――まずは『ユイカ』さんが音楽をはじめたきっかけから聞かせてください。
「ちっちゃい頃から歌うことはめちゃくちゃ好きだったので、幼稚園の卒業アルバムに<将来の夢=歌を歌う人になりたい>って書いていました。ただ、母からは“音楽で食べていける人は本当に一握りだから”とも言われていて。両親が二人とも薬剤師なので、親の影響で私も薬剤師を目指してたんですけど、“やっぱり音楽やりたいな……”っていう気持ちがずっとあって。それで、中学1年生のときにシンガー・ソングライターの坂口有望ちゃんに出会い、“めっちゃいい!こうなりたい!”って憧れて、アコギの弾き語りを始めて、TikTokに投稿するようになりました」
――坂口有望ちゃんのどんなところに惹かれたんですか。
「やっぱり歌詞ですね。言い回しや表現の仕方が独特の世界観を持っていて。有望ちゃんのメジャーデビュー曲「好-じょし-」は、失恋ソングなのに、君がいなくなってもご飯は美味しいし、味もするよっていう前向きな女の子を描いてる。失恋ソングって悲しい曲だけじゃないんだっていう考え方にすごく惹かれました」
――ちなみに最初にカバーしたのは?
「小学校6年生のときに大原櫻子ちゃんの映画『カノ嘘』(『カノジョは嘘を愛しすぎてる』)を観て、めっちゃカッコいいと思って。映画の挿入歌の「ちっぽけな愛の歌」をカバーしたのが初めてですね」
――作詞作曲は独学ですか。
「独学です。もう全然わからずに、有望ちゃんみたいな曲を書きたいというところから始まって。とにかく自分の思うことから書き始めました」
――歌ってみた動画をTikTokに上げたのは?
「中学2年生だったと思います。そのときはまだオリジナル曲を全く出してなくて、TikTokにギターの弾き語りを出すっていうのがめちゃくちゃ流行りだしたときで、カバーばっかり出してましたね。元々、ギターを弾いてるところを他の人に聞かせたことがなかったから、SNSだけでも聞いてもらえたらいいなっていう感覚で始めて。オリジナルを出したのは高校に入ってからですね。高校1年生の3月に初めてのオリジナル曲「好きだから。」を出したらめっちゃ広がってびっくりしました」
――最初のオリジナル曲でいきなり反響があったんですね。
「そうですね。いきなり反響がありました(笑)。しかも、ちょこちょこ伸びるとかではなく、フォロワーさん3桁いたかなぐらいの状態から、1日で1万人超えるみたいな感じでした」
――もともとはどんなふうに作った曲だったんですか。モチーフとかあったりするんですか?
「高校受験の時期に、綾瀬羽美さんの少女マンガ『理想的ボーイフレンド』にハマって読んでいて。高校に入学したら、その少女漫画の主人公の男の子そのまんまな人がクラスにいて、好きってなっちゃって。それまでもちょこちょこオリジナル曲は書いてたんですけど、自分の思いみたいなのが多くて、ラブソングは書いたことがなかったんですよ。恋愛してなかったっていうのもあると思うんですけど、「好きだから。」で初めてラブソングを書いて。本当にあった出来事をそのまま書いたら広がっていきましたね」
――2番で男性視点に変化してますよね。
「最初に一番のAメロだけ出して、反響があって。そのときはAメロしかなくて、フルで作ることも全く考えてなかったんですね。でも、“男の子視点バージョンを聞いてみたい”っていうコメントがあって、作ったんですよ。そしたら、そちらもありがたいことに反響があって。なので、ふたつとも取り入れたいなっていう気持ちになり、フルは1番が女性視点、2番が男性視点にしたら面白いんじゃないかと」
――だから、最終的に片思い同士の両想いのような曲になったんですね。最初の曲から、自分の気持ちを吐露する私小説じゃなく、ストーリー展開のある恋愛小説のようになってるのがすごいなと思ってました。
「私、小説が好きなんですけど、長編じゃなくて、短編小説がめちゃくちゃ好きなんです。書ける情報量が少ない中で、いろんな展開と、全ての言葉に意味があり、全てが伏線になってるのがすごく好きです。曲も3分とか5分ぐらいの中にどうやって落とし込むか考えていて。どの言葉も全て意味があるようにして、最後の最後までわからないようにしたり、ドキッとさせたりできるような曲を作りたいなっていつも思ってますね」
――「好きだから。」が台湾、香港、ロシア、タイのSpotifyバイラルチャートで1位を獲得したときはどう感じました。当時、まだ16歳ですよね?
