フランス発のファンクバンドFUNKINDUSTRY(ファンクインダストリー)が、日本のシティポップサウンドに特化したEPMidnight City Lovers』をリリースした。
FUNKINDUSTRYは、ヴォーカルでギターのネイサンとベースのジャン・マチュー、キーボードのフランソワ、ドラムのダビッド、サックスのレミ、そしてトランペットのニコラによる6人編成のファンクバンドだ。
アフロアメリカン ミュージックをベースに、多様性やミックスをバンドの原動⼒としているという。
「スティービー・ワンダーの声と、ジョン・レノンの心を持つ男」。
これはジャミロクワイのデビュー当時のキャッチコピーだが、個人的には初期のジャミロクワイ的サウンドを感じ、野太いファンクサウンドに美しいヴォーカルとのフュージョン(融合)が、まるでジャミロクワイの再来かとも思えるようなアシッドジャズ的なグッドミュージックなのだ。
そんなファンクバンドが、日本のシティポップミュージックにランデヴー。
今回は、初来日を果たした彼らに、バンドの成り立ちや音楽的ルーツとともに、日本のシティポップサウンドに対する思いなどを中心に、ネイサン、フランソワ、デビッドの3人にインタビューした。

──待望の日本でのツアーが、2023年6月16日の大阪のLIVE HOUSE Pangeaより始まりましたが、ライブをやられてみてどのような印象を受けましたか?

ネイサン「とにかく、日本で初めてのライブでしたので、僕らにとっても非常に感激な出来事でした。お客さんも暖かく迎えてくれて、盛り上がってくれたこともあり、僕たちもすぐに盛り上がれたので、あっという間に時間が過ぎてしまいました」

フランソワ「一緒にコラボしたバンドの方の感じもふくめて、大阪はファンクや、シティポップが好きな方が多いみたいで、血に染み込んでいるという感じを受けましたね。“本当に好きなんだな”って。そういうこともあって、僕たちもダイレクトにその中に入っていくことが出来たと思っています」

ネイサン「昨夜の下北沢 BASEMENTBARでのライブも、とてもファンキーだった印象があります。でも、まだこれから都内でも何箇所かでライブがあるので、すべてをやりきったところで、日本でのツアーをゆっくり振り返ってみたいですね」

──FUNKINDUSTRYのバンドメンバーの簡単な紹介、そしてメンバーがバンドに関わることになったきっかけを教えてください。

ネイサン「僕とベースのジャンは兄弟なので、幼少期からずっと一緒でした。キーボードのフランソワは高校時代からの友人で、その頃から友達同士でバンドを組んでいたんです。その後、56年前くらいにドラムのデビッドが加入して、という感じです。それからメンバーが交代したりもしましたが、僕らの関係はけっこう長いんですよ。でも、最初からプロを目指していたわけではなかったので、その時はまだ“音楽で食べていくのか?”という部分にははっきりとしたイメージはありませんでした。34年くらい前にサックスのレミーとトランペットのニコラが、『Fete de la musique』(プロとアマによるフランス全土の音楽の祭典)でのジャムで一緒になったのがきっかけでバンドに加わったんです。それくらいから少しずつさまざまなプロジェクトが固まりつつあって、“本格的に活動していこう!”となりました。それがバンドの経緯です」

──現状のこの編成が現在での完成形と思った理由はなんですか?

デビッド「ちょうどその時に、グループ的にも個人的にもいろいろな変化がありました。そこが音楽的にスタイルがはっきりしたという時期で、その頃から“ゼロからグループとして活動していきたい”という思いが生じてきたんです。それまでは音楽的に一貫性のあるバンドではなく、さまざまなジャンルをまとめたコンピレーションの様な部分がありました。でも、レコードを作るということになった時、それがまずこのプロジェクトの目的であったワケですけれど、そこをきっかけに美的感覚にしても、音楽性にしても、バンドの方向性がひとつに定まって、一貫性が生まれたんですね。自然な流れでそうなっていきました」

フランソワ「バンドとして全体のまとまりができて、音楽的にも豊かなったと感じたので、その時をきっかけに真剣に向き合いはじめましたし、グループが成立したと感じました」

──歌詞に関してですが、フランス語ではなく、英語にしているのは?

ネイサン「僕にとっては、英語で歌うことは非常に自然なことだと感じているんです。それは僕らがやっている音楽がアフロアメリカンな音楽で、ファンクにしても、ソウルにしても、アメリカとかイギリスとかの英語圏のものなんですね。そもそもこれはフランスにはない文化なので、そういう意味で英語の方が音楽的にも感情的にもぴったりだと感じているんです。もちろん僕はフランス語は大好きです。でも、逆にフランス語という言語が好きであるがゆえに、この音楽性に対してフランス語で歌うことに恐れが少しありました。もちろん、フランス語歌詞の音楽はいろいろあるのですが、僕たちの歌っている音楽とは音楽性が違うのかな?と。それぞれの音楽ジャンルでぴったりくる言語というものがあると僕は考えているのですが、それはリズムだとか、感情だとか。その中で僕たちが歌っているものは英語なのかな?って思って追います。ただ、日本の音楽で日本語と英語が混ざっているもの、シティポップ・ミュージックもそうですが、これは非常に自然にうまくいっていると思っています。これがフランス語と英語だとどうなんだろうなと(笑)」

