──まず、ソロ活動10周年を迎えた心境から聞かせてください。

「10周年を迎えられてよかったです。ソロ活動を始めた頃にもできるだけ長く、一生かけて音楽をやりたいと思ってはいたんですけど、やっぱり10年の過程の中で続けることの難しさを感じたこともたくさんあったので。そこを乗り越えて迎えた10周年なので、なんとかここまで来れてよかったという想いです」

──まだグループに在籍していた2016年10月26日にファーストアルバム『Rainbow』でソロデビューし、卒業後の2019年の元旦に髪を切って、自身の作詞作曲による1stシングル「イチリンソウ」をリリースしました。これまでの歩みを振り返って、ご自身にとってはどんな日々でしたか?

「最初の3年くらいはソロ活動も手探りでままならない状態だったので、“ソロ活動としてカウントしていいものかな?”くらいの感じでした。制作においても、ライブにおいても、本当に10年かけてアーティストとして、ようやく自分の中で確立していけた時間だったと思います」

──特に印象に残っている、何か転機になっている出来事はありますか?

「都度あるんですけど、音楽をやっていくっていうのを再自覚したのが、お仕事をお休みしたタイミングでした。そこからまた、清々しい気持ちでスタートラインに立てた気がしています。この10年目を迎えるためにも大きなタイミングでした」

──2021年11月から2022年8月まで活動を休止していました。最初に言っていた“長く続ける難しさ”を感じていたのもこの時期ですか?

「そうですね、一番大きかったです。コロナ禍とも少し被っていた時期だったので、その時に気持ちを完全にリセットして。お仕事とか、将来のことをあまり考えない時間が長く続いてましたけど、“いつまでもこのままではいられない。どんな結果にしろ、どんな選択にしろ、答えは出さないといけない”と考えた時に、自然と“音楽活動を再開して、ステージに立ちたい”という気持ちが芽生えてきたんです」

──そうなんですね。

「それまでの私は、ものすごく素朴な答えにたどり着けないまま、難しく考えすぎていたんです。あと、これは性格的なものもあるんですけど、将来を暗くというか…心配しすぎていたところがあって。でも、そこからはフラットな気持ちになれました。まずは音楽をできている喜び、歌えていることのありがたみや楽しさを純粋に感じるようになったのが大きかったと思います」

──その翌年に2年ぶりの全国ツアーを開催してからは、ホールツアー、アジアツアー、アコースティックツアーなど、精力的なライブ活動を行い、今年の7月には初の日本武道館公演を開催しました。ソロ10年目にして初の日本武道館でのワンマンライブはどうでしたか?

「いや、もう、最初は正直、怖さしかなかったです。ステージに立つ怖さもありましたし、そこで求められているようなステージができるのか?という不安もありました。あとは、日本武道館を埋められるほどの集客力があるのか?とか。日本武道館が決まってからは、何に対してもずっと、ちょっとネガティブな感情でいたんですけど…」

──その感情をどうやって乗り越えたのでしょうか?

「リハーサルを重ねるうちに、日本武道館で見せたい姿がだんだん明確に見えるようになってきました。そこからは“楽しみ”になったところも多かったですし、実際にステージに立つと、オーディエンスの声やリアクションがすごかったんです。人生には時折、自分の想像を超える瞬間が訪れる時というのがあって…それがまさにあの日本武道館だったと思います。あの瞬間に、それまでの不安も心配も怖さも全部吹き飛ばしてもらって、夢の中にいるような感覚でした」

──彩さんが日本武道館で見せたかった姿というのは?

「ソロ活動を始めた頃は本当に自信がなかったんです…」

──そうなんですね? 「イチリンソウ」の頃は“ソロアーティストしてやっていくぞ!”という気合いや気迫を感じていました。

「決意や覚悟はあったんです。でも、自信というのはつけようと思ってつけられるものじゃなかったので、そこが一番難しかったです。やっぱりソロ活動はグループ活動とは全く別物だと思っていたので、本当にリスタートという気持ちでした。でも、最初のうちは一人ということに慣れなくて…自信がなかったのは、そこに怯えていたのもあるかもしれないです。自信がないと、それがステージにも表れてしまって。それをまた反省して…という負のループがありました。でも、10年かけて、だんだんと自信に変わっていって。だから、日本武道館で見せたかったのは、まず、ステージで堂々としている姿です。あと、この10年やってきた自分の財産です。10年間を知ってくださっている方はもちろん、あまり知らない方にも、今の私の姿で好きになってもらいたかったです。とにかく自覚というか、アーティストとして築いてきたもの、10年の財産を見せたいと思って立っていたステージでした」

──日本武道館のステージに立って、ご自身の音楽性に関して見えたものはありましたか? 例えば、自分が一番やりたい音楽はどういうものか、とか。パブリックイメージとしては、フォーキーなアコギの弾き語りが多いかもしれないですけど、一度でもライブに行ったことがある人はエレキギターをかき鳴らすロックバンドというイメージだったりしますよね?

