──アーティスト名表記が“さくらしめじ”から“Sakurashimeji”になりました。まずはこの表記変更に込めた想いを教えてください。

⽥中雅功「僕らは今年の6月で結成10周年を迎えたのですが、そうすると“今までを振り返ってどうだった?”という話によくなるんです。でも僕たちはそれに違和感があって。10年やってきたのは確かなんですけど、僕らはまだ22歳で、この10年を振り返るよりも、これから先の10年の話をずっとしていたい。そういう“振り返らないよ”という気持ちの表れ、新しい僕たちを作り上げていきたいという意思表示です。誰かに向けた表記変更というよりは、僕たちの指針としての表記変更です。英語にしたのは、英語が一番カッコよかったから(笑)」

──改名ではなく“さくらしめじ”という読み方は残しているところに、新たな決意と同時に、これまでの想いやファンの人を置いていかないという気持ちも感じました。

田中「そうですね。これからの話をしたいと言いつつも、今まで僕らの曲を聴いてくれた人や僕たちに関わってくれた大人の人たちなど、すべてがあって今の僕らがあるので、まったく新しいものにするのではなくて、ここから新しいものを積み上げていくイメージです。そこをないがしろにしたいわけではないので」

髙⽥彪我「“書き足す作業”っていう感じです。上書き保存するんじゃなくて、“名前を付けて保存”的な新規保存って感じです」

──実際、表記が変わることで気持ちにも変化はありますか?

田中「それこそ「明日を」は2人で作った曲なので、クレジットが“作詞・作曲 : Sakurashimeji”ってなるんですけど、それが最初は新鮮でした。かといって別に何が変わるわけでもないんですけど。ただ“さくらしめじ”という名前は結成当時、スタッフさんにいただいた名前で、“Sakurashimeji”に表記変更したのは僕たちなので、そういう違いはもしかしたらあるかもしれないです」

──自分たちの意思で表記変更をしたということに意味があると。

田中「はい」

──今、お話にも上がりましたが、新曲「明日を」が10周年記念シングルとしてリリースされました。「明日を」という曲は10周年記念シングルのために作り始めたのでしょうか? それとも曲ができたから10周年記念でシングルにしようかという流れだったんでしょうか?

田中「“10周年1発目の曲を作ろう”というところから始まりました」

──10周年1発目の曲ということで、どんな曲にしたい、どんな気持ちを歌いたいと思いましたか?

髙田「10周年って、はたから見ると大きな節目で、おめでたいと思うんですけど

田中「実際、おめでたいんだけどね」

髙田「うん、おめでたいし、ありがたいんですけど、でも冒頭で話したように、10周年だから特別に振り返るということではなく、むしろこれからに向けての意思表示をしたいなと思いました」

田中「普段はデモを作るとき、お互いにある程度アレンジも決めたデモを持ち寄るんですけど、今回は全部弾き語りで作ったんです。曲だけのパワー、曲だけのインパクトで決めようと思って」

──ご自身でアレンジもできるようになっているこのタイミングで、弾き語りのデモを出し合うと、お互いの成長や変化みたいなものもよく見えそうですね。

髙田「ドキドキしましたね」

田中「ドキドキした! そもそも今回、弾き語りだからということは関係なく、曲が全然できなくて…。10周年というプレッシャーもあったんだと思うんですけど。だからこうやって曲が完成してパッケージになって、今すごくほっとしています。2人でスタジオに入った帰り道に“どう? 曲できてる?”、“全然できてない”って会話をよくしていました」

髙田「10周年というプレッシャーはかなりあったよね。何をモチーフにしたらいいのか、最後の最後まで定まらなかったし…」

──<走りたい 傷ついても>、<止めないで 傷作って>という歌詞にハッとしました。10周年の曲を作る中で、“傷ついてきたこと”にフィーチャーしたのはどういった思いからだったのでしょうか?

