──アーティスト活動を行うのはおよそ2年半ぶり。ご自身名義で心機一転アーティスト活動を再開させることが決まったときはどのような心境でしたか?
「嬉しかったです。ファンの方からも“また音楽活動をやってほしい”という声は多くもらっていたので。でも、まさかまた音楽活動のお話をいただけるとは思っていなかったので、素直に嬉しかったです。“さぐぱん”から“牧島 輝”に名義も変わりましたし、新鮮な気持ちでまた1からやろうという気持ちになりました」
──そして牧島 輝名義で初のアルバム『RePAINT』が完成しました。制作前、“こういうアルバムにしたい”といった構想は何かありましたか?
「“作りながら決めていこう”と思っていました。完成してみると、自分が作曲した曲もあるし、作詞した曲も2曲入っているし、ありがたいことにアニメのタイアップも2曲あって。今までにない形で、良いスタートが切れるアルバムになりました」
──新たなスタートとして最初にリリースされたのはTVアニメ『ハイガクラ』のエンディング主題歌「Phoenix」です。最初にこの曲を聴いたときはどのような印象を持ちましたか?
「疾走感があって、自分が好きなタイプのロックな曲だと思いました。すぐに気に入りました」
──転調もあり、歌うには難しそうな楽曲ですね。
「難しいですね。普段、自分が歌う曲とは雰囲気の違う曲だったので…頑張りました」
──レコーディングのときに特に意識したことはどのようなことでしたか?
「安田さん(作詞を手がけた安田尊行)が素敵な歌詞を書いてくださったので、歌詞を大事にしようということは念頭に置いて歌いました」
──特に気に入っている歌詞や、共感できるフレーズがあれば教えてください。
「どこかのフレーズというよりは、全体的にという話になってしまうのですが、ポジディブなだけじゃないところが気に入っています。自分自身も“とにかく前を向いて頑張ろう!”と思えるようなタイプじゃないので…。だからこそ曲の世界に入り込みやすかったです」
──「Phoenix」は牧島さんにとって、初めてのアニメタイアップとなだと思うのですが、アニメのエンディングテーマだからこそ、という点で普段と違ったところや変えたところはありますか?
「特にはないです。もちろんタイアップは、気持ち的には嬉しいですし、“頑張ろう!”という気持ちにもなりましたけど、歌う上では特別意識はしませんでした。もちろん原作漫画は読んでいますし、もしかしたら、歌う際にはキャラクターの姿を想像していたかもしれないですけど…」
──“登場人物の気持ちになって”とか、“演じるような気持ちで”みたいなことはないと。
「はい。そういうことは特になかったです」
──作品とはいい距離感を保って、あくまでも牧島さんの新曲として歌ったんですね。
「そうですね」
──初のアニメタイアップということで、実際にアニメで流れているところをご覧になっていかがでしたか?
「感動しました!」
──そして、アルバムの3曲目に収録された「Cuz I」は、TVアニメ『戦隊レッド 異世界で冒険者になる』オープニングテーマです。
「この曲も、初めて聴いたときから“すごく好きだな”と思いました。この曲は、レコーディング直前に歌詞をいただいたので、レコーディングをしながら“この言葉はこっちのほうがハマるんじゃないか?”みたいに相談しながら歌詞を固めていったんです。それはそれですごく新鮮でしたし、楽しかったです。普段は歌詞のイメージにあわせて歌いますけど、この曲はある意味、瞬発力で歌ったところもあって。自分で歌ってはいるんですけど、録り終わって改めて聴いて、カッコいい曲だなと思いました」
──特に気に入っているフレーズや歌詞があれば教えてください。
「最後にタイトルの<Cuz I>」と歌うところです。いい感じに盛り上がって終わるのが好きなので、最後まで聴いてもらえると嬉しいです」
──この曲を歌う上で意識したことはありますか?
「<絆>というワードは、歌詞にも何度も出てきますし、アニメの中でも大切なポイントになっていると感じたので、大切にしようと思いました。レコーディング中は、何度も歌っているから、さらっと歌ってしまうことがあるんです。それが良いときもあるかもしれませんが、<絆>という言葉に関してはちゃんと意識して歌うように心がけました」
──アニメでのオンエアも楽しみですね(※取材は12月に実施)。
「はい。僕を知らない人がアニメを見て、“この曲いいな”と思ってもらえたら嬉しいです」
──ちなみに「Phoenix」では、そのような反響は何かありましたか?
「ありました! アニメから僕のことを知ってくれたり、僕のファンの方が『ハイガクラ』の感想を言ってくれたり。先日、『ハイカグラ』に出ている声優さんたちと一緒にお仕事をする機会があったのですが、そのときに「Phoenix」の感想を言ってくださったのは、嬉しかったです」
──冒頭でもお話がありましたが、今作では作詞・作曲も手がけられています。作詞作曲をしようと思ったのはどうしてだったのでしょうか?
