ブランドのアイデンティティーと世界観を体現した「château」

「L'ESSAGE」とはAGEとLESSを逆転させた造語。年齢に関係なく、ファッションを楽しむ自立した大人の女性をターゲットとして、基幹ブランド「JOURNAL STANDARD(ジャーナル スタンダード)」から派生したのが「ジャーナル スタンダード レサージュ」だ。「SMART&RELAX」をキーワードに「マニッシュなカッコよさ」と「肩ひじはらない女性らしさ」の2面性を重視した、ミニマルでモダンなスタイリング表現を特徴とする。ジャケットやセットアップ、ブラウスなどオーセンティックなオリジナルアイテムとトレンドや遊びを取り入れた国内外からのセレクトアイテムの自在な組み合わせで、カジュアルにもビジネスにもフォーマルにも着こなせる、大人の女性にとっての「新たなスタンダード」を追求してきた。
実店舗は銀座、丸の内、新宿に3店舗と少ないものの、シーズンコレクションの購入はもとより新作の予約もできるブランドのECサイトやSNSによる発信、ジャーナル スタンダードの直営店でのコーナー展開と、多様な顧客接点を通じて全国にファンを広げた。その起点となるのが、マロニエゲート銀座1の1階に立地する銀座店は2007年に出店した1号店であり旗艦店だ。「トレンドの移り変わりや顧客ニーズの変化に対応しながらブランド自体も変遷を重ねてきました。ブランドのアイデンティティーと18年にわたり培ってきた世界観を体現するため、初めて全面改装に取り組んだ」とベイクルーズPRの市川綾子さんは話す。

館内通路側のファサード
「ジャーナル スタンダード レサージュ 銀座店」。表通りのファサード

リニューアルのテーマは、城や館を意味する「château(シャトー)」。商業施設内の店舗だが表通りに面した路面店と変わらない立地特性を生かし、ファサードは白と赤の煉瓦で覆い、黒のスチール製の格子を配した扉やウインドー、エントランス脇に設置した小窓が、クラシカルでモダンなムードを漂わす。館内通路側のファサードも同じ設えへと刷新した。129㎡の店内は天井も高く、開放的な空間が時間の流れをよりゆったりとしたものに変える。内装は白と黒を基調に外から続く白と赤の煉瓦を壁面に配置し、各アイテムの色や柄、質感が映えるシンプルでクラシカルモダンな空間を生み出した。「MDやバイヤーが、自分たちが作り、買い付けたアイテムが並ぶ光景を思い描き、お客様の顔を思い浮かべながら、店舗設計部門と共に空間のイメージを組み立てていった」結果、ヨーロッパの館のようなラグジュアリー感がありながら加飾にならず、シンプルで商品が見やすい空間へと収斂された。什器やレジカウンターなども一新し、照明のみ18年前の出店時からあるシャンデリアを残し、ブランドの歴史を伝えている。

リニューアルで設置した小窓。取材時はビンテージのシャネルバッグとアクセサリーを展示
外から自然光がやさしく注ぐ店内

大人の女性を引き立てる人気定番のエクスクルーシブモデル

レサージュは現在、オリジナル比率が60~70%を占める。オリジナルアイテムは全店舗で展開し、立地や客層によってセレクトの品揃えを変えることで顧客ニーズに適うMDを編集している。オリジナルもセレクトもフルラインで展開しているのが銀座店だ。リニューアルオープンを飾った25-26年秋冬シーズンのコレクションは、25年春夏から引き続き「モダン」「ラグジュアリー」「テーラー」をテーマに企画、セレクトしたアイテムで構成。加えて、人気定番となっているセレクトブランドのエクスクルーシブモデルも揃え、銀座店で先行販売した。

