──3ヶ月連続での配信リリース中ですが、連続リリースを始めた経緯から聞かせてください。
「前回のシングル「Bring it on」(2023年5月発売の4thアルバム『&』の先行シングルとして同年4月配信リリース)から少し期間が空いたので、次はEPとかで、数曲をとまとめて出したいっていう思いがあったんですけど、ちょっとタイミング的に難しくて…。でも、ホールライブも控えていたし、その前に何か新曲は出したいと思って、“じゃあ、毎月刻むか!”っていう感じで連続リリースに至りました」
──最初から全体像も考えていましたか?
「いえ、連続リリースを決めた時点ではそれぞれの曲は全く決めていませんでした。順番で言うと、第2弾の「ブルースター」が最初にできたんです。だから、第1弾の「Nocturnal」は、「ブルースター」とは違う方向性、かつ、エレクトロで跳ねるような曲をやりたいなと思って。ライブでやるとしても、ちょっと違う表現の仕方ができるかな?と思ったし、今までのアプローチとは違う曲が欲しかったんです」
──第1弾が意外だったんですよね。昨年初夏に行った全国15箇所に及ぶライブハウスツアー『SAYAKA YAMAMOTO TOUR 2023 -&-』ではラテンのダンスナンバーもありましたけど、ELLEGARDEN「風の日」のカバーもあり、やっぱりエレキギターをかき鳴らしながらシャウトするロックが似合っている印象があったので。
「ツアーを終えた直後の頃は達成感もあったし、久しぶりのライブハウスでもあったので、バンドの方向性で行こうって考えていたんですけど…やっぱり数ヶ月経つと、人って結構、考えが変わるんですよね(笑)」
──あははは。どうか変わりましたか?
「ロックとは違うなっていうよりかは、いろんな曲を聴いたりしているうちに、まだ取り組んだことのないジャンルがあるなと思ったんです。例えば、ジャズの要素だったり…そっちに手を出してみたくなったというか、バンドサウンドとは違うアプローチで、ライブで楽しい曲を作りたいなって思うようになってきて。あと、その後に、ビルボードツアーがあって、今年の3月にはホールツアーが控えていたのも大きかったのかもしれないです。ライブに対しての固定観念みたいなものがなくなったというか…ライブの場所やバンド編成次第で、いくらでも見せ方は変えられるなって思うようになりました。それで、ちょっと違う雰囲気の曲が生まれたのかもしれないです」
──なるほど。
──先ほど、“エレクトロ”というキーワードが出ましたが、「Nocturnal」は、ボカロや歌い手カルチャーでいうところの“エレクトロ・スイング”になっていますよね。
「そうですね。私もボカロを聴いてきた世代ですし、今や、たくさんのボカロPの方がいろんなところで活躍されていますし。今だったらVTuberの方とか、そういう2次元と3次元の融合みたいな楽曲や世界観の面白さを私自身も感じていて。それを3次元の自分が表現したら面白いかな?みたいなところもありました」
──アレンジャーに清水"カルロス"宥人さんを迎えたのも意外でした。声優アーティストさんやアニソンのイメージがあった方だったので。
「スタッフさんと話をしていて、何名か名前が挙がった中にカルロスさんがいらしたんです。これまでにご一緒したことがなかったですし、いろんなジャンルの楽曲をされていて、打ち込み系の楽曲でもあるし、引き出しの多い方だなっていう印象があったので、お願いしてみたくなったんです」
──実際に初タッグを組まれてみていかがでしたか?
