――今回は「Touchdown feat.VILLSHANA」のインタビューですが、まずは新しいアーティスト・ビジュアルについて聞かせてください。これは楽曲の雰囲気に合わせたイメージでしょうか?
「音楽もそうなんですけど、2、3年前くらいから“ワクワクするもの”、“新しいもの”にどんどんチャレンジしてきたいっていうモードに、僕自身が変わってきたんですね。なので、ファッションに関しても、最初に自分の好みや希望を伝えるのではなく、スタイリストさんが用意してくださった中から選ぶスタイルになっているんです。今回の衣装は、まずミュージックビデオをどうするかを決めて、そこから先は監督のイメージで選んでいただきました」
――音楽も衣装も、自分を“素材”にして好きに料理してほしいというニュアンスですね?
「そうです。それは今回の楽曲でプロデュースをお願いしたDJ RYOWさんも同じで、最初の打ち合わせでは、RYOWさんが持っているKというアーティストのイメージは捨てて、この声を使ってこういうことをやってみたい、ああいうのもいいかもっていう感じで、自由にやってもらいたいとお願いしました。RYOWさんがやりたい方向に、僕が合わせます。と」
――DJ RYOWさんにプロデュースしてもらうことになったきっかけは?
「そこにチャレンジしたいという気持ちはあったんですが、でもHIP HOP系のジャンルに飛び込むにはプロデューサーの力を借りる必要があるんじゃないかということで、スタッフといろいろ相談していくなかでDJ RYOWさんの名前が挙がったんです。それで、RYOWさんの音楽を改めていろいろ聴かせていただいたら、すごく幅が広い印象だったんですよね。いい意味で、DJ RYOWといえばコレっていうのがなくて。それって柔軟性があるからこそできることだと思うし、そこに面白味を感じて、声を掛けさせていただきました」
――DJ RYOWさんの拠点は名古屋ですが、どのように制作を進めていったんですか?
「すべてLINEのやりとりで進めていきました(笑)。ディレクターも含めたLINEグループを作ったんですけど、すぐRYOWさんから10曲くらいトラックが送られてきて。そのなかに今回のシングルになったものが入っていて、聴いた瞬間、もうその曲しか見えないっていうくらいでした(笑)」
――そのトラックのどんな部分に惹かれたんですか?
「送られてきたトラックは曲の一部、完成した曲のイントロからずっとループしてるものだったんですけど、どこか懐かしさもあるし、今っぽい部分もあるし。最近また80年代の音楽が戻って来ているなかで、そのサウンドが今の時代に合っているような気がしたんですよね。それから、単純に音の響きがすごく好きだなって。あとでコードをチェックしてみたら、Cmだったんですよ。僕、マイナーキーの中だとCmがいちばん好きなので、“やっぱり!”ってなりました(笑)」
――Kさんの琴線に触れる音だった、と?
「そうなんです。でも、今回は自分でトラックを作っていないからこそ面白さがありましたね。自分で作ると、その時点でメロディも歌詞も、頭のどこかではなんとなく決まってたりするんですよ。今回はそれがまったくない、最後の最後までどういう形になるかわからなくて。制作しながら、こういうこともできるんだ!こういうアプローチも面白いな!っていうところが多くて、すごく刺激的でした。特に今回は自分でトラックを書いていないからこそ、自由に作ることができたような気がしますね」
――一方、ラッパーのVILLSHANAさんをフィーチャーしていて、リリックにはVILLSHANAさんの名前もクレジットされています。
「僕の最初のイメージでは、まずはラッパーの方にラップを書いてもらって、その世界を歌で表現してみたいと思っていたんです。でも、RYOWさんのほうから、最初にKくんの世界を広げてほしいというリクエストがあったので、僕が先に書いて、そのあとVILLSHANAくんに声を掛けてラップを入れてもらうという流れになりました」
――もしラップが先だったら、また違った仕上がりになっていたかもしれないですね。