──それぞれの音楽的なルーツを教えてください。

ネイサン「僕はピンク・フロイドです。全然ファンクではないのですが(笑)」

フランソワ「メンバーそれぞれが受けた影響は異なっているのですが、それがまさに良い音楽を作っている重要な部分だと思っています」

ネイサン「ジャミロクワイはみんな好きですよ」

──じつは、ライブを拝見した時に、初期のジャミロクワイのサウンドっぽいと感じました。

フランソワ「アリガトウ(日本語で)!」

ネイサン「ドウモアリガトウゴザイマス(日本語で)!」

フランソワ「僕のルーツは、ネイサンに近い部分もあるのですが、父がすごくロック好きだったんです。その影響もあり、ビートルズなんです。子どものころからよく彼らの曲という曲を聴いていて、彼らの音楽だけではなく、“バンドとしてどのようなキャリアを積んでいったのか?”という様な歴史の部分にも興味がありました。だから、彼らのさまざまなドキュメンタリーも観ています。そういうこともあり、やはり“音楽をやりたい”って夢をもつきっかけになりましたね。メンバーそれぞれ、最初に聞いていた音楽や普段聞いている音楽は違っています。みんな違う影響の部分から入ってきているのですが、そのなかでもファンクが共通点ということもあって、その部分は一貫性をもってやっていますね」

──ビートルズはアルバムによって彼らは全然違うことをやっている思いますが、ご自身の中でナンバーワンのアルバムはありますか?

フランソワ「とても難しい質問ですね(笑)。『リボルバー』かな?…だけど、全部好きです」

ネイサン「ビートルズの話の延長になりますが、そこから日本のシティポップにつなげると、佐藤博さんの「Eight Days A Week」(アルバム『SAILING BLASTER』(1984年リリース)収録のビートルズ・カバー)に代表されるように、ビートルズの影響は非常に見られますよね。佐藤さんは、ビートルズが大好きで、日本のビートルズと言いますか、ポップスターになろうと考えていらっしゃったと聞いています。ただ、佐藤博さんの場合は影響だけではなく、それと同時にオリジナリティに溢れていて、本当にすばらしいと思っています」

──ちなみに佐藤博さんは、日本の中でもかなり"通な"アーティストだと思うのですが、どのように佐藤さんに辿りついたのでしょうか?

ネイサン「僕は佐藤博さんだけではなく、そもそもシティポップ・ミュージックが大好きなんです。3年くらい前から日本の音楽を聴いていて、他にも70年代、80年代のプログレジャズとか、フュージョンとか、AORとか、カテゴリー問わずで聞いています。佐藤さんはそのなかのひとりで、ソロでの活動ももちろんですが、山下達郎さんとも一緒に活動されたりして、本当に素晴らしいアーティストだと思っています」

──デビッドさんはどうですか?

デビッド「僕は、GENESIS(ジェネシス)ですね。70年代の音楽で、いわゆるプログレッシブ・ロックというジャンルですが、彼らの『Lamb Lies Down On Broadway』というアルバムがあって、その時に在籍していたピーター・ガブリエルに非常に感銘を受けました。あと、ここにいない他のメンバーもそうですが、ジャズが好きなメンバーが多いんです。ただ、僕らが共有しているもののいちばん大きなものではないかもしれませんが、そのうちのひとつであることは間違いないと感じています」

ネイサン「そういった感じで、みんなさまざまな部分を持ち寄っているわけです。例えば、ピンク・フロイドもそうなのですが、ファンキーな側面もあれば、バラードな側面もありますよね」

──そんなFUNKINDUSTRYが今回、シティポップに特化したEPアルバムを出そうという企画を思いついたのはなぜですか?

ネイサン「コロナ禍の閉鎖的なところが少し明けはじめたころに日本のダンサーの方が、僕らの曲で踊ってくださっている動画をあげてくださっていて、そこで少し展望が見えたというのがあります。今回の企画の理由のひとつには、メンバーもシティポップ・ミュージックが好きでしたし、シティポップという多様性がある音楽性もすごく気に入っています。そういったシティポップの音楽的だったり、芸術的な部分。もうひとつは、少し現実的な部分で、日本のアーティストとコンタクトを取りたいと思ったときに、今回のクリエイティヴも手伝ってくれたファビアン(・ボナン)氏のサポートもあって、取れたということもあります。そういういろんな部分がうまくいって、日本のヴォーカリストの方をフィーチャーできました。それに、イラストレーターの永井博さんの絵をジャケットに出来たことも、非常にうれしく思っています。さらに日本に行ける環境も整ったので、実際に今、自分たちが日本に来て、ライブが出来た。そういった形が出来たという感じですね」

