――アルバムリリースから約1ヵ月、改めて『心海』の手応えから聞かせてください。

柳田周作「前回に引き続きではあるんですけど、たくさんのアーティストの方だったり編曲家の方と共作していく作業がより幅広く濃密にできたのがすごく記憶に新しくて。特に亀田誠治さんと「修羅の巷」と「僕にあって君にないもの」という楽曲を作った時、亀田さんの音楽家である以上にひとりの人間として見習わなきゃいけないなって部分がたくさんあったりしたんですね。例えばレコーディングの現場の作り方だったり、空気の作り方と言いますか。あとは書き下ろすにあたってどう作品サイド、ドラマサイドと関わっていくべきなのかみたいなことを亀田さんが引っ張っていってくれたっていうのがあったりして。あとは初めましてのYaffleさんと「スピリタス・レイク」という曲を作って、これまた神サイ4人ではたどり着けなかったアイディアだったりをたくさん頂いたので、4人全員刺激しかなかったんじゃないかなと思ってます」

吉田喜一「次の指標となるアルバムになったんじゃないかなと思いますし、今の自分たちの持てるこのすべてをつぎ込んだんで、ある意味デビューというかバンドを始めてからの集大成がここに来て作れたんじゃないかなと思ってますね。あとこの2ndフルアルバムを作ることによって、その中での葛藤とかスキルアップだったりとか、いろんな経験をさせてもらったアルバムなんで、個人的にはすごく思い出になりそうだなとは思ってます」

黒川亮介「このアルバムを作ることによって、ミュージシャンとしても人としてもすごく成長できたなあっていうのもあるし、特にベースの桐木と音楽についてかなり話すようになったなあっていうのはめちゃめちゃ思います。「Popcorn’n’ Magic」だったり「修羅の巷」だったり、「スピリタス・レイク」で、レコーディングの本当にギリギリまで桐木とグルーヴ感をどういうふうにしようかって、すごく深いところで話せるようになったっていうのはこのアルバムを通して共通して言えるんじゃないかなっていうのは思います」

桐木岳貢「前作に比べてより音楽的になったじゃないですけど、みんなスキルもレベルアップしてて、前回もいろんなアレンジャーさんだったりいろんな人と関わっていく中で、こう限界突破じゃないですけど、自分にないものを取り入れよう、みたいなのがすごく多かったので、さらに吸収できて出せたというか、人間的にも音楽的にも成長できた1枚かなと思います」

メジャーデビュー目前の2020年3月27日、福岡BEAT STATIONで行われるはずだった「神はサイコロを振らない Live Tour 2020 “理-kotowari-“」のリベンジライブ。

――この夏はいろいろと記憶に残るライブがあったと思います。まず地元福岡で2020年に実施されるはずだった公演のリベンジ公演がありました。時間を経過して今年ステージに立ってみていかがでしたか?

吉田「「理 -kotowariツアー」っていう、コロナ禍で中止になったツアーのある種リベンジを、地元のBEAT STATIONという思い出ある箱でワンマンをやれたのがまずシンプルに嬉しかったっていうのはあります。結構学生時代からBEAT STATIONは他のアーティストのライブを見に行ったりとか、以前神サイも何度もイベントでは出たこともあるので、そこでワンマンをやるっていうのは規模関係なくすごく新鮮だったというか、僕にとってはすごくいい経験だったなと思ってますね」

――延期になってたっていうのは心の片隅に引っかかってたんですか?

吉田「やっぱりコロナ禍の話は避けて通れないというか。まあ声出しの解禁もあって世の中いい方向に動いてはいるんですけど、自分の中でやれてない公演だったりとか、出れなかったフェス、その日にもしかしたら会えてるであろう人たちに会えてないのはすごく心残りだったなって思います」

――なるほど。2020年当時とはレパートリーも曲数も変わっているわけですが。

吉田「結構セトリはメンバーでいろいろ話して、昔の曲を組み込むことによって、こうじゃない!ああじゃない!みたいな話もできたのは次のツアーに本当に向かってる感じがあって、僕はめちゃくちゃよかったなと思います」

黒川「めちゃめちゃいいライブができたんじゃないかなと思います。やっぱりBEAT STATIONは自分にとって一個のロマンというか、取り忘れたロマンをちゃんと時間が経ってからですけど回収できたっていうのがすごい嬉しくて。その日撮影が入ってたんですけど、自分が福岡時代に習ってたドラマーの方がたまたまいたり、神サイが初めて出たライブハウスの人が音収録で入ってたりとか、当時を思い出さざるを得ないというか、昔の自分たちの足跡的な部分をその人に会うことによって思い出すこともやっぱりあって。そういうことができたのはありがたかったですね」

こちらも福岡BEAT STATIONのリベンジライブから。

――柳田さんはいかがですか?

