――今回の3rdミニアルバム『Serotonin』ではバンドのフェーズに変化はありましたか?

内山ショート「僕は基本的になんでもかんでもやりたいタイプの人間なんで、とにかくやれることはチャレンジしてみようだとか間口を広げてみようっていうことを常に試してたりするんですけど、今回のミニアルバムに関してもそれは同じで、初めてやることが多くて。特にレコーディングでの音の録り方とか使う楽器もそうで、今回はアコースティックギター初めて使ったんです。曲の作り方でいうと、前まではどういう風なものを作ったらいいかっていうのを意識して作ってきたものが多かったんですけど、今回に限っては逆に自分がギターを弾いて歌った時に自然と出てくる手ぐせのようなものとか、まず一個フレーズを決めてそこからちょっとずつ肉付けして行くような作り方でした。前までは大きくなんとなくものを決めて、それに入れていってたんですけど、今回逆に小さいものから大きくしていくっていう作り方が多かったかもしれないですね。強いて言えば気持ちの違いだったかもしれないですけど」

――やっぱり1stアルバムを出してツアーをやることで、リスナーが拡大したことも影響している?

内山「どうなんですかね?逆かも知れないですね。なんかそこを合致させるのも割と難しいなって思うところがあって、そういうのに捉われずに自分のやりたいものに一回戻ってみてもいいんじゃないかなというか。素直に作ることを楽しんでみようと思ってできたものが多いかもしれないです」

――なるほど。

内山「僕が音楽やる上で"起こせてたらいいな"っていう影響みたいなもので言うと、自分が新しいものだとか全く触れたことのない文化、ジャンルだったりの良さに気付けたときがやっぱ音楽好きでよかったなって思う嬉しさもあったりするんで、そういう感覚をほかの人たちにも感じてほしいので、それも含めて色んなものをやってしまうってことは多いです」

――確かにシンガーズハイって王道を歩んでいるようでいて、ひとつのジャンルに括れないですし、いろんなロックバンドの美味しいところを摂取しているようにも感じられるんです。

内山「欲張りなんですよね(笑)」

――メンバー間で、内山さんが新しいものを見つけてそれを共有したりは?

内山「1、2年前とかは僕がHIP HOPにはまってたことがあったんで、やたらメンバーに聴かせるっていうことは多かったんですけど……最近なんかあったっけ?」

みつ「逆になかったのかもしれないですね。ほんとにライブが多かったから、ライブ中心みたいになってたかもしれない。だからこそライブのスローガンを決めてみたりとか、それに伴って演奏のノリ感がレコーディングに反映されたりとかあったかなって感じですね」

――ライブのスローガンっていうのはツアーごとに決めるんですか?

みつ「いや、何となく今年の抱負みたいな感じで(笑)。前回はパッションという言葉を」

内山「グラデーション的に変わっていくんですけど、最近はずっともうとにかくパッション(笑)」

みつ「でもそれがあったおかげでライブが自分たちがやりたかったものにだんだん変わってきつつ、それが今回、何曲かのレコーディングでダイレクトに出たものもあったりだとか」

――先行配信シングルの「ニタリ」と「エイトビート」の2曲もミニアルバムを作る上での複数あった中の曲なんですか?

内山「「ニタリ」に関しては前作のフルアルバムのレコーディングが終わって、まだマスタリングも終わってない段階で制作が決まったってのもあって。まあ初めて書き下ろしっていうものをさせていただいたんで、「ニタリ」も「エイトビート」シングルカットしてるし、結構一個のテーマを決めて作ってましたね。「ニタリ」に関してはさっき言った前のやり方というか、自分の中でテーマを大きく見てどういう風に作っていくか?を考えて、そこでどういうものをはめていくっていうやり方に一番近いものだったと思います。ホラーアニメのタイアップだったんですけど、意外と向いてるかもしれない(笑)と、そこに関しても思いましたね」

――「ニタリ」のバンドアレンジはいかがでしたか?