田中「小さい頃って、無茶するじゃないですか。外でわーっと遊んで転んで、わーっと泣く。ケガをするということを考えずに、いろんなことに挑戦していたと思うんです。でもだんだん痛い思いをすることがわかってきて、“これをやったらケガするかも”、“これやったら怒られるかも”と思って、踏み出せなくなることが増えていく。それは“賢くなっている”という見方もできるけど、ちょっと寂しいし、自分の幅を狭めているような気がしていて。これから先、僕らはいろんなことをやっていきたいし、いろんなことに挑戦していきたいからこそ、ケガも恐れずに進みたいなと思ったことから作りました」

──とはいえ、この10年間を振り返って“傷を作ってきた”と書くのは勇気のいることだったのでは?

田中「僕は、マイナスなことが起きても、それを曲にしたらプラスになったということが結構あって。それって、歌の力だと思うんです。忘れたくなるようなことはたくさんあるけど、忘れないほうが楽しく生きられたりもするし。だから傷ついたことやできた傷跡も、ずっと見ていたいという考えがどこかにあるんだと思います」

──曲を作ることで自身の傷が癒されていくような?

田中「そうですね。そういう何かがあるんだと思います」

──客観的に見られるようになるというのもありそうですね。

田中「はい。あと、子供の頃って、カサブタをすぐ剥がしちゃったりしましたよね。それが楽しかったりもするし、それでまた強くなる自分もいる。傷つくことが悪いことか?と言ったら、決してそんなことないし、そこからどう強くなるかが大事だと思うんです。そういう想いをこの曲に込めました」

──彪我さんはこのテーマについてはどう感じていますか?

髙田「“失敗は成功のもと”とよく言いますけど、それを“カサブタ”というテーマで書くのが田中さんっぽいなと思いました。“カサブタ”っていう字面が好きです」

田中「字の話!?(笑)」

髙田「“カサブタ”という単語1つのなかに、情熱や諦められない想いが含まれている感じがして好きなんです」

──作詞を担当した雅功さんが特に好きな歌詞やフレーズを挙げるとしたら何ですか?

田中「好きなフレーズとはちょっと違うかもしれないんですが…Dメロの<足りない 足りないよ まだ>というフレーズは、何年も前からあったフレーズで、“いつか使いたいな”と思って、今回こっそり使いました」

髙田「へぇ、そうなんだ! 知らなかった」

──終盤に<振り向いて 思い出すのは いつも 同じ景色だ>という歌詞がありますが、これはどのような景色を想像して書いたものなのでしょうか?

田中「さっき話したような、何も恐れずに突き進んでいた頃…僕たちで言うと音楽を好きになった瞬間とか、音楽を始めるきっかけになった時期はきっと誰しもがあって。何かを怖がって進めない今日を打破したいときに思い出すのはそういう景色だと思うんです。そのとき見た景色や気持ちを忘れないようにという思いでこの歌詞を書きました」

──お二人にとって、そういうときに思い出す景色や思い出したい原風景はどのようなものですか?

髙田「結成して最初のワンマンライブです。バンドマスターの方に、本番前に“とにかく楽しもう!”と言われたんですが、その言葉はずっと心の中にあって。緊張したり不安になったりしたときに、その言葉を思い出します」

田中「意外と“楽しむ”って忘れがちだもんね」

髙田「うん」

田中「僕は初めてクリープハイプのライブを見た日です。小学56年生のときに、ラジオのイベントで、会場はSTUDIO COASTでした。小学生だったから背が小さかったんですが、周りの人が見やすいところを譲ってくれて。そこで見た風景は忘れられないです。そのとき“たぶん、俺、音楽やるわ”って思ったんです。最近はその風景に引っ張られすぎちゃうのでなるべく思い出さないようにしているんですけど、でも自分を奮い立たせたいときには思い出します」

──「明日を」のレコーディングで意識したことがあれば教えてください。

田中「ライブ感です。音源としてのきれいさは保ちつつも、“ライブだったらこう来るんじゃないか”という想像を掻き立てるような歌を歌いたかったんです。ギターは彪我が弾いているんですが、彪我にも“頼むからうまく弾こうとしないでくれ”って話をしました」

髙田「レコーディングだからと構えていたところがあったので、“もっと、らしくいけよ”と言われたような、頬を叩かれたような感じがありました」

田中「チープな言い方になってしまいますが、魂が見える曲にしたいなと思って」

──彪我さんがレコーディングで意識したことやこだわったことは?