「なんでも快く受け入れてくださるし、私が言ったことを具体化してくださる力がすごいって感じました。カルロスさんのおかげで本当に私のやりたかったジャンルができました。だから、レコーディングもノリにのっていって。後半で、がなりを入れたり、巻き舌にしたりしているんですけど、自分のアイディアでやらせてもらったんです。そういうのも“すごくいいと思います”って言ってくださって。いいところはいいって言ってくださるし、“ここは、もっとこういうふうにするとも、さらに良くなると思います”っていうアドバイスもいただいて。私のいいところばかりを引き出してもらった感じです」
──歌詞はどんなテーマで書いたんですか?シンデレラが出てきますよね。
「ちょっと孤高のシンデレラというか、ちょい不良のシンデレラみたいなイメージで書きました(笑)。サビのメロディを思いついたときに、<Rat tat tat>っていうフレーズがすぐに出てきて。それを歌うとなったら、舌を巻きたい。となると、やっぱりいい子ちゃんじゃないよなっていうので、シンデレラとは言いつつ、山本彩が出てきちゃったみたいな感じです」
──あはははは。夜中に出かけてますから。
「そうですね。本当のシンデレラはてっぺん越えるまでに帰らないと魔法が解けてしまいますから。この曲のシンデレラは最初から逆で、時計の針がてっぺんを過ぎたところから始まって、周りの人たちを横目に見つつ、夜になったらようやく自分を解放して、さらけだせるという人物像を描いてみたかったんです」
──山本彩も入ってます?
「入っていますね。2番のBメロの<底が見えそうな浅い欲など煙たいだけ/寂しそうに見える?/ならばそれは勘違いね>はまさにそうです。自分も割と1人が好きだし、楽だし。友達といるのも楽しいですけど、必要以上に群れるのは好きじゃないです。1番のサビの<群れるとか媚びるとか/そういうの性に合わない>も私って感じです」
──山本彩=孤高のシンデレラなんですね。
「そんなかっこいいものじゃないんですけどね(笑)」
──この曲の主人公は<有象無象の声>や<あからさまなその視線>を気にしない強さを見せています。
「私は常々、“こういうことを言うとあれかな?”とか、“こういうふうに言った方がいいのかな?”みたいなことは、ちょっとは考えちゃいます。でも、みんなの期待通りではいたいけど、想像通りにはいたくないんです。悪い意味では期待を裏切りたくはないけど、予想は裏切りたい。そんな気持ちです」
──“期待通りではいたいけど、予想は裏切りたい”とは名言ですね!ちなみにジャケットは真っ赤になっていました。続く「ブルースター」はタイトルからも連想される青ですよね。
「実はこの3月のホールのライブが『RGB』っていうタイトルなんですよ。そことの関連もちょっとあって…」
──どんなツアーになってるんですか?
「かなりエンターテインメントショーっていう感じです。ライブハウスで見せた自分のライブとは違うライブになっています」
──「Nocturnal」はサーカスのような雰囲気もありますよね。
「音だけでもワクワクしてもらえる曲かな?って思うんですけど、ライブではいろんな映像や照明、演出を足して、より世界観作りを重視してやらせてもらっています」
──『RGB』というタイトルにしたのはどうしてでしたか?
「これまではアルバムツアーだったり、長い時間をかけて、本数を重ねてやらせてもらうライブだったりが多かったんですけど、今回はツアーといいつつも、東京と大阪の2公演だけなんです。かつ、リリースはありますけど、アルバムとか、コンセプトのないライブっていうのはこれまで意外となくって。だから、何でもありだったんですけど、とにかく先に情報を出すのにタイトルがないのもいかがなものかっていうので、3ヶ月連続リリースだし、『RGB』で、って。最初はちょっとこじつけぐらいの薄めの関係で始めたんです。でも、ホールだったので、いろんな見せ方ができるなって思ったので、タイトルを含めて、曲にしろ、パフォーマンスにしろ、『RGB』な表現ができたらいいなっていう思いがありました」
──そして、3ヶ月連続配信リリースの第2弾「ブルースター」ですが、4月から放映スタートするアニメ『魔王の俺が奴隷エルフを嫁にしたんだが、どう愛でればいい?』(通称:まどめ)の主題歌になっています。
「これはもう完全にタイアップのお話をいただいてから作り始めた曲です。お話をいただいたのが去年の今頃だったんですけど、そこから原作を読ませていただいて、去年の秋には作り終えていて。それがようやく、皆さんに聴いてもらえることになりました」
──原作を読んでどう感じましたか?