ほりたいが「「ニタリ」はコード進行からして特徴的というか、もうそれが一個のフレーズになってるぐらい強いリフだったんで、そのまま僕はギターは重ねて、何ならベースもユニゾンしてっていう、みんな同じフレーズを弾くことで、より強調して曲の強さやおどろおどろしさみたいなのが出せたんじゃないかなと思います」

――録音もですが、1曲目の「STRAIGHT FLUSH」のイントロが聴こえてきた段階でめちゃくちゃミックスのレンジが広がってるなと思いました。

内山「僕も本当に今回音がいいなと思ったんですけど、初めてチャレンジしてみたエンジニアさんのおかげもありますね」

――この曲は今までシンガーズハイがいわゆる邦ロックのテンプレとして避けてたビートではあるのかなと思ったんです。「kid」の歌詞からも窺えるようにちょっとバカにしていたというか。

内山「まあそういうふうに捉えられる言い方をしているのは完全に僕が悪いんでそうなんですけど(笑)、でも確かにこういった四つ打ち、シンプルなビート感っていうのは王道であるがゆえに逆に苦手なところだったりはするんで、そこで勝負できないとダメだなっていう意識はずっとあったんですね」

――今のシンガーズハイ、そしてプレーヤーとして、そういうシンプルなビートにどうアプローチを?

みつ「より一個一個の音も4人それぞれの音もしっかりしてますし、それぞれの楽器が目立つ部分がはっきりしてると思うので、レコーディングもそうなんですけどライブでの各々の成長につながるような1曲になったのかなって思います。だからその辺を意識して演奏したいなと思いますね」

ほり「ギターのアレンジ的には内山くんのバッキングがイントロから特徴的というか耳に残るので、その疾走感を失わないようにというか、普段は割と感覚からリードのフレーズを考えたりするんですけど、今回はいかにそのスピード感をなくさないようにちゃんと考えて作ったフレーズなんで、やってることはほぼ同じだけどマインド的にはちょっと新しいことに挑戦できたのかなっていう感じですね」

――ほりさんの中にはB’z的なものはバックグラウンドにあるんですか?

ほり「もうめちゃめちゃありますね(笑)」

――それがシンガーズハイのギターサウンドの面白いところですよね。

ほり「今時いないじゃないですか?90年代ゼロ年代のあの雰囲気のギターサウンドをなくしたくないというか、いいものだからちゃんと受け継いでいきたいなっていうのもあって、なるべくそこは意識はしてますね」

――りゅーいちさんはどうでしたか?このビート。

りゅーいち「まあ四つ打ち、16ビート大好き人間なんで(笑)」

内山「一番得意?」

りゅーいち「ほかの楽器を支えつつ、かつノリ感を意識して乗らせるビートを叩くっていうのを想像しながらやったっすね。ライブでやるってなったら踊らせるつもりでやりたいっていうか」

――ライブにおける心臓部という感じですね。あと今回思ったのが、内山さんのファルセットがいいですね。

内山「あ、そうです。あんまりやってこなかった歌い方なのかなとも思うんですけど、とにかくいいメロディが好きなんで、別に高い声とか前のような張り上げる無理した歌い方にこだわる必要もないんじゃないかなってのもあったんです。リード曲っていう立ち位置の中では割と今までで一番キーの低いというか、高さにこだわらなかった曲かもしれないですね」

――そしてアコギを導入した「SENTI」は人力のローファイヒップホップ調で、今までになかった曲調ですね。

内山「そうですね。シーケンスでオルゴールっぽい音とかも混ぜてみて、ギター、ベース、ドラム、歌以外の楽器の音を入れたのはそれが初めてだったかもしれないですね。ループトラックでドラムの音とかを繰り返しでつなげていくとなったら、楽になるのかなって思ってたんですけど逆にすごい時間かかっちゃいましたね(笑)」

――どういう部分で楽しようと?(笑)

内山「一音にすごくこだわるようになってしまって」

みつ「音のセレクトにね」

内山「一曲分、叩いてみたドラムの音の中で一番好きな一音みんなで決めようみたいな感じになって、トーナメントが開かれまして。何小節目の何音目が一番いい(笑)って、各々挙げて行って」

――そもそもループトラックにした理由はなんなんですか?

内山「歌詞とか全体的にすごく悲しいものになってしまっていたっていうのもあったんですけど、音で優しさを表現できたらいいなと思って。僕たちのやり方はどちらかというと攻撃的なところがあったりして、それがもちろん良さだったりはすると思うんですけど、それだけしかできないのもすごく嫌だなと思ってたんで、っていう試し方ができたんじゃないかなと思います」

――独白に合う曲調というか?