英国の老舗アウターウェアブランド「MACKINTOSH(マッキントッシュ)」からはシグネチャーモデル「HUMBIE(ハンビー)」をセレクト。Aラインシルエットがフェミニンなステンカラーコートをベースに、生地はコーデュロイと透湿防水に優れた「レインテック」の2タイプ、着丈を短くすることでジャケット仕様に変更した。共にボアのライナー付き。ゴールドボタンはカジュアルにもオケージョンにもコーディネートが決まる。レインテックのハンビーはボアを外すとレサージュのアイコンであるレオパードプリントの裏地が現れ、袖を折り返せばコーディネートのアクセントに。襟を立てたときにレオパード柄が現れるインラインの仕様を黒無地に変更し、コーディネートの汎用性を高めているのも特徴。ボアの着脱により3シーズン着用可能なのも嬉しい。また、前年大人気だったウールメルトンのハンビーも再別注。新色でトレンドのブラウンカラーを追加した。「寒冷地の方も着やすいたっぷりとした素材使いで、重ね着にも適したサイズ感が魅力」の一品だ。

「マッキントッシュ」の「ハンビー」をベースにしたジャケットコート

コンテンポラリー、技術、アート、ミュージック、ファッションを融合させたクリエイティブワークを展開する「is-ness(イズネス)」も、レサージュではお馴染みのブランド。今回は音楽カルチャーとファッションの融合を追求する派生ライン「ISNESS MUSIC(イズネスミュージック)」にロングスリーブTシャツを別注した。フロントには銀座をイメージした「JAZZ」のロゴ、バックには「GINZA」のワードやイズネスミュージックとレサージュのロゴなどをプリント。オーバーサイズでこなれ感のある着こなしを楽しめ、ユニセックスでも着用可能だ。レコードジャケットに見立てたパッケージで販売し、音楽へのこだわりと遊び心を覗かせる。

「イズネスミュージック」別注のロングスリーブTシャツ(バック)
「イズネスミュージック」別注のロングスリーブTシャツ(フロント)

アクセサリーバイヤーとして長年活躍してきた吹上肖が18年に立ち上げたバッグブランド「A VACATION(ア ヴァケーション)」は、リニューアルオープンに合わせてオリジナルのレオパード柄の生地を作り込んだ。これを表に使ったクラシカルでモダンなムードのトートバッグは、たっぷりと襠をとることで収納力も抜群、しかも軽量と実用性も魅力だ。ハートデザインのチャーム付き。
「THE NEWHOUSE(ザ ニューハウス)」は、「全ての頑張る女性=輝く女性の毎日に寄り添い、解放する服。心地よく、スタイリッシュでいさせてくれる究極にシンプルな服」を目指し、16年にデビュー。程よくゆとりのあるストレートシルエットと柔らかな風合いが人気のデニム「WORK JEAN(ワークジーン)」を、今回は別注カラーのブラウンで製作した。カジュアルなワークパンツでありながら品を備えた大人の女性のためのデニムだ。「LEON TOTE(レオントート)」は、白いキャンバス地のハンドルや底部にブラウンを組み合わせ、金具はゴールドでアクセントをつけた。ショルダーストラップは取り外しができるので、シーンに合わせた使い分けが可能。アクセサリー感覚であしらえるバンダナも付属する。別注のレオントート2型は早々に完売したがラブコールは熱く、年明けに追加入荷が決まった。
イタリアのシューズブランド「NEBULONI E.(ネブローニ)」にはローファーを別注。シンプルだからこそ浮き立ってくる上品な表情に老舗らしい味わいが感じられる。

「ザ ニューハウス」別注の「ワークジーン」
「ア ヴァケーション」別注のトートバッグ
「ネブローニ」別注のローファー
「ザ ニューハウス」別注の「レオントート」

アップデートする基本アイテムの魅力、充実したジュエリー

オリジナルでは数量限定アイテムを揃えた。「定番名品」として顧客の支持が厚いイタリアのファブリックメーカーGIOLICA(ジオリカ)社製の生地から、レサージュのネームタグにも使用しているアイコン「レオパード」柄のツイードを厳選し、ノーカラージャケット2型とロングコート1型を製作した。大胆な色柄ながらあくまで品が重視され、デニムやTシャツと合わせれば大人のハイカジュアルスタイルを楽しめる。「リニューアルオープン以降、このツイードアイテムを目当てにお越しくださったお客様も多く、3型とも瞬く間に完売」するほど人気のアイテムとなった。

