──ファーストアルバム『MAGICHOUR』リリースから1ヶ月経ちましたが、反響などはどのように受け止めていますか?
「アルバムなので、これまでのリリースでフォローしてくれたファンの方がみんな聴いて下さっていて嬉しいです」
──ご自身としてはファーストアルバムをリリースしてみて、何か気持ちの変化はありますか?
「いろんな変化がありますが、まずは“やっと始めることができたな”という感覚です。ようやくスタート地点に立てたな…と」
──それは1st Single「Feel The Same」をリリースした時とはまた違う感覚ですか?
「そうですね。アルバムをリリースしたことで、1つ作品を世に出すことができたという気持ちがあります。“これから自分は何を作っていくんだろう?”という、次への期待もあります」
──それはシングルを定期的にリリースしていたこれまでともまた違う感覚なのでしょうか?
「今まではどちらかというと、このアルバムに向けてシングルをリリースしてきたので。だから、この作品を作り終えて、次は何をやっていくのか? どういうふうに動いていくのか?を考えているところです」
──アルバムの完成形が見えている中でシングル曲を作っていたんですね。
「はい。完成形というか、コンセプトがあって、そのコンセプトに沿って作っていました」
──アルバムの構想、コンセプトはどのようなものだったのでしょうか?
「エレクトロっぽいサウンドとか、その中に生きる人間の気持ちというものに注目したいと思っていました。“温かさのあるサイバーパンク”というイメージです」
──今のところ、“magicHour=サイバーパンクの世界観”というイメージがありますが、アルバムとして作品を一つ完成させたということは、次に作るものは全然違うものになる可能性もあるんでしょうか?
「あります。“エレクトロである”というところは変わらないと思います。でも、アーティストとしてこれかららどう出ていくかはまだ…。まずはこのアルバムで結果を出すというのがひとつの目標だったので。どうパフォーマンスをしていくのか、magicHourのキャラクターは何なのか?というのは、これから考えていきます」
──アルバムのテーマ、そして最初に発表していく楽曲のテーマとしてサイバーパンクを選んだのはどうしてだったのでしょうか?
「サイバーパンクというのは自分が好きな世界観の一つです。そもそも僕はエレクトロばかり作ってきたんですけど、エレクトロとサイバーパンクって合うんですよね」
──確かにそうですね。
「あと、シングルとアルバムのアートワークを作ってくれたのは新進気鋭のクリエイターで僕の昔からの知り合いなのですが、彼とも意見が合致していて」
──サイバーパンクというテーマが先にあって、そういうものをデザインできる方にお願いしたのかと思っていましたが、昔からのお知り合いの方だったんですね。
「そうです」
──例えば昔から同じものを共有してきたお友達だったりするのでしょうか? 同じ音楽を聴いてきたとか、同じアニメを見てきたとか?
「そんなことでもないんですけどね。でも同じものを見てきたと言ったらそうなのかな?…彼は『宇宙戦艦ヤマト』が好きだったんですけど、確かに僕も見ていました」
──お互いがクリエイターになっていく様も見ていたんですか?
「いえ、しばらく会ってなかったんです。僕も海外に行ってしまったので。それで、久しぶりに日本に帰ってきたときに“今、こういうことをしているよ”と話をして、お互いがクリエイターになっていることを知りました」

──magicHourさんは13歳でDTMを始められたということですが、そもそも始めたきっかけは何だったのでしょうか?
「僕のお姉さんが歌手で、それを手伝うために始めました。もともとプログラミングに興味があって、少し勉強していたので」
──お姉さんの歌のお手伝いがきっかけなんですね。
「はい。ミキシングとマスタリングを手伝っていました。そのあとDJを始めたので、そこから、自分で流すのに必要なダンスミュージックを作り始めました。ポップスを作るようになったのはコロナ禍の期間…あの時期はダンスミュージックという気分ではなかったので、自然とR&Bやシティポップを作るようになっていきました」
──ということは、コロナ禍がなかったら、ポップスは作っていなかったかもしれない?
「そうですね。それまで全く作ってなかったというわけではないですが、コロナ禍がなかったらここまでは作っていなかったかもしれないです」
──コロナ禍にダンスミュージックの気分ではなかったとおっしゃっていましたが、つまりmagicHourさんにとってダンスミュージックというものはどういうものなのでしょうか?