内山「そうです(笑)。割と僕は普遍的な愛を歌うのが好きなんですよ。それは共感してもらえるからとかいうわけじゃなくて、どちらかというと限られた言葉とか場面の中でどれだけリアリティを出すか、その人らしさを出すかということをしている人たちにすごく影響を受けた気がするんで、そういうものが多かったんですけど、今回のミニアルバム、特に「SENTI」や「紫」に関してはちゃんと自分が届いてほしい対象に向けてというか。ちゃんと届いているのかどうかがわかんなくなるっていう不安もあったりして、そういう人たちに向けて作ったという意識ですね」

――居場所がない人はライブハウスに集まれっていうバンドや、そういう歌はありますが、そこにも居場所がない人もいるわけですよね。

内山「そうです。やっぱどこに行っても疎外感を感じるようなひねくれたことを思うので。僕自身が(笑)」

――自分が行くとかいる場所が自分の場所だっていう印象の曲だなと感じました。

内山「すごく個人的な歌い方に近いなっていうか、歌詞の書き方に近いなと思ったんですけど、それでもそれぞれの受け取った人たちの感じ方を大事にし方をしてくれたら嬉しいかなって思ったりはします」

――そしてもう一曲の先行シングルでもあり、象徴的なタイトルの「エイトビート」という曲があります。エイトビートって何なのか?という話ですね。

内山「ははははは!結局音楽やってる人にしかわからないけど、でも逆にやってる人からしたら一番シンプルというか、一番使うような単語な気がするんですけど、意外とうちの曲に少ないビートパターンとかドラムパターンだし、さっきも言ったように苦手意識もあったんで、逆に今回はそういう王道から逃げないようにっていうのをすごく意識しました」

――歌詞としては何を書いたと思いますか。

内山「今までの歌い方がどちらかというと仮想敵、自分の中でいないはずの敵を作ってどうそれと戦うかっていうやり方が多いんじゃないかなって思うんです。だからこそ良さが出てた気がするっていうのもあるんですけど、やっぱやったことのないことがとにかくやってみたいっていうチャレンジもあったんで、今回に関してはどちらかというと仮想で敵を作るんじゃなくて、むしろ味方を作ってそれとどうお話するかみたいな(笑)気持ちで書いたことが初めてやったことだし、らしくないような気もするけど、でもすごく新鮮でしたね」

――バンドにとっても大きな曲になるんじゃないですか?

ほり「そうですね。ライブのセットリストにこの曲はあると急にいい意味でガラッと変わるというか、ちゃんとストレートに見せたいものだし、こういうのも僕たちの良さというか。マイナー調の曲がパブリックイメージ的には強いと思うんですけど、逆にシンプルなエイトビートが入ることでいい意味で締まるというか、キーになる曲なのかもしれないですね」

――みつさんとりゅーいちさんは今回のミニアルバムの中で「この曲のここは聴いとけ!」ってところはありますか?

みつ「「純」って曲が個人的には楽曲の歌詞の感じとか作り方的にも割と原点回帰みたいな感じで、初期の頃にやってたような感じだったんです。どこか懐かしさを感じるようなものになってるかなと思いますし、この曲がスリーピースの音源で上がってきたときに結構衝撃を受けて。「もうこれでいいじゃん。たいがの出るとこないじゃん」って思ったんですけど、それぐらいスリーピースの時点ですでに完成されてて。今まで聴いてきたルーツに近いものを感じたし、それでいてそれぞれの音がはっきりしつつ一番おいしいところでベースが目立てるような(笑)、構成になってるのが個人的には好きなんで、この曲をライブでやるの楽しみですね」

――りゅーいちさんはいかがですか?

りゅーいち「「STRAIGHT FLUSH」の手数多いところ。サビ終わりのブレイクダウンっぽいところとかも、最初バスドラの手数は内山くんから送られてきたデモでは少なかったんですけど、自分的に多いほうが好きだなって思ったので。無理やり音数増やしたりとか。あとはギターソロ終わりの全部の手と足がオルタネイトでバタバタしてるやつとか(笑)、もう脳筋で叩いているようなフレーズとかは個人的に聴いてほしいなっていう感じですかね」

内山「最近、制作の時、ドラムまわりのやり取り増えたもんね?」

りゅーいち「そうね」

内山「DAWのソフトを使って打ち込みでいつもドラムを僕がデモで作ってるんですけど、いつも僕とりゅーいちの2人だけでデータを共有する時が多くて。彼がお風呂入ってる時とかに僕が急に電話かけて“ここ、こうしたいな”とか“なんかいいのを考えてくれない?”とか、彼がお風呂で反響してる声の中で「ここね、ここだよね」ってやりとりしてて(笑)。