「アニメや漫画は好きなんですけど、意外とラブコメって今まで触れてこなかったジャンルだったんです。しかも、学園ものとも違う、異世界というかファンタジー系のラブコメで。読んでみたら、ラブはラブでしっかりありつつ、コメディもあるけど、シリアスなシーンでは主人公の魔術師のザガンとエルフの少女・ネフィの関係性やストーリーの深みをしっかりと感じられる部分があって。本当に読めば読むほど、いろんなキャラクターやストーリーに愛着が湧いていくような作品だったので、シンプルに“おもしろっ!”って思いながら読んいでました」
──(笑)先方からリクエストはありましたか?
「“ミディアムバラードで、ネフィ目線の歌詞でお願いしたいです”っていうオーダーがあったので、ネフィの気持ちをなるべく取りこぼさないように、何回も漫画を読ませていただきました。“このシーンいいな”って思った印象的なシーンをいっぱいメモにまとめて、このときのネフィはどんな表情してるかな?とか、何て答えてるかな?とか、そういうのも記憶して、噛み砕いて書いていきました」
──ネフィのどんな心情といったらいいですか?
「最初は何も期待せず、全てを諦めていたようなところからスタートして、まっすぐな優しさや愛を向けられて、温かな人間らしさ…エルフなので人間ではないんですけど(笑)、そういうところを取り戻していく。お互いがお互いを支え合っていくような存在になっていく。グッとくるシーンが多かったです」
──原作やアニメを知らずに、この曲を聴いてるだけでグッときます。心を完全に閉ざしてしまうほどの辛い過去があって、今がどれだけ幸せなのかっていう。
「本当ですか?ありがとうございます。曲だけで伝わっているのが嬉しいです」
──歌詞で特に拘った部分がありますか?
「一番のサビの<月にだって届きそうな気がしてる>っていう部分はコミカライズされた漫画にも出てくるシーンなんです。初めてザガンがネフィを家に連れて帰って、部屋を提供するところです。その部屋からすごく綺麗な月が見えていて。手を延ばして、掴めないなっていう何気ないやり取りのシーンなんですけど、すごく印象に残っています。そのシーンを見たときに、強い繋がりと信頼関係のある2人だったら、誰もが無理だろうと思うようなことでも成し遂げていくんじゃないかな?って感じて。その部分を使わせてもらって書きました」
──まさにそのシーンが、楽曲とともに、アニメ公式チャンネルのメインPV第2弾で使われていましたね。アニメに寄り添う中で、ご自身の心境とも重なる部分はありましたか?
「ネフィはだんだん欲が出てきたり、今まで抑えていた部分が出てきたりするんですよね。欲しいものは欲しいとか、守りたいものは守りたいとか、自分はこうありたいみたいな思いを強くしていくことによって、いろんな人を味方につけたりとか、力を得たりしていくんです。その姿はすごくカッコいいなっていうか、過去の自分に打ち勝とうとしている姿勢を感じます。それは自分も持っていたいなって思いました」
──月というモチーフを使いながら、タイトルを「ブルースター」にしたのはどうしてですか?
「いつもはタイトルから決めて歌詞を書くことが多いんですけど、今回はタイトルが先に決まらなかったんです。まず先に歌詞を書き始めたので、結構、タイトルに悩みました。このアニメはラブコメだけど、ただの恋愛的なラブじゃなくて、もっと大きな愛を感じるなと思ったので。信頼しあっている2人の関係を何か違う言葉で表現できないかな?と思って探したときに、ブルースターの花言葉が“信じ合う心”と“幸福な愛”だったので、“まさにこの2人のことだ!”と思って、このタイトルにしました」
──<私を私にする魔法>っていう、これ以上の愛はないですよね。
「誰しもが、もしかしたら接する相手によって違う自分がいたりするかもって思うんですけど、自分にとってすごく大事な人、特別な人の前で一番自分らしくいられることって、一番素晴らしいことじゃないかな?っていうふうに思ったので。それはもうメインとなるサビで歌わせてもらいました」
──山本さんは花にまつわる曲が他にもありますよね。「レインボローズ」や「イチリンソウ」「棘」とか。
「多いですね。要約するのが好きなんです。あまりタイトルで語らずに、その分、曲を聴いてね、みたいなところはあります。花は、こちら側に考えさせてくれる余白があると思っていて。花たちは話さないからこそ、こちら側で解釈したくなるし、語らない分、語りたくなるというイメージで、よく使うのかもしれません」
──作曲はコライトのような形だったんですか?
