――2024年6月19日にアーティストデビュー5周年を迎えた心境から聞かせてください。

「この5年間という時間が思っていたよりもあっという間に過ぎて、今に至っているんです。改めて、5年も続けてこられたのは、ずっと応援し続けてくださった方がいるからだなっていう感謝の気持ちがすごく大きいです」

――ご自身にとってはどんな5年間でしたか?

「生まれて初めての経験がたくさんあった、すごく濃密な5年間でした。特に、ソロでライブをさせていただいた経験が大きくて。Aqoursでライブの経験はたくさんあったはずなんですけど、全然、違いました」

――グループでは東京ドームでもライブをしてますが。

「それが、全くの別ものなんですよ。なんだろうな?…ステージに立った時に見える景色も感じ方も全然違うんです。だから、ソロ活動を始めたばかりの頃は、ライブには慣れていたはずなのに、足がガクガクに震えていて(笑)。でも、本当にファンの皆様がどんなときでも温かく迎えてくださるので、ソロでのステージもだんだん楽しくなって、“好きな場所だな”っていうふうに感じられるようになりました。あとは、初めて作詞をさせていただいたことで、自分自身と向き合う時間が増えたし、とてもいい経験をさせていただいたなって思います」

――楽しくなっていったのは徐々にですか?

「そうですね。大変なこともたくさんあるんですけど、いろんなジャンルの楽曲を歌わせていただくようになって、それが、いろんな新しい自分と出会えるきっかけにもなりました。ソロ活動は、いろんな引き出しを発見させてくれる存在なんです。それはもう純粋にわくわくします」

――どんな自分が見つかりましたか?

「一つ一つにストーリーがあるものなので、楽曲を通して、いろんな自分になれるんですけど、結局は、元の自分に戻ってくるというか(笑)。そこはやっぱり隠せないし、消せないです。結局はありのままの自分に戻ってきて、そんな自分と向き合うんだっていうことにも気づきました。歌詞を書いていると、やっぱり自分の中にないものって書けないんです。だからこそ、いろいろ経験して、いろんなものを見て、いろんな歌詞を書けるようになりたいなっていうふうにも思えました。視野をすごく広げてもらえたと思います」

――言葉にするのは難しいかもしれないですが、“元の自分”、“ありのままの自分”っていうのは、どんな自分でしたか。

「やっぱりそんなに明るい性格ではないなっていう…(笑)。割と内向的です。それは、元々わかってはいたんですけど、歌詞を書くという経験を通して、それも個性の一つでいいんじゃないか?って思えるようになりました。そういう負の気持ちというんですかね…例えば、孤独に感じることも原動力になるっていうことに気づいて。悪いことだけじゃないなっていうふうに思いました」

――ありのままの自分を見せることに抵抗はなかったですか。

「普段はあまり見せることはないんですけど、私にとって、歌詞はすごく自由に書ける場所で、歌詞であれば、普段は言えないことや見せられない部分をさらけ出せるんです。10人いたら10人全員に響くかどうかわからないですけど、誰か1人にぐさっと届くようなものができたらいいなって思いながら書いています」

――アーティスト活動をしていると、どうしても声のお芝居よりは自分自身を表現する範囲が広くなりますよね。それも嫌ではなかったですか?

「そうですね。だんだん嫌じゃなくなってきたっていう感じです。最初に私がお芝居や演劇を好きだなって思ったきっかけは、“自分じゃない誰かになれる”っていう憧れからくるものだったんだと思うんです。でも、アーティスト活動においては、ありのまま以上によく見せたりするのはやっぱり違うなって感じたんです。今は、自分の内面を一番さらけ出せる場所なのかな?って思っていますし、そうするべきなんだろうなって自分なりに考えています」

――そして、ミニアルバム『Act2』からは実に1年ぶりとなる新曲で、5周年の記念楽曲となる「メソッド」がリリースされました。どんな楽曲にしたいと思っていましたか?

「やっぱり5周年ということで、皆さんの心に残るような作品を届けたいなって思っていました。毎回、楽曲をリリースするときには、自分の他の曲と被らないように、“今度はこういうジャンルの曲がいいな”って模索しながら決めているんですけど、今回は、今までの逢田梨香子の曲の雰囲気も残しつつ、“新たなジャンルに飛び込んでみたい”と思っていて。“重すぎず、爽やかだけど、ちょっと切なげでストレートなギターロックがいいな”っていうふうにオーダーをしました。そのときはまだ、歌詞の方向性はざっくりしか決まっていなかったんですけど」

――ざっくりは決まっていたんですね。自分で書くというのも決めていたんですか?

