──まず、アーティスト名を“S.Yuya”に改めた経緯からお聞きできればと思います。

「これまでソロのときは“シド ゆうや”でやっていたんですけど、改めてソロで音楽活動をするにあたって、ちょっとごちゃごちゃしちゃうな?と思ったんです。これまでお笑いとかもやったりしていたんですけど、ソロもその感じでやっていたから、そのままなだれ込んでいくのもちょっと違うなと思って。そことは分けるという意味でも、ソロワークのアーティスト名を“S.Yuya”にしました」

──先日、現在の表記になってからの初ライブ『S.Yuya MUSIC BOX 〜travel〜』を行なわれましたが、そちらはいかがでしたか?

「楽しかったです。そもそも歌うことに抵抗がなかったし、ステージに立つのも慣れているし。あと、コロナ禍辺りから、地方にいる人も同じ時間を共有できるツールがいっぱい出てきたじゃないですか。それもあって距離感の近さというか、やりやすさみたいなものは感じました。最初からみんなほぐれている感じがあったので」

──名前を変えて、アルバムを出しての初ライブとなると、ちょっとピリッとするのかなと思ったのですが、最初から最後までいい空気でしたね。

「長い間、ライブ活動はしてきているんですけど、あの立ち位置ではなかったので、フロントマンの気持ちが分かったというか…お客さんの姿勢的には、きっといつもと変わらないんですよね。見つめてくる視線とかは変わらないんだけど、そこにどう向き合うのか?という感覚でした」

──その視線を浴びて緊張したりとかは?

「しなかったです。照れちゃったなっていう感じでした(笑)。僕、後ろ(ドラムの位置)にいるときは普通にお客さんを見れるんですけど、前に行くとやっぱり近すぎるので。でも、お客さんはいつも通りだったから、そこまで抵抗を感じていないのかな?と思いました」

──ギター、コンガ、ドラムを演奏しながら歌う場面もありましたが、ソロではいろいろな楽器をやってみようというプランもあったんですか?

「そうですね。音源にも自分で演奏したものを入れているんですけど、僕だけにしかできないライブショーを展開できたら、より僕らしさが出るのかなっていうのは考えていました」

──楽器って他にもいろいろできるんですか?

「あとはベースとかですかね。でも、とびきり上手い奴がいるので、僕は弾かなくてもいいかなって(※ライブサポートはex.Aqua TimezOKP-STARが担当)。『MUSIC BOX』というライブ自体は、今の名前に変える前、去年の12月にスタートさせたんですけど、そのときはブルースハープをやりました。だから、今やれるものもそうですけど、これから先も何かに挑戦して、それを発表できる場になったら、ちょっとおもしろいかな?」

──先日のライブでも披露されていたアルバム『travel』についてですが、初作品としてどういうものにしようと考えていましたか?

「バンドの楽器の人が、バンドが認知されている状態でソロワークをやるとなったときって、キャッチーな曲が少ない印象があったんです。“本当はこういう音楽がやりたかった”というのが強く出ていて、ちょっと尖りすぎている印象があって。なので、僕は小さい頃からJ-POPもずっと好きで聴いてきたし、カラオケも好きだから、カラオケでちゃんと歌えて、気持ちいい曲がいいなと思っていました。だからもう“ポップス!”という感じの印象だと思うんですけど」

──そうですね。ジャンルこそ様々ですけど、どれもポップスが軸になっています。

「シドでもそういう曲をやってはいるんですけど、自分がその曲を作ったときの思いと、歌詞として乗る思いって違ったりするじゃないですか。そこを一致させてみたかったというのもありました」

──なるほど。それこそシドでも様々なタイプの楽曲を作られていますが、作詞は初ですよね。作詞って、実体験や当時の心境をそのまま書いたり、登場人物を立ててストーリーを考えて書いたり、フィクションに自分の意思を落とし込んでいったり、いろいろなパターンがあると思うんですけど、どう書かれました?