「そうですね。もちろん、それはそれで面白かったと思うんですけど。ただ、個人的には最近ずっとラブソングが続いていたので、ラブソングじゃないものを歌いたいなと思っていたんですよね。もしラップを先に書いてもらって、それがラブソングだったとしたら、やっぱり僕もラブソングを書かざるを得なかったので、今思えば先に僕目線で書かせていただけたのはよかったなと思います。これはRYOWさんに言ってないのですが(笑)」
――リリックでは、それこそここ最近のKさん自身の心境が綴られているように感じました。
「はい。チャレンジすることって、僕はとても大事だなって思うんですよ。僕が日本に来るときも、歌手をやめて裏方になるか、あるいは軍隊に行くか、すごく悩んでいた時期があって、ちょうどそのタイミングで日本からお話をいただいたんです。行ったこともない日本でアーティスト活動をやって、もしうまくいったらずっと日本に住むことになるけど、どうしようって、そこでもかなり悩んで」
――未知の場所に飛び込むわけですから、当然だと思います。
「そのときに父親が“何十年も経った時に、あのとき行っておけばよかった!となるのだけはやめたほうがいいよ”って言ってくれたんです。実は、親父も昔歌手になりたくて、オーディションを受けるか受けないかで悩んだことがあったらしく……でも、周囲の反対もあって諦めたそうなんです。一緒に食事をすると、“もし、あのときオーディションを受けていたら、どうなってただろうね”みたいな話をいつもするんですけど。そういう経験を持つ親父の後押しもあって、当時の僕は日本に行くことを決めたんですよね。あとから後悔したくないと思って」
――それが今、Kさんが音楽で新しいチャレンジをすることにつながっているんですね。
「そのとおりです。やってみてわかったんですが、それってすごく孤独な作業なんですよね。それまでやってきたものから新しいところに行くためには、当然変わっていかなきゃいけない。でも、その一方で変わらずにいることも大切だし。そのふたつがせめぎ合っているなかで、“これが正しいのかな?それとも元のままがよかったのかな?”と思いながら、ここまでずっとやってきてる感じです。でも、やってみないとわからないことってあるじゃないですか。そこに飛び込むことがチャレンジだと思うし、僕自身、そこに足を踏み入れたことで新しく見えてくるものだったり、変わっていったりすることがたくさんあったので。これからもどんどんチャレンジしていきたい、過去は大事にするけど振り向いたりはしないっていう想いで曲を書くことを第一テーマにしていたので、今回の楽曲はまさに今の自分の気持ちを代弁したものですね」
――そのエピソードを聞いて、この曲のタイトルが「Touchdown」であることがすごく腑に落ちました。屈強なディフェンスの壁を乗り越えて。新しいことに挑むKさんの姿勢にも通じるなって。
「「Touchdown」はVILLSHANAくんが書いてくれたリリックに出てくる言葉なんですけど、タイトルは絶対これがいいと思って。でも、僕はアメフトとかまったくやらないし、観ることもないのに“タッチダウン”って言葉をタイトルに使ってもいいのかな、きっとインタビューでタイトルについて聞かれるだろうなって(笑)」
――詞とかタイトルに込めた思いって、ちゃんと伝わりますよ(笑)。VILLSHANAさんとの出会いは?
「フィーチャリング候補として僕が何人か出させていただいたなかに、VILLSHANAくんがいたんです。VILLSHANAくんのことはもともと気になっていて、彼の「caffée llatte feat. $HOR1 WINBOY」って曲が大好きなんですよ。それをRYOWさんに話したら、一緒に作品を作ったことがあるというので、ぜひ!と」
――VILLSHANAさんもとDJ RYOWさんは名古屋繋がりですもんね。リリックでは<nagoyaからkorea>というフレーズも出てきますし。
「その歌詞もいいですよね!僕もすごく好きです」
――VILLSHANAさんの書くリリックやご本人の印象というのはどうでした?
