──最初にredrawを結成した経緯から聞かせてください。アメリカでトラック制作をしていたプロデューサーのdroさんと日本でシンガーとして活動をしていたRuiさんの出会いからお伺いできますか?
dro「その経緯はRuiさんに任せるね」
Rui「ざっくり言うとSNSのDMです。droさんは曲を作って、ボーカロイドを使って投稿していて。私も趣味程度にカバー動画をYouTubeに投稿していたんですけど、droさんがボーカリストを探していて、私の【歌ってみた】のカバー動画を見つけて…そこで、SNSのDMに連絡をいただいたのが始まりです」
──お二人それぞれのそれまでの音楽経歴も聞いていいですか?
dro「僕は高校生の頃までずっと音楽と美術の授業が苦手でした。通知表はいつもDかFをもらっていたんです。“才能ないな…”と思っていたのに、お母さんがコストコでギターを買ってきてくれたんです。趣味で始めてみると、どんどん音楽に興味が湧いてきて。2022年からは曲作りも始めて、最初はボーカロイドに歌ってもらっていたんですけど、2023年くらいに“やっぱり人間の声が欲しい”と思うようになりました。その頃に、いろんな人に連絡していて、唯一、お返事をくれたのがRuiさんでした。その後、1年くらいぱったりと連絡がなくなってしまって…2024年にまた連絡をいただいて、現在のような活動が始まりました」
Rui「私はボーカロイドが好きで聴いていたんですけど、YouTubeを通して、“歌い手”という文化があることを知りました。“同じ曲を違う人が歌うのって面白い”と思って。調べてみると、ある程度の機材があれば誰でもできることもわかったので、2020年に初めて【歌ってみた】の投稿をしました」
──最初にカバーした曲は覚えていますか?
Rui「歌い手としてはボーカロイド曲が多かったんですけど、最初の曲はKanariaさんの「KING」を歌いました」
dro「当時、いろんな歌い手さんのカバーを聴いていたんですけど、Ruiさんがカバーした「KING」と、同じくKanariaさんの「酔いどれ知らず」のカバーを聴いて、“この人の声、きれいだな”と思いました。少しボーイッシュな感じもあって…いつもRuiさんに言うんですけど、“恋に落ちた少年”みたいな声だと感じました。そして、呼吸の流れがちゃんと聞こえるところもすごく綺麗だと思って。“この人と曲を作りたいな”と思いました」
──素敵な表現ですね。Ruiさんは、droさんから連絡が届いた時にどう思いましたか?
Rui「それこそ今、droさんに言っていただいたように、“恋に落ちた少年のようだ”とか、息の使い方や、他の人はあまり着目しないような深い視点で細かく褒めてくれた長文のメッセージをいただきました。その上で、“一緒にやりませんか?”とお誘いをいただきました。私の声の自分も知らないようなところにも気づかされましたし、そこまで見てくれる人は今までいませんでした。その時点では“嬉しい”が大きかったです。それで、“自分の声をそこまで見てくれている人と一緒にやったら面白そうだな、やってみたいな”と思って連絡をお返ししました」
──でも、そこから1年くらい、連絡が途切れるんですよね?
Rui「1年間、返事を返さない時期がありました(笑)」
dro「無視されていました(笑)」
Rui「あははは。本当に申し訳なかったです! 最初に声を掛けていただいた頃にはもう社会人で、正社員として働いていました。それまでは学生の趣味程度で音楽をやっていたのが、あまりに忙しくて、趣味としてもできなくなってしまっていて…。以前は“音楽をやっていきたい”と思っていたこともありましたけど、“もう辞めちゃおうかな?”というところまで精神的に追い込まれていて。でも、最初に連絡をいただいた時は、“これが最後のチャンスだと思ってやってみよう”という気持ちでいたんです、でも、どうしても忙しい事情があって。無視していたわけではないんです。無視していたんだけど…」
──あはははは。
Rui「1年間ちょっとお返事を返せていなくて。なんとか落ち着いて、“まだ間に合うかな?”と思って、ダメ元で連絡してみたら、“是非!”と言っていただいたので、そこからようやくスタートした感じです」
dro「僕は僕でずっとボーカリストを探していました。Ruiさんに無視されていた1年の間に120人くらいに連絡をしていました。でも、返事はほぼなかったんです。僕も、“もう音楽を辞めようかな?”と思った時がありましたけど、そんなときにRuiさんがまた連絡をくれて。お互いが“ラストチャンスだ”というような気持ちがあったと思います。それに、人はいつかは死ぬんだから、それなら好きなことをやりながら死にたいと思って。そこからちゃんと始まりました」
──それが2024年の2月ですね。redrawというユニット名にはどんな由来があるんですか?
dro「最初はRuiとdroの名前を混ぜたRuidro(ルイドロ)というユニット名を考えていました。そこからいろんなバージョンを経て、意味的にもぴったりだと思ったredraw(リドロー)になりました。全く違う人生を歩んできた二人。バックグラウンドも住んでる場所も全然違う二人が、音楽のおかげで出会って、これまでの道を書き直して前に進む。そんな意味のredrawです」
──最初に制作した楽曲は2024年7月にデジタルリリースされた「二人のミント」ですか?
