──SNSでの“熊本の彼氏”としての知名度はもちろん、舞台や映像作品など俳優としての活躍も目覚ましい杉本さんですが、この1年でどんな心境の変化がありましたか?
「ありがたいことに、アーティスト、お芝居での認知度だけでなく、SNSでもその評価を頂けるようになったことを感じています。とくに『-THE ・One man-』公演を熊本城ホールでしてからの1年は、自分が予想していなかったことが立て続けに起きて…。舞台も2作品に出演させていただけるとは思っていなかったですし、関西コレクションに何度も呼んでいたきました。そして、“熊本の彼氏”が劇場用長編映画になるなんて、まったく考えたこともなかったので、すごく嬉しいです」
──状況が変化すると、やりたいこともどんどん増えていきますよね?
「そうですね。舞台『ひと』で初舞台で初主演をさせていただいてからは、お芝居の魅力に引き込まれていきました。TikTokでは、自分で脚本を考えて、一人芝居をずっとしていたからこそ、本物のお芝居をやらせていただいたことで、ずっと積み重ねてきたことが報われたなと感じましたし、音楽もずっとやっていたからこそ、“いつかミュージカルをやってみたい”という気持ちも出てきました。それに、僕のライブの演出として、ミュージカルを取り入れてみたいと思ったんです。そういった僕だからこそできるエンターテイメントをこれからも届けていきたいです」
──音楽活動も、今年は5ヶ月連続リリースという、かなりハードなことに挑戦されていますね。
「ハードなことはわかってはいるんですが、やりたいことがあると、何かをあきらめるという選択肢が出来なくて(苦笑)。僕は今、31歳で、アーティストで言うと、若くはない年齢です。だからこそ、仕事があるうちに、みんなが知ってくれているうちに、どんどんいろんなことをやりたいです。だからこそ、TikTokも芝居も、アーティスト活動も絶対にあきらめたくないんです。朝が早いなら、もっと早く起きて他のことをやるし、それが自分が後悔しない人生だと思うので、やり続けていきたいです。少し意地になっている部分もあるかもしれません(笑)。でも、それが幸せにつながっているんですよ」
──どうなれば、杉本さんが考えている“満足”につながるのでしょうか?
「スタッフ全員で海外旅行に行けるくらいですかね(笑)。性格上、あまり満足が出来なくて。その貪欲さは、これからもずっと持っていきたいです」
──その性格は小さな頃からですか?
「いえ、そうではないです。僕がTikTokでバズり始めたのは、27歳でかなり遅めだったんです。それからソロアーティストとして活動をし始めたのは28歳の頃なので、いかにこれから満足せずに、天狗にならずにやっていくかが勝負だと思っています。よく、“過去に戻ったらどうする?”と聞かれるんですが、その時に“もっと早くバズって売れたい”って思う自分もいますが、27歳でバズったからこそ、今の僕がいます。きっと若くにバズっていたら調子に乗りまくっています(笑)。そう思うと、すべてがタイミングだったと思っています」

──そんな今のタイミングで5ヶ月連続リリース。さらに自分に試練を課しているように思うのですが…。
「5ヶ月連続リリースという言葉だけ聞くと、大変なことだと思われがちなんですが、実はまとめてレコーディングをしたんです。というのも、最初はEPをリリースする予定だったので。でも、いざレコーディングをしたときに、リード曲以外もすごく素敵な曲だったので、5ヶ月連続リリースとして1曲ずつをしっかり聴いていただきたいと思いました。それに、「鬼灯」ができた時に、“この曲は自分の代表曲になる”と強く思ったんです」
──「鬼灯」はどのように制作されたんですか?
「この曲は、シャワーを浴びていた時に、ふとサビのメロディが下りてきました。だから髪も乾かさず、全裸でキーボードの前に座って、コードを調べて土台を作りました(笑)。そこからボイスレコーダーで録音して、その日のうちにだいたいの形が出来上がったんです。実は、最初のタイトルは「紫陽花」でした。もともと梅雨の時期にEPをリリースしようとしていたので、それがピッタリだと思ったんです。すでにメロディと歌詞は、僕の中から出る一番洗練されたものだと思っていたので、そこに似合う花の名前を探して、「紫陽花」にしていました。でも、いざ単曲でリリースすることになって、「紫陽花」という曲は他にもたくさんあるし、もっといいものにしたくて、「鬼灯」(ほおずき)というタイトルにしました。このインパクトは他にはないですし、すごく強くていいと思いました。さらに、歴史的風景として、避妊のために女性が食べていたという通説もあって、なんだか奥深いと思いました。歌詞の世界ともリンクしていたので、“このタイトルしかない!”と思って、決めました」

──「鬼灯」の歌詞の世界観で大事にしたのはどんなことでしたか?
