──現在『Lucky Kilimanjaro presents. 自由“10” に踊ろうTOUR』の真っ只中ですが(※取材は7月上旬に実施)、手応えはいかがですか? 意外だったことや新たな発見があれば教えてください。
「お客さんが自発的にというか、僕が煽っていないところでノっていたり、歌声を上げたりしていて、それは良い意味で意外性がありました。特にここ数年、各地のお客さんと踊ってきて、その中で、みんなが踊ったり、踊らなかったり、それを選ぶことができる環境を自分たちのライブで作れてきたのかな?と思うと、すごく嬉しくなりました」
──特に今回のツアーで“化けたな”と思う曲はありますか?
「いろいろな曲で自分が“こうなってほしいな”と思うような感じになっているんですが、4月にリリースしたシングル「実感」のカップリング曲「次の朝」のお客さんの反応がすごく良かったのは嬉しかったですね。カップリング曲とかアルバム曲とか、メディア的にはあまり表に出していない曲たちも、しっかりとその曲のキャラクターが生きているなと感じる瞬間があって。それは僕らのライブならではなのかな?と思ったりしています」
──確かにシングル曲やリード曲など、ミュージックビデオになっている曲しか知らないということも十分にありえる環境の中で、カップリング曲もしっかり聴いてきてくれるのは嬉しいですよね。
「そうなんです。あとは、お客さんが“曲を知らなくても大丈夫”と思ってくれているっていうことですかね…例えば、クラブに踊りに行ったときって、当然知っている曲しか流れないわけではないし、その場やその空気、DJのキュレーションに対して自分が踊るというセレクトをするのがダンスミュージックの文化としては当たり前で。自分たちのライブでも、今流れている音楽、今アーティストが出している音に対して即興的に自由にノッていくということをお客さんが選べるようになり始めているなという感覚があって嬉しいです」
──そしてツアーが終わったあと、7月24日にデジタルEP『Dancers Friendly』をリリース。10月には同じくデジタルEP『Soul Friendly』がリリースされることも発表されていますが、この2作はどういった意図で作られるものなのでしょうか?
「僕は、Lucky Kilimanjaroの音楽に対して、ダンスミュージックの機能性を使った“体で踊れる”という部分と、ダンスミュージックを聴いたことがない人でも“心で踊れる曲”を書くというのが目標としてあって。そのLucky Kilimanjaroが持っている2つの機能を、あえて分離させてみたら面白いんじゃないか?というところから始まりました。分けて作ることで、よりLucky Kilimanjaroの音楽の面白さを感じられるんじゃないかなって」
──普段はその2つの側面を融合させて曲を作っているわけですが、それを分けて作るという曲作りは難しいのでは?
「あまり難しさは感じなかったです。『Dancers Friendly』は機能的に踊れるほうにフィーチャーした作品ですけど、じゃあ心で踊れないか?といったら全然そんなことなくて。ただ、自分の中で“ちゃんと躍らせる”という、制作上の制限を設けたらこういう作品ができるんだっていう自分への新鮮さがありましたたし、Lucky Kilimanjaroの作品としても、今までとは違う新しいものが出来たなという感覚があります」
──ご自身に課した制限や条件というのはどういったものなのでしょうか?
「具体的に言えば、僕が好きなハウスミュージックやテクノミュージックのルーツと、自分の持っているアイデアやクリエイティビティをどう混ぜていくか?ということです。それを基本に、それらをどう展開させていくか、その上で、Lucky Kilimanjaroが2024年の今、出すべき曲、皆さんに伝えたいメッセージや音は何だろう?ということを考えて組み立てていきました」
──普段の作品作りとはどう違いましたか?
「そういう制限なしにEPを作ったら、数曲は四つ打ちなしの曲を入れるだろうし、違う方向性からアプローチしたりすると思うんですけど、今回は全部それでもいいという考え方でした。実際はこの倍くらい候補曲があって、その中から収録曲を選んだんですけど、候補曲すべてがハウスミュージック、テクノミュージックがルーツになっている曲でした」
──『Soul Friendly』の制作は同時進行で?
「いえ、『Soul Friendly』は今、絶賛制作中です。『Dancers Friendly』を作り終えてから『Soul Friendly』に着手しました。同時に制作して、出来た曲を振り分ける形だと、結局アルバムを作って、それをただ分けただけみたいな作品になってしまうなと思ったので、あえて制作時期に1つのコンセプトに集中することで面白いことができるかな?と思ったんです」
──では、『Dancers Friendly』を作り終えた今、熊木さんの頭の中はどのような状態ですか?