Rui「そうです。最初に“一緒にやりませんか?”という連絡をいただいた時に、“どんな曲を作っているんですか?”と聞きました。その時のデモもすごく好きだったんですけど、アメリカっぽい曲が多かったんです。だから、“アメリカっぽい曲を作ってくるのかな?”と思っていたら、私が大好物な儚げなJ-POPが届いて。しかも、日本語の歌詞ありで送ってきてくれました。最初は意味がわからなかったです。どうして日本語で歌詞が書けて、何で日本語で仮歌が歌えるの!?って。“この人は何者なんだ!?”って思いました」
──droさんは何者なんですか?
dro「僕はプロデューサーで、曲作りも録音も自分でやっているんですけど、決して全てを1人でやったわけではなく、いろんな人のお手伝いがあってこそ、できました。でも、確かに、「二人のミント」を作る時に自分が強い信念として持っていたのは、“新しいものはあまり新しいものじゃない”という考えでした。既に存在しているものが少しだけ変わったら新しいものになると思っていて。だから、「二人のミント」には、普通のJ-ROCKの中にボサノバのようなドラムが入っています。でも、一聴すると普通のJ-POPに聴こえる曲というのが目標でした」
──MVのイントロには<君を愛することよりも/無力な自分が憎かった>とあります。
Rui「劣等感が一番強い曲だと思っていて。私たちの活動自体も“劣等感”というテーマは強いものではあります。私たちらしいですし、哲学的な歌詞ではあるけれど、恋愛というロマンチックな部分も合わさっていて。私たちの曲はストーリーを重視しているので、まず、droさんが小説を書いて、それを元に曲ができていくのがredrawのスタイルです。私はそのストーリーの主人公になりきって、役者のような立ち位置として歌っています。最初に“少年のような声”と言っていただいたので、少年さを強く出しつつ、切なくてロマンチックな曲になったと思います」
──droさん、“劣等感”がredrawの楽曲のテーマになっていますか?
dro「これからいろんなフェーズがあると考えていますけど、これまでのフェーズではずっと劣等感をテーマにし続けていました。学生時代や、現役の学生のみんなが必ず一度は感じる、青春の中の痛み。同じ学校で、同じ勉強をしているのに、“どうしてあいつはあんなにできて、私はできないのか…”という劣等感はみんなが感じられる痛みだと思っています。でも、その劣等感があったからこそ、自分のことを変えることができるとも思っています」
──例えば、2nd配信シングル「梅雨花」や7th配信シングル「雨色」にも共通したテーマが根底に流れていますね。
dro「その2曲は同じ小説から生まれています。海になりたかった雨。同じ水なのに、雨はみんなが逃げたがるけど、海は時間とお金を使って行きたいという…雨はきっと海に劣等感を持っていると思って。4th配信シングル「Midnight Therapy」や「二人のミント」は恋をしている人に劣等感を感じています。“私が好きなあの人は、私よりもっといい人だから近づけない”という感情を表現しています」
──「二人のミント」のMVは15万回再生されていますが、その反響をどう感じましたか?
Rui「redrawの1st配信シングルだったので、“たくさん聴いてもらおうね”という気持ちでいましたけど、まさかそこまでたくさんの人に聴いてもらえるとは思っていなかったです。あと、この曲以外もそうなんですけど、droさんの言語が強いんです。何カ国語喋れるんだっけ?」
dro「6、7くらい」
──2度目ですが…droさんって何者なんですか!?