「このアルバムを作るにあたり、いろんな方が手伝ってくださっていて。そういう過程を見ているうちに、“自分にも出来ることがもっとあるんじゃないか?“と思ったんです。”自分に出来ることを探したい“って素直に思いました。とはいえ、作曲は今回が初めてなので。楽器も弾けないから、より周りの方が大変になっちゃうかな?とも思ったんですけど、自分のアルバムだから自分にしか出来ないことにチャレンジしてみようと思いました」
──前作のインタビューでは“楽器が弾けないので曲を作るのは難しいと思う”とおっしゃっていましたが、今回、叶えられてすごいなと思いました。
「いい振りになりましたね(笑)」
──今作で牧島さんが作詞を手がけたのが「RUN」、作詞・作曲ともに手がけられたのが「RePAINT」です。どちらが先にできたのでしょうか?
「「RUN」です」
──では「RUN」からお伺いします。先ほども“自分は明るいだけじゃない”ということをおっしゃっていましたが、まさにこの曲はご自身が反映されているのではないかと推測しました。この歌詞はどのようなところから書き始めたのでしょうか?
「あまり覚えていないんですけど…僕は抽象的に何かを話したり作ったりするのがあまり得意ではなくて。具体的なイメージや、パッと情景が思い浮かぶもののほうが書きやすいです。だから具体的な情景や背景を入れて、みんなに想像してもらいやすいものを作りたいと思って書き始めたような気がします」
──“自分自身のことを書こう”という感じだったんですか?
「いえ、別に自分を語ろうとは思っていないですけど、自分で作るのでどうしても自分が出てきてしまうとは思います」
──<自分だけ昨日においてかれる>というフレーズが牧島さんから出てきたことにはハッとさせられました。
「そう思う瞬間ないですか? 僕はあるし、みんなもあるんじゃないかな?って。ちょっと話が逸れますけど、今って小学生とかでもスマホを持っているじゃないですか。僕はTikTokとか疎くて見ていないので、今の10代とか20代前半の子とかと話しても、流行りについていけないんです。学生時代って、そういう流行りを知らないとちょっと怖かったですけど、今って、よりそういう時代になっているんじゃないかと感じていて。僕の予想でしかないですけど。流行っている曲を知らなかったら、輪から外れちゃうみたいな…。そういう気持ちを書きました」
──内容としては、最後に明るくなっていきますが、明るくなっていくような曲を書きたいとは思っていたのでしょうか?
「実は最初はすごく暗く終わる感じだったんですけど、せっかくの再始動に、自分が作詞を手がけた曲が暗く終わっちゃったら、『RePAINT』というタイトルにそぐわないな…と思って。前向きに終われたほうがいいと思って、書き直しました」
──歌詞を書くうえで、難しかったことはありますか?
「歌詞って難しいですよね。音が先に決まっていたらその音数に言葉がはまらないといけないし、文章では読みやすくても音にすると聴こえがカッコ悪かったりして。しかもそれって曲によって変わってきますし…。言葉のチョイスが難しかったです。でも、今できる精一杯は出せました」
──ご自身で書いた歌詞を歌うというのはいかがですか?
「そこに違和感はないですけど、出来たものを最初に人に見せるのって恥ずかしいですよね」
──実際、最初に見せたのはチームの方だと思うのですが、皆さんの反響はどのようなものでしたか?
「もっと死ぬほどダメ出しされるかなと思っていたんです。ダメだった場合、どういうものにしようかな?くらいまで考えて出したんですけど、オッケーだったんで“ラッキー!”って思いました」
──そんな“ラッキー”だなんて…。
「いやいや。人それぞれの価値観があって、アルバムに合うか合わないかということもあるので、“どうかな…?“と思っていたんですが、そのままオッケーでよかったです」
──そしてもう一曲、牧島さんが作詞と、さらには作曲にも挑戦したのが「RePAINT」。最初は作る予定はなかったそうですね。
「はい。“8曲入りくらいにしたいね”っていう話をしていて、6曲くらいはもう決まっていたので、“あと1〜2曲どうしようか?”と言いながらいろいろな候補曲を聴いていたのですが、『RePAINT』というアルバムに合う曲がなかなかなくて…。もちろんいい曲はたくさんあったんですけど、アルバムに合う曲となるとなかなか。だったら自分で作ってみようかな?と」
──ゼロからのスタートですが、何から着手したのでしょうか?
「自分は楽器ができないので、“こういうメロディがいいな”と思うものを(アプリの)鍵盤で弾いて、それを曲にしてもらっていきました。だから作曲といっても、僕が作ったのは自分が歌ったメロディだけで、ほぼ編曲の力です」
──メロディと歌詞はどちらが先に?
「メロディです」
──では、メロディを作っているときから、絵を描くという楽曲のイメージはもうあったのでしょうか?
「漠然とはありましたけど、そんなにしっかりとは決めていなくて。勢いのある曲はもう何曲もあったから、“もうすこしさらっと聴ける曲にしようかな?“と思ってメロディを作りました」
──牧島さんは昨年9月には初のアートワーク作品展『PALEDA -Melt-』も開催されていましたが、絵を描くことを歌詞のモチーフにしようと思ったのはどうしてなのでしょう?