「一時期は“四つ打ちはもう作りたくない”というところまでいきました(笑)。聴くのもちょっと…みたいな(笑)。でもその状態で『Soul Friendly』の制作に入ることで、僕がどうやって心を踊らせる音を作るのかがようやく見えてくるかな?と思って。これまで音楽の特性にフィーチャーして曲を作ることがなかったので、自分としても面白い経験ですし、成長できた部分もあるのかな?と思います」
──Lucky Kilimanjaroは結成からの10年間、“世界中の毎日をおどらせる”をテーマにダンスミュージックを鳴らしてきましたが、この10年間で熊木さんにとってダンスミュージックを鳴らす意味や、ダンスミュージックのあり方はどう変化してきていると感じますか?
「自分の中で、踊らせる音楽の必要性がどんどん上がってきていると思います。社会に対してのメッセージとしても、“踊る”というアクションがより重要になってきていると感じていて。僕の中で、“考えながら動く”という感覚がダンスミュージックで。文化的にはむしろ、考えることを忘れる文化がダンスミュージックだと思うんですけど」
──そうですね。
「でもダンスミュージックのメッセージ的には社会へのアゲインストがあって、それとは別に、自分の中では、“同じところにとどまらない”というのがダンスミュージックの印象なんです。ダンスミュージックってリフレインが多用されますけど、そのループの中で、変わっていく部分と変わらない部分が同時に存在し続けるのがダンスミュージック。その“同じところにとどまらない”というのは、人生を楽しむ上でも非常に重要な考え方だし、自分が音楽に対して新しい音を求め続けるということもそう。そこが合わさって、自分の歌やダンスミュージックを続ける必然性が生まれていったのかな?と思います」
──それに気づいたのは、やり続けている中でですか?
「そうですね。メジャーデビュー以降のほとんどの曲に<踊る>という言葉を入れているんですけど、書いているうちに“踊るってそういうことだよな”と思うようになって。多分、何かきっかけはあったと思うんですけど、自然に熟成されて、それが自分の中で当たり前の価値観になっています」
──『Dancers Friendly』の1曲目「Dancers Friendly」は、それこそループしながら変わっていく楽曲ですが、この曲はどのようにできた楽曲なのでしょうか?
「このEP全体で“キャラクターを壊す”とか“キャラクターを降りる”ことがテーマとしてあって。こだわらなくてもいいのにこだわってしまっているとこから一回降りてみるっていう。わかりやすく言うと、“私にはダンスミュージックは合わない、私は踊れないし”って思っている人がいたとして、そのキャラクターから降りてみる。そして、踊らない自分を、踊る自分が見ることで、自分を浮かび上がらせることができるんじゃないかな?と思ったんです。そのテーマがあったので、踊らないというキャラクターを持っている人をいかに壊して踊らせるか…それが1曲目の「Dancers Friendly」につながっています。歌詞にもありますけど、“年齢や経歴、自分の性格とかってダンスミュージックの上では関係ないよ”っていうのがこの曲のアイデアのスタートでした」
──まさに1曲目からめちゃくちゃ踊らされますが、サウンド面でのイメージや音のこだわりはどのように?
「とりあえず歌をループさせようと思ったんです。一般的にポップス、特にJ-POPでは、こういう構成は、御法度まではいかないにしても基本的な形ではないですけど」
──いわゆる、AメロがあってBメロがあってサビがくるみたいな作りではないですよね。
「そうです。でもそれをキャッチーに作り上げられたら面白いかな?と思って、まずループさせることを決めました。あとはそのループの中で変化させたり、サウンドのキャラクターに面白さを出していこうという感じで作っていきました。あまり戦略性もなく、楽しい音を出そうということだけを考えてセッション的に作っていった曲です。軽快さと、聴いている人が巻き込まれていく感じを大事に作りました」
──それこそ、知らない状態でライブに行っても踊れちゃうタイプの曲ですよね。
「そうですね。知らなくていい曲だと思います(笑)。予習して何かが起きる曲ではないので、その場で合わせるのが面白いんじゃないかなと」
──ライブで演奏するのも面白そうですね。
「はい。変化もたくさんつけられますし、ループだからこそ、生演奏で遊べる部分もありますし。ライブで演奏するのが楽しみです」
──ここで、先ほどおっしゃっていた、“キャラクターを降りる”という本EPのテーマについて、もう少し聞かせてください。
「これは僕の体感というか、なんとなくの今の社会の見え方なんですけど、今ってみんなすごくパワーを求めていると思っています。みんなすごく強くあろうとしている。それは別に悪いことではないんですけど、本当は弱くてもいいのに強いことを絶対的な価値として置いているように感じるんです。それに対して“もっといい加減でよくない?”と思って。自分のキャラクターや自分の信念みたいなものに対して、もっと適当でいいし、人間ってそんなに安定している生き物じゃないし。その考え方にアプローチできるのがダンスミュージックだなと思ったんです。そこで、どうやって自分のキャラクターをポジティブに降りていくかということを考えたのが今作です。例えば、すごく落ち込んだときも、落ち込んだことを悪とするんじゃなくて、“それもノリの一つだよね”っていう考えに置き変えられる。そういうときに信念を意識しすぎてしまうと、固さみたいなものがその人の心を蝕んでしまう気がして。自分の強さをみんな大事にし過ぎても、逆にしんどくなってない?って。だからもっと適当でいい、もっと雑でいい、もっと自由でいいっていうことが、今、僕がこのEPで伝えたいメッセージです。その大枠の中で、1曲ずつが出来上がっていきました」
──確かに、ダンスミュージックはそのノリにうまくアプローチできそうですね。
「1回休んでまたノリ出したりっていうことが、ダンスミュージックにはあるので。変化する場所と変化しない場所を作ってくれるというのがダンスミュージックの魅力だと思いますし、そこに対して自分がアクションできるという意味でも、すごく好きな音楽です」
──2曲目「かけおち」は魅惑的な1曲です。ここで言う“踊る”とはどういった意味なのでしょうか?