柳田「香川公演で神サイをいつ頃知ってくれたのかっていう質問をしたときに、メジャー以降に知ってくれてるっていう人がかなり多いってことに気が付いて。結構、思い違いをしていたというか、こういうリミテッド的なライブの時って割と昔から応援し続けてくれてたファンの方が大半を占めていると勝手に勘違いしてたから、昔の曲も取り入れてみようかなとか、そういうセットリストの決め方をしてたんですけど、思いのほか2020年の7月以降、例えば「THE FIRST TAKE」で知りましたとか、YouTubeの動画で知りましたって方が非常に多くて。意外とそうでもなかったというか……今回は、昔からのファンでいてくれてる人もいるけど、メジャー以降に出会ってくれた人もあれだけいてくれてるんだっていうことをメジャーに行って以降初めて実感できた特別な2本のライブだったんですね。それに関してはやれてよかったし気づけてよかったし、今後のセットリストの組み方にもすごく影響してくるだろうなあっていうのは感じます」

桐木「自分たちの想像してたお客さん像っていうのがあまりにも違ったというか。次のツアーに向けて伸ばせる部分が見えて来たなっていう印象はありましたね。ライブが終わった後もメンバーと話しあったし、やってみてわかったことがすごく見えてきて。だからツアーの前にこういうことをやれたのはすごい良かったなと思いましたね」

――10月に入ってからは初の海外公演を台湾の「Takao Rock!」で経験しましたね。

柳田「台湾のバンドとかもみんなで見に行ったりして、日本のシーンとはまるで違うというか、それこそ「Takao Rock!」っていうフェス自体が結構異種格闘技戦というかジャンルレスなところもあったんですね。そんな中に唯一日本のバンドとして神サイを呼んでくれて、それはそれは素敵な景色だったんですよ。言葉もどこまで伝わってるんだろう?って思うんですけど、台湾の方々は感情の赴くままに楽しんでる感じで、音を浴びてそれぞれの自由な乗り方で音楽を楽しんでる感じがあったんで、これはやってる方も見てる方も楽しいなって思えるような最高のフェスでしたね」

黒川「ライブはめちゃめちゃ盛り上がったというか、やっぱりシャイなお客さんが少ないですかね、台湾は。柳田も言ってたんですけど、感情の赴くままというか、初めて行ったのにもう何回も来てんじゃないか?ぐらいの受け入れ態勢があって、台湾のお客さんすごい優しいなあっていうのは感じましたね。それにライブが終わった後に出演してた韓国のバンドとかと仲良くなったりしたんですよ。そういうのも台湾に行かなかったらなかったことだし、グローバルな体験が一日でできたなあっていうのは感じました」

柳田「日本に帰ってきて、なんかしゃらくさいなって思いますよね。もっと全部自由でいいじゃんっていうか、タクシーの運転手が好きな自分の好きなフィギュアを車内にバーッと並べてたりとか、コンビニの店員がご飯食べながら接客してたりとか、もっと色々適当でもいいんじゃないの?って思って。去年LAに行った時も思ったけど、それの3倍ぐらい今回思ったというか。もちろん日本人の国民性の素敵な部分もやっぱたくさんあったりするし、そのギャップを楽しめたのも良かったなあっていうか。でもやっぱなんか日本帰ってきて相当台湾ロスで(笑)」

――ふふふ……街のバイブスが合ったんですかね?

柳田「うん、めちゃくちゃ。僕は中国語喋れないですし、英語も全然喋れないし、だから否が応でもコミュニケーション取ろうとするっていうか、わかんないならわかんないなりに思いをジェスチャーも交えて伝えようとするんですよ。けど日本にいると“伝えなきゃ”っていう気持ちがどうしても薄れちゃうっていうか、誰とでも意思疎通はできるから。だから主題歌を書き下ろした『FREDERICA』っていうゲームで描かれている言葉を失ってしまった世界にちょっと近いっていうか、言葉がしゃべれないからこそ全然喋れない拙い自分の分かる範囲の単語でなんとかコミュニケーションとるっていうのがめちゃ楽しかったし、人とのつながりをより求めるようになってたなっていうか……」

――日本だと喋らなくても生きて行けたりしちゃいますからね。

柳田「そうなんですよ!別にコミュニケーションがなくて生きていけるのが、逆に寂しいなっつうか。ましてやこれだけ電子機器ありきの世界で、マジで人と喋んなくても死にはしないし、飯食えるし、住めるしっていうのが当たり前だからこそ、ちょっとした小さな喜びも全部見逃してる気がしてて。そういうのを全部拾い集めれた気がするようなひとときでしたね」

――そんな中、ホールツアーへのビジョンは明確になってきた部分はありますか?