「アルバムを『RePAINT』というタイトルにすることは先に決まっていたので、そこからタイトルをもらって「RePAINT」という曲を作ろうと思ったときに、絵に関する歌詞にしようと決めました。それこそ自分は絵を描くんですけど、歌詞で書くなら、綿密な絵というよりは、絵本みたいな絵のイメージかな?と思って、そこから1つの物語のような歌詞にしていきました」
──歌詞にもあるように<空を飛ぶため>、つまり自由になるために絵を描いているところはご自身にもありますか?
「そう思っているから、このフレーズが出てきたんだと思います。現実逃避したいときって誰にでもあると思うんですけど、僕はその一つが絵を描くことかなって。そういう気持ちを歌詞にしてみました」
──実際にご自身で作詞作曲を手がけた楽曲を歌ってみていかがでしたか?
「なんとなく漠然とイメージしていたものが1曲になっていく感覚は楽しかったです。あとは“編曲ってすごいな!”って(笑)」
──今回は0から1を作り上げたわけですが、達成感のようなものは?
「達成感とか手応えっていうよりかは、安心感ですかね。形になるかならないで大きな差がありますし、実際よくないものだったらどこかの段階でナシになっていたと思うので、そういう意味ではちゃんと1曲になって安心しました」
──ご自身が作った曲もあり、アニメのタイアップもあり、多彩な楽曲群が収録されたアルバムが完成しましたが、手応えとしてはいかがですか?
「一生懸命1曲1曲作ってこうやって並んでいるのを見ると、『RePAINT』というアルバムは、ただ曲を選んで並べただけじゃなくて、1つのストーリーのあるようなアルバムになったという実感があります。そういう意味で達成感はすごくあります」
──“アルバムを作る”という面白さや喜びを感じたんですね。
「はい。以前、ミニアルバムを作ったときは正直、“全体で1つの作品”というイメージがあまりなかったんですよ、今思えば。だけど今回は一つの作品としてアルバムを作ることができました」
──そういう感覚や作り方ができたのはどうしてだと思いますか?
「周りの人のおかげです。僕には、“アルバムってこういうものだよね”みたいな考えがあまりなくて…。でも今回一緒に作ってくださった皆さんは、“好きなものを選んでいいですよ”と言ってくれながらも、“アルバムとは”みたいなことを考えたうえで判断してくれました。そういう意味で、アルバムを作るということを楽しめたと思います」
──アルバムタイトル『RePAINT』は、先に決まっていたということですが、このタイトルを冠した理由を教えてください。
「アーティスト活動はしばらくしていなかったですし、新しい自分としてのリスタートを切るという意味がイメージできる単語がいいなと思って、提案してもらって決めました。自分としては、このタイトルですごくいいスタートが切れそうです」
──“スタート”ということは、今後もアーティスト活動は続けていくという認識で良いですか?
「はい!」
──今後、挑戦してみたい楽曲はありますか?
「別の取材で、“普段どんな音楽を聴きますか?”と訊かれたときに“ヒップホップを聴きます”と答えたら、“ラップとかにチャレンジしてみたらいいんじゃないですか?”と言われて。確かにラップはチャレンジしてみたいなと思いました」
──おお、それは楽しみですね。ちなみに作詞作曲も引き続き?
「そうですね。頑張りたいです。でももっと勉強しないといけないなとも思いました」
──牧島さんは俳優活動をメインに活動されています。俳優をやっていることは、アーティスト活動にはどのように影響していると思いますか?
「俳優をやっていると、意識しているわけではないですけど、本当にいろんな方と出会えますし、短い時間でもこうやってお話ができたりして、他の職業と比べてもダントツで人と出会えると僕は思っています。人と話すことで自分の中の知識や感覚が研ぎ澄まされますし、新しいものを得られるチャンスにもなります。さらに、舞台でも映画でもドラマでも1つの作品に入ってみんなといろんな景色を見たり、役として生きてみる時間とかって、なかなか味わえない経験なので。そういうところで得られた経験や言葉は、自分として表に出るアーティスト活動に良い影響があるような気がします」
──人としての豊かさ、みたいなことですね。では逆に、アーティスト活動は、俳優活動にどのように影響していると思いますか? もちろん物理的な発声や、歌のうまさみたいなことはあると思うのですが、技術的なもの以外で言うと。
「文章とか詩って、音楽とかなり密接な関係にあると思っていて。文章だけで見ると平面なんですけど、口に出そうとすると“この読み方だと聴き心地がいい”とかがあって。つまり文字を読むときには常に音階が必要とされているんです。今、こうして話していても、イントネーションって大事ですよね。そう考えると、役をもらってセリフを読むときには音楽的な要素がすごく必要で。そういう意味で、音楽活動はすごく役立っていると思います」
──俳優として、ミュージシャンとして、アーティストとして、さまざまな活躍をされている牧島さんですが、今後どんな存在になっていきたいと考えていますか?
「まず、自分を応援してくれる人が少しでも幸せになったらいいなということは思っています。僕自身は本当に流されるままに生きてここまで来た感覚です。でもそれには柔軟性が必要だと思いますし、その中で自分がやりたいものが見つかることも多いので、これからも気楽に、自由にやっていきたいですね!」
(おわり)
取材・文/小林千絵
写真/中村功