──今回、土岐麻子さん、ナツ・サマーさん、竹仲絵里さん、chihiRo(JiLL-Decoy association)さん、衣美(EMILAND/ex.zukunashi))さんという5人の女性アーティストがフィーチャーリングされていますが、人選はどのような形で進んだのでしょうか。

フランソワ「アーティストは、すべてファビアン氏が提案してくれました。でも、彼女たちの音源を聴いたときに、音楽的にも美的感覚的にも合っていると感じたんです。彼の先見の目があったと思いますね」

ネイサン「例えば、「Midnight City Lovers」に関しては、衣美さんが最初に一緒にできることになったのですが、デモを送りあったりして、何度かやりとりしたあと、実際にやってみたらとてもマッチしたんですね。それは今作のどの曲に対しても一緒のことで、すべてがとんとん拍子にうまくいったと感じています」

──本作は、すべてリモートで進められたと思いますが、苦労された点はありますか?

ネイサン「実際には困ったことはありませんでした。音楽ですから、ひとりでに語ってくれるという部分があると思っているんです。録音前に会ったことがないアーティストというのは、いままでにもたくさんいましたし」

フランソワ「今作で大事にしていた部分は、とにかく自由にやってもらうということでした。自然発生的と言いますか、良い意味で本能に任せてやってもらう。それによってすばらしい作品が出来上がったと思っています」

ネイサン「ちなみにリモートでやるということ自体、実際にどのようなものかは僕らも知らなかったことが多かったんです。最初はアーティストがいない状態からはじまったプロジェクトですが、出来上がったものは、アーティストのみなさんがいなかったら出来なかった、音楽ってそういうものですよね」

──最後にこのインタビューを読んでくれている日本の読者のみなさんに、バンドとしてのメッセージをお願いします。

ネイサン「ちょっと難しいですね…15分くらい(インタビューの残り時間分)考えていいですか(笑)?」

一同「(笑)」

フランソワ「では、僕から。まずは、ぜひ今回のEPMidnight City Lovers』を聴いていただいて、僕らの世界観と一緒に仕事をしてくださったアーティストのみなさんの世界観、それぞれを楽しんでいただきたいです。ファンクとシティポップとの出会い、僕らとの出会い。ちょっとしたメルティングポット(人種のるつぼ)的な感じもあると思いますが、それを楽しんで堪能して欲しいです」

ネイサン「いまのフランソワの言葉が完璧だと思うんですけれど(笑)」

デビッド「僕もいまフランソワが言ってくれたことに同意で、まったくその通りだと思っています。もし何かを付け足すとすれば、これ(『Midnight City Lovers』)が、さらなる新しい出会いのきっかけ、異なった文化同士だったり、芸術感の違ったもの同士だったりの出会いのきっかけになって欲しいです」

ネイサン「まずこの『Midnight City Lovers』が作れたことは、僕にとってすごく嬉しいことでしたし、関わっていただいたアーティストの方々に本当に感謝しています。僕らを信頼してくださって、芸術面でも自由に創作活動を許してくださったこと、一緒に仕事をしてくださったことに感謝しています。彼女たちのお陰で僕らは別の文化に受け入れてもらえることになったと思っています。僕自身はもともと日本の文化が大好きですけど、日本に暮らしていたわけではなく、別の文化だったので、日本を知っていたワケではありません。そこに入り込むことが、アーティストのみなさんのお陰でできたことを考えると、本当に嬉しいです。感謝しています!」

フランソワ「最後に、今回のここに至るまでにサポートしていただいたみなさんにお礼を申し上げたいです。僕らはまだバンドとしては若いバンドで、10年前どころか3年前ですらも、今日こうして日本にいて、そこでライブが出来るなんてことは考えてもいませんでしたし、夢にも思っていませんでした。そう考えると、今回のプロジェクトで、日本に来られることになったのは信じられないことですし、夢のようにありがたいことだと思っています」

──ありがとうございました!

(おわり)

取材・文/カネコヒデシ
Live Photo/Coline Gutter

RELEASE INFORMATION

FUNKINDUSTRY『Midnight City Lovers』

2023年614日(水)発売

MIDNIGHT CITY LOVERS (12")
I Want You Closer with 土岐麻子 / Loneliness with ナツ・サマー (7")
ディスクユニオン

FUNKINDUSTRY『Midnight City Lovers』

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カネコヒデシ

メディアディレクター、エディター&ライター、ジャーナリスト、DJ。編集プロダクション「BonVoyage」主宰。WEBマガジン「TYO magazine」編集長&発行人。ニッポンのいい音楽を紹介するプロジェクト「Japanese Soul」主宰。そのほか、紙&ネットをふくめるさまざまな媒体での編集やライター、音楽を中心とするイベント企画、アパレルブランドのコンサルタント&アドバイザー、モノづくり、ラジオ番組製作&司会、イベントなどの司会、選曲、クラブやバー、カフェなどでのDJなどなど、活動は多岐にわたる。さまざまなメディアを使用した楽しいモノゴトを提案中。バーチャルとリアル、あらゆるメディアを縦横無尽に掛けめぐる仕掛人。

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