードのみという編成で、アップテンポの楽曲からバラードまでを歌い綴っていく。スタジオ・ヴァージョンでは壮大なアレンジが施されていた「生きている歓び」が、その芯の部分のみを取り出したかのようなアコースティックなサウンドに生まれ変わっており、小ぢんまりとまとまりがちな小編成のアンサンブルという予想を大幅に覆すダイナミックさを感じさせてくれたのは見事だ。
基本的に成底はピアノに向かって緩急を自在に操りながら歌うが、「真っ赤なデイゴの咲く小径」など三線を弾きながら歌う楽曲もいくつか披露する。そして、背後のスクリーンには、全曲の歌詞が映し出され、歌詞の世界観を確認しながら歌声を聴くことができる趣向になっている。写真やイラストも交え、島の風景を描いたり、感情をあらわに表現したり、時には方言を交えた彼女の歌は、その美しくも力強い声と相まって大きく感情を揺さぶられる瞬間が何度もある。
その最初のピークが、母親のことを表現した「母」だった。年老いていく大切な人に対して「あなたは わたしのふるさと」と歌う姿に、彼女の家族への強い想いが伝わってきた。後半ではこの曲と対になるかのような「父」も披露し、あらためて成底ゆう子が楽曲を通じて表現しているテーマが明確に伝わってきた。新作に収められた「赤瓦の家」も、淡々と家族の情景描写であるが、それがまた心の琴線に触れる。そう、彼女の歌の重要なキーワードは、「家族」と「ふるさと」なのだ。
しかし、こういった歌の世界は、彼女の声に秘められた表現力があってこそと言えるだろう。声楽を学んでいただけあって、ハイトーンの伸びやかさは言うまでもなく、「光と風の島」のような牧歌的な楽曲では明るくキュートな感覚だが、「音楽の旅人」や「道標の詩」などでは寓話的な内容だけあって深遠な雰囲気も醸し出していく。楽曲によって声の表情を変えつつも、一貫した成底ワールドを展開していく。また、サポートの高島ユータのコーラスワーク力量も見事で、「いちまでぃん」などでの2人の声が融合する瞬間に鳥肌が立つ想いだった。
この日のピークは、やはり終盤で歌った「ダイナミック琉球」だろう。高校野球などスポーツの応援歌として定番となったこの曲は、もともとサウンドも力強くにぎやかな楽曲である。しかし、この日は新作にも収められたアコースティック・ヴァージョンで聴かせてくれた。成底はハンドマイクを持ってステージの中央に立ち、ピアノのみをバックに歌ったパフォーマンスは堂々たるもの。気迫に満ちた彼女の歌声は、会場中を震わすように聴く者の心に突き刺さったはずだ。バンドであろうとアコースティックであろうと、成底ゆう子の声さえあればどんな楽曲でも十分表現できることを証明できたのではないだろうか。
本編最後には、今回のライヴのテーマである新曲「音がえし」を、ピアノと観客の手拍子に乗せて歌い切った。この日の2日後には、意外にも沖縄本島では初となるワンマンライヴを開催、地元沖縄への「音がえし」を実現させた。
アンコールでは、成底ゆう子の生涯のテーマと言える「生まり島」、そしてこの日2回目の「生きている歓び」を披露。あらためて、生きることの大切さを彼女の歌声を聴きながら感じることができたように思う。そして、満員のオーディエンスの熱い拍手とともに、静かながら力強い余韻を残しつつ、ライヴは幕を閉じた。まるで島の風が吹き去った後のように。
TEXT:栗本斉
photo by 鈿
≪セットリスト≫
M-1 生きている歓び
M-2 光と風の島
M-3 おばあのお守り
M-4 あやぱに
M-5 真っ赤なデイゴの咲く小径
M-6 秋色は満月の恋
M-7 母
M-8 心の場所
M-9 赤瓦の家
M-10 ひとつしかない地球
M-11 音楽の旅人
M-12 いちまでぃん
M-13 ふるさとからの声
M-14 父
M-15 道標の詩
M-16 ダイナミック琉球
M-17 音がえし
ENCORE
EC-1 生まり島
EC-2 生きている歓び
成底ゆう子(なりそこゆうこ)
沖縄県石垣島出身
クラシック好きの父の影響からピアノを習い始め、小学校3年生の時に地元の合唱団に入団。高校2年、3年の時に出場した全国音楽コンクール県大会『声楽部門』では、2年連続金賞を受賞。武蔵野音楽大学入学と同時に上京。
卒業後、歌劇団の研究生となりイタリア研修を経験。帰国後、作詩・作曲活動を始めソロアーティストとして活動を開始する。
2007年、俳優・森繁久彌氏の自身の最後の出演作品DVD「霜夜狸」のイメージソングに「里景色」が抜擢され、森繁氏から“次世代へ託した奇跡の歌姫”と絶賛される。
2009年日本テレビ系「誰も知らない泣ける歌」で「ふるさとからの声」が取り上げられ、2010年11月にキングレコードより同曲でメジャー・デビュー。その後5枚のシングル、4枚のアルバムをリリースする。
そして全国高校野球甲子園大会や全国高校サッカー大会、また全国各地の運動会などで応援ソングとして話題になった「ダイナミック琉球」を、「応援バージョン」として2018年に再リリース。MVの再生回数が新旧合わせて700万回を突破した。
現在、沖縄の「琉球海運」の企業CMソング(ダイナミック琉球)を担当。
「家族」「ふるさと」の歌を主なテーマに掲げ、ライブを中心に活動中。
2024年9月21日に1年半ぶりの東京、そして9月23日には、初めての沖縄本島でのワンマンライブを開催。