「それでいうと、日本武道館のセトリ会議を最初にした時に、私は“ダンスはしなくていいかな”というつもりでいたんです。これまで10年かけて、なるべくバンドのイメージを定着させるためにやってきたので。だから、ここでもう男らしくというか(笑)、潔くやってやろうと思ってました。でも、バンマスでベースのおっくん(奥野翔太)が“俺はダンスもやっていいんじゃないかなって思う。それが山本彩の武器でもあるから”と言ってくれて。私はこれまで積み上げてきたものに関して、頭のどこかで分けて考えていて…例えば、ダンスをずっとやってきたけど、それはそれで、今は今、みたいな。でも、“確かに全部自分だもんな”って気づいて。あとは、実際にそういう私の一面を望んでくださっている方の声ももちろんあって。そういう声があるということは、“やっぱり武器になるってことだと思う”と言ってもらった時に、純粋に嬉しかったのもありますし、“確かにそうだな”って納得しましたし、“やっぱり武器は多い方がいいよな”って思って。だから、日本武道館以降は、どうしていくかはまだわからないですけど、選択肢を減らすというよりかは、持ち得る全てを使っていこうって思いました」

──そんな日本武道館を経たニューアルバム『Narrative』はどんな作品にしたいと考えていましたか? EP『U TA CARTE』を挟み、4th Album『&』からは約3年半ぶりのフルアルバムになります。

「実は作り始めたタイミングがちょうど日本武道館前だったんです」

──え? そんなに最近なんですか?

「そうなんです。タイトな期間だったので、どういうアルバムにするかを固めるまで少し時間がかかったんですけど、その期間だったからこそ、日本武道館前の高まっている気持ちと、終わって直後、またさらにその先に対するモチベーションがアルバムに表現できたと思っています」

──日本武道館前の高まっている気持ちが反映されている曲というのは?

「既発曲ですけど「バタフライエフェクト」と、日本武道館で初披露した「ラズベリーサマー」がそうです」

──「バタフライエフェクト」はどんなところから作っていきましたか?

「ソロ活動10年を振り返った時に、“本当に全てが繋がっている”という風に思って。大変だったことや、“よくやったな〜”と思うようなこともありました。いいことだけではなかったですし、その当時はあまりいいように考えられなかったこともありましたけど、時間を経て、“ああ、全て意味があったことだな。あれがなかったら今の私はいなかったかもしれないな”と感じるようになって。本当に全て…どんな小さな点や出来事も捉え方次第では変えていけるんだと思ったので、それをそのまま歌にした曲です」

──アルバム『Narrative』のオープニングを飾る1曲目「バラフライエフェクト」で吹きそうな予感を湛えた“追い風”が、ラストナンバー「Runner」で駆け抜け、駆け上がっている彩さんの背中を押してるように聴こえました。

「ありがとうございます」

──「Runner」の話は後ほど伺いたいんですが、その前に日本武道館で初披露された「ラズベリーサマー」について聞かせてください。

「「ラズベリーサマー」はもう完全にハイな状態で作り切った感じです。このアルバムの中でも一番、制作時間が短かったです。日本武道館でどうしても新曲をやりたかったので、無理やりねじ込んだ曲ではあったんですけど(笑)、自分の中から自然と湧き出てくるものがあってできた1曲でした。物理的に時間もなかったんですけど、“それで良かった”と思えるくらい、自分としては書き殴る感じでバーって書いた曲です」

──ポップロックで、歌詞はタイトル通りに甘酸っぱい夏のラブソングになっていますね。

「いろいろあったんですけど、思ったのは、このタイミングで作るので、ライブを一番意識した曲です。かつ、夏の曲にもしたくて。あとは、日本武道館が終わってから、私はアルバムを制作する予定で“この先も続く”というのはあったんですけど、ファンの方からすると、10周年で1つ、区切りがつくタイミングになりますよね? 自分自身も少し心配はあったんですけど、日本武道館ロスというか…」

──燃え尽きちゃう、みたいな?