「この発想はDJをしていたからなのかもしれないんですが、僕は自分の作った音楽で楽しんでもらいたいんです。だからコロナ禍ではダンスミュージックの気分ではなくて…」
──確かに“人に楽しんでもらうための音楽”、“みんなで楽しむための音楽”という意味では、コロナ禍ではクラブに集まったりもできなかったから、ダンスミュージックではなくなりますよね。
「そうなんです。この社会でみんなは何を聴きたいのか?と考えたらポップスでした。それにもともと“歌ってみたい”という気持ちもあったんです。それまではボーカルは他の人にお願いしていたのですが、コロナ禍で1人で曲を作るんだったら今かな?って」
──カナダにお住まいのmagicHourさんですが、ポップスは作り始めたときから日本語詞だったんですか?
「はい、日本語も入れようと思って日本語と英語を混ぜました。というのも、コロナ禍では日本に戻って来ていたんです。だから僕自身、家族と会話する機会が多くて日本語に慣れ始めていたので」
──ご自身が日常的にも日本語を使うタイミングが増えていたんですね。
「はい」
──magicHourとして活動を始めたきっかけは何だったのでしょうか?
「最初は本当に1人で、インディーズでやろうと思っていたんです」
──ご自身ですべての工程ができますしね。
「そうなんです。だけど、いろんな方に聴いてもらうということが、僕一人ではどうしても難しくて…。実際に自分で曲をリリースしたこともあったんですが、うまくいかなくて。“どうしようかな?”と悩んで、今所属している事務所に曲を送ったら気に入っていただいて、今に至ります」
──曲を作るだけじゃなくて、“誰かに聴いてもらいたい”と思ったことがmagicHourとしてのきっかけだったんですね。
「はい。やっぱり音楽って届かないと意味がないと思うんです。少なくとも僕は人に楽しんでもらうことが目標なので」
──そこからアルバム『MAGICHOUR』に向けての作品作りが始まったわけですが、都市のドラマをテーマに楽曲ごとにさまざまなストーリーが描かれています。それぞれの物語はどのように作っていったのでしょうか?
「僕のやり方としては、まずはタイトルになりそうな言葉を書き出していって…“このタイトルだとどんな曲なんだろう?”ということを考えていきます」
──タイトルから!? 面白いですね。
「歌詞やメロディが浮かんで、そこから作ることもあります。行き詰まったときにはフリーライティングというものをやるんです」
──フリーライティング?
「はい。英語の授業でやったことなんですけど。例えば“作文を書きましょう”と言われても、最初、詰まりがちじゃないですか。そういうときに“文章的にいいものができているか?”とかは考えずに、まずは思ったことを書いてみるんです。それの発展形として、まずはタイトルになりそうな言葉を書いてみます。そこから曲を膨らませていくんです」
──このアルバムでタイトルからできた曲はどれですか?
「「In The City」ですね」
──まさにアルバムの核とも言える楽曲ですね。
「この曲は、東京にいるときに書いたんですが、僕はバンクーバーに10年くらい住んでいるので友達も東京にはあまりいなくて。なんとなく寂しかったからか“Back in the city”という言葉が思い浮かんで。そこからストーリーを考えていきました」
──ご自身の気持ちをもとに物語を作っていったんですね。先ほどアニメはあまり見てこなかったとおっしゃっていましたが、こういうさまざまなストーリーはどのように生まれていくんですか?
「どうなんだろう? 自然と頭の中にストーリーが浮かぶんです。それは曲を作るときだけじゃなくて…例えば“今日は何をしようかな?”とか“今日はこれから何が起きるんだろう?”って考えたときに、ストーリーを考えてしまうんです。癖なんですかね?」
──サウンドも、タイトルや楽曲のストーリーから?
「そうですね。例えば「Temporary Lover」だったら、歌詞に出てくるようなクラブのイメージが浮かんで…“そこにはどんなバックグランドミュージックが流れているんだろう?”と考えたら、このサビが思い浮かびました」
──では、『MAGICHOUR』の中で、制作をする上で軸になった曲を挙げるとしたら?
「「In The City」と「Sunday, Monday」ですね」
──「Sunday, Monday」はどのようにできたのでしょうか?
「これはカナダで夕焼けを見ていたときに出来ました。夕焼けを見ていたら温かさを感じたので、人間の温かさをテーマにしようと思って。そこから音をエレクトロにしていく中で、都市のイメージも出てきて。バンクーバーの自然と、東京の都市感を加えた世界観になりました」
──この曲はラップも入っていますが、そこはどういった意図で?