「そうですね。皆さんへの感謝の気持ちを込めたかったので、自分の言葉で届けたいと思っていました。歌詞の方向性は、テーマと言えるほどのものでもないんですけど、今まで以上にファンの皆様に向けて書きたかったんです。内容的には、直接みんなに宛てているようにはちょっと見えないかもしれないんですけど、気持ちは皆さんへ向けて書いていました」

――どんな気持ちを込めましたか?

「まず、方向性としては、ストレートに表現したいっていうのは、曲を聴いて感じていて。その中で、感謝の気持ちがあるのは大前提なんですけど、私なりに自分のペースで前に進んでいく姿をみんなに届けたいと思ったんです。私が頑張っている姿を届けることで、みんなの励みになったり、喜んでくれるのかな?って。最初の骨組みはそんな感じでした」

――この5年間での心境の変化や価値観の変化も描かれていますよね。具体的にはどんな変化がありましたか?

「最初の頃は本当にガチガチだったんです。“頑張らないと、頑張らないと”って、自分のことを知らず知らずのうちに追い込んでいた部分がありました。もちろん、頑張らないといけないのは当然なんですけど、“こうでなきゃいけない”という考え方で凝り固まっちゃっていたというか…。それに、不安があっても、弱音を吐かないようにしていたんです。どうせ頑張らなきゃいけないのは同じだから、周りの人に言っても仕方がないし、言ったら言ったで不安にさせちゃうなっていう気持ちが強くて。だから、あまり言えないことが多かったんですけど、今はいい意味で肩の力が抜けて、周りの人にも頼れるようになりました。それは、自分の中ではかなり大きな変化です」

――ファンにも自分の弱い部分を見せられるようになりましたか?

「そうですね。これまではずっと、みんなが求めている“逢田梨香子像”みたいなものがあるのかな?って思っていました。だから、弱い部分はなるべく見せないようにしてきたんですけど、この5年間を通して、みんなはどんな自分でもいつも受け入れてくれたし、優しく迎えてくれました。そんな人たちがたくさん応援してくれていて、それが自信に繋がっていった部分があって。みんなが変えてくれた部分でもあります」

――心境や価値観が変化していく中で、<変わらないでよ/変わらないから>という願いも伝えています。

「はい、やっぱり何事も変わっていくものばかりだと思っていて。人の気持ちって固定できるものじゃないですか。それはいいことでもあり、しょうがないことでもあるって思うんですけど、私はこのお仕事を始めて10年ぐらいになるんですけど、いい意味で“変わらないようにしよう”っていうふうに思っているんです。だから、<変わらないでよ/変わらないから>って、みんなへのわがままみたいなものでもあるかもしれないです。ずっと一緒にいれるわけじゃないかもしれない。でも、みんなと同じ気持ちでずっといたいっていう…変わっていく中で思っていることかもしれません」

――その後に<本当は誰よりも弱くて一人じゃダメなんだよ>と続きます。これは本音を吐露しているって言っていいんでしょうか?

「そうですね。でも、私はずっと、“一人は正義”みたいに思っていた部分があったんですよ(笑)」

――あはははは。

「“一人でも生きていけるようになりたい”ってずっと思っていて。いや、でも、それって無理だなって(笑)。この10年間でいろんな人と出会って、助けられて、本当にいい環境でお仕事をさせていただいてきたんです。大切な人もたくさん増えた中で感じたことなので、こう言えるようになったのは、自分の中で逆に強くなったというか…これは割とプラスな意味合いでした」

――ちょっと細かくも聞いてしまうんですが、<帰れる場所があるから>の<帰れる場所>とはどこですか?