「リリックは本当に自由に書いてくださいって伝えたんですけど、曲が完成したあと、ミュージックビデオの撮影の現場でVILLSHANAくんに“どういうアーティストが好きなの?”って聞いたんです。そしたら“スピッツが好きです。自分の歌詞の世界観は、スピッツが基になってるんです”って。それがちょっと意外でした。僕なんかは逆に、HIP HOPのリリックを見ることがすごく多いんですよ。歌には収めきれない言葉が、ラップには乗せられていたりするので。僕はそこからヒントを得たりするんですけど、彼の場合は歌ものからヒントを得ているってことが新鮮でした」
――前回のMADz’sさんとの「Day‘N’Night」ではボーカルエフェクターがかかっていて、KさんとMADz’sさんの声が絶妙に混ざり合う感じが新鮮でしたけど、今回は逆にKさんの素のボーカルにVILLSHANAさんのラップが乗っていますよね。そこがまたKさんにとっての新境地というか……
「そうですね。いまは歌い上げるような楽曲じゃないものを求めているのかもしれないですね。全体的にキーを下げたりとか、それは別に声が出ないからというわけではなく、どちらかと言えば僕の声って、トレーニングの影響もあると思うんですけど、どんどんキーが上がってるんですよ」
――年齢重ねてキーが上がっているってすごいですね。
「ありがとうございます。でも、それでどんどんキーを上げると、ドヤ感が出てしまうというか(笑)。だから、実は前作も今作も、キーをある程度の範囲に収めることを裏テーマとして持っていたんです。あと、キーとは別の話になるんですけど、発声の仕方もすごく研究していて。というのは、英語やハングルで歌うときに出るインパクトのある声、ちょっと鼻に掛かったような声が日本語になった途端に出なくなるんですよ。今やっている音楽には、そういう鼻に掛かったような声が必要だと思うので、日本語で歌っても英語やハングルと同じようなインパクトが出るように、自分のスタジオで録音しては聴いて、録音しては聴いてを繰り返してます。今回もしっかり練習を重ねてからレコーディングに臨んだので、その成果も少しは出ているような気がしますね」
――さきほど話題に上がりましたが、ミュージックビデオのほうはどんな仕上がりになっていますか?
「めちゃくちゃカッコつけてます(笑)。「Day‘N’Night」と同じKen Harakiさんに撮っていただいたんですけど、僕はHarakiさんの表現に身を任せるだけでした」
――そこでも素材に徹しているんですね。
「本当にそうなんですよ。最近、まわりの人に“力が抜けてていいね”って言われるんですけど、それはきっと相手に身を委ねているから。前は、こういう顔しなきゃとか、カッコつけなきゃとかがあったんですけど、今は監督に“ぼうっとしてていいよ”と言われてその通りにしてたら、めちゃくちゃカッコよく映ってるっていう(笑)。いい意味で責任がないので、楽しく臨ませてもらってます」
――誰かとタッグを組むというフォーマットは今後も続いていきそうですか?
「実は12月15日配信リリースの「winter light feat. sloppy dim」ももう録り終わってるんですけど……いまはまだ秘密です(笑)」
――そうなんですね!では、サウンドとしてはどんな仕上がりなのかヒントをいただけませんか?
「そうですねえ……ジャンルで言うとブラコン(ブラックコンテンポラリー)かな。ブラコンと言っても今の若い人には通じないかもしれないけど、最近は80年代の音楽から、ちょっとずつ90年代後半の音楽が流行りつつあって。そうした流れも意識して、次の曲は“ザ”がつくほどど真ん中のR&Bのバラードで、90年代っぽいリフが流れてる……みたいな感じ」
――楽しみにしています。最後に、2022年の目標を教えてください。と言ってもKさんの場合、来年を待たずとも常に目標というか、ワクワクするものを持っていそうですが(笑)。
「本当にね、日々ワクワクしてます。今だって、また誰かと一緒におもしろいことができないのかな?って思ってますし。それが僕の作品じゃなくでもよくて、僕が誰かの作品に参加するのもいいし、僕が作ったトラックを使ってもらうだけでもいいし、いろんなコラボができたら面白いなと思って、そういう人を常に探してはいるんですけど」
――フットワークが軽いKさんのことだから、それこそ日本を飛び出す日も遠くなさそうですね。
「そういう意味では、韓国のアーティストともできたらなって思うんですよね。なので、来年も今と変わらず、常に新しいことにチャレンジする姿勢でやっていきたいなと思ってます。あと、今のこういう状況だと難しいかもしれないけど、クラブで歌ってみたいなっていう気持ちはすごくあって。1回も歌ったことないので」
――フロアを揺らしたい、みたいな?
「そうそう!その風景を自分の目で見たら、そこから先の作品もまた少し変わってくるのかなって。そのへんはRYOWさんに相談してみようかな(笑)」
(おわり)
取材・文/片貝久美子