「自然にラップになりました。ラップっぽいことをしていた時期もあったので、それが自然と出てきたのかな?と思います」
──では、今作でご自身なりに挑戦したことや難しかったなと思う曲は?
「「Wonderful World」ですね。ジャズっぽい曲ってこれまで作ったことがなかったんですよ」
──意外ですね。どうしてジャズに挑戦しようと思ったんですか?
「ダンスミュージックって基本は繰り返しなので単純じゃないですか。それが良さでもあるんですけど。だけど深みを持たせたくて、勉強のためにジャズを聴き始めました。そしたら“作ってみたいな”と思うようになって。エレクトロサウンドとジャズの融合がうまくできたと思います」
──では、ボーカル面で特にこだわった曲や特に難しかった曲を挙げるなら?
「僕の曲、全体的に歌は難しいんですけど…その中で1つあげるなら「Alright」ですね。この曲、トラックは割とシンプルなので、サビに入るところの雰囲気みたいなものはボーカルで作りました。ボーカルの強さはこの曲が一番だと思います」
──「Alright」は歌詞の内容もストレートに背中を押すメッセージを歌った曲ですね。
「はい。生活していると大変な時期もあると思うのですが、朝起きてこの曲を聴いて“今日も1日頑張ろう”と思ってもらえるような曲を作りたくて…基本的に僕は曲にメッセージを込めるようにしています。ストーリーの中でメッセージを伝えるのか、ただメッセージをストレートに伝えるかは曲によって違いますが、“聴いたあとに何かを感じてもらえるように“ということは常に意識しています」
──それが“人に楽しんでもらう”ということにもつながってくるんでしょうね。
「そうですね」
──ラストナンバー「MAGIC HOUR」について聞かせてください。
「この曲は最後に作った曲なんです」
──それは“アルバムのセルフタイトル曲を作ろう”と思って作り始めたんですか?
「いや、実はそういうわけではないんですけど…。アルバムの収録曲を並べたときに、いろんなジャンルの曲があって“これをまとめあげる曲を作らなきゃ”と思ったんです。とはいえ、作っても作っても“なんか違うな…”ってスケジュールぎりぎりまで、ハマる曲ができなくて。この曲が出来上がったときに“これは「MAGIC HOUR」だな”と思いました。この曲を最後に置いてアルバムが完成しました」
──そもそもアーティスト名=magicHourにはどのような想いが込められているのでしょうか?
「事務所のスタッフのアイデアの一つだったんです。“マジックアワー”という言葉を検索するとWikipediaに空の写真が出てくるのですが、その写真が僕のアーティストのイメージに近いと。それを聞いて、すごく素敵な名前だし、覚えやすいし、いいなと思ってmagicHourにしました。それに、“魔法の時間”という捉え方もできますよね。それは、僕の“音楽で楽しませたい”という想いと一致します。まさに魔法のような時間を提供できたらという想いも込めてこのアーティスト名にしました」
──この先の活動としては、今年はライブ開催も視野に入れているそうですね。
「はい。今までの曲は、どちらかというと楽曲として作っていました。どうパフォーマンスをするのかは念頭に入れていなかったんです。だけど、自分の中ではパフォーマンスをするイメージも固まってきたので、準備が出来次第、ライブの開催に向けて具体的に動き出したいです」
──先ほども、ご自身の音楽で人を楽しませたいとおっしゃっていましたしね。
「はい。ダイレクトにコミュニケーションを取るのは好きですし」
──ライブをするようになると、それを意識した曲作りになるでしょうしね。
「そうですね、曲も変わってくると思います」
──アーティストとしての今後の理想像や展望はありますか?
「目標はいっぱいありますが、とにかく多くの人に届けていきたいです」
──最後に、最近感銘を受けたエンタメや、最近気になっているカルチャーがあれば教えてください。
「先日、TM NETWORKのライブを見させてもらったんですが、すごく感銘を受けました。特に小室哲哉さん。シンセサイザーを演奏されているのですが、DJパフォーマンスを見ているような感じでした。あの姿にはすごく驚きましたし、刺激を受けました」
──それこそmagicHourのライブパフォーマンスのヒントにもなりそうですね。
「はい。それもヒントにしながら、自分のパフォーマンスを考えていけたらと思っています」

(おわり)
取材・文/小林千絵