「そうなるのが怖いと思っていたので、ライブの後も余韻として楽しんで聴いてもらえる曲にしたくて、楽しい曲に仕上げました。終わった直後からみんなに聴きながら帰ってほしいと思っていました」

──あと、新曲で気になっているのがピアノバラード「Sillage」なんですけど…。

「この曲も日本武道館前に書いた曲です。犬を飼っていて、よく思うのが、犬の匂い…」

──「Sillage」=“残り香”はワンコの匂いだったんですか? もっと色っぽい曲かと思っていました。

「発想のきっかけは犬や家族の匂いだったんですけど、それを大人っぽい、33歳らしい曲にはしたいと思ってて。犬も人もそうですけど、その人にしかない匂いがありますよね?…人や動物に限らず、花や香水もそう。独特の印象の残り方がすると思って。五感の中でも嗅覚は記憶されやすいものだったりするのに、その残り香のニュアンスを言葉にするのは難しくて、形には残らないのに、強く記憶されるので。だからこそ、失った時にすごく喪失感があると感じていたので、そういう想いを歌にできると、また一歩踏み込んだ等身大の曲にできると思いました。「ラズベリーサマー」が若々しい曲だったので、それとは対照的な曲にしたいというのもありました」

──ちなみに新曲としてアルバムに収録されている「リトリート」は1年くらい前からライブで未完成の状態で披露していた楽曲ですよね?

「そうです。本来一人でいる時の私はこういう感じです(苦笑)。でも、暗くなりすぎないように、本間さんにあったかいアレンジにしていただきました。最初はもう少しドラマチックなアレンジだったんですけど、私が作った時は弾き語りでワンコーラスだけだったので、そのストレートさというか、まっすぐさ、あとは虚無さもあまりなくしすぎないようにしたいというお願いをして完成した曲です」

──歌詞には、全てを捨ててどこかへ逃げたいという心境が描かれていますよね? 「リトリート」には、撤退や避難、静養、隠遁、隠れ家など、いろいろな意味がありますが、どういうニュアンスで「リトリート」というタイトルにしたのでしょうか?

「作った時はもう、なんて言うか…どこか遠くに消えてしまいたいような気持ちになっていたんです。この曲を作り始めた時、まだワンコーラスしかなかったんですけど、その時に本当にどこかに行ってしまいたい気持ちがあって。それを言い表す言葉がなかなか見つからなくて、こういう現象や感情に名前はないのかな?っていろいろ探したりしているうちに、この「リトリート」という言葉に出会ったんです」

──そうすると、日常から離れて、ゆっくり過ごすという雰囲気なのでしょうか?

「そうですね。自分自身を癒やしてあげるというか…。実際にどこかに行ってしまうことはできますけど、完全に行ってしまうことは難しいので、このタイトルをつけることで、自分の魂が少しでも浄化してあげられるのかな?という想いでつけました」

──では、アルバムの中で日本武道館公演の後、“その先に向けたモチベーション”で書いた曲は、どの曲になりますか?

「それはもう「Runner」です。まさに日本武道館が終わった直後、本当にほやほやな状態で書いた曲です。もともとデモは日本武道館前からfadeのruiさんに書いていただいていたものがあって。でも、歌詞はずっと、“どうしようかな?”って固まらない状態でいて。でも、日本武道館が終わって、“ああ、これだ!”というのを書き進めていった、一番ホットな状態の内容だと思います」

──“ああ、これだ!”とはどんな心境ですか?

「まさに歌詞の通りです。日本武道館はゴールではなく、スタート…“ここからまた 5年、 10年と自分の人生は続いていく”という想いを書いています。もうずっと高まっていたんです(笑)。日本武道館が終わって熱が冷めるかと思いきや、むしろもっと増していました。それが嬉しくもあって、“この止まらない気持ちを歌にしないと!”という想いでした」

──<あの日の残響 鼓膜に焼き付いている>という歌い出しです。

「これはもう日本武道館の忘れられない景色と音たちです」

──“想像を超える景色だった”という?