「その全部ですね。実体験もあれば、フィクションもあるんですけど、やっぱりめちゃくちゃ大変でした。歌詞を書く人って本当に大変なんだろうなって心底思いましたね。僕はまだ足をちょっと突っ込んだぐらいですけど、物語にがっつり入り込むタイプの人間だから、いろいろ想像をしていたらどんどん深みにハマってしまって。言葉が出てはくるんですけど、出てきすぎて苦しくなってくるんですよ、のめり込みすぎちゃって。だから、歌詞を書いている人たちに訊いてみたいなと思いました。“書いてるときって結構メンタルやばくない?”って」

──今回収録されている楽曲って、制作時期は結構バラバラなんですか?

「めちゃくちゃバラバラです。コロナ前くらいからボチボチ考えていて、その頃から作っていた感じでした。歌詞を書いたのは完全にコロナ禍のときですね」

──ちなみに、一番最初に作っていた曲というと?

「最初に作ったのは、「サヨナラのうた」ですね」

──それこそおっしゃっていた“カラオケでちゃんと歌えて、気持ちいい”という面が、本作の中でも特に強い曲ですね。ポップスを作る以外にもイメージしていたものはありましたか?

「自分がギターを弾きながら歌っている画がすごく浮かんでいたので、そこをイメージしながら入れる楽器を考えたりしていました。あと、ドラムは打ち込みにしようというのは、元々ずっと考えていて。敢えて叩かないっていう選択をしています」

──じゃあ今回はほとんど叩いてない?

1曲も叩いてないです。ギターとベースは弾いてるのに(笑)」

──その振り切り方もすごいですね(笑)。

「シドのときも、自分で作曲したけどドラムを打ち込みにした曲が何曲かあるんですよ。元々プレイヤー欲があまりないというか、ドラマーだからドラムを叩かなきゃみたいな、強いこだわりがなくて。いつも作品優先で考えいてます」

──なぜそういうスタンスになったんです?

「うーん…やっぱり曲が好きだからというのが強いからなのかな。“この曲を一番よくするためにはどうすればいいんだろう?”ってすごく考えてしまうタイプで。特にバンドのときは、“今回は打ち込みのほうがいいんじゃない?”って、周りは言いづらいと思うんですよね。そこはこっちが先に理解して、ドラマーから“ドラムは打ち込みがいいよね”って言ったほうがスムーズかなと思ったりするので」

──説得力もありますよね。そういった職人的なところ、楽曲至上主義なところは以前からカッコいいなと思っていました。

「ホントですか? 自分ではよく分からないんですけどね(笑)。もちろんこだわりはこだわりとしてあるんですけど、そこは出すところじゃないかなって思うし、全部俯瞰で見ちゃうところもあります。そんなに熱くならないというか…意外と冷静に“こっちだよね”ってやれちゃうタイプなのかもしれないです」

──すごく大きな質問になっちゃうんですけど、ゆうやさんにとってポップスってどんな音楽ですか?

「なんだろう?…カジュアルっていう感じですかね。気取っていなくて、生活の一部にすっと取り入れることができるカジュアルさ、みたいな気がします」

──カジュアルだけど、実は裏ではいろいろな工夫をしていたりもしていて。

「うん、そうそう。だから、カジュアルに聴かせるっていう感じですよね。その辺りは、シドに入って曲を作るようになってから知ることができた世界だと思います」

──特にポップスって奥深いなと思った部分というと?

「同じパターンの進行をする曲って結構多いと思うんですけど、“なんで同じパターンなのに、こんなにグっと来ちゃうんだろう?”って思うところは、奥深いなって思いますね。同じ映画を何度も観て感動する感じっていうのかな。ここで主人公が死ぬのが分かっているのに、“死ぬな!”って思いながら観て、結局感動しているみたいな。あの感覚とちょっと似てるんですよね。裏切らないんですよ」

──ポップスってちょっとした裏切りも大事じゃないですか。

「うん、それもすごくいいと思います。ポップスとか歌謡曲って、日本人の気質にすごく合うのかなっていう気もしていて。いい部分だけを出していても全然感動しないというか。ちょっと変わった部分を入れながら、サビでめちゃくちゃど定番が来て、結局泣かされちゃうみたいな。ああいうのって日本人には刺さりやすいのかなって思いますね」

──確かに。

──アルバムにお話を戻しまして、一番最近作ったのはどの曲ですか?

