──9月に無期限ライブ活動休止と、岩淵さんの入籍を同時発表して、MOSHIMOは結成10周年にして大きなターニングポイントを迎えました。周囲の反響は?

一瀬貴之(Gt)「“岩淵結婚するんだね、良かったね”という反応が多かったです」

岩淵紗貴(Vo&Gt)「ライブ活動休止については、ファンの人からは“寂しいけど、らしいよね”という声が多かった気がする。“潔くてポチちゃん(岩淵の愛称)っぽい、MOSHIMOっぽい”とか。納得がいく理由だったから“すぐ戻ってきてもいいし、ずっと待ってるよ”みたいな感じだったので、ほんとうにありがたいと思います」

一瀬「10年やって、一つやりきった感じはあるので。“また気が向いたらMOSHIMOというプロジェクトをやればいいかな?“と思っているので、すごく清々しく活動休止できます。未練というか…悲しい感情はあまりないです」

岩淵「ライブバンドとしてずっと動いていたので、ライブという主軸を止めるのはかなり重いことですし、“忘れられちゃっても仕方ないかな”くらいの覚悟で決めたことではあったんです。MOSHIMOにとってライブはとても重要で、新曲を作って初めてライブで演奏する時に“想像していたよりも楽しい”とか、そういうこともよくあるので、ライブ活動を止めると決めた時に“この曲、もうちょっと歌いたかったな”とか、いろんな感情が出てきたのは、正直なところあります。それは自分でも意外だったんですけど、でもバンドが終わるわけではないので」

──そうなんですよね。あくまでライブ活動の休止なので。

岩淵「そもそもライブ活動を止めようと思った大きな理由は、自分自身の恋愛事や、日々の不平不満を包み隠さず出して、それを曲にしていくのがMOSHIMOの良さでもあって…それがフルパワーでできなくなったというか。“結婚したからできない“というわけではないんですけど、説得力に欠けるというか、自分の中で”100%出しきれない“と思ったのが大きかったので。30分とかのイベントライブだったら、イベントの趣旨に合わせてできるかもしれないですけど、一番大事なワンマンツアーで、そういうマインドがちゃんと100%出せないならやる意味がないですし、”やりきった感“を出せずに中途半端になってしまうと、バンドが衰退する原因でしかないので、そういう想いがあって決断しました。メンバーに話す時は、”私の都合で申し訳ない”と思いましたけど、人生にはそういうこともあるから、いい経験かな?と今は思っています」

──なるほど。

岩淵「歌というよりも、MCの部分が大きいかもしれないです。“(曲とトークが)繋がらないな”と思うことが、最近かなりあったから…」

──振り返れば、MOSHIMOで10年、前身バンドのCHEESE CAKEから数えると19年ですよね。

岩淵「長ぇー(笑)」

一瀬「プロ野球選手でも、20年やれば引退しますからね(笑)。だいぶベテランになってきました」

──そう考えると、二人のバンド人生って、どんな歩みだったと思いますか? 自分たちの意思がありつつ、ある意味、周囲や時代に影響された部分もあったでしょうし。

一瀬「“好きなことはできたな”とは思ってます。自分で会社(クリエイティブカンパニー“Noisy”/シンガーズハイ、パーカーズらが所属)をやり始めてわかったことがあって、今まで一緒に歩んできてくれたマネジメント会社やレコード会社の人たちには、“こうした方が売れるんじゃないか?”とか、そういうセオリーがあったと思うんですけど、僕たちが“こうしたい”ということを尊重してくれた人たちばかりでしたし、今も好きなことができているので、後悔はないというか…売れるためにやっているというよりは、好きなことをやれた20年だったと思います」

──言葉に重みがあります。

一瀬「経験に勝るものはないと思います。それは大人たちに感謝に感謝です。いろんな世界を見せてもらったので」

──11月にリリースされた『proof』は3年振りのアルバムでした。このアルバムは活動休止のことも意識しながら作り始めたのですか。

岩淵「半々です」

一瀬「制作は2月ぐらいから始めていて、“活休しよう”となったのが7月頃なので、活休を意識して作っていたアルバムではないです。ただ、「Day by day」という曲だけは、活休を決めた後のメッセージソングみたいな感じにしましたけど、他の曲はそういうことではないので」

──元々はどんなアルバムを作ろうと思っていたのでしょうか?

一瀬「10周年のアルバムなので、これまでのMOSHIMOっぽい感じと、「綽々」やシングルの「飴と鞭」もそうですけど、今までのギターロックバンドな感じではないアプローチも入れて、バランスよく作ろうと思っていました」

岩淵「活動休止を決める前に作った曲が半分と、制作は進めていて、決めた後に作り上げた曲が半分あって。“終わるアルバム”にするよりは、MOSHIMOとしてこの先も歌える楽曲を作りたいと思っていました。特に1曲目の「幽恋ビート」は、いつものMOSHIMOっぽい感じを現代版に落とし込んだ楽曲で、止まった感じにはしたくないと思って作ったアルバムです。ただ、「Day by day」だけは、今までライブに来てくれたり、MOSHIMOのことを想ってくれた人たちのことを考えながら書いた曲ですけど、これで終わりではないというか…“MOSHIMOは続いていくよ”という意味も込めて書いた曲なので、そういうアルバムになったと思います」

──ファンにとって嬉しいのは、代表曲「命短し恋せよ乙女」の再録音です。これはどんなきっかけで?