髙田「雅功のあとにレコーディングをしたということもあって、ボーカルも雅功に引っ張られた感覚があります。それこそライブ感が増しているかな」

──今作のプロデューサーはソングライターの馬場俊英さんですが、馬場さんとはどのようなやりとりがあったのでしょうか?

髙田「かなり長い間、相談に乗ってくれたよね」

田中「うん。本当に親身になってくれました。週に1回はオンラインか対面でミーティングをしてくださって。それこそ2人が“もうダメかも”っていうときにも、歌詞やメロディの相談に乗ってくれました」

──やり取りの中で特に印象的なことや、発見などがあったら教えてください。

田中「“最終的に戻ってもいいから、いろんな切り取り方をしてみたら?”ということを言ってくださったのは印象的でした。戻ったときにもっとその歌詞を好きになれるし、いろんな切り取り方をしたという事実はこれからにも繋がるからって。実際にサビの<心を>という部分は最初のデモから変わっていないんですけど、それもいろいろと紆余曲折したあとデモに落ち着いた結果です」

髙田「僕は、歌詞を変に凝るというか、変に奥行きを持たせようとする癖があって…」

田中「想像させる余地を作り過ぎる…みたいなね」

髙田「そうそう。それに対して、馬場さんから“入り口はもうちょっとわかりやすくして、そこから読ませていくといいんじゃないか”ということを教えていただきました」

田中「あとは“今、海外ではこういう構成が流行っている”とか、そういう話も3人で持ち寄ってざっくばらんにいろんな話をしました」

──10周年というタイミングもあって、思い入れの強い1曲になったのではないかなと思いますが、Sakurashimejiにとって「明日を」という曲はどのような存在になりそうですか?

田中「それこそ、振り向いて思い出す景色の中にこの曲があったらいいなと思います。原初のパワーが込もった明日に向かう曲を作りたかったので、迷ったときやギアを入れたいときに、この曲が聴いている人のそばにあってほしいですし、僕らのそばにもずっとあり続けてほしいです」

髙田「“Sakurashimeji”に表記を変更してからの、この先の物語の前線を走っていってほしいですね。道を切り開いていく曲になっていってくれたらと思います」

──“振り返らない”とおっしゃっていましたが、最後に少しだけこの10年間を振り返ってください。10年間での音楽活動における互いの変化や成長はどのように感じていますか?

田中「彪我は本当にオタクになりましたね。音楽オタク」

髙田「いやいやいや」

田中「…って言うんですけど、僕から見ると、ものすごく音楽オタクになったなって。というか、音楽好きになったよね。特にギターが好きになって…」

髙田「最近新しいエレキギターを買ったんですけど、それ以降、楽器屋さんに寄るのが日課になってしまって」

──それは次のギターを探しに…?

髙田「そうなりますね(笑)。知れば知るほど欲しくなるんですよね」

田中「昔からその素養はあったので、別にびっくりはしていないんですけど、どんどん加速していっています。もう見えなくなっちゃうんじゃないかって思うくらい加速しています(笑)」

髙田「同じ事務所の方もみんないろんな武器をお持ちじゃないですか。その中で僕が胸を張れるものは何だろう?と考えたときに“ギターが好きだからギターを極めよう!”と思ったのがきっかけで。ずっと練習しています」

──逆に彪我さんから見て、雅功さんの変化や成長は?