「「ロマンティスト」です。この曲は一番シンプルにしたかったんです。アルバムの中でも音数を一番少なくしています」

──曲構成もシンプルですね。あと、UKロックな雰囲気もあって。

「そうそう。あのかったるい感じというか、脱力感を出してやってみたかったところはありました」

──歌っているテーマとしては、スケール感もあるんだけど、身近なところもあるというか。

「これはコロナ禍の心情を若干入れつつ、という感じでした。いろんなことが起こったりしても、そんなことは関係なく、いつもと同じ夜が来て…という」

──歌詞に<星を眺めて 想う>とありますが、よく夜空を見たりするんですか?

「いや、僕はしないです(笑)」

──(笑)。それもあってこのタイトルなんですか? 自分はしないけど、こういうことをする人ってロマンティストだな、みたいな。

「そうですね。あと、ちょうどこの時期に友人が亡くなってしまって。コロナとかではなく病気だったんですけど、そいつがめちゃくちゃロマンティストだったんです。書いている途中にそのことが頭をよぎってから、その方向がバーっと浮かんできて。こいつだったらこうするかもなって思い浮かべながら書いていました」

──それでこういった歌詞になったんですね。先ほど、のめり込みすぎて苦しかったというお話がありましたが、特に入り込んでしまって危険だった曲というと?

「やっぱり「街」みたいな曲は、かなりのめり込み注意だなって思いました」

──アルバムの中でもかなりダウナーな空気があって、コロナ禍のことを書いたというお話をライブでもされていましたね。

「僕の気持ちというよりは、世の中の空気感というか…ニュースを見てもそうだったけど、すごく多くの人が戸惑っていて。笑っているけど笑っていないみたいなものを想像して書いてました。あと、渋谷のスクランブル交差点もイメージしていましたね。自分がそこに立っているんだけど、自分のことが見えていないみたいに、自分の周りを人がワーっと通り過ぎていくっていう」

──<光はない 夜が明けても>という強い孤独を歌っていますけども、そういった世界に入ってしまっていたと。

「ちょっと怖くなったんです。僕、ホラー映画がすごく苦手なんですけど、あの感覚に近いというか。普通に生活していても、映画をずっと引きずっている感じです。だから、そういう曲を書いたらすぐに次の曲を書いたりして、自分の中でバランスを取っていました」

──ちなみに、その後に書いた歌詞というと?

「「マテリアル」か「不思議な彼女」のどっちかだったと思うんですけど、そっち系の歌詞でした」

──ラブソングを書いたと。

「はい。この2曲は若干リアルを入れつつ、フィクションと混ぜて書いています。「蒼い夏」も結構リアルを入れています」

──青春の甘酸っぱい感じがありますね。「時の誘い」はいかがです? かなり柔らかなサウンドの楽曲ですけど。

「これはめっちゃフィクションです。どの曲もまず曲を作ってから歌詞を書いたんですけど、曲を聴いていたら屋根裏部屋が浮かんできて。柔らかい黄色の光が差し込んでいて、ちょっと歩くとバフっと埃が立つような、あの感じが浮かんできたんですけど、別に屋根裏部屋がある家に住んでもなかったし(笑)、おじいちゃんの家もそういう家じゃなかったので。でも、そういうイメージを広げて書いていきました」

──この曲もそうですし、アルバムの幕開けを飾っている「Night dance」もすごく画が見える歌詞ですね。

「これは、都会で戦っている人、たとえばサラリーマンの日常みたいなものを想像して書いてみました。田舎から出てきて、誰かのために頑張って働いているんだけど、帰り道の車の中で、急にひとりの空間になって…ちょっとホっとするんだけど、なんだかすごく寂しいっていう。あと、首都高ですね。レインボーブリッジが見えて、有明のほうに抜けていくあの道って、夜すごく綺麗じゃないですか。あの景色を想像していました」