「何もわかってなかったです(笑)。“なんだこれは?そもそもバイラルチャートって何だ?”みたいなところから始まって。何の影響でそんなに広がったのか、本当に自分でもわからなくて。私は英語もできないので、今まで自分の歌詞に英語を入れたこともないし、日本語でしか作ったことがないのに、日本語圏じゃないところにまで広がるってすごいなって感じました。海外の方から頂いたコメントを翻訳してみたりするんですけど、メロディーだけじゃなくて、歌詞がいいと言ってくださってて。言語が違えども、私が込めた思いはちゃんと伝わるんだなって感じました」
――MVは7000万回再生を超えてますからね。アーティスト名はもう『ユイカ』でしたか?
「最初に「好きだから。」を出した時はケルビンだったんですよ」
――ケルビンって絶対零度の?
「そうです。そのときちょうどテストがあって。お部屋の温度が20℃だったら、273を足して、293K(ケルビン)になるんですね。その273っていう数値がどうしても覚えられなくて、自分の名前を“ケルビンは273を足せ”にしてたんですよ。そしたら広がっちゃって、すぐに本名のユイカに変えました」
――二重鉤括弧も付きました(笑)。
「家族会議があって、検索かけたときに他の人の名前と被るのはやだよねっていう話になり、普通にユイカで検索したら、いろんな人がいっぱい出てきて。じゃあ、ユイカじゃない名前にするかってなったんですけど、“いや、私は自分の名前が気に入ってるんだ”って言ったら、お母さんが感動しちゃって。“じゃあ、もうユイカでいいよ”となりました。何か差をつけようってことで、ひらがなじゃなくてカタカナで、記号的なのをつけようってなり、強調される感じもある二重鉤括弧をつけました」
――そこから本格的な音楽活動がスタートしてますが、高校時代はどんな日々でしたか?
「基本的に学校生活が中心で、中高とバレーボール部でした。学校では音楽とは無縁な存在で、ライブハウスはもちろん、学祭のステージに立つこともなかったです。学校から帰ってきて曲を作るので、一日中フル稼働な日々でした。本格的に音楽を始めてからは遊びに行かなくなりました。遊べないほど忙しいっていうよりかは、遊んでる暇あるんだったら、音楽やりたい、SNS投稿したいっていう気持ちが先行して。だから、テスト期間とリリース日がかぶっちゃったときは本当に大変でした。テスト勉強しながら、TikTokを投稿するために動画を撮って、編集して。出したら、勉強して、部活もあって……今、振り返ると本当に大変でしたね」
――大学受験の準備のために一時活動を休止するタイミングでリリースした「17さいのうた。」には、それまでにリリースしてきた曲のフレーズも入ってました。
「一旦お休みしようって話になって。最初は私と同じ年齢で、今から受験勉強をやるぞっていう人たちがいっぱいいるし、ちょうど部活を引退する時期でもあるから、一緒に頑張ろうって曲を書けたらいいなって思ってたんですね。でも、そのときの自分は本当に切羽詰まってて、他の人の心配までしてられなかったんですよ」
――そうですよね。
「だから、なんかぎこちない歌詞になっちゃって。みんなを元気づけるような、前を向ける歌詞を書こうと思って書いたんですけど本当にひどくて。このままではよくない、自分の思ったことを全部言葉にしたらどうなるんだろう。あんまり綺麗な言葉を使わずに本当に思ってることを聞いてくれてる人に届けたいっていう気持ちで書いたら、「17さいのうた。」ができました。<私は前を向けるような歌は書けない>っていうのも歌詞に入れて。本当に自分の思ってることをまんま詰め込んだ歌詞なので、ものすごく思い入れが強い曲だなと思ってます」
――受験が終わって、活動を再開した後にリリースしたのが「序章。」ですね。
「「序章。」のときも2曲書いていて。とりあえず卒業ソングを書こうと思ったんですけど、書いていたのが3年生の12月だったんですよ。12月はまだ卒業ムードじゃなくて、全然卒業が実感できてなくて。私はその時点でもう受験は終わってたんですけど、周りのみんなはセンターで追われてるし、まだ冬休みも終わってない。私ひとり、卒業ムードにはなれない中で、いろいろと思い返したりしながら書きました。でも、うーん、なんか気にいらないし、もう1曲書いてみようとなり、2曲目を書いて。そのとき、私を含めず4人の大人の方に聞いてもらって、多数決を取ったんですよ。そうしたら、綺麗に2対2にわかれちゃって。最終的に『ユイカ』が決めなってことになり、2曲目に作った方になりました」
――「17さいのうた。」の時は<もっと前を向蹴るようなうたを書くつもりだったけど/書けなくて。/ごめんね。>と歌ってましたが、8ヶ月後の「序章。」では、<私の歌を聴きにきて/背中押すから/それが私の夢だから>と歌ってますね。