レサージュのネームタグに刺繍されたレオパード
ジオリカ社のツイードを使ったノーカラージャケット

スペシャルなアイテムが揃う中、オリジナルではこの間、アップデートを重ねながら定番に育ってきたアイテムも数多く、オーバーサイズのサックスとホワイトのシャツ、ボウタイのブラウス、紺ブレ、コーデュロイのパンツなど基本アイテムのリピートが多いのもレサージュの特徴だ。「例えばフェミニンなボウタイブラウスは毎シーズン人気。紺ブレのインナーに着てジャケットスタイルを、デニムに合わせてカジュアルスタイルを楽しむなど、オン・オフで上手に使い分けるお客様が多い」と市川さん。ここ数年、秋冬シーズンに好評なのが「FOX CASHMER(フォックスカシミヤ)」シリーズだ。柔らかくてふわっとした素材のニットはフェミニンで華やか、高級感があり、軽く、暖かい。カーディガンはゴールドボタンが付き、シンプルなコーディネートでもスタイルが決まるのが人気の理由だ。Vネックのプルオーバーとカーディガンは、1枚でも暖かく着られ、レイヤードも楽しめる。

秋冬シーズンの定番「フォックスカシミヤ」
紺ブレはレサージュの定番

セレクトも「モダン」「ラグジュアリー」「テーラー」の3軸で買い付けた国内外のブランドが揃う。オープニングでは、人気上昇中の韓国ブランド「EENK(インク)」を銀座店限定で展開。レサージュのテイストと親和性のあるベーシックに捻りを加えたモノトーン系のウェアを中心にセレクトした。ドメスティックブランドでは「TOGA PULLA(トーガ プルラ)」や「JANE SMITH(ジェーンスミス)」、「Uhr(ウーア)」などレサージュの定番ブランドの新作が並ぶ。

韓国のモード系ブランド「インク」

リニューアルで充実させたのはジュエリー。初めて専用のGケースを設け、見せ方もクラスアップさせた。オープニングで改めてフィーチャーしたのは「Adlin Hue(アドリン ヒュー)」。デッドストックやリサイクル可能な素材を使い、それぞれの個性を生かして一点物のジュエリーとして蘇らせることに特化したブランドだ。22年のデビュー以来、ファンを増やしている。「石の意味やストーリーに興味を持ち、ジュエリーでは比較的お求めやすい価格でもあることから、複数購入するお客様が多い」という。

  • リニューアルではジュエリーも充実させた
  • 「アドリン ヒュー」のジュエリー
  • 「アドリン ヒュー」のジュエリー

オープン以降は、旧店舗時代の顧客はもとより、新規の30~50代の働く女性を中心に集客し、銀座の立地特性から訪日外国人客も多く来店している。今後はオリジナルアイテムや様々なブランドの新作受注会、オーダー会、ポップアップストアも行い、鮮度の高い売り場作りに力を入れる。「ファンは多いけれど店舗を持っていないブランドもたくさんあります。そうしたブランドを体験する場作りを通じて、まだレサージュを知らないお客様との出会いを育んでいきたい」としている。
レサージュは23年に上質な素材やハンドクラフトを中心とするライフスタイルブランド「journal standard luxe(ジャーナル スタンダード ラックス)」との複合店を丸の内に出店。昨年はジャーナル スタンダード内のセクションから単独のディビジョンになり、今年は旗艦店の刷新と動きが活発化している。新規出店は未定だが、今後の取り組みが注目される。

写真/野﨑慧嗣、ベイクルーズ提供
取材・文/久保雅裕

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久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター。ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。元杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

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