Rui「(笑)。多言語を話せるので、YouTubeにもいろんな言語の字幕をつけています。だから、コメント欄もいろんな国の言語で書かれてるんですよ。日本の曲だから頑張って日本語で書いてくれている人もいるんですけど、自分の言語で感想をくれる人もたくさんいて」
──コメント欄は日本語、英語、韓国語、中国語、台湾語と様々な言語が入り乱れていますね。
Rui「私も初めてだったんですけど、それがすごく魅力的だと感じました。日本の方だけではなくて、いろんな国の方に私の声を聴いてもらっているものも嬉しいですし、すごい衝撃はありました」
dro「“音楽をやっていてよかった”と感じる出来事でした。1曲に対して、いろんな国の人が自分の言語を使って、それぞれの感想を述べながら、コミュケーションをしていて。音楽で結ばれて、自分の言語で、自分の考えを伝えているのが素敵だと思います。それも新たな目標になりました。日本だけではなく、いろんな国にも響かせたいって。“これこそ僕がやりたい音楽だ”と決意したきっかけになりました」
──1st配信シングル「⼆⼈のミント」のリリースからこの7月でちょうど2年ですね。先ほど、少しだけスタイルの話が出ましたが、ここまで9曲の配信シングルをリリースしてきた中で、redrawらしさというものは何か見えましたか?
Rui「いろんなジャンルの曲をリリースしてきて、redrawらしさというのはずっと悩んできたんですけど、私からすると、droさんの曲があってこそのredrawだと思います。でも、droさんは“droらしさはRuiのボーカルだよ”と言ってくれます。そういう意味ではお互いがすれ違っているところもあると思いますけど、私はやっぱり、droさんのミックス感覚というか…普通に考えると合わなそうな組み合わせが混ざることで新しいものを作るところにredrawらしさがあると思います。あと、やっぱりストーリー性の強さです。droさんが小説を作って、そこから曲になっていくのがredrawなので。私も自分の歌を聴いてほしいという想いはありますけど、ストーリーがあって、それを演じる役者のような気持ちで歌っているので、ストーリー性こそがredrawらしさなんだと思います」
dro「僕としては、redrawのフロントはRuiさんだと思っています。芝居でいうと、僕がステージとストーリーを作って、ステージの前に立って演技をするメインの役者はRuiさん。そういう考えで曲を作っていますし、普通のバンドとは楽曲制作も少し違っていて。僕が曲と小説を作ってRuiさんに送って、Ruiさんが僕が作ったメロディやガイドラインに自分の表現や自分のアドリブを入れたボーカルのトラックを戻してくれます。僕はそれを持って、改めて最初からアレンジを全部変えるんです。Ruiさんのボーカルをベースにしてアレンジが変わるので、Ruiさんのボーカルがあってredrowらしさが出ると思います。…でも、お互いがお互いのことを考えすぎていますね」
──(笑)。プロデューサーは“ボーカルのおかげだ”と言って、ヴォーカルは“プロデューサーのおかげだ”と言う…脚本・演出家と演者という関係性なんですね。

──そして、通算10曲目となる配信シングル「Karma」は、redrawが初めてテレビドラマのオープニングテーマとして書き下ろした楽曲です。ドラマの主題歌に起用されることをどう感じましたか?
dro「すごく光栄なことだと思いました。僕たちはまだインディーズですし、まだまだ小さなユニットなんですけど、このような機会をいただけることがすごく光栄なことだと思いましたし、逆にすごく面白かったです」
Rui「同じく“大変光栄だな”というのと、レコーディングを終えてからも、全然実感がないと言うのが正直な気持ちです。以前からいろんなドラマを見ていて、テレビという別世界のもので、私は見る側だと思っていました。まさかテレビから自分の声が流れるなんて想像もしていなかったので、それこそ音楽を続けていてよかったと思いました」
──タイアップに抵抗はなかったですか? 自分の小説やエッセイをもとに曲を書くのがredrawらしさの一つではあったと思いますが…。
dro「曲作りの前提として、脚本を読ませていただいた後に、自分の考えをまとめたエッセイを書きました。他の人のクリエイティブを想いながら作ることが初めてなので、他の人の視線で曲を作るという経験そのものが純粋に面白かったですし、楽しかったです」
──ドラマ『マイ・フィクション』は記憶に隠された真実をめぐるサスペンス・ラブ・ストーリーです。この作品からどんなエッセンスを汲み取りましたか?
dro「一番重要なところは、このドラマの中には悪意を持っている人がいないというところです。登場人物それぞれが“私は仕方なかった”」みたいな感じで。自分自身を納得させるための言い訳や方便かもしれませんが、少なくとも本人は“悪気はなかった”と思っています。“悪いことをしたけど、そこに悪意がなかった”というのが優先すべきアイデアでした」
──Ruiさんは受け取ってどう感じましたか?