「「17さいのうた。」のときは私の弱い部分ばっかり書いていて。表に出してこなかった部分や自分1人で抱えるところがいっぱい出てきちゃって。でも、そうじゃなくて、今度は自分の自信があるところ、自分の強みを前面に出したいと思ったときに、やっぱり一番の私の強みは音楽だよねって。私は音楽で生きていくって決めたのもそのタイミングだったんです。「17さいのうた。」のときはまだ音楽で生きていくって決めていなくて、「序章。」のときにはもう絶対音楽一本で、死ぬまで音楽をやり続けるっていう気持ちで、2曲目の「序章。」を選びました」
――死ぬまでやるって決めたということは、何か大きな出来事がありましたか?
「親に背中を押されたっていうのが一番大きいかもしれないです。元々薬剤師をずっと目指していて。両親が2人とも薬剤師なので、“とにかく女の子は資格を持ちなさい”ってずっと言われてて。資格があったら、何があっても1人で生きていけるし、お金で困らない。だから、資格はとっておきなさいという話をずっとされていて。「17さいのうた。」でもそういうことを書いてるんですね」
――<本当は好きなことだけして生きたいの。/でもそれは上手な生き方とは言えないから>という歌詞の後に、活動休止することに対して、ファンの人に<ごめんね。>と謝ってました。
「その歌詞を聞かせたお母さんに“自分の好きなことしていいんだよ”って言われて。それまで、私は全く考えてなかったんですよ。でも、お母さんに、医療系に進まずに、自分のやりたいことが学べる大学に行ったらいいし、音楽を真剣にしたいんだったら、実家を出て、上京してもいいんだよって言われて。そのときに、“あ、私、音楽1本で生きていいんだ。音楽やり続けていいんだ”って。それで、東京の大学を受験して、上京することになりました。だから、母に背中を押されたっていうのが一番大きかったですね」
――上京した昨年には、高校2年生の時にリリースした「恋泥棒。」の続編となる「スノードーム」をリリースしました。
「ストーリーが大好きだから、続編を書きたいなとずっと思っていて。最初は「好きだから。」の続編もありだなと思ったんですけど、「好きだから。」に関しては私の手から離れて、もう広がりすぎていて。続きを求めてくれてる人もいるんですけど、私的には、そこから先は聞いた人がいろんな想像をしてくれればいいなと思っています。そういった意味で、「恋泥棒。」はストーリー的に繋げられるなと」
――MVが2000万再生超えです。
「そ、そうなんですよ!ありがとうございます(笑)。あと、自分が描く曲はハッピーエンドで終わりたくて。絶対に結ばれるようにしたいんですね」
――ハッピーエンドって結構珍しいかもしれないですよね。
「確かに音楽を書くときは負の感情で書く人が多いイメージがありますよね。失恋をしたタイミングで曲を書く人も多いと思うんですけど、私はあんまり失恋ソングが好きじゃなくて。もちろん共感は呼べるかもしれないけど、ハッピーエンドで、みんな幸せ、あ、良かったってなる曲を書きたいなと」
――「恋泥棒。」でお互いの気持ちを伝えあって、「スノードーム」は初デートに行ってますね。
「デートをしているところを書きたいなと。成立してるカップルを書いたのは、「スノードーム」が初めてなんですよ。付き合ってからっていうのを書いたことがなかったから、「恋泥棒。」のキーワードを混ぜつつ、「スノードーム」でちょっと成長してる姿と、デートをしてもっと仲が良くなってる2人を。まだちょっと恥ずかしさがあるのも出したくて、いろんな言葉を書いては消し、書いては消して、書き上げました」
――そして、「恋をしているみたいなの」が、メジャー第1弾シングルになりますが、AMEBAの恋愛バラエティ「恋する♡週末ホームステイ」の挿入歌になってます。
「私、中学生のときから「恋ステ」を見ていて、いいなって思ってたんですけど、いざ自分が曲を書くってなると、どこを切り取っていいのかがわからなくて。「恋ステ」の一番大きいところって、遠く離れた2人が、それぞれの場所に行って、一緒に恋愛をしていくのがいいなと。そういう意味で、<貴方がいるこの街で/私は貴方に恋をした。>とか、<この恋が最終話を迎える頃には>というワードを入れました。でも、「恋ステ」とは別に、「恋をしているみたいなの」の曲中でも2人の恋愛があって、そこで成長していく2人の最終話もちゃんと書きました」
――会話が入るのも『ユイカ』さんのオリジナリティのひとつになってますね。
「そうかもしれませんね(笑)。小説みたいに主観の気持ちがあって、そこで起こる出来事があって、二人の会話があるっていうのは好きなので。会話があった方が情景が思い浮かぶなと思うし、それでたくさん書いてるんだと思います」
――この2人も片思いのように見えて実は両想いですが、<すき>をひらがなにしたのは?