「やっぱりみんながいつも待ってくれている場所だったり、ライブのイメージも強いです。みんなにとっても帰れる場所になっていてくれたらいいなっていう。昔は、“ここが私の帰る場所”みたいなものがあまりなくて。気持ちの休まる場所がなかったんですよね。でも、この10年間を通して、そういう大事な人や大事な場所が増えて、“幸せだな”って感じることが増えました」

――でも、<一人だって恐れないで>とも歌っているので、自立した個のままで集まるっていうイメージなんでしょうか。

「あはははは。そうですね。結局は、個に戻ると言うか。みんなそれぞれ自分の中のメソッドというか、マイ・ルールみたいなのがあるじゃないですか。だから、個は個なんだと思うんですけど、その気持ちを分かち合える人たちがしっかりいるんだっていうことですね。出会いと別れがたくさんあって、会えなくなっちゃった人もいたりするけど、ずっと続けていれば、またどこかで交わることがあるんじゃないのかな? だから、私は、進み続けることが本当に大事だと思うんです」

――逢田さんなりの前に向かう進め方ってどんなものでしょうか。<歩き続ける>と歌っていた「ハナウタとまわり道」、葛藤や戸惑いを経て、それでも光に向かって前へ進む決意を込めた「プリズム」を経て、どのように前に進みたいと考えていますか?

「それぞれの曲で進む速度も心境も違いますよね。「ハナウタとまわり道」は、「マイメソッド」とは違った意味で、自分のペースでゆっくり景色を見ながら、鼻歌を歌って、“今日も頑張ったな。明日もまた頑張ろう”みって感じです。“今日はこんなことがあったな。失敗しちゃったな”みたいなネガティブな気持ちも肯定して受け入れて、“また明日も頑張ろう!”って思うような曲です。「プリズム」は歌詞からもそうなんですけど、結構、幼少期というか、子供の頃を思い出すような懐かしさがあるんです。原点に戻らされる曲でもありました」

――子供の頃を思い出したのはどうしてですか?

「今までの私から未来の私に向けたメッセージが込められています。<越えていけ/越えていけ>って歌詞があるんですけど、自分で一歩を大きく無理やりにでも踏み出す、みたいな力強さを感じました。背中を押してもらったような気持ちになりました」

――それは作詞作曲を手がけた大塚愛さんに? それとも過去の自分に?

「私が子供の頃から聴いてきたアーティストさんだったので、間接的に背中を押していただいた気持ちにはなりました。でも、曲だけ聴くと、昔の自分が背中を押してくれたような気持ちにもなりました」

――そして、「マイメソッド」で歌っている“自分なりの前への進み方”というのは?

「正直、ずっとこういうふうにやってきたわけではなくて。さっきお話したように、この5年間の活動を経て感じたことでもあるんですけど、“マイペースに自由気ままに行き先を決めずに進もう”ってことですね。いい意味でラフに生きられるようになったというか…」

――今が一番肩の力を抜いてリラックスして等身大でいられているんでしょうか?

「完全にそうかどうかはわからないですけど…こうありたいっていう気持ちと、こうなれてきたっていうのと、両方あります」

――ここで歌っている<自分らしく>っていうのは?

「<迷いながらもがきながら>って書いてるんですけど、別に迷っていても、もがいていても、ネガティブな気持ちになっていても、それもまた人間だからしょうがないっていう。無理にポジティブになったりしなくていい。それもまた自分だから、それでもいいんじゃないかな?っていう気持ちで書きました」

――行き先は決めない旅なんですね。

「そうですね。あまり人生設計のを立てたことがなくて。みんな立てたりしてるのかな?」

――大学在学中に起業します、とか。

「確かにプラスなことだったら、昔は“何歳までにこうなっていたい”とか、ちょっとはありました。“二十歳までに声優デビューしたい”、みたいなのはあったり。それは、なんだかんだ叶えられてきた部分もありましたけど、今まで“自分はこうじゃないと駄目だ”とか、そういうふうに自分で自分を縛って追い込んできた部分もあるので、そういう意味でも、この先は何があるかわからないし、本当に自由に生きてもいいんじゃないかな?っていうふうに思うようになりました」

――5年前はありましたか? アーティストとして、こうなっていたいという理想像は?

「いや、もう、理想なんて掲げられなかったです。目の前のことを一つ一つ向き合うのに精一杯で。本当に余裕がなかったですね、最初の頃は」

――今は5年後、こうなってたいってのは考えずに?