「僕はラブソングを作るときに“好き”というワードを入れたくなくて…。でも、「鬼灯」は大失恋の曲なので、あえて<好き>という言葉を使いました。この曲、すごく不幸なんです。女性が男性から別れ話をされて、その男性には好きなことがいることもわかって、受け入れるんです。でも、最後は感情が爆発してしまう…そういうときに発する“好き”という言葉のインパクトって、本当に幸せな時に言う“好き”よりも、すごく強くて。女性目線の曲でありながら、最後には優しさの奥にある腹黒さのような感情を表現しようと思いました。なので、1コーラスだけではなく、最後まで聴いてもらいたい曲です。歌詞は、<私馬鹿じゃない>と<私ばっかじゃない>という言葉遊びや、クエスチョンの置き方で印象が変わるようにも作ったので、歌詞を読みながら聴いてもらえるとさらに主人公に感情移入してもらえるはずです」
──サブスクではすぐに歌詞も見られますしね。
「そうですよね。“こういう意味なんだ”とか、あえて分かりやすい所もあれば、解説がないとわからないような歌詞もあるので、どちらかというと小説を読み解くような感覚で聴いてもらいたいと思っていて」
──素敵ですね。共感する人も多そうです。
「そうだとうれしいです。人間って、過半数の方が、出会いと別れを経験をしているじゃないですか。となると、ハッピーエンドなまま人生を終えている人も少ないと思うんです。時間経過で感情は薄れていくけれど、この曲の強いところは、たとえ今が不幸でなくても“過去にこういう気持ちがあったな…”と思い出すようなこともあるでしょうし、そういう経験がある方たちにとって、この曲が支えになるといいなと思っています」
──そして、この「鬼灯」をリリースした後には、映画『熊本の彼氏』が公開されます。主題歌「ドーンライト」も制作されていますね。
「はい。「ドーンライト」は映画の撮影中に制作をしました。僕は歌詞と、若干のメロディラインを担当したんですが、映画の世界観の中にいる状態で作りたかったので、ほぼ寝ていませんでした(笑)」
──この曲で届けたかったのはどんなメッセージでしょうか。
「僕は、この曲で希望を届けたかったんです。Aメロでは、“夢が叶うかどうかわからないし、報われるとは限らない”と歌っています。それは、僕が希望を持った歌詞を書くときは、そのいい部分だけを膨らませたくないからなんです」
──それは、杉本さんがそうではなかったからですか?
「そうです。自分の思う通りに行かない世界をずっとこらえながら続けて、今はありがたいことに毎日本当に忙しくさせていただいています。でも、僕は決して“売れた”とは思っていなくて。僕もまだ、夢の途中です。だから、絶対に夢が叶うとは言えないんです。ただ、その先には必ず光はあるし、辛いことがあっても“楽しいな”と思えます。例えば、ライブの日や、舞台の千秋楽、映画をみんなが見に来てくれたりとか、辛い時にも必ず光があるということで、タイトルを「ドーンライト」にしました」
──すごく素敵だと思います。しかも、この曲を、今の杉本さんだからこそ、歌えるというのも説得力がありますね。
「ありがとうございます。20代後半までずっともがいていた僕だからこそ、届けられるメッセージをこれからも歌い続けていきたいです」
──ここまで、ずっともがき続けられたのはなぜだと思いますか?
「実は僕、30歳までに何も残せなかったら、芸能界を引退することを決めていました。でも、芸能界を辞めたあとの自分がイメージできなくて、ずっと怖かったんです。だからこそ、それを払拭するために、“意地でも残ってやる!”と思いながらやり続けていました。30歳までに、燃え尽きずに後悔だけするのは絶対にダメだ思って、がむしゃらにやっていたら、どんどん加速していって、いろんなチャンスを掴めるようになりました。そう考えると、僕は未来の希望よりも、未来の絶望を払拭するために動いていたのかもしれません」
──その生きざまが主演映画になることもすごいですよね。
「自分でも驚きました(笑)。僕の地元である熊本を舞台に、冴えない男の子が、音楽の夢を持って奮闘する姿を演じたことで、当時の気持ちにも戻れましたし、新たな夢を見つけることもできました。きっと、一緒に夢を追っているような気持ちになる作品になっているので、今、夢を追っている人はもちろん、過去に夢を持ったことがある人が共感できる作品なので、多くの人に見てもらえたら嬉しいです!」
(おわり)
取材・文/吉田可奈
写真/中村功
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HALL TOUR 2025「RE:MAKE」
2025年10月19日(日) 大阪 松下IMPホール
2025年11月24日(月・祝) 熊本 熊本城ホール
2026年1月15日(木) 東京 LINE CUBE SHIBUYA