髙田「雅功も昔からあった種が大きくなっている感じです。自分の内面や身の回りのことを作詞作曲で表現するのが上手だなと思っていたんですけど、最近はその色が多くなってきて、表現方法も僕にはできないことばかり。しかもそれをさらに突き詰めていっているなというのは感じます」

田中「高校1年生のときに「天つ風」という曲を作ったんですが、そのときに“できてしまった”という感覚があって。それはいい曲ができたということではなくて、自分が書きたいと思っていたことが書けた、という。その快感にやられてしまってから、今もずっと書きたいことを形にするのを楽しんでいます」

──では逆に、Sakurashimejiとしてこの10年間変えなかったこと、この先も変えたくないものは?

田中「自分でいること、嘘をつかないこと、ですね。よく“すごく頑張った一般人になりたい”と言っているんですけど、僕は超人にもなれないし、スーパーマンにもなれないので。曲を書くにしても、人前に出るにしても、変にカッコつけないし、スターになろうとしない。等身大でありのままを歌い続けるということは、これからもずっと変わらずにいたいです」

髙田「僕は、“2人組ということですね。今となっては2人組であることは当たり前になっていますけど、振り返ると、あんな血気盛んな時期によく2人でやってこられたなと思うし、田中さんはよく逃げ出さなかったなって思う。会うたびに肩パンされてましたもん(笑)」

田中「そう思うと、君もよく逃げ出さなかったよね(笑)」

──その時期も含めてお二人が逃げ出さずに続けられたのはどうしてですか?

田中「これしかなかったから、じゃないですかね。僕は音楽をやる前に、いろいろな習い事をしていたんです。バスケ、野球、水泳、体操…。バスケは長く続きましたけど、音楽ほどの衝撃があるものはなかった。“音楽をやめたらこれ以上のものに出会えないんじゃないか”と思っていました。嫌いになっていたらやめていたと思うので、それくらい好きだったということなんでしょうね」

髙田「僕は単細胞で、一つのことしかできないので…」

──結局、二人とも音楽が好きだったということですね。

髙田「はい、ただそれだけです」

(おわり)

取材・文/小林千絵
写真/中村功

RELEASE INFORMATION

Sakurashimeji「明日を」

2024年823日(金)配信
SDR

Sakurashimeji「明日を」

LIVE INFORMATION

Sakurashimeji Live House Tour 2024 心音

2024年1124日(日) 東京 代官山UNIT
2024年125日(木) 愛知 ElectricLadyLand
2024年126日(金) 大阪 梅田Shangri-La
2024年128日(日) 福岡 LIVE HOUSE OP's
【追加公演】
2024年1214日(土) 東京 渋谷ストリーム ホール

Sakurashimeji Live House Tour 2024 心音

U-NEXT

さくらしめじ 10th Anniversary Live -しめたん-

配信詳細はこちら >>>
毎年結成記念日に開催している「しめたん」。結成10周年を迎える今年は特別感のある内容でライブを配信!これまでのさくらしめじの進化と成長を、バンド編成でお届けする。

【セットリスト】
「青春の唄」「simple」「エンディング」「ひだりむね」ほか

※視聴可能デバイスに関してはこちらをご確認ください

さくらしめじ 10th Anniversary Live -しめたん-

さくらしめじ『ゆくえ』インタビュー

これからのさくらしめじの『ゆくえ』と可能性が詰まったアルバムを紐解く

“さくら”のような日なたの気持ちも、“しめじ”のような日かげの気持ちも、揺れ動く心に寄り添う音楽を届けるさくらしめじ。コロナ禍も止まらずに制作活動を続けてきた二人が3 年半ぶりのフルアルバム『ゆくえ』をリリース。⽥中雅功、髙⽥彪我にアルバムに込めた想いをじっくりと聞いた!
インタビューはコチラ >>
(2023年10月18日 掲載)

インタビューアフタートーク
さくらしめじ『ゆくえ』 × radio encore

3年半ぶりのフルアルバム『ゆくえ』リリースを記念してお送りするradio encore。
インタビュー直後の2人に編集部からの質問にも答えてもらったさくらしめじトークをお楽しみください!
radio encoreはコチラ >>
(2023年10月20日 掲載)

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