「<行き先など決めないで>というと行き当たりばったり感ありますけど(笑)、みんなと一緒に過ごす時間は今後も大事にしていきたいですし、自分で書いた歌詞も届けていきたいですし、そういったビジョンはあります」

――歌詞には出てこないフレーズの「マイメソッド」をタイトルにしたのはどうしてですか?

「最後の最後まで決まってなくて…“どうしよう?どうしよう?”ってなっていたんです。最初は人生をラフな旅に例えていたので、旅を元にタイトルを考えていたんですけど、全然出てこなくて。でも、ある時、「メソッド」って思いついたんです。元々知っていた言葉ではあるんですけど、“自分流に前に進む”=“マイメソッド”がいいかも?と思って、結構思いつきでした」

――Principal(主演)、Curtain raise(開幕劇)、フィクション、Act2(第2幕)に続く、演劇縛りではなかったんですね。

「全然、演劇縛りでは考えていなくて。テーマを大事にしてきたっていうのもあるんですけど、あまりとらわれすぎると逆に狭まっちゃうなっていうふうに思っていたので。“いい感じに思いついたらつけようかな”くらいの気持ちでした。今回は正直、全くそっちで考えていなくて。でも、“ちょうどいいかも”と思い、直感でつけました」

――作詞曲も増えてきましたね。

「毎回そうなんですけど、やっぱり達成感があります。自分で書いた歌詞はいつも100点をあげられるように書いています。何事においても、なかなか100点を付けられるような性格ではないんですけど、歌詞に関してはいつも、“頑張ったな。100点。花丸つけてあげたい!”ぐらいの気持ちで書いています。今回もこの歌詞を皆さんに宛てて書けたので、良かったです」

――100点でいいですか?

「(声が小さくなり)…はい…付けさせてください。今の100点ということで」

――(笑)ファンの皆さんにはどう届くといいなと思いますか?

「いつもは、“こういう曲です”みたいなお話しはしますけど、みんなに届けたらそれはもう皆さんの曲なので、“好きに解釈して、みんなの曲にしてください”っていうふうに言っているんです。でも、この曲は、いつも一緒に過ごしてくれているみんなだったら、これは自分たちに向けて書いてくれたのかな?ってわかる部分もあると思うので、ぜひストレートに受け取ってほしいです」

――<君といる私が1番好きなんだよ>の“君”は、俺だ、私だ、僕だと…。

「はい、そう思ってください!」

――8月にはバースデーイベントを控えています。

「毎年、誕生日は一瞬で終わるんですよ。ほんとにあっという間で、気づいたら1日が終わっていたって感じなんです。もう7年目になるんですけど、毎年、誕生日当日に皆さんに“おめでとう!”って言ってもらえることを毎年毎年、幸せに感じています」

――その後のアーティスト活動はどう考えていますか?

「これまで、いろんなジャンルの楽曲を歌わせていただいてきて。今はこの「マイメソッド」を作り終えた安堵でちょっとまだ浮かばないんですけど(笑)、新しい曲を通してまた新しい自分に出会いたいです」

――10周年を迎えた声優業とは別に、5周年を迎えたアーティスト活動はご自身にとって、どんな場所になっていますか?

「やっぱり全然違うものだと思うので、どちらもあったらありがたいです。役として歌うことと、逢田梨香子として歌うこと。同じ歌でもやっぱり気持ちの向き合い方が全然違うんです。キャラソンだと自分じゃないし、やっぱり自分として向き合うっていうのが大きな違いかもしれないです。自分で言うのもあれなんですけど、この5年間のソロ活動を通して、“人間的にもっと成長しなきゃいけない”って、いろいろと感じさせられることが多くて。まだまだな部分もたくさんありますし、“ここ、ちょっと成長できたのかな?”って思う部分もあるので、本当に自分と向き合う時間になっていますし、頑張ってどちらも続けていきたいと思っています」

(おわり)

取材・文/永堀アツオ

RELEASE INFROMATION

逢田梨香子「マイメソッド」

2024年710日(水)配信

逢田梨香子「マイメソッド」

EVENT INFORMATION

RIKAKO AIDA Birthday Live 2024 〜Sing along With Us!〜
2024年8月8日(木) OPEN 16:00 / START 17:00
会場:東京・Zepp DiverCity

RIKAKO AIDA Birthday Talk Show 2024
2024年8月8日(木) OPEN 19:30 / START 20:00
会場:東京・Zepp DiverCity

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