「それこそ、キャラの降り。自分の知らない地点に行くということを、“踊る”と言っているんだろうなと思います。自分の堅実さを捨ててシンプルな欲求についていくっていう。楽しそうなこと、おいしそうなこと、本当はやりたいけど自分の中で“自分のキャラじゃないな”と思っていることとか、そういうところに連れ去ってしまうというテーマでこの曲を書きました」
──「かけおち」というタイトルも秀逸ですよね。
「「かけおち」というタイトルは結構早い段階から付いていました。それこそこの曲では、駆け落ちみたいなことを誘発したかったんです。結婚している立場なんで“ちょっとどうなん?”って感じですけど(笑)。でもそういう欲望に負ける感じです。お客さんがダンスミュージックの面白さに触れて、何か欲望に負ける感じを作りたかったんです。だからサウンドでも、体に直接誘いかけるような音を大事にしました」
──この曲はMVも制作されたそうですが、どのようなMVになっているのでしょうか?
「芸人のやす子さんに出ていただきました。やす子さんが七変化しているという、ある意味、やす子さんの“キャラ降り”を捉えたMVで、コミカルな内容になっています。」
──4曲目「Find you in the dark」では、それまでの3曲とは違う意味で“ダンス”という言葉が使われているように感じました。ここでいう“踊る”とはどういった意味があるのでしょうか?
「この曲は、このEP全体の“降りる”とは逆で、むしろ降りないことを選び続ける強さや、大変さを歌っています。自分の探しているものを見つけようとしていることを“ダンス”と表現しています。見つかることそのものではなくて、見つけようとしていることとして、です」
──熊木さんにとっての音楽やバンドを続けることに対する想いも込めているのかなと推測してしまいました。
「そうですね。音楽を続けるって、大変なこともいっぱいあるし、答えがない世界ですし、でもその中で“これが一番面白いかもな”って思いながら続けているところがあって。そういう常に探し続ける人のための曲として、書きたいテーマだったんです」
──まさにLucky Kilimanjaroは10周年イヤーですが、“10年間バンドや音楽を続けられている原動力とは?”と聞かれたら、なんと答えますか?
「原動力ですか…好きなことしかやらないようにしています。“売れるかも”とかは考えていません。そこを考えて音楽をやり始めるとどんどん感情が暗くなるので。“自分の感動が入っているものしかやらない”というのは大事にしています」
──熊木さんは楽曲提供することも多いと思いますが、そこでも好きなことしかやらないんですか?
「やらないですね。もちろん“こういうイメージにしたい”とか“こういうメッセージを伝えたい”というアーティストさんの意向は聞きますけど、それを受けて僕が作ったものがキャッチーで大衆に受けるかは分かりません(笑)。その人にとって大事な曲になればそれでいいんです。その人が“作ってよかったな”と思ってくれたらそれでよくて。自分たちの曲ももちろんそうです。そうしないと、自分の喜びに主体性を持てていない気がするんです。人に言われたからと言ってやっていてもアーティストとして面白くないですし、だったらこんなに大変な道を選ばなくてもいいよなって。音楽をやっているのであれば、楽しいことを追い求めてやっているのであれば、その考えでやった方がいい。少なくとも僕はそう思ってやっています」
──ありがとうございます。
──話を収録曲に戻します。5曲目「獣道 兵が踊る」は他の楽曲とはテイストがガラッと変わります。この曲はどのようにできた楽曲なのでしょうか?