一瀬「今年の1月か2月に、レコーディングエンジニアさんやドラムテックさんが集まって、みんなで勉強会をする機会があったんです。MOSHIMOは裏方の人とも仲がいいので、そこに参加したら“録音の実験台になってくれないか?”と言われて(笑)。ちょうど10周年のアルバムを作るところでしたし、“今までの曲を録り直したらどう変わるか、試したいよね”という話になって。「命短し恋せよ乙女」はMOSHIMOの一番人気曲ですし、10年やってきて原曲と違ってきている部分もあるので、それを今のバージョンで保存しておくのは面白いかと思って、やることになりました」

岩淵「録り直して、改めて「命短し恋せよ乙女」はMOSHIMOの代表曲だと思いました。「電光石火ジェラシー」の、四つ打ちのマイナー調の感じが、だんだんとMOSHIMOのカラーにはなってきましたけど、「命短し恋せよ乙女」はもっとポップでわかりやすい楽曲ですし、歌っていても楽しくて、お客さんの表情も“来た!”みたいにキラリと変わる瞬間があって。「電光石火ジェラシー」は音楽好きの人に刺さりそうな感じがあるんですけど、「命短し恋せよ乙女」はもっと広い層に刺さりやすい楽曲なのかな?って、改めて思う瞬間がありました」

──キラーチューンですよね。

岩淵「どんな場面に入れても盛り上がるというか…会場がワーッとなるパワーを持っている楽曲ですし、最初の音源とは声の感じも違っていて、今のMOSHIMOらしさがしっかり詰まったバージョンになりました。でも以前とまったく変わったか?というとそうではなくて、楽器が骨太になったとか、ライブバンドとしての今のMOSHIMOが伝わる曲になったので、再録をして良かったです」

──さきほどもお話されていた「Day by day」はどうですか? アルバムの中で唯一のミドルバラードで、活動休止を決めた後の心境をストレートに綴った歌詞になっています。

岩淵「アルバム制作の最後に作った曲なんですけど、活動休止を決めた時に、10年間も一緒に歩んできたお客さんに何も残すものがないのは寂しいですし、ちゃんと音楽で伝えたいと思ったので。しれっと“フルアルバムができました。いつものMOSHIMOです”ではなくて、アルバムに必ず1曲は入れてきたバラードの中に、ちゃんとメッセージとして残したいと思ったので、素直に書けました」

──この歌詞は沁みます。ぐっときます。

岩淵「<追いかけ続けたこの夢は無限大 終わらない またいつか>と言っているので、きっと私の中で、“何かがちゃんと発信できる“と思ったら、戻ってくるんじゃないですかね。他人事な言い方ですけど、それくらい自分でもまだ活休後のことはわかってないというか…」

一瀬「「Day by day」はアルバムのアンセム的な曲になっていて、最後のツアーにも連動してくると思っています。今、ライブの中身を作っている最中なんですけど、しっかりメッセージソングとしてこの曲をやりたいと思っています」

──そしてアルバムタイトルが『proof』。“証拠”、“証明”ですね。

岩淵「活休することが決まった後につけたタイトルなんですけど、10周年のスタンプというか、証というか、“10年やったよ”というアルバムにしたいと思っていて。「命短し恋せよ乙女」も最後に入っているし、それも含めて“これがやってきた証拠です”という意味合いです」

一瀬「今回のツアーは東名阪と、地元・福岡でやるので、後悔がないようにお客さんに来てほしいですし、僕たちも後悔がないように楽しく終われればいいなと思っています」

岩淵「人生は長いので。MOSHIMOのライブに来てくれる人は、“苦しいことがあったけど、ポチちゃんを見て元気が出ました”と言ってくれる人が多いので、最後の最後まで変わらずに、一番の馬鹿になって走り切りたいです。ヘラヘラしながら笑ってライブを終わって、“お疲れ。次もやろうぜ”みたいな感じになったらいいですね。ちゃんと続きが見えるライブにしたいと思っています」

──そう言ってもらえると、こっちも気持ちが楽になります。終わり感よりは続き感を。

岩淵「ほんとうにそんな感じです。どうしても“活動休止”と思って見てしまう人はいるだろうし、ライブバンドとしてはそうなんですけど、終わるわけではないので。私の中での発信の仕方の辻褄が合わないから、それを合わせるために一旦足を止めるだけなので」

──ファイナルの12月23日、Zepp Shinjukuは2年連続2回目の大舞台です。

岩淵「去年はステージで靴を脱いだ記憶があります。写真を見たら黄色いファミマソックスが目立っていて、すごく恥ずかしかった(笑)。でも靴を脱いだらすごく走りやすくて最高でした!」

──昔のリスナーも今のファンも、MOSHIMOの10年間に少しでも触れたことのある人はぜひライブに来てほしいですね。ツアーに来てくれるファンの方へメッセージをお願いします。

一瀬「やっぱり“最後は楽しみましょう!”ということだけですね。楽しく終わりたいと思います」

岩淵「人生の節目を一回迎えて、またみんなと会えるように、透明の靴を履いて歩いているので、それをちゃんと続けたいと思います。ライブは止まるけど、例えば、数年後とかに“復活します!”となった時に、歩いてなかった期間もちゃんとその先に進めているように。…すみません、透明の靴とか、わけわかんないこと言っちゃった(笑)。“見えてなくても、ちゃんと歩いて、その先でまたみんなに会いたい“という、そういうライブにしたいです」

(おわり)

取材・文/宮本英夫

RELEASE INFORMATION

MOSHIMO『proof』

2025年11月5日(水)発売
NOIS-014/3,500円(税込)

MOSHIMO『proof』

LIVE INFORMATION

MOSHIMO 10th ANNIVERSARY TOUR 2025

2025年12月7日(日) 福岡 LIVE HOUSE CB
2025年12月14日(日) 愛知 名古屋ell.SIZE
2025年12月21日(日) 大阪 阿倍野 ROCK TOWN

10th Anniversary LIVE -THE FINAL-
2025年12月23日(火) 東京 Zepp Shinjuku

MOSHIMO 10th ANNIVERSARY TOUR 2025

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