ほり「出てからやりなさい(笑)」

りゅーいち「お風呂入ってて急に“こういうのやりたいな、とりあえず伝えとくか”みたいな感じで」

ほり「え!お風呂入ってる側からかけんの?」

りゅーいち「思いつきでやろうとすると、そういう場面で電話しちゃうことがあるんで」

――タイトルの“セロトニン”っていわゆる幸せホルモンと呼ばれるやつですね。

内山「そうですね、はい。まあこのミニアルバムそのものがそれというよりかは、曲たちそのものが何かしら幸せを欲して求めて作っているものをがほとんどなんじゃないかなって思ってるんで。僕がそれを欲して歌ったものたちなんじゃないかなって、まとめて“じゃあ単純にそういうものなんじゃないか”と思ってつけました」

――登場時の印象からしたら逆のワードが来たと思う人もいるかもしれない。

ほり「アドレナリンでもおかしくない」

内山「雰囲気的にはどちらかというとそうなのかもしれないですけど」

みつ「でも聴いたら間違いなく幸せホルモン出るなと思って。暗い歌詞かもしれないけど」

――そして今年の夏以降、リリースツアーが対バンとワンマンの両方の形で開催されます。

みつ「対バンは同世代から大先輩、後輩まで幅広い対バンになったかな。今までで一番音楽の幅も含めて広い。公演数が多い分そういう事ができるようになったから」

――対バンツアーを経験した後にワンマンがあって、東京はZepp DiverCityですね。

みつ「一個前にワンマンツアーをやったんですけど、やっぱり対バンでいろんなインプットをして、その後にワンマン編になるのがロックバンドの王道なんだろうなと思ってそういう構成にしたいなと。ツアーファイナルはワンマンだと過去一のキャパなんですけど、今までよりいい意味で気張ってないよね?」

内山「そうね。それどころじゃないのかもしれないですね(笑)。ライブと一緒に曲が育っていくっていうことも間違いなくあると思うので、対バン編で作っていったものをワンマンで見せるっていう感覚なのかな」

みつ「前回のフルアルバムのツアーのファイナルから今現在の3ヵ月ぐらいで、ライブのカラーだったりテイストがガラッと変わった気がする」

内山「うん。今までは意固地になってたやり方というか、自分たちに見せたいものを見せようとしてたんですけど、今はちゃんと自分たちの良さに気づいてもらうためのライブの仕方に変わったんじゃないかなと思いますね」

(おわり)

取材・文/石角友香
写真/藤村聖那

Serotonin tour 2024LIVE INFO

■対バン編
8月9日(金)LOOK(千葉)  w/ KALMA
8月15日(木)F.A.D YOKOHAMA(神奈川)  w/ JIGDRESS
8月22日(木)mito LIGHT HOUSE(茨城)  w/ トンボコープ
8月23日(金)HEAVEN’S ROCK 宇都宮(栃木) VJ-2  w/ トンボコープ
8月27日(火)SUNBURST(群馬)  w/ トップシークレットマン
8月28日(水)甲府 CONVICTION(山梨)  w/ bokula.
9月4日(水)神戸 太陽と虎(兵庫)  w/ 猫背のネイビーセゾン
9月5日(木)CRAZYMAMA 2ndRoom(岡山)  w/ 猫背のネイビーセゾン
9月13日(金)MUSE(京都)  w/ ねぐせ。
9月14日(土)club-G(岐阜)  w/ ねぐせ。
9月16日(月)高松 DIME(香川)  w/ w.o.d.
9月20日(金)盛岡 CLUB CHANGE WAVE(岩手)  w/ Chevon
9月21日(土)郡山 Hip Shot Japan(福島)  w/ Chevon
9月23日(月)浜松 窓枠(静岡)  w/ BLUE ENCOUNT
9月26日(木)金沢vanvanV4(石川)  w/ GLASGOW
9月28日(金)CLUB JUNK BOX(長野)  w/ クジラ夜の街
9月29日(土)GOLDEN PIGS RED STAGE(新潟)  w/ ヤングスキニー
10月9日(水)Django(熊本)  w/ シャイトープ
10月10日(木)LIVE VANQUISH(広島)  w/ シャイトープ

■ワンマン編
10月12日(土)DRUM LOGOS(福岡)
10月18日(金)なんばHatch(大阪)
10月20日(日)名古屋 DIAMOND HALL(愛知)
10月25日(金)仙台 Rensa(宮城)
11月8日(金)札幌 PENNY LANE 24(北海道)
11月13日(水)Zepp DiverCity TOKYO(東京)

イープラス

シンガーズハイ『Serotonin』DISC INFO

2024年7月31日(水)発売
NOIS-010/2,000円(税込)
Noisy LLC

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