柳田「もうセットリストや演出、楽曲のアレンジの仕方やつなぎだったりっていうのは9割できてて。早かったですね。アルバムができてからすぐ自分がセットリスト構築して。そもそも論として、今回のアルバムの新録曲はホールツアーをめがけて作った楽曲たちだったんで、アルバムの制作段階からツアーづくりがもう始まってたっていう感覚に近いです。1曲目の「Into the deep」から2曲目の「What’s a Pop?」っていうのも、もうホールでの景色を想像しながら作ってたというか。だからだいぶ前から仕込みは始まってましたね」

――リハをやってみてわかる演奏面やアレンジの面白さはありますか?

黒川:「「スピリタス・レイク」を合わせた時はちょっと難しかったというか、レコーディングでは自分とベースの桐木と一緒に録って、クリックを聴きながらやったんで自分が自由に動いても大丈夫だったんですけど、いざメンバーと一緒にやると自分が揺れすぎて、ドランクビートの具合を調節するのが最初は難しかったですね。そういうところはリハを重ねてみないとわかんないなっていうのは思いましたね」

――いま言える範囲でどういうところが見どころになりそうですか?

吉田「新録曲たちのアプローチというか、昔の神サイでは考えられないことがたくさん起こると思うので、やっぱアルバムを聴き込んで新録曲はぜひチェックしてほしいですね」

――楽曲ごとにカラーがあるので演出も楽しみですね。このツアーを完走したらさらにブレークスルーしそうな気がします

吉田「ホールツアーっていう一つの憧れじゃないですけど、あと自分たちの活動史上一番大きいところでワンマンするっていう意味合いも含めて気合が入りますし、これを完走しきったら完全燃焼してしまうんじゃないか?ぐらい今、モチベーションが高いので」

桐木「ライブ感ももちろんあると思うんですけど、それにも増してショー感みたいなのもホールならではなんで出したいなと思ってて。神サイのお客さんはあんまりライブに来たことがない人が多い印象があるんですね。ライブハウスってちょっと怖いというか、ちょっと行きづらいイメージがあると思うんですけど、今回はホールなんで、初めて来る方にはちょうどいいんじゃないかなと思ってますので、これを機にもし時間が空いてれば足を運んでくれたら嬉しいですね」

柳田「「What’s a Pop?」で歌ってるように、デモを作ってる時からこれを聴かせたい、この13曲を届けたかったのは結局ファンのみんななんで。今度みんながこれを聴いてどんな顔してるかなっていうのをひたすら想像しながらこのアルバムを1年半ずっと作ってきて、ようやく届けられるなっていうか、ここまで“長えよ!”って感じです(笑)。一刻も早くみんなの前でCDやサブスクでは味わえない生の僕らの空気感というか温度感を純粋に、自分の感じるままに受け取ってほしいなあと思います」

(おわり)

取材・文/石角友香

全国ホールツアー「神はサイコロを振らない Live Tour 2023」LIVE INFO

10月28日(土)オリックス劇場(大阪)
11月4日(土)札幌道新ホール
11月11日(土)福岡市民会館 大ホール
11月18日(土)仙台電力ホール(宮城)
11月23日(木)岡山芸術創造劇場ハレノワ 中劇場
11月25日(土)新潟市音楽文化会館
12月1日(金)日本特殊陶業市民会館フォレストホール(愛知)
12月17日(日)東京国際フォーラム ホールA

DISC INFO神はサイコロを振らない『心海』

2023年9月27日(水)発売
通常盤(CD)/TYCT-60209/3,300円(税込)
ユニバーサル ミュージック

神はサイコロを振らない『心海』

2023年9月27日(水)発売
初回限定盤A[雪融けを願う飛行船 Live盤](CD+Blu-ray)/TYCT-69268/5,500円(税込)
ユニバーサル ミュージック

神はサイコロを振らない『心海』

2023年9月27日(水)発売
初回限定盤B[最下層からの観測&事象の地平線 Live盤](CD+Blu-ray)/TYCT-69269/6,600円(税込)
ユニバーサル ミュージック

神はサイコロを振らない『心海』

2023年9月27日(水)発売
完全数量限定Goods盤 [UNIVERSAL MUSIC STORE限定発売](CD+Tシャツ)/PDCV-1205(M)/ PDCV-1206(L)/PDCV-1207(XL)/各6,600円(税込)
ユニバーサル ミュージック

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