Rui「今までもいろんなジャンルの曲をdroさんが作ってくれていますけど、サスペンスドラマというのもあって、また新しくて聴いたことのない楽曲だと思いました。歌詞はやっぱり哲学的ですし、シンプルではない複雑なところがあって。でも、ちゃんと耳に残るメロディーで、さすがだと思いました。この曲を受け取って、“どう歌おう?”といろいろ考えたんですけど、それこそdroさんがエッセイを別で書いてくれていたので、そこから苦しさとか、いろんなインスピレーションを受けました。その中でも水を使った表現をしたんですよね?」
dro「悪意が水みたいに少しずつ重なるという…」
Rui「だから、水みたいな透明感をもった歌い方をしようと思っていたんですけど、レコーディングの本番当日に扁桃腺になってしまって。本当にコンディションが悪い状態で挑んだんですけど、それが味になったみたいです。レコーディング前は、苦しさも意識していたんですけど、もう少し水っぽい雰囲気とか、少し綺麗めに歌おうと思っていました。でも、扁桃腺の痛みのピークで…苦しすぎて必死に歌った結果、本当の苦しさが物理的に表現できました」
dro「演技ではない、リアルな苦しさでした」
Rui「(笑)。本当の苦しさというのがその日限定で表現できたのは逆に運命なんだと思いました」
──この曲では壮大なオーケストラサウンドを初めて導入していますね。
dro「僕は以前、人間が悪事や悪行にどんなに弱いかというのを考えたことがあって。ドストエフスキーの『罪と罰』の主人公みたいに、悪意を持っていないけど、悪にどれだけ近いようなことができるのか…何度も考えたことがあります。今回も主人公が悪意を持ってやったことは1つもないですけど、そのカルマが少しずつ重なって、ドラマのストーリーに繋がっています。人間は悪にすごく弱いんだと思っていました。そこからさらに視点を広げて、楽曲のタイトルのように“カルマ”を表現したかったんです。いわゆる神の視点というか…“お前にどんな考えがあって、この悪をしたのかは知りたくない。もう罪だよ、それは”という哲学を伝えたかったです。だから、楽曲の基盤はロックですけど、すごく広い音像を作るためにシネマティックなオーケストラサウンドで作りました」
──ドラマを見て初めてredrawの曲に触れる人もいると思いますが、どんな想いが伝わるといいですか?
Rui「そんなに難しく深く考えなくてもいいと思うんです。でも、この美しい複雑さを受け取って欲しいと思います」
dro「たくさんの人に広がる機会になってほしいです。僕たちはずっとネットばかりのユニットだったので、“本当に存在するの?”、“AI じゃない?”という声もたまにありました(笑)。このドラマをきっかけに、リスナーさんがどんどん広がっていって、ライブやフェスに出演する機会ができると嬉しいです。ライブで実際にちゃんとスキルを見せたいです。Ruiさんの歌の魅力、上手なところを知ってもらいたいですし、僕のギター演奏やMPC のプレイアビリティも見てもらいたいので、このドラマタイアップがいい機会になってほしいです。redrawをどんどん広げていきたいです」
──特に「Karma」は一緒にクラップしたり、シンガロングできるパートもあるので、野外で聴いてみたいですね。これからライブパフォーマンスを期待していいですか?
Rui「そうですね。オンラインだけではないユニットがいいと思っているので。既に何度かライブをしたことはあるんですけど、今、聴いていただいているファンの方とも目の前でコミュニケーションを取りたいですし、それこそ“redrawって AIじゃない?”って疑われたくないので。ライブは増やしていきたいですし、強くしていきたいです」
──最後にredrawの今後の目標を聞かせてください。
Rui「それこそライブですね。二人でずっと話しているのは日本武道館です」
dro「2027年までに日本武道館でワンマンライブをすることが夢です。Ruiさん、もっと遠い目標も言ってもいいよ!」
Rui「そうですね…コーチェラ・フェスティバルにも出たいです。私たちがそもそも地球の反対側で出会った二人というのもあって。言語を超えた二人なので、日本だけにとどまらず、他の国でもライブもやっていきたいです」
dro「あと、これまで“ANIMATED MV”の制作をインディーのアニメーターさんとコラボしてきています。いつかは“インディーアニメーターの登竜門”のような場所になれたらいいと思っています。“このアニメーターがredrawのミュージックビデオを作った。じゃあ、このアニメーターは有名になるな”、“遂にredrawにピックアップされたか”、そんなアーティストになりたいです。今、実際にファンでいてくれる方は学生さんが多くて。“音楽を作りたい”とか、“絵を描きたい”とか、いろんな夢を持っているけど、機材がないとか、コネクションがないとか、金銭的な面で始められないという声をたくさん聞きます。だからredrawの活動を続けて、どんどん大きくなって、いろんなコンテンツを作れるようになりたいです。そして、夢はあるのに様々な事情から動き出せない人たちをサポートする活動もしていきたいです」
(おわり)
取材・文/永堀アツオ