──ただ、名前を改めて心機一転というタイミングで出すアルバムの1曲目が、戦ってボロボロになっているところから始まるのもすごいなと思って。

「ははははは(笑)。1曲目は、ジャケ写の雰囲気を出したいと思ってたんです」

──ああ、なるほど。この写真を見てから聴くわけですからね。

「そうです。“こっち系の感じで全部行くのかな?”って思わせておいて、みたいな感じです」

──面白いですね。「green」は軽やかで瑞々しさのあるサウンドが心地よくて。歌詞のテーマはサッカーだと思うんですけど。

「そうです。サッカーは幼少期から高校3年まで真剣にやっていて。国立競技場までは行けなかったけど…という気持ちをすごく膨らませて書いていきました。あと、“高校サッカーのテーマ曲を今、俺が書いたらどうなるかな?”っていうのも想像していました。コーチに言われた言葉とかも入れながら、自分のこれまでのサッカー人生をひとまとめにしたいなと思って作りました」

──<気持ち熱く頭冷たく>という歌詞は、それこそコーチからの言葉なんですか?

「そうです。やっぱりサッカーって冷静にやらないとダメなので。でも、熱さも大事という」

──そういったところも踏まえて、サビの一番目立つところに<ずるくなれ>というワードを置いているのがいいなと思いました。

「まぁ、マリーシアですよね」

──まさに(笑)。曲調的には“仲間たちと共にまっすぐ進もう!”みたいな印象がありますが、それだけじゃないという。

「やっぱりサッカーってずるさが必要なんですよ。バカ正直にやっているだけじゃうまくいかないんですよね」

──経験者だからこその言葉ですね。あと、先ほど“物事を俯瞰に見てしまう”というお話をされていましたが、それこそサッカーで培われたものでもあるんでしょうか?

「かもしれないです。団体競技という意味では、バンドもサッカーとほぼ一緒なので。いろんな人がいる中でやっていくというところから、俯瞰で見ることが増えたのかな?って思います。そこはちょっとした癖なのかもしれないです」

──そういった視点から生まれた曲の中でも、「ILLUSION」はハードなサウンドに合わせて、力強い言葉が並んでいて。

「この曲は、「Night dance」に出てくる人の中身みたいなイメージなんです。戦っている人の中身。そこからの派生というか、似たような脳みそで考えたので、そこに自分だったらこうするなとか、絶対にこう思うというのを乗せていった感じでした」

──<新しいとか 古いじゃなくて 思いを前面に 遠回りでもいい 信じてる>というラインは、今の世の中を象徴する言葉でもありますね。コスパを大事にしすぎて、思いはどこに行った?みたいな。

「まさにそうですね。今ってみんな賢くなりすぎていて。今までのやり方は全部なしで、でも新しいやり方もうまく掴めてないとなると、結局何もやっていないのと一緒というか…。それだと何も伝わらないし、何も動かないんだろうなってすごく思ったことがあったんです。僕は昔からずっと動く派なんですよ、どちらかというと。何もしないんだったら動こうよっていう気持ちが今も変わらずにずっとあるので、そういう感じです」

──そう考えると、今回のアルバムはご自身の中身がかなり投影された作品になりましたね。

「そうですね。フィクションを書くにしても、考える脳みそは結局ひとつなので(笑)、自分が今まで生きてきた中で思ったことが強く出ますね。完全なフィクションって難しくないですか?」

──確かに。きっとどこかで何かしら出ちゃうんでしょうね。

「出ますよね。表現方法もそうだし、言葉選びもそうだし。しかもいきなり一気に10曲なので、さすがに出ちゃいました(笑)。1曲だけだとバレないかもしれないけど」

──初作品を完成させたことで、次作の構想が見えてきたりしました?

「そうですね。この前のライブで、アルバムには入れてない新曲をやったんですけど、歌詞はオンラインサロンのみなさんと一緒に作ったんです。生配信のときに、“せっかくだからみんなで歌詞作る?”っていう話をして、出てきたワードを集めてまとめたんですけど、そういうのも楽しいからまたやりたいですね。あと、ここからライブ活動をしていくことももちろん考えています。今回のアルバムはポップスが多いけど、もうちょっとノレる曲を増やしたほうがいいかな?って思ったんですよね。そういった曲も次は出して行けたらいいなって考えていますし、でもまぁ、楽しくやっていきたいなって思っています」

(おわり)

取材・文/山口哲生
LIVE PHOTO/Tadashi Nagashimahy

RELEASE INFROMATION

S.Yuya『travel』

2024年62日(日)発売
生産限定盤(CD)/DCCA-1283,000円(税込)

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