「この曲はすごく前のデモから出来た曲です。僕は基本的に古いデモは使わないんです。新しい曲しか書かないんですが、これはメンバーがずっと気に入ってくれていて“どこかで出したいね”と言っていたので、そのデモから作り直しました」
──熊木さんのセルフライナーノーツには“Find My Way。中二病マインドでゆこう。”とあります。
「はい、“中二”っぽい勢いで作りました。基本的には、悲しみに対して自分がどうアプローチしていくか?というのがテーマの主軸にはなっているんですけど、それをただ書くだけだとつまんないなと思って。この曲を書いているくらいだからわかると思うんですけど、僕は学生時代がっつり“中二病”だったんです。そのマインドで、孤独に対しての歌詞を書いたら面白い切り抜け方ができるんじゃないかな?と思ったところから、この曲を書き始めました」
──孤独に“中二病マインド”で立ち向かおうと。
「そうです。今思うと、中二病って孤独をむしろ謳歌していたような気がするんです。自分のキャラクターに対して、一人で“誰もわかっちゃくれないよな、はは”みたいな。でも現代の孤独は“誰かにわかってほしい”という孤独。だから、もしかしたら“わかってほしい”という孤独も、中二病マインドで表現したら、違って聞こえたり、違う角度で受け取ってもらえるんじゃないかな?と思いながら書きました」
──確かに、“中二”の孤独って、人と違うことに喜びを感じるようなところもありますよね。
「孤高というか…そういう感じだったと思うんです。だからその目線で書くことで、もしかしたらまたそれを手に入れられるかもしれないと思って」
──そのマインドで、つまり普段とは違うアプローチで歌詞を書いてみていかがでしたか?
「一番難しかった曲です。歌詞もそうですし、歌い方も、サウンドのまとめ上げ方も難しかったです。ネタっぽくし過ぎるのも嫌だったし、自然な“中二病”を目指したんですが、それがすごく大変でした。でも面白かったです」
──苦戦しながらも楽曲が出来上がってみて、手応えはどのようなものですか?
「まだわからないです。ライブでやったり、お客さんの反応を見てから判断したいです。今はまだ僕が孤高の中二病をやっている段階でしかないので。これがどういうふうに広がるかが、楽しみな反面、怖くもあります」
──ここまで数曲をピックアップしてお話をお伺いしてきましたが、このほかに熊木さんが今作で気に入っているポイントを教えてください。
「どの曲もキャラクターがあって面白いなと思っていますし、何よりも“今までのLucky Kilimanjaroと違う”ということを気に入っています。だけど今までとつながる部分もあって。“このEPだから出せる音だな”と思っています。僕のサウンドメイクや、踊ることへの執心みたいなものを感じてもらえると嬉しいです」
──この『Dancers Friendly』という作品は、今後のLucky Kilimanjaroにどのような存在になりそうですか?
「まだわからないです。最近のLucky Kilimanjaroは、ハウスミュージック、テクノミュージックで踊るという状況を作りたくて、割と多めに四つ打ちを入れた曲を作ってきていたので、『Dancers Friendly』はその集大成的なところもあります。だからこれがライブでどう機能するのか、その上で、どう『Soul Friendly』に帰着するのか。僕もまだ予想できていないですけど、それを楽しみにしているところです」
──ライブという話が出ましたが、11月からはライブツアー『YAMAODORI 2024 to 2025』が控えています。どのようなツアーになりそうですか?
「『自由“10” に踊ろうTOUR』はこれまでやってきたLucky Kilimanjaroのライブの面白さを煮詰めたようなライブだったんですけど、『YAMAODORI 2024 to 2025』はより多幸感や、人生を踊るヒントを与えられたらいいなと思っています」
──ツアーファイナルは幕張メッセ国際展示場 4・5ホールです。こちらはどのようなライブにしたいか、構想などは?
「まだ全然予想がつかないです。ただ僕は、“どこでライブをやりたい”みたいな思いがあまりないんです。お客さんが踊れる場所を作れればそれでいいんです。ただ自分たちのワンマンで、スタンディングで自由に踊れる場所として、大きな場所でそれを作れるというのはすごく楽しみですし、僕らの音楽は大きなところも似合うと思うので、面白いことをしたいですね」
取材・文/小林千絵
RELEASE INFORMATION
LIVE INFORMATION
Lucky Kilimanjaro presents. TOUR “YAMAODORI 2024 to 2025“
2024年11月17日(日) 金沢・EIGHT HALL
2024年11月23日(土) 高松・MONSTER
2024年11月29日(金) 広島・CLUB QUATTRO
2024年12月1日(日) 熊本・B.9 V1
2024年12月20日(金) 札幌・Zepp Sapporo
2024年12月22日(日) 仙台・SENDAI PIT
2025年1月13日(月・祝) 大阪・Zepp Osaka Bayside
2025年1月19日(日) 福岡・Zepp Fukuoka
2025年1月26日(日) 名古屋・Zepp Nagoya
2025年2月16日(日) 千葉・幕張メッセ国際展示場 4・5ホール