「そうです。本当に眩しかったんです。“これは現実なのかな?”と思うような、不思議な感覚でした」

──そして、<駆け上がれ迷わず どこまでも道は続く>と歌っています。靴紐を結んで向かう<栄光の先>はどんなイメージですか?

「私にもまだわからないです。例えば、映画とかで、砂漠とか荒野とか、同じ景色がバーっと続く広大な道を走っている時に、急に景色が変わって、街になったりするシーンがあったりしますよね? そういう感じかな。すごく走った後に、急に違う景色が目に留まったりとか、世界にたどり着いたりするような。なんとなくですけど、そういうことなのかな?って思いながら書いていました」

──全11曲を収録したアルバム『Narrative』が完成して、ご自身ではどう感じましたか?

「100回嘔吐さんにお願いした新曲「GAME」は、ドパガキソングというか…“ちょっと脳汁が出るような曲があってもいいかな?”と思って作りました。だから、「GAME」のように遊び心たっぷりで楽しく書いた曲もあれば、「リトリート」のようにその時の自分そのものが反映された曲もあって。改めて、情緒が不安定というと、少しネガティヴに聞こえるかもしれないですけど、だからこそ、いろんな楽曲が作れるんだと思うので、“いろんな情緒を生み出せているな、自分”っていう感想です」

──アルバムのタイトル『Narrative』にはどんな想いを込めましたか?

「アルバムタイトルはずっと長い間悩んでいて…。でも、日本武道館が終わって、さっきも言いましたけど、“ゴールじゃないな、またここからだな”と感じたんです。“ここが山本彩のピークだったな”と思われたくなかったので。『Narrative』 は“自分視点で描いていく物語”という意味なので、11年目以降も、自分の Narrative…“続いていく物語を自分で書いていかないといけない”という想いから決めたタイトルです」

──「Runner」の<栄光の先>と繰り返しの質問になるかもしれませんが、これからの山本彩の物語はどんな物語になりそうですか?

「日本武道館を決めた時も、最初は“自分には大きすぎる目標かな?”と思っていました。でも、いざあのステージに立ってみたら、“本当に必要なチャレンジだったな”、“立ってよかったな”と思いましたし、“あの時、逃げなくてよかった”と思いました。ここぞという時はやっぱり逃げずに、高ければ高いほど壁は乗り越えた時に得られるものが大きいので、これからの人生も自分が“大きいな…”と思うものにも立ち向かっていきたいです」

──そして、来年1月からは『SAYAKA YAMAMOTO LIVE TOUR "NARRATIVE"』がスタートします。

「アルバムタイトルをそのまま使っているので、アルバムメインにはなりますけど、10周年イヤーを締めくくるツアーにしたいと思っています。だから、日本武道館では入れてあげられなかった曲をセットリストに入れたりとか…」

──「ひといきつきながら」をやらなかったですしね。

「やって欲しかったですか?(笑)。久しくやっていないですね」

──でも、この3年間でリリースしてきた曲が中心だったので、“今の山本彩”が伝わってきた日本武道館でした。

「そう思ってもらえるとありがたいです。日本武道館でセットリストに入れたい曲は本当にたくさんありました。でも、全然、入らなかったです…。“あの曲、やって欲しかったな”と思っている方も多いと思うので、悔いの残らない 10周年のセットリストにしたいと思います」

(おわり)

取材・文/永堀アツオ
写真/中村功

RELEASE INFORMATION

山本彩『Narrative』初回限定盤(CD + Blu-ray + PHOTO BOOK)

2026年10月28日(水)発売
UMCK-7333/15,180円(税込)

山本彩『Narrative』

山本彩『Narrative』通常盤(CD only)

2026年10月28日(水)発売
UMCK-1841/3,300円(税込)

山本彩『Narrative』

LIVE INFORMATION

SAYAKA YAMAMOTO LIVE TOUR "NARRATIVE"

2027年1月14日(木) 埼玉 ヘブンズロックさいたま新都心
2027年1月16日(土) 宮城 darwin
2027年1月23日(土) 広島 VANQUISH
2027年1月28日(木) 大阪 BIGCAT
2027年2月5日(金) 愛知 NAGOYA CLUB QUATTRO
2027年2月6日(土) 福岡 DRUM Be-1
2027年2月10日(水) 東京 Zepp Diver City Tokyo

SAYAKA YAMAMOTO LIVE TOUR "NARRATIVE"

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