「一番最初の「好きだから。」は漢字で書いてるんですけど、基本的にいつもLINEの文面で<すき>って書くときは全部、ひらがなで書いちゃうんですよ。あと、<大好き>って書くよりも、ひらがなで<だいすき>って書いた方が可愛い印象が出るじゃないですか。こだわりってわけじゃないんですけど、そういう意味で、<すき>をひらがなにすることが多いですね」
――細かいことですけど、<貴方>は漢字なんですよね(笑)。
「<貴方>はずっと漢字ですね。なんでだろう……自分でもわかってないんですけど(笑)。<私>は漢字で書くことが多くて、<あなた>はひらがなで書くことが多いじゃないですか。私はそれがピンとこなくて。<私>に対しても<貴方>だから、両方漢字でいいじゃんと思って、<私>と<貴方>で書くようにしてますね。<君>っていう言葉はあんまり使わなくて。これは私の中のこだわりなんですけど、<私>と<貴方>って書く時は、<貴方>は私の中では男の人で、<私>は女の子なんですよ。<僕>って書いてるときは男の子で、<君>って書いてるときは、相手が女の子のとき、みたいな感じで使い分けてて。お友達の曲を書くときは、相手が女の子っていう意識で作ってるから、<君>って書いてますね。これは自分なりのこだわりではあるんですけど」
――友達のことを歌った「そばにいて」は<君>と<私>でしたね。また、『ユイカ』さんはアコギの弾き語りのイメージですが、メジャーデビュー曲はピアノと歌が基調になってます。
「実家に帰ったときに作った曲なんですけど、そのとき、実家にギターがなかったんですよ。ずっとピアノで曲を作りたいなと思っていたので、ちょうどいい機会だなと。一応、幼稚園から小学校6年生まで習ってたんですけど、そのときはピアノが苦手で、本当に出来なかったんですよ。でも、音楽を作るようになってから、ピアノの音もすごく好きになりました。実は「17さいのうた。」もピアノから作ってるんです。あとからギターに直してるんですけど、今回は、ピアノが際立った曲にしたかったので、自分で弾きながら作りました」
――『ユイカ』さん流の王道のラブソング「恋をしているみたいなの」でメジャーデビューとなりますが、ここからどうなっていきたいですか。
「ラブソング以外の部分も書きたいですね。「17さいのうた。」みたいに自分のことを触れたり、ラブソングではないけど、誰かのことを考えて作る曲も書いていきたいなと思ってます。あと、私、数字にはちゃんとこだわっていきたいなって思っていて。たくさんの人に私の曲を聞いてもらいたいし、私の曲に対する評価が数字に伴ってくると思うから」
――今、具体的に目標にしてる数字ありますか。
「とりあえずYouTubeのチャンネル登録者数100万人行きたいっていうのが一番大きい目標ですね。あと、Spotifyの月間リスナーも常に100万超えてるアーティストになりたいし、それを達成したらもっと上に行きたい。YouTubeの再生回数も1,000万ちゃんと超えるようにしたい。自分が納得するまでは、常に数字にこだわっていきたいですね」
(おわり)
取材・文/永堀アツオ
『ユイカ』「恋をしているみたいなの」DISC INFO
2024年2月6日(火)配信
ユニバーサルミュージック