「ワンコーラスをまず投げさせていただいて、そこからアレンジを進めていくうちに、Dメロあった方がいいかな?っていう話になったりして。編曲をしていただいた杉山勝彦さんから“こういうメロディはどうですか?”っていうのをご提案いただいたりしながら、最終的に完成したっていう感じです。ただ、ラリー自体は2回ぐらいで比較的少なめでした。“ベースになる楽器はどうしますか?”とか、Dメロがキー的にもピークぐらい高いところなので、“このキーで大丈夫そうですか?”とか、それぐらいの感じです。杉山さんはピアノのイメージがあるので、イントロではピアノの繊細な感じを出していただきつつ、後半になるにつれて、歌詞もより感情が出てくるような、人間味が出てくるところなので、“ガッツリとギターを出していきたいですね”っていう提案は自分の方から出させてもらいました」
──歌入れはどうでした。本当に心に沁みるバラードになっています。
「自分的には、ネフィの心情っていうのがあったので、最初は何も力が入っていないところから、どんどん力がみなぎるというか、たぎっていくような思いで歌っていたんですけど、ちょっと時間を置いて聴いてみると、意外と全体的に力が入っていたっていう感じが今はしています。レコーディングで印象に残っているのは、Dメロでバーっと盛り上がって、キーが高くなって、<ほらもう夜が明ける>の特に<夜>の部分です。喉がガラッとなったんですけど、ギターのひずみも出てきている部分なので、杉山さんも“僕はいいと思います”って言ってくださって。私もかなり気に入っている部分ではあります。綺麗に歌いすぎずにやれたかな?って」
──キャリア初のアニメタイアップです。出来上がって、アニメの絵についたのは見てどう感じましたか?
「いや、もう、涙が出ましたね。アニメのタイアップは念願だったので、それがようやく実現したっていう喜びがありました。プラス、作品との親和性の高さというか…こんなにも自分の曲がいい曲のように聴こえるんだっていう(笑)」
──いや、いい曲なんですよ。encore編集部さんから資料として音源が送られたきた時のメールに、“名曲です!”って書かれていましたから。
「あはははは。ありがとうございます。でも、映像がより効果的で、よく聴かせてくれているなっていうのを実感したので。本当に両方が相まって、すごくいいものになったって感じています」
──ご自身のMVも作る予定なんですよね?
「はい。まだ撮影前なんですけど、自分ともう1人、この曲で言う相手の人、特別な存在を影とかで表現しながら撮影したいと思っています。出来るだけ早く皆さんにお見せしたいので、急ピッチで進めています」
──楽しみにしています。ちなみに4月にリリースされる第3弾はどんなものになりそうですか?
「ゲームアプリ『メメントモリ』のコラボの第2弾ということで、前回の「ラメント」に引き続き、自分が担当するキャラクターであるロザリーのイメージソングになっています。キャラクターが新たなステージに突入するっていうことで、楽曲もそれに合わせて少しテイストを変えて書かせていただいたので、よりダイナミックなスケールになっています。簡単にいうと、ケルトっぽいのかな。音としては、前の2曲に比べると、だいぶ少なめで、シンプルな楽器構成で、いかに曲の世界観を作り出せるか?ってチャレンジしています。その曲はバンマスでもある小名川さんのアレンジで作らせてもらっているので、リリースを楽しみに待っていてください」
(おわり)
取材・文/永